霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 貂心暴(てんしんばう)〔一七一七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第3篇 多羅煩獄 よみ(新仮名遣い):たらはんごく
章:第15章 貂心暴 よみ(新仮名遣い):てんしんぼう 通し章番号:1717
口述日:1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
山賊たち親分シャカンナの妻の十年祭として宴会を始める。
シャカンナ、バルギー、コルトン、玄真坊も酒盛りを始める。
山賊たちは、玄真坊の連れの棚機姫に酒を注いでもらおうとする。
棚機姫は自分が玄真坊にだまされていたことを悟り、暇を告げようとするが、玄真坊に遮られて逃げ出すことができない。
棚機姫とは、実はダリヤのことであった。
玄真坊はダリヤの気を引いて自分の妻にしようという魂胆であったが、ダリヤに肘鉄を食わされる。
山賊たちはこの様を肴に酒盛りを続ける。
このままでは逃げられないと悟ったダリヤは、玄真坊にまめまめしく酌を始める。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-13 17:59:15 文字数:5481 OBC :rm6715
愛善世界社版:191頁 八幡書店版:第12輯 101頁 修補版: 校定版:193頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 一方(いつぱう)バルギーは沢山(たくさん)の部下(ぶか)に酒(さけ)肴(さかな)及(および)美食(びしよく)を与(あた)へ002『今日(けふ)は奥様(おくさま)の十年祭(じふねんさい)だから、003遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく呑(の)め喰(く)へ』と命令(めいれい)しおき、004コルトンと共(とも)にシャカンナの居間(ゐま)に細長(ほそなが)い干瓢頭(かんぺうあたま)をニユツと突(つ)き出(だ)した。
005バルギー『エー親方(おやかた)様(さま)、006室外(しつぐわい)にて承(うけたま)はれば、007今晩(こんばん)は最早(もはや)読経(どくきやう)は御(お)廃(よ)しになるとの事(こと)、008……英雄(えいゆう)と英雄(えいゆう)との会合(くわいがふ)が何(なに)よりの御(ご)回向(ゑかう)になる……と仰(おほ)せられたのを承(うけたま)はり、009部下(ぶか)に用意(ようい)の酒(さけ)肴(さかな)を与(あた)へておきました。010大変(たいへん)な御(ご)機嫌(きげん)で厶(ござ)いますな』
011シャカンナ『ウーン、012今日(けふ)はどこ共(とも)なく天気(てんき)も好(よ)し、013気分(きぶん)の好(い)い日(ひ)だ。014コルトン、015汝(きさま)の骨折(ほねをり)で、016俺(おれ)の片腕(かたうで)を拾(ひろ)つて来(き)てくれたやうなものだ。017ヤ、018感謝(かんしや)する。019マア一杯(いつぱい)やれ』
020コルトン『エー、021親方(おやかた)様(さま)、022合点(がつてん)のいかぬ事(こと)仰有(おつしや)いますな。023何時(いつ)も貴方(あなた)はコルトンは右(みぎ)の腕(うで)、024バルギーは左(ひだり)の腕(うで)と仰有(おつしや)いましたが、025此(この)修験者(しゆげんじや)が片腕(かたうで)とならば、026一体(いつたい)どうなるので厶(ござ)います。027三本(さんぼん)の腕(かひな)は根(ね)つから必要(ひつえう)ないやうに考(かんが)へますがな』
028シヤ『ウーン、029それで可(い)いのだ。030コルトン、031バルギー二人(ふたり)を合(あは)して左(ひだり)の腕(うで)とする、032そして此(この)天真坊(てんしんばう)殿(どの)を右(みぎ)の腕(うで)とするのだ。033之(これ)から、034さう心得(こころえ)たが可(よ)からうぞ』
035コル『ハイ、036仕方(しかた)がありませぬ。037のうバルギー、038それで辛抱(しんばう)せうかな』
039バル『ウーン、040到頭(たうとう)二(ふた)つ一(いち)だ。041随分(ずいぶん)相場(さうば)が下落(げらく)したものぢやないか。042早晩(さうばん)こんな事(こと)が突発(とつぱつ)すると思(おも)うてゐたのだ。043汝(きさま)が仕様(しやう)もない修験者(しゆげんじや)を引張(ひつぱ)つてくるものだから、044こんな破目(はめ)になつたのだ。045エー、046沢山(たくさん)の乾児(こぶん)に対(たい)し、047俺(おれ)は今日(けふ)から半人前(はんにんまへ)になつたなどと、048何(ど)うしていはれるものか。049狼(おほかみ)のやうな連中(れんちう)を、050親分(おやぶん)の片腕(かたうで)といひ、051威喝(ゐかつ)して、052漸(やうや)く治(をさ)めて来(き)たのだのに、053半片腕(はんかたうで)となつちや部下(ぶか)の統制(とうせい)も出来(でき)まい。054あーあ仕方(しかた)がないなア』
055玄(げん)『ワツハヽヽヽヽ、056オイ、057コルトン、058バルギー、059何(なん)といふ情(なさけ)ない面(つら)をするんだいエヽン。060よく考(かんが)へてみろ、061天帝(てんてい)の化身(けしん)、062天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)と、063仮令(たとへ)半分(はんぶん)にもせよ、064肩(かた)を並(なら)べるといふ事(こと)は汝(きさま)達(たち)にとつては、065無上(むじやう)の光栄(くわうえい)ぢやないか。066何(なん)だ其(その)不足(ふそく)相(さう)な面(つら)は……丸(まる)切(き)り梟鳥(ふくろどり)が夜食(やしよく)に外(はづ)れたといはうか、067折角(せつかく)苦心(くしん)して盗(ぬす)んで来(き)た松魚節(かつをぶし)を犬(いぬ)に取(と)られた猫(ねこ)のやうに068つまらぬ面付(つらつき)して半泣(はんな)きになつてるぢやないか。069チツとしつかりせぬかい。070そんな腰抜(こしぬけ)を友達(ともだち)に持(も)つたと思(おも)へば、071俺(おれ)も泣(な)きたくなつて来(く)るワイ。072ウツフヽヽヽ、073情(なさけ)ない顔(かほ)だのう。074それでも元(もと)の通(とほ)りになるだらうか。075耆婆(きば)扁鵲(へんじやく)でも頼(たの)んで来(こ)ねば、076快復(くわいふく)は到底(たうてい)覚束(おぼつか)ないだらう。077俺(おれ)の診察(しんさつ)する所(ところ)に依(よ)れば、078予後(よご)不良(ふりやう)だ。079瀕死(ひんし)の重病(ぢうびやう)だ、080アハヽヽヽ』
081シャ『オイ、082お前(まへ)達(たち)、083兄弟(きやうだい)喧嘩(げんくわ)はみつともないぞ。084兎(と)も角(かく)俺(おれ)に免(めん)じて仲能(なかよ)うしてくれ。085少々(せうせう)の不平(ふへい)や不満(ふまん)は隠忍(いんにん)するが、086俺(おれ)に対(たい)する忠義(ちうぎ)だ。087俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)なら、088何(なん)でも聞(き)きますと、089いつも云(い)つてるぢやないか。090自分(じぶん)の都合(つがふ)の好(よ)い事(こと)は二(ふた)つ返詞(へんじ)で早速(さつそく)聞(き)くなり、091チツと許(ばか)り面白(おもしろ)くないと云(い)つて、092そんな怪体(けたい)な面(つら)をするものぢやない。093余(あま)り肝玉(きもだま)が小(ちひ)さうすぎるぢやないか。094それよりも玄真殿(げんしんどの)のつらつて来(き)た棚機姫(たなばたひめ)様(さま)の柔(やはら)かいお手々(てて)でお酌(しやく)でもして貰(もら)つて、095機嫌(きげん)を直(なほ)したら可(よ)からう』
096コル『エ、097何(なん)と親方(おやかた)仰(おほ)せられます。098こんな奇麗(きれい)なお方(かた)に……酒(さけ)をついで貰(もら)つて呑(の)め……と仰有(おつしや)るのですか、099ヤ、100有難(ありがた)い。101流石(さすが)は親分(おやぶん)だ。102気(き)が利(き)いてる。103のうバルギー、104こんな事(こと)があるから、105親分(おやぶん)には放(はな)れられないといふのだ、106エヘヽヽヽ』
107バル『オイ、108コルトン、109みつともないぞ。110何(なん)だ、111汝(きさま)の口(くち)から光(ひか)つた糸(いと)のやうなものが、112下(さが)つてゐるぢやないか。113たぐれ たぐれ』
114コル『ナアニ、115コリヤ棚機姫(たなばたひめ)様(さま)が錦(にしき)の御機(みはた)をお織(おり)遊(あそ)ばす玉(たま)の糸(いと)だ。116粘液性(ねんえきせい)に富(と)み、117そして光沢(くわうたく)が鮮(あざや)かだらう、118イツヒヽヽヽ』
119玄(げん)『オイ、120コルトン、121バルギー、122今日(けふ)から俺(おれ)は天帝(てんてい)の化身(けしん)、123玄真坊(げんしんばう)の頭尾(とうび)を取(と)つて、124天真坊(てんしんばう)と改名(かいめい)したのだから、125今後(こんご)は天真坊(てんしんばう)様(さま)と呼(よ)んでくれよ。126其(その)代(かは)りに、127天真(てんしん)爛漫(らんまん)たる棚機姫(たなばたひめ)さまの柔(やはら)かいお手々(てて)で、128お酒(さけ)のお給仕(きふじ)を、129今日(けふ)一席(いつせき)に限(かぎ)り、1291許(ゆる)してやらう。130どうぢや有難(ありがた)いか』
131コル『さう恩(おん)にきせられると、132根(ね)つから有難(ありがた)くもありませぬワ。133のうオイ、134バルギー、135余(あま)り勿体(もつたい)なくて目(め)が潰(つぶ)れると困(こま)るから、136男(をとこ)らしく平(ひら)に御免(ごめん)を蒙(かうむ)らうぢやないか』
137バル『俺(おれ)や、138何(なん)と云(い)つても有難(ありがた)いワ。139盃(さかづき)に一滴(いつてき)でも可(い)いから注(つ)いで貰(もら)ひたいな。140キツとこんな女神(めがみ)様(さま)に酒(さけ)をついで貰(もら)ふと、141其(その)徳(とく)にあやかつて出世(しゆつせ)するよ。142そしてこんな美(うつく)しい女房(にようばう)が持(も)てるかも知(し)れないからな』
143コル『ヘン仰有(おつしや)います哩(わい)。144反古(ほぐ)の紙撚(かみより)で編(あみ)あげた羅漢(らかん)のやうな面(つら)しやがつて、145美人(びじん)の女房(にようばう)も午蒡(ごばう)もあつたものかい。146チツと汝(きさま)の面(つら)と相談(さうだん)したら可(よ)からうぞ、147ウツフヽヽヽ』
148女(をんな)(ダリヤ)『もし、149天帝(てんてい)の御(ご)化身(けしん)様(さま)、150貴方(あなた)は妾(わたし)がスガの山(やま)に参拝(さんぱい)致(いた)しました時(とき)、151天(てん)から降(くだ)つたと仰有(おつしや)いまして、152……お前(まへ)の母(はは)は決(けつ)して死(し)んでゐない。153生(い)きて居(を)るから会(あ)はしてやらう……と仰有(おつしや)つたぢや厶(ござ)いませぬか。154それを誠(まこと)と信(しん)じ、155此処(ここ)迄(まで)お伴(とも)をして参(まゐ)りましたのに……泥棒(どろばう)の酒(さけ)の酌(しやく)をせよ……とはお情(なさけ)ないお言葉(ことば)では厶(ござ)いませぬか。156そして貴方(あなた)は最前(さいぜん)から聞(き)いてをれば、157此(この)世(よ)を許(いつは)る悪魔(あくま)の玄真坊(げんしんばう)さまとやら、158オーラ山(さん)に立籠(たてこも)り数多(あまた)の人間(にんげん)をゴマ化(くわ)して厶(ござ)つた太(ふと)いお方(かた)のやうです。159私(わたし)はモウ愛想(あいさう)がつきましたからモウ御免(ごめん)を蒙(かうむ)つて独(ひと)りで帰(かへ)ります。160どうぞこれ迄(まで)の御縁(ごえん)と思(おも)ひ諦(あきら)め下(くだ)さいませ。161貴方(あなた)の素性(すじやう)が判(わか)つた以上(いじやう)は、162半時(はんとき)だつて側(そば)にをれませぬ。163そして皆様(みなさま)に申(まをし)上(あ)げておきますが、164只今(ただいま)、165玄真坊(げんしんばう)様(さま)に……これ迄(まで)の御縁(ごえん)と思(おも)ひ諦(あきら)めて下(くだ)さい……と云(い)つたのは、166決(けつ)して怪(あや)しい関係(くわんけい)のある意味(いみ)では厶(ござ)いませぬ。167スガの山(やま)から此処(ここ)迄(まで)連(つ)れて来(こ)られた事(こと)を云(い)ふので厶(ござ)いますからね。168一樹(いちじゆ)の影(かげ)の雨宿(あまやど)り、169一河(いちが)の流(なが)れを汲(く)むさへも他生(たしやう)の縁(えん)170といひませう。171どうか、172誤解(ごかい)のないやうに御(ご)賢察(けんさつ)を願(ねが)ひます、173ホヽヽヽヽ。174アタ阿呆(あはう)らしい、175妾(わたし)は何(なん)といふ馬鹿(ばか)だらう。176こんな売僧(まいす)坊主(ばうず)に誘惑(いうわく)されて、177自分(じぶん)で自分(じぶん)に愛想(あいさう)がつきて来(き)た。178左様(さやう)なら。179皆(みな)さま、180ゆつくり御酒(ごしゆ)でもおあがりなさい』
181とツツと立(た)つて帰(かへ)らうとする。182玄真坊(げんしんばう)は毛(け)だらけの猿臂(ゑんぴ)を伸(の)ばし、183グツと力(ちから)を入(い)れて女(をんな)の首筋(くびすぢ)を掴(つか)み、184其(その)場(ば)に捻伏(ねぢふ)せ乍(なが)ら、185川瀬(かはせ)の乱杭(らんぐひ)の様(やう)な歯(は)を見(み)せ、186大口(おほぐち)を開(ひら)いて、
187玄(げん)『アハヽヽヽ、188ても扨(さて)も可(い)い頓馬(とんま)だなア。189此(この)玄真坊(げんしんばう)様(さま)の舌(した)三寸(さんずん)に操(あやつ)られ、190こんな岩窟(いはや)までおびき出(だ)されたのは、191其方(そち)の不覚(ふかく)だ。192モウ斯(か)うなる以上(いじやう)は、193何程(なにほど)帰(かへ)らうと云(い)つても帰(かへ)すものか。194お前(まへ)を此処(ここ)へ連(つ)れて来(き)たのは深(ふか)い企(たく)みのある事(こと)だ。195因果(いんぐわ)を定(さだ)めて服従(ふくじゆう)した方(はう)が其方(そち)の身(み)の為(ため)だらう。196ても扨(さて)も可愛(かあい)ものだなア』
197女(をんな)(ダリヤ)『エー、198汚(けが)らはしい、199悪魔(あくま)の口(くち)から可愛(かあい)い者(もの)だなどと、200そんな同情(どうじやう)的(てき)な悪言(あくげん)はやめて下(くだ)さい。201妾(わたし)は憚(はばか)り乍(なが)ら、202スガの港(みなと)の百万(ひやくまん)長者(ちやうじや)アリスの娘(むすめ)、203ダリヤ姫(ひめ)で厶(ござ)いますよ。204吾(わが)家(や)へ帰(かへ)れば何(なに)不自由(ふじゆう)なく安心(あんしん)にゆけるものを、205何(なに)を苦(くるし)んでこんな不便(ふべん)な土地(とち)へ参(まゐ)り、206イケ好(す)かない売僧(まいす)坊主(ばうず)のお前(まへ)に従(したが)ふやうな馬鹿(ばか)な事(こと)は致(いた)しませぬから、207思(おも)ひ切(き)つて、208男(をとこ)らしう私(わたし)を帰(かへ)らして下(くだ)さい』
209玄(げん)『さう片意地(かたいぢ)を張(は)るものぢやない。210人間(にんげん)は浮(うき)沈(しづ)み七度(ななたび)と云(い)つて、211いろいろの波風(なみかぜ)に当(あた)らねば、2111人生(じんせい)の真(しん)の幸福(かうふく)は味(あぢ)はへないものだ。212何程(なにほど)百万(ひやくまん)長者(ちやうじや)の娘(むすめ)でも、213一(いち)日(にち)に一斗(いつと)の米(こめ)を食(く)ふ訳(わけ)にもいかず、214着物(きもの)の十(じふ)枚(まい)も二十(にじふ)枚(まい)も着(き)る訳(わけ)にはゆこうまい。215お前(まへ)の宅(うち)に居(を)つても此処(ここ)に居(を)つても、216食(く)ふ丈(だけ)のことは食(く)はしてやる。217決(けつ)して不自由(ふじゆう)はさせぬ。218どうだ、219出家(しゆつけ)に肌(はだ)を触(ふ)るれば、220子孫(しそん)七代(しちだい)繁栄(はんえい)するといふぢやないか。221その上(うへ)、222七代前(しちだいぜん)の先祖(せんぞ)迄(まで)が地獄(ぢごく)の苦(く)を逃(のが)れ極楽(ごくらく)浄土(じやうど)へ登(のぼ)ると云(い)ふ功徳(くどく)がある。223能(よ)く祖先(そせん)や子孫(しそん)の幸福(かうふく)を思(おも)つて、224俺(おれ)の言(い)ひ条(でう)につくが、225アリス家(け)の為(ため)だらうよ。226どうだ、227合点(がつてん)が行(い)つたか。228目(め)から鼻(はな)へ突(つ)き抜(ぬ)けるやうな賢(かしこ)いお前(まへ)の事(こと)だから、229キツと俺(おれ)の行(い)ふ事(こと)が分(わか)つただらうなア』
230ダリヤ『エー汚(けが)らはしい、231能(よ)うそんな事(こと)を仰有(おつしや)いますな。232貴方(あなた)は山賊(さんぞく)の親分(おやぶん)と結託(けつたく)し、233オーラ山(さん)の焼直(やきなほ)しをやるお考(かんが)へでせう。234そんな危(あぶ)ない事(こと)はおよしなさいませ。235今度(こんど)はお命(いのち)が亡(な)くなりますよ』
236玄(げん)『アハヽヽヽ、237お前(まへ)の為(ため)に命(いのち)の亡(な)くなるのは本望(ほんまう)だ。238一層(いつそ)の事(こと)239お前(まへ)の其(その)優(やさ)しい手(て)で殺(ころ)して欲(ほ)しい。240コレ、241ダリヤ、242これだけ思(おも)ひ込(こ)んだ男(をとこ)、243さう無下(むげ)に振(ふ)り払(はら)ふものぢやない。244男冥加(をとこめうが)に尽(つ)きるぞよ』
245ダリ『エヽ何(なん)なつと仰有(おつしや)いませ、246私(わたし)は知(し)りませぬ。247此(この)上(うへ)貴方(あなた)に対(たい)し言葉(ことば)をかはしませぬ』
248玄(げん)『エ、249さてもさても渋太(しぶと)い女(あま)だなア』
250コル『アハヽヽヽ、251天帝(てんてい)の御(ご)化身(けしん)様(さま)も女(をんな)にかけたら脆(もろ)いものだな。252オイ、253バルギー、254こんなデレ助(すけ)と兄弟分(きやうだいぶん)になるとは、255余(あま)り有難(ありがた)すぎるぢやないか。256親分(おやぶん)も親分(おやぶん)だ。257どこに見込(みこみ)があるのかな』
258バル『久米(くめ)の仙人(せんにん)でさへも、259女(をんな)の白(しろ)い腿(もも)をみて通力(つうりき)を失(うしな)ひ、260天(てん)からおちたと云(い)ふぢやないか。261何程(なにほど)天帝(てんてい)の御(ご)化身(けしん)だつて、262こんな美(うつく)しいシャンの面(つら)を見(み)りや、263堕落(だらく)するのは当然(あたりまへ)だよ、264ウフヽヽヽ』
265シャ『オイ、266コルトン、267バルギー、268酒(さけ)を注(つ)いでくれ。269何(なん)だか天真(てんしん)様(さま)のチンチン喧嘩(げんくわ)で、270座(ざ)が白(しら)けたやうだ。271一杯(いつぱい)呑(の)んで大(おほい)に踊(をど)つてくれないか』
272コル『ハイ、273已(すで)に已(すで)に胸(むね)が踊(をど)つて居(を)ります。274そして此(この)天帝(てんてい)の化身(けしん)さまは、275棚機姫(たなばたひめ)さまに余程(よほど)おどつて居(を)りますね。276いな劣(おと)つてゐるぢやありませぬか』
277シャ『オイ、278いらぬ事(こと)をいふな。279天真坊(てんしんぼう)様(さま)の御(ご)機嫌(きげん)を損(そこ)ねちや大変(たいへん)だぞ』
280玄(げん)『オイ、281シャカンナ殿(どの)、282こんな小童(こわつぱ)武者(むしや)は相手(あひて)にしなさるな。283男(をとこ)が下(さが)るから……』
284コル『ヘン男(をとこ)が下(さが)るのは玄真(げんしん)さまぢやないか。285俺(おれ)達(たち)の前(まへ)で、286タカが女(をんな)の一疋(いつぴき)や半疋(はんびき)に肱鉄(ひぢてつ)をかまされ、287赤恥(あかはぢ)をかかされ、288シヤアつく洒蛙(しあ)々々(しあ)然(ぜん)として蛙(かはづ)の面(つら)に水(みづ)、289馬耳(ばじ)東風(とうふう)宜(よろ)しくといふ、290鉄面皮(てつめんぴ)だからなア。291男(をとこ)のさがることも、292恥(はづ)かしい事(こと)もお判(わか)りならないのだらう』
293バル『そらさうだとも、294恥(はぢ)といふ事(こと)を知(し)らぬ者(もの)に恥(はづ)かしいといふ観念(くわんねん)が有(あ)るものか、295人間(にんげん)もここ迄(まで)徹底(てつてい)すれば、296結句(けつく)297面白(おもしろ)いだらう、298ウツフヽヽヽ』
299 ダリヤは因果(いんぐわ)を定(さだ)めたか、300平然(へいぜん)として機嫌(きげん)を直(なほ)し、301シャカンナや玄真坊(げんしんばう)に愛嬌(あいけう)をふりまき乍(なが)ら、302酌(しやく)をして居(ゐ)る。303玄真坊(げんしんばう)は心(こころ)の中(うち)にて、
304玄真坊『ヤア占(しめ)た、305ヤツパリ俺(おれ)は色男(いろをとこ)だ。306ダリヤの奴(やつ)、307人中(ひとなか)だと思(おも)つて、308ワザとにあんな事(こと)を吐(ぬか)してゐやがつたのだな。309ウンよしよし、310ダリヤが其(その)心(こころ)なら、311俺(おれ)も之(これ)から特別(とくべつ)大切(だいじ)にしてやらう。312愛(あい)はすべて相対(さうたい)的(てき)だから、313何程(なにほど)此方(こつち)が愛(あい)してやらうと思(おも)つても、314先方(むかふ)が其(その)愛(あい)を受(う)けないと何(ど)うする事(こと)も出来(でき)ない。315ヤア願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)だ』
316と思(おも)はず知(し)らず小声(こごゑ)で口走(くちばし)つた。317ダリヤは之(これ)を聞(き)いて、318『ホヽヽヽ』と小(ちひ)さく笑(わら)ひ、319せつせと四(よ)人(にん)の男(をとこ)に酒注(さけつ)ぎをやつてゐる。320玄真坊(げんしんばう)は得意然(とくいぜん)として歌(うた)ひ出(だ)した。
321玄(げん)『世(よ)の中(なか)に
322酒(さけ)より大事(だいじ)の物(もの)はない
323酒(さけ)より大事(だいじ)の物(もの)がある
324それは何(なに)よと尋(たづ)ぬれば
325花(はな)の顔容(かんばせ)月(つき)の眉(まゆ)
326天女(てんによ)のやうなダリヤ姫(ひめ)
327天(あま)の矛鉾(ぬほこ)を回転(くわいてん)し
328ウマンマ之(こ)れの山奥(やまおく)に
329おびき出(だ)したる吾(わが)手柄(てがら)
330鬼神(きじん)もさぞや驚(おどろ)かむ
331呑(の)めよ騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)よ
332暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る
333月(つき)より花(はな)より雪(ゆき)よりも
334一層(いつそう)綺麗(きれい)な此(この)シャンは
335玄真(げんしん)さまの宿(やど)の妻(つま)
336思(おも)へば思(おも)へば有難(ありがた)い
337之(これ)を思(おも)へば人間(にんげん)は
338完全(くわんぜん)無欠(むけつ)の大知識(だいちしき)
339甘(うま)く活用(くわつよう)せにやならぬ
340智慧(ちゑ)と言葉(ことば)の余徳(よとく)にて
341棚機姫(たなばたひめ)にもまがふなる
342姿(すがた)の優(やさ)しいダリヤさま
343タニグク山(やま)の山麓(さんろく)に
344岩窟(いはや)を構(かま)へしシャカンナの
345珍(うづ)の御殿(ごてん)に現(あら)はれて
346鈴(すず)のやうなる声(こゑ)絞(しぼ)り
347愛嬌(あいけう)たつぷりふり蒔(ま)いて
348お酌(しやく)をなさる手際(てぎは)よさ
349姫(ひめ)のたたむき眺(なが)むれば
350象牙(ざうげ)細工(ざいく)のやうな艶(つや)
351爪(つめ)の色(いろ)をば調(しら)ぶれば
352瑪瑙(めなう)のやうな光(ひか)り方(かた)
353こんな美人(びじん)が又(また)と世(よ)に
354二人(ふたり)とあらうかあらうまい
355ホンに吾(わが)身(み)は何(なん)として
356こんな幸福(かうふく)が見舞(みま)ふのか
357昔(むかし)の昔(むかし)の神代(かみよ)から
358善(ぜん)をば助(たす)け悪人(あくにん)を
359戒(いまし)め来(きた)りし余徳(よとく)だらう
360こんなナイスと添(そ)ふからは
361ヤツパリ俺(おれ)の魂(たましひ)も
362万更(まんざら)すてたものでない
363昔(むかし)の神代(かみよ)は天国(てんごく)の
364尊(たふと)き神(かみ)の御(おん)身魂(みたま)
365澆季(げうき)末法(まつぽふ)の世(よ)を憂(うれ)ひ
366神(かみ)の命令(みこと)を畏(かしこ)みて
367此(この)地(ち)の上(うへ)に降臨(かうりん)し
368衆生(しゆじやう)済度(さいど)を励(はげ)むべく
369命(めい)をうけたる御魂(みたま)だらう
370あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
371吾(わ)れは神(かみ)なり彼(か)れも神(かみ)
372神(かみ)と神(かみ)との睦(むつ)び合(あひ)
373よき日(ひ)よき時(とき)相(あひ)えらび
374シャカンナさまの仲介(なかうど)で
375天(あめ)の御柱(みはしら)めぐり合(あ)ひ
376山川(さんせん)草木(さうもく)生(う)み並(なら)べ
377尊(たふと)き神(かみ)の子(こ)大空(おほぞら)の
378星(ほし)の数(かず)程(ほど)産(う)みおとし
379いよいよ誠(まこと)の救(すく)ひ主(ぬし)
380生神(いきがみ)様(さま)とあがめられ
381此(この)世(よ)に永久(とは)の命(いのち)をば
382保(たも)ちて世人(よびと)を救(すく)ひ行(ゆ)く
383誠(まこと)の神(かみ)となつてみよう
384シャカンナさまの企(くはだ)てを
385之(これ)から夫婦(ふうふ)が相助(あひたす)け
386悪人輩(あくにんばら)を平(たひら)げて
387タラハン国(ごく)の災(わざはひ)を
388科戸(しなど)の風(かぜ)に吹払(ふきはら)ひ
389天晴(あつぱれ)真(まこと)の生神(いきがみ)と
390天地(てんち)と共(とも)に芳名(はうめい)を
391千代(ちよ)万代(よろづよ)に照(てら)すべし
392あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
393嬉(うれ)しい事(こと)になつて来(き)た
394之(これ)も梵天(ぼんてん)自在天(じざいてん)
395ウラルの神(かみ)や八百万(やほよろづ)
396神々(かみがみ)様(さま)の御(おん)恵(めぐ)み
397ホンに嬉(うれ)しい頼(たの)もしい
398ダリヤの姫(ひめ)の玉(たま)の手(て)に
399首(くび)をまかれてスヤスヤと
400白川(しらかは)夜舟(よぶね)の旅(たび)をなし
401忽(たちま)ち天国(てんごく)浄土(じやうど)の空(そら)へ
402一夜(いちや)の中(うち)に参(まゐ)りませう
403コルトン、バルギー両人(りやうにん)よ
404こんな所(ところ)を見(み)せられて
405さぞやさぞさぞお心(こころ)が
406もめるであらうが辛抱(しんばう)せよ
407やがてお前(まへ)も時(とき)来(く)れば
408目鼻(めはな)のついた女房(にようばう)を
409俺(おれ)が世話(せわ)してやる程(ほど)に
410末(すゑ)の末(すゑ)をば楽(たのし)んで
411キツと悋気(りんき)をしてくれな
412ダリヤは俺(おれ)の女房(にようばう)だ
413夢(ゆめ)にも秋波(しうは)を送(おく)るなよ
414あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
415皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
416天真坊(てんしんばう)が真心(まごころ)を
417捧(ささ)げまつつて両人(りやうにん)が
418ダリヤの色香(いろか)に迷(まよ)はぬやう
419御(お)守(まも)り下(くだ)さる其(その)由(よし)を
420偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
421偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る』
422シャ『アハヽヽヽ、423イヤもう偉(えら)い所(ところ)をみせつけられ、424此(この)爺(ぢい)も二十(にじふ)年(ねん)計(ばか)り気(き)が若(わか)くなつて来(き)た。425天真坊(てんしんばう)殿(どの)の御(お)得意(とくい)426思(おも)ふべしだな、427アハヽヽヽ』
428玄(げん)『エヘヽヽヽ、429なア、430ダリヤ、431イヒヽヽヽ』
432ダリ『……………』
433コル『ヘン、434馬鹿(ばか)にしてゐやがる。435俺(おれ)だつて、436さう軽蔑(けいべつ)したものぢやないワ。437おつつけ、438立派(りつぱ)な女房(にようばう)をどつかで掠奪(りやくだつ)して来(き)て、439天真坊(てんしんぼう)さまの御(おん)目(め)の前(まへ)にブラつかして見(み)せてやるワイ。440のうバルギー、441さうなとしなくちや、442俺(おれ)達(たち)の面(つら)が丸潰(まるつぶ)れだからな』
443バル『フン、444フン』
445ダリ『ハルの湖(うみ)酒(さけ)の嵐(あらし)の吹(ふ)きあれて
446醜(しこ)の荒波(あらなみ)立(たち)さわぐかな』
447シャ『うるはしきダリヤの花(はな)は山風(やまかぜ)に
448吹(ふ)かれて遂(つひ)に打(うち)靡(なび)きける』
449玄(げん)『月(つき)も日(ひ)もよりて仕(つか)ふる吾(わ)れなれば
450ダリヤの姫(ひめ)の慕(した)ふも宜(むべ)よ。エヘヽヽヽ』
451(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 松村真澄録)
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