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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
第1章 梅の花香
第2章 思想の波
第3章 美人の腕
第4章 笑の座
第5章 浪の皷
第2篇 春湖波紋
第6章 浮島の怪猫
第7章 武力鞘
第8章 糸の縺れ
第9章 ダリヤの香
第10章 スガの長者
第3篇 多羅煩獄
第11章 暗狐苦
第12章 太子微行
第13章 山中の火光
第14章 獣念気
第15章 貂心暴
第16章 酒艶の月
第17章 晨の驚愕
第4篇 山色連天
第18章 月下の露
第19章 絵姿
第20章 曲津の陋呵
第21章 針灸思想
第22章 憧憬の美
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第67巻(午の巻)
> 第4篇 山色連天 > 第18章 月下の露
<<< 晨の驚愕
(B)
(N)
絵姿 >>>
第一八章
月下
(
げつか
)
の
露
(
つゆ
)
〔一七二〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第4篇 山色連天
よみ(新仮名遣い):
さんしょくれんてん
章:
第18章 月下の露
よみ(新仮名遣い):
げっかのつゆ
通し章番号:
1720
口述日:
1924(大正13)年12月28日(旧12月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
シャカンナは岩屋を引き払い、娘スバール姫と部下コルトンだけを従え、朝倉谷へ隠れた。
一ケ月ほどしたある夜、山道に迷ったスダルマン太子とアリナが小屋へやってくる。
コルトンは天狗と間違えて追い払おうとするが、シャカンナは二人を小屋へ泊める。
世情を伺う話の中から、太子とアリナの素性が明らかになり、またシャカンナがアリナの父の元政敵であったことがわかる。
アリナはシャカンナに父の罪を謝し、太子はシャカンナに帰城を勧めるが、断られる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-24 00:02:50
OBC :
rm6718
愛善世界社版:
235頁
八幡書店版:
第12輯 117頁
修補版:
校定版:
237頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
シャカンナはタニグクの
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
なる
岩窟
(
いはや
)
に
附属
(
ふぞく
)
せる
建物
(
たてもの
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
焼
(
やき
)
払
(
はら
)
ひ、
002
スバール
姫
(
ひめ
)
とコルトンを
従
(
したが
)
へ、
003
朝倉谷
(
あさくらだに
)
へ
隠
(
かく
)
れ、
004
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
んで
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
許
(
ばか
)
りも
淋
(
さび
)
しき
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つた。
005
十五夜
(
じふごや
)
の
満月
(
まんげつ
)
は
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
輝
(
かがや
)
いてゐる。
006
シャカンナ
及
(
および
)
スバール
姫
(
ひめ
)
は
室内
(
しつない
)
に
横
(
よこ
)
たはり、
007
早
(
はや
)
くも
鼾
(
いびき
)
の
声
(
こゑ
)
さへ
屋外
(
をくぐわい
)
に
聞
(
きこ
)
えてゐる。
008
コルトンは
気
(
き
)
が
立
(
た
)
つて
眠
(
ねむ
)
られず、
009
谷川
(
たにがは
)
の
流
(
なが
)
れに
月
(
つき
)
の
影
(
かげ
)
が
映
(
うつ
)
つて、
010
面白
(
おもしろ
)
く
砕
(
くだ
)
けて
流
(
なが
)
るる
様
(
さま
)
を
見
(
み
)
て
興
(
きよう
)
に
入
(
い
)
つてゐた。
011
そこへ
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
の
山
(
やま
)
から
012
小柴
(
こしば
)
をペキペキ
踏
(
ふ
)
み
折
(
をり
)
乍
(
なが
)
ら、
013
うら
若
(
わか
)
い
二人
(
ふたり
)
の
貴公子
(
きこうし
)
が
降
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
た。
014
貴公子
(
きこうし
)
(アリナ)
『エ、
015
一寸
(
ちよつと
)
物
(
もの
)
をお
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まをし
)
ますが、
016
ここは
何
(
なん
)
といふ
処
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
017
コル『
此処
(
ここ
)
は
山奥
(
やまおく
)
だ。
018
そして
谷川
(
たにがは
)
の
畔
(
ほとり
)
だ。
019
昔
(
むかし
)
から
人
(
ひと
)
の
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
のない
場所
(
ばしよ
)
だから、
020
名前
(
なまへ
)
などあるものか。
021
マア、
022
ココ
と
名
(
な
)
をつけておけば
可
(
い
)
いのだ。
023
一体
(
いつたい
)
今
(
いま
)
ごろにウロウロと、
024
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
何
(
なに
)
してゐるのだ。
025
そしてお
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
だ。
026
聞
(
き
)
かしてくれ』
027
貴
(
き
)
(アリナ)
『ハイ
私
(
わたし
)
はアリナと
申
(
まを
)
します。
028
モ
一人
(
ひとり
)
の
方
(
かた
)
は
私
(
わたくし
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
029
つい
山野
(
さんや
)
の
風光
(
ふうくわう
)
に
憧
(
あこが
)
れて、
030
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
へ
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み、
031
此
(
この
)
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
で
因果腰
(
いんぐわごし
)
をきめて
野宿
(
のじゆく
)
をせうと
思
(
おも
)
ふて
居
(
を
)
りました
所
(
ところ
)
、
032
猛獣
(
まうじう
)
の
声
(
こゑ
)
は
切
(
しき
)
りに
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
033
コリヤ
斯
(
か
)
うしては
居
(
を
)
られないと
谷底
(
たにぞこ
)
を
見
(
み
)
れば、
034
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
幽
(
かす
)
かな
火影
(
ほかげ
)
がまたたいてゐたので、
035
これは
確
(
たしか
)
に
人
(
ひと
)
の
住居
(
すまゐ
)
してゐる
家
(
いへ
)
だらう。
036
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
037
あの
火
(
ひ
)
を
目当
(
めあて
)
に
辿
(
たど
)
りついて、
038
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
願
(
ねが
)
ひたいと、
039
主従
(
しゆじゆう
)
二人
(
ふたり
)
が
茨
(
いばら
)
にひつかかり
足
(
あし
)
を
傷
(
きず
)
づけ、
040
或
(
あるひ
)
は
辷
(
すべ
)
り
転
(
ころ
)
げなどしてヤツと
此所
(
ここ
)
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
りました。
041
どうか
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
をお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
したう
厶
(
ござ
)
います』
042
コル『
此処
(
ここ
)
は
杣
(
そま
)
小屋
(
ごや
)
だから、
043
俺
(
おれ
)
の
外
(
ほか
)
誰
(
たれ
)
もゐないのだ。
044
そして
一夜
(
ひとよさ
)
の
宿
(
やど
)
を
宿泊
(
しゆくはく
)
さして
泊
(
と
)
めてくれと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
045
食物
(
しよくもつ
)
の
食
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
もなし、
046
夜具
(
やぐ
)
の
蒲団
(
ふとん
)
もなし、
047
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない。
048
こんな
穢苦
(
むさくる
)
しい
内
(
うち
)
で
厄介
(
やくかい
)
になるよりも
三
(
さん
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り、
049
此処
(
ここ
)
を
東
(
ひがし
)
へ
向
(
むか
)
つて
行
(
い
)
かつしやい。
050
其処
(
そこ
)
には
大
(
おほ
)
きな
岩窟
(
いはや
)
があると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
051
平
(
ひら
)
に
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
りますワ』
052
アリナ『
左様
(
さやう
)
では
厶
(
ござ
)
いませうなれど、
053
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
三夜
(
みよさ
)
、
054
碌
(
ろく
)
に
食物
(
しよくもつ
)
もとらず、
055
身体
(
しんたい
)
縄
(
なは
)
の
如
(
ごと
)
く
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て、
056
命
(
いのち
)
カラガラ、
057
此
(
この
)
あかり
目当
(
めあて
)
に
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
います。
058
此処
(
ここ
)
で
貴方
(
あなた
)
に
断
(
ことわ
)
られては、
059
大変
(
たいへん
)
に
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
が
力
(
ちから
)
を
落
(
おと
)
されます。
060
私
(
わたし
)
だつて、
061
最早
(
もはや
)
一歩
(
いつぽ
)
も
進
(
すす
)
む
勇気
(
ゆうき
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
062
どうか
杣
(
そま
)
小屋
(
ごや
)
の
中
(
なか
)
で
一夜
(
いちや
)
お
泊
(
と
)
め
下
(
くだ
)
さいませぬか』
063
コル『エー、
064
しつこい
男
(
をとこ
)
だな。
065
厭
(
いや
)
と
云
(
い
)
つたら、
066
どこ
迄
(
まで
)
も
厭
(
いや
)
だ。
067
お
前
(
まへ
)
のやうな
天狗
(
てんぐ
)
の
狗賓
(
ぐひん
)
を
泊
(
と
)
めてたまるものか。
068
サアサアとつとと
帰宅
(
きたく
)
して
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
069
茅屋
(
あばらや
)
なれど
即
(
すなは
)
ち
要
(
えう
)
するに、
070
取
(
とり
)
も
直
(
なほ
)
さず、
071
此
(
この
)
家屋
(
かをく
)
の
家
(
いへ
)
は、
072
俺
(
おれ
)
の
拙者
(
せつしや
)
の
僕
(
ぼく
)
の
住居
(
ぢうきよ
)
の
住
(
すま
)
ひ
場所
(
ばしよ
)
だ』
073
太子
(
たいし
)
は『ハヽヽヽ』と
力
(
ちから
)
なき
声
(
こゑ
)
に
笑
(
わら
)
ふ。
074
コル『オイ
天狗
(
てんぐ
)
の
狗賓
(
ぐひん
)
、
075
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しう
厶
(
ござ
)
いますか。
076
別
(
べつ
)
に
面白
(
おもしろ
)
い
生活
(
せいくわつ
)
の
暮
(
くら
)
しでもなし、
077
杣
(
そま
)
の
木挽
(
こびき
)
の
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
078
独
(
ひと
)
りで、
079
営々
(
えいえい
)
と
稼
(
かせ
)
いでをるのですよ。
080
アタ
厭
(
いや
)
らしい
笑
(
わら
)
ひをして
下
(
くだ
)
さるな。
081
エー、
082
一月前
(
ひとつきまへ
)
から
碌
(
ろく
)
なこた、
083
チツとも
出来
(
でき
)
やしないワ。
084
玄真坊
(
げんしんばう
)
がやつて
来
(
き
)
やがつて、
085
それからあんな
悲惨
(
ひさん
)
なみじめな
態
(
ざま
)
になり、
086
ヤツと
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
遁走
(
とんそう
)
して
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
て、
087
厭世
(
えんせい
)
して
隠
(
かく
)
れてをれば、
088
お
山
(
やま
)
の
天狗
(
てんぐ
)
の
狗賓
(
ぐひん
)
がソロソロかぎつけて、
089
一夜
(
いちや
)
の
一夜
(
ひとよさ
)
を、
090
宿泊
(
しゆくはく
)
させて
泊
(
と
)
めてくれなんて、
091
たまつたものぢやありませぬ。
092
玄真坊
(
げんしんばう
)
を
一夜
(
いちや
)
泊
(
と
)
めた
許
(
ばか
)
りで、
093
あんな
大騒動
(
おほさうどう
)
の
大騒
(
おほさわ
)
ぎが
起
(
おこ
)
つたのだ。
094
モウ
客人
(
きやくじん
)
の
人
(
ひと
)
を
泊
(
と
)
めるのはコリコリだ。
095
どうか、
096
外
(
ほか
)
をお
尋
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さい。
097
私
(
わたし
)
は
僕
(
ぼく
)
は
拙者
(
せつしや
)
は
之
(
これ
)
から
就寝
(
しうしん
)
して
寝
(
ね
)
ます。
098
左様
(
さやう
)
なら……』
099
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
杣
(
そま
)
小屋
(
ごや
)
の
中
(
うち
)
に
姿
(
すがた
)
をかくし、
100
中
(
なか
)
から
突
(
つ
)
つ
張
(
ぱり
)
をかうて
了
(
しま
)
つた。
101
二人
(
ふたり
)
は
最早
(
もはや
)
歩行
(
ほかう
)
する
勇気
(
ゆうき
)
もなく、
102
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
いで
月
(
つき
)
の
面
(
おもて
)
を
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
103
述懐
(
じゆつくわい
)
を
歌
(
うた
)
つてゐる。
104
太子
(
たいし
)
『
大空
(
おほぞら
)
に
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
は
輝
(
かがや
)
けど
105
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
は
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まる。
106
いかにせむ
火影
(
ほかげ
)
頼
(
たの
)
みて
来
(
き
)
てみれば
107
げにもすげなき
杣
(
そま
)
の
目
(
め
)
はぢき』
108
アリナ『あゝ
吾
(
わ
)
れは
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
109
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
亡
(
ほろ
)
びむとぞする。
110
腹
(
はら
)
はすき
足
(
あし
)
はだるみて
力
(
ちから
)
なく
111
月
(
つき
)
の
影
(
かげ
)
のみ
力
(
ちから
)
とぞ
思
(
おも
)
ふ。
112
此
(
この
)
宿
(
やど
)
の
主
(
あるじ
)
に
心
(
こころ
)
あるならば
113
今宵
(
こよひ
)
は
安
(
やす
)
く
息
(
いき
)
つがむものを』
114
太子
(
たいし
)
『あゝ、
115
アリナ
116
私
(
わたし
)
も
張詰
(
はりつ
)
めた
勇気
(
ゆうき
)
が、
117
どこへやら
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せ、
118
ガツカリとして
来
(
き
)
た。
119
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
無情
(
むじやう
)
なものだらうな』
120
アリ『
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
います。
121
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はおちぶれ
者
(
もの
)
と
見
(
み
)
れば、
122
足
(
あし
)
げにして
通
(
とほ
)
るといふ
極悪
(
ごくあく
)
世界
(
せかい
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
123
人情
(
にんじやう
)
うすき
事
(
こと
)
紙
(
かみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
124
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
家
(
や
)
にも、
125
泊
(
と
)
めてはくれますまい。
126
然
(
しか
)
しながら
最早
(
もはや
)
一歩
(
いつぽ
)
も
歩
(
あゆ
)
めませぬから、
127
谷川
(
たにがは
)
の
流
(
なが
)
れを
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら
月下
(
げつか
)
に
眠
(
ねむ
)
りませう』
128
屋内
(
をくない
)
にはシャカンナの
声
(
こゑ
)
、
129
シャ『オイ、
130
コルトン、
131
汝
(
きさま
)
、
132
今
(
いま
)
外
(
そと
)
で、
133
何
(
なに
)
独
(
ひと
)
り
言
(
ごと
)
を
云
(
い
)
つてゐたのだ』
134
コル『ヘー、
135
別
(
べつ
)
に
独
(
ひと
)
り
言
(
ごと
)
云
(
い
)
つてゐたのぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
136
天狗
(
てんぐ
)
の
狗賓
(
ぐひん
)
が
二人
(
ふたり
)
もやつて
来
(
き
)
ましてアダをするし、
137
宿泊
(
しゆくはく
)
さして
泊
(
と
)
めてくれの、
138
何
(
なん
)
のと
言
(
い
)
ふものですから、
139
極力
(
きよくりよく
)
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
拒否
(
きよひ
)
して
拒
(
こば
)
んでゐたのです。
140
中々
(
なかなか
)
執拗
(
しつえう
)
なしぶとい、
141
代物
(
しろもの
)
で
厶
(
ござ
)
いましたよ』
142
シャ『それでも、
143
汝
(
きさま
)
、
144
人間
(
にんげん
)
の
声
(
こゑ
)
で
物
(
もの
)
を
云
(
い
)
つてゐたぢやないか。
145
よもや
天狗
(
てんぐ
)
ぢやあるまい。
146
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
147
泊
(
と
)
めてやつたらどうだ』
148
コル『メヽ
滅相
(
めつさう
)
な、
149
あんな
怪物
(
くわいぶつ
)
の
化物
(
ばけもの
)
を
屋内
(
をくない
)
の
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
れてたまりますか。
150
恐怖心
(
きようふしん
)
が
恐
(
おそ
)
ろしがつて、
151
手足
(
てあし
)
が
戦慄
(
せんりつ
)
して
慄
(
ふる
)
ひます。
152
どうか、
153
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はない
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さい』
154
シャ『
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
155
俺
(
おれ
)
が
一遍
(
いつぺん
)
査
(
しら
)
べて
来
(
く
)
る。
156
汝
(
きさま
)
では
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬ』
157
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
158
粗末
(
そまつ
)
な
柴
(
しば
)
の
戸
(
と
)
を
押
(
おし
)
あけ、
159
屋外
(
をくぐわい
)
に
出
(
で
)
て
見
(
み
)
れば、
160
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
白面
(
はくめん
)
の
青年
(
せいねん
)
が
二人
(
ふたり
)
、
161
顔面
(
がんめん
)
を
月
(
つき
)
に
照
(
てら
)
され
乍
(
なが
)
ら、
1611
早
(
はや
)
くも
横
(
よこ
)
たはつてゐる。
162
シャ『
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
かは
知
(
し
)
らぬが、
163
そんな
所
(
ところ
)
に
寝
(
ね
)
てゐては、
164
夜露
(
よつゆ
)
がかかつて、
165
身体
(
からだ
)
の
衛生
(
ゑいせい
)
に
能
(
よ
)
くない。
166
むさ
苦
(
くる
)
しい
茅屋
(
あばらや
)
なれど、
167
お
構
(
かま
)
ひなくば、
168
お
泊
(
とま
)
りなさつたら
何
(
ど
)
うです』
169
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
天使
(
てんし
)
の
救
(
すく
)
ひの
御声
(
みこゑ
)
の
如
(
ごと
)
く
打
(
うち
)
喜
(
よろこ
)
び、
170
やをら
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
し、
171
丁寧
(
ていねい
)
に
辞儀
(
じぎ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
172
力
(
ちから
)
なき
声
(
こゑ
)
にて、
173
アリ『
私
(
わたくし
)
はタラハン
城
(
じやう
)
に
住
(
す
)
んでゐる
若者
(
わかもの
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
174
つい
山野
(
さんや
)
の
風光
(
ふうくわい
)
に
憬
(
あこが
)
れ、
175
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へと
景勝
(
けいしよう
)
を
探
(
さぐ
)
る
内
(
うち
)
、
176
道
(
みち
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふて
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
が
間
(
あひだ
)
パンも
食
(
く
)
はず、
177
此
(
この
)
山中
(
さんちう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み、
178
漸
(
やうや
)
く
幽
(
かす
)
かな
火光
(
くわくわう
)
を
認
(
みと
)
めて、
179
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
辿
(
たど
)
りつきましたので
厶
(
ござ
)
います。
180
当家
(
たうけ
)
の
若
(
わか
)
い
方
(
かた
)
にいろいろと
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
しましたけれど、
181
手厳
(
てきび
)
しく
拒絶
(
きよぜつ
)
されましたので、
182
主従
(
しゆじゆう
)
が
困果腰
(
いんぐわごし
)
をすゑ、
183
お
庭先
(
にはさき
)
で
休
(
やす
)
まして
頂
(
いただ
)
いてをつた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
184
シャ『
何
(
なに
)
、
185
タラハン
市
(
し
)
の
住人
(
ぢうにん
)
とな。
186
フーン、
187
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
泊
(
とま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
188
お
腹
(
なか
)
がすいて
居
(
を
)
れば、
189
パンの
一片
(
ひときれ
)
や
二片
(
ふたきれ
)
はありますから、
190
それを
進
(
しん
)
ぜませう。
191
茶
(
ちや
)
も
幸
(
さいは
)
いあつう
沸
(
わ
)
いて
居
(
を
)
ります』
192
二人
(
ふたり
)
の
喜
(
よろこ
)
びは
例
(
たと
)
ふるに
物
(
もの
)
なく、
193
其
(
その
)
親切
(
しんせつ
)
を
簡単
(
かんたん
)
に
感謝
(
かんしや
)
し
乍
(
なが
)
ら、
194
主
(
あるじ
)
の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
極
(
きは
)
めて
小
(
ちひ
)
さき
茅屋
(
ばうをく
)
の
入口
(
いりぐち
)
を
潜
(
くぐ
)
り、
195
ヤツと
安心
(
あんしん
)
して
木
(
き
)
であんだ
床
(
とこ
)
の
上
(
うへ
)
に
萱
(
かや
)
の
敷
(
し
)
いてある
座敷
(
ざしき
)
へ
腰
(
こし
)
を
打
(
うち
)
かけ、
196
ホツと
一息
(
ひといき
)
をついた。
197
シャ『オイ、
198
スバール、
199
此
(
この
)
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
にパンをあげてくれ。
200
そして
松明
(
たいまつ
)
の
火
(
ひ
)
を
明
(
あか
)
くしてあげてくれ。
201
お
茶
(
ちや
)
も
汲
(
く
)
むのだよ』
202
スバールは『ハイ』といひ
乍
(
なが
)
ら、
203
恥
(
はづ
)
かしげにパンを
取出
(
とりだ
)
し、
204
麗
(
うるは
)
しい
玉
(
たま
)
の
様
(
やう
)
な
掌
(
てのひら
)
にのせて、
205
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
突
(
つき
)
出
(
だ
)
した。
206
二人
(
ふたり
)
は、
207
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う』
2071
といふより
早
(
はや
)
く、
208
餓鬼
(
がき
)
の
如
(
ごと
)
くに
頬
(
ほほ
)
ばつて
了
(
しま
)
つた。
209
スバールは
茶
(
ちや
)
を
汲
(
く
)
んで、
2091
前
(
まへ
)
におき
乍
(
なが
)
ら、
210
柴
(
しば
)
で
編
(
あ
)
んだ
衝立
(
ついたて
)
の
蔭
(
かげ
)
にかくれて
了
(
しま
)
つた。
211
シャ『お
前
(
まへ
)
さまは、
212
最前
(
さいぜん
)
タラハン
市
(
し
)
の
住人
(
ぢうにん
)
だと
云
(
い
)
つたが、
213
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
人気
(
にんき
)
はどんな
物
(
もの
)
ですかな』
214
アリ『ハイ、
215
どうも
不景気
(
ふけいき
)
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
きまくつて、
216
経済界
(
けいざいかい
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
行詰
(
ゆきづま
)
りです。
217
それに
金価
(
きんか
)
が
三割
(
さんわり
)
も
暴騰
(
ばうとう
)
したものですから、
218
紙幣
(
しへい
)
が
下落
(
げらく
)
し、
219
経済界
(
けいざいかい
)
の
混乱
(
こんらん
)
と
云
(
い
)
つたら、
220
実
(
じつ
)
にみじめなものです。
221
大
(
おほ
)
きな
商店
(
しやうてん
)
がバタバタと
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へ
倒
(
たふ
)
れて
行
(
ゆ
)
く
有様
(
ありさま
)
です。
222
そこへバラモン
軍
(
ぐん
)
が
近
(
ちか
)
い
内
(
うち
)
に
攻
(
せ
)
めて
来
(
く
)
るといふ
噂
(
うはさ
)
で
人心
(
じんしん
)
恟々
(
きようきよう
)
として、
223
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
への
大混雑
(
だいこんざつ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
224
シャ『
此
(
この
)
方
(
かた
)
は
女
(
をんな
)
のやうな
綺麗
(
きれい
)
な、
225
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
御人
(
ごじん
)
だが、
226
ヤハリ、
227
タラハン
市
(
し
)
の
御
(
お
)
生
(
うま
)
れですかな』
228
アリ『ハイ、
229
私
(
わたくし
)
の
主人
(
しゆじん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
230
シャ『お
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふかな』
231
アリ『ヘーエ、
232
此
(
この
)
方
(
かた
)
はアリナさまと
申
(
まをし
)
ます。
233
そして
私
(
わたし
)
の
名
(
な
)
はバイタと
申
(
まをし
)
ます』
234
シャ『ハハア、
235
アリナさまにバイタさま。
236
何
(
なん
)
と
良
(
い
)
い
名
(
な
)
ですこと、
237
時
(
とき
)
にカラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
壮健
(
さうけん
)
にしてゐられますか』
238
アリ『
貴方
(
あなた
)
はこんな
山奥
(
やまおく
)
に
居
(
を
)
つて、
239
カラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
を
御存
(
ごぞん
)
じで
厶
(
ござ
)
いますか』
240
シャ『
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
山奥
(
やまおく
)
と
云
(
い
)
つても、
241
此所
(
ここ
)
はヤツパリ、
242
カラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
領分
(
りやうぶん
)
だ。
243
其
(
その
)
領分
(
りやうぶん
)
に
住
(
す
)
んでゐる
人間
(
にんげん
)
として、
244
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
知
(
し
)
らいでなるものか、
245
ハヽヽヽ』
246
アリ『
何
(
なん
)
と、
247
王
(
わう
)
の
威勢
(
ゐせい
)
といふものは
偉
(
えら
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますな。
248
こんな
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
が
届
(
とど
)
いてゐるとは
夢
(
ゆめ
)
にも
存
(
ぞん
)
じませなんだ。
249
今晩
(
こんばん
)
此処
(
ここ
)
で
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になるのも、
250
カラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
余光
(
よくわう
)
に
浴
(
よく
)
したやうなもので
厶
(
ござ
)
いますな』
251
シャ『さうです
共
(
とも
)
、
252
「
普天
(
ふてん
)
の
下
(
もと
)
率土
(
そつど
)
の
浜
(
ひん
)
、
253
皆
(
みな
)
王身
(
わうしん
)
王土
(
わうど
)
にあらざるなし」と
云
(
い
)
ふぢやありませぬか』
254
アリ『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
布令
(
ふれい
)
が、
255
かやうな
山奥
(
やまおく
)
まで、
256
とどいてゐるので
御座
(
ござ
)
いますか』
257
シャ『ナアニ、
258
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
布令
(
ふれい
)
が
届
(
とど
)
かなくつても、
259
王
(
わう
)
様
(
さま
)
ある
事
(
こと
)
を
心
(
こころ
)
にとめて
居
(
を
)
りさへすればそれで
天下
(
てんか
)
は
太平
(
たいへい
)
だ。
260
斯様
(
かやう
)
な
猛獣
(
まうじう
)
の
吠
(
ほえ
)
猛
(
たけ
)
る
山奥
(
やまおく
)
に
淋
(
さび
)
しい
生活
(
せいくわつ
)
をして
居
(
を
)
つても、
261
心強
(
こころづよ
)
う
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
つて
行
(
ゆ
)
くのは、
262
タラハン
城
(
じやう
)
に
王
(
わう
)
様
(
さま
)
がゐられるといふ
事
(
こと
)
を
力
(
ちから
)
にしてゐるから
住
(
す
)
んで
行
(
ゆ
)
けるのですよ。
263
時
(
とき
)
に
左守
(
さもり
)
のガンヂー
殿
(
どの
)
や、
264
右守
(
うもり
)
のサクレンス
殿
(
どの
)
は
達者
(
たつしや
)
にして
居
(
ゐ
)
られますか』
265
アリ『
能
(
よ
)
くマア
詳
(
くは
)
しい
事
(
こと
)
を
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
266
私
(
わたし
)
は
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
、
267
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
268
シャカンナは
打
(
うち
)
驚
(
おどろ
)
いた
様
(
やう
)
な
面
(
かほ
)
して、
269
声
(
こゑ
)
を
震
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
270
シャ『ナアニ、
271
お
前
(
まへ
)
があの
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
であつたか。
272
フーム、
273
心
(
こころ
)
汚
(
きたな
)
き
左守
(
さもり
)
にも
似
(
に
)
ず、
274
お
前
(
まへ
)
の
容貌
(
ようばう
)
といひ、
275
声
(
こゑ
)
の
色
(
いろ
)
といひ、
276
実
(
じつ
)
に
見上
(
みあ
)
げたものだ。
277
丁度
(
ちやうど
)
鳶
(
とび
)
が
鷹
(
たか
)
を
生
(
う
)
んだやうなものだなア。
278
そしてお
前
(
まへ
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
と
云
(
い
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
279
此
(
この
)
御
(
お
)
方
(
かた
)
はカラピン
王
(
わう
)
の
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
におはさぬか。
280
どこ
共
(
とも
)
なしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い、
281
お
姿
(
すがた
)
だから……』
282
アリ『イヤ、
283
もう
斯
(
か
)
うなれば、
284
何
(
なに
)
もかも
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
285
お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
286
そして
貴方
(
あなた
)
は
何方
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
287
シャ『
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
以前
(
いぜん
)
には、
288
カラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
左守
(
さもり
)
と
仕
(
つか
)
へてゐた、
289
私
(
わたし
)
はシャカンナだ。
290
王妃
(
わうひ
)
の
君
(
きみ
)
が
悪霊
(
あくれい
)
に
誑惑
(
けうわく
)
され、
291
日々
(
ひび
)
残虐
(
ざんぎやく
)
な
行為
(
かうゐ
)
を
遊
(
あそ
)
ばされ、
292
国民
(
こくみん
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
となり、
293
已
(
すで
)
にクーデター
迄
(
まで
)
起
(
おこ
)
らむとした。
294
其
(
その
)
危機
(
きき
)
を
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
に、
295
女房
(
にようばう
)
と
共
(
とも
)
に、
296
死
(
し
)
を
冒
(
をか
)
して
直諫
(
ちよくかん
)
し
奉
(
たてまつ
)
つた
所
(
ところ
)
、
297
カラピン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
大変
(
たいへん
)
に
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
遊
(
あそ
)
ばし、
298
大刀
(
だいたう
)
を
引
(
ひき
)
抜
(
ぬ
)
いて、
299
此
(
この
)
左守
(
さもり
)
を
切
(
き
)
りすてむと
遊
(
あそ
)
ばした
刹那
(
せつな
)
、
300
吾
(
わが
)
女房
(
にようばう
)
が
身代
(
みがは
)
りとなつて、
301
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
命
(
いのち
)
をおとし、
302
私
(
わたし
)
は
城
(
しろ
)
の
裏門
(
うらもん
)
より
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
し、
303
やうやう
六
(
ろく
)
才
(
さい
)
になつた
娘
(
むすめ
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
うて、
304
此
(
この
)
山
(
やま
)
に
逃
(
にげ
)
込
(
こ
)
んで、
305
時
(
とき
)
の
至
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つてゐたのだ。
306
お
前
(
まへ
)
の
側
(
そば
)
で、
307
こんなことは
言
(
い
)
ひたくないが、
308
お
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
のガンヂーは
右守
(
うもり
)
となつて
仕
(
つか
)
へてゐたが、
309
残虐
(
ざんぎやく
)
非道
(
ひだう
)
の
行為
(
かうゐ
)
を
遊
(
あそ
)
ばす
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
をおだて
上
(
あ
)
げ、
310
益々
(
ますます
)
国難
(
こくなん
)
を
招
(
まね
)
き、
311
殆
(
ほと
)
んど
収拾
(
しうしふ
)
す
可
(
べか
)
らざる、
312
国家
(
こくか
)
は
破目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
つたのだ。
313
今
(
いま
)
は
私
(
わたし
)
の
後
(
あと
)
を
襲
(
おそ
)
ふて
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
となり、
314
国民
(
こくみん
)
に
道
(
みち
)
を
布
(
し
)
いて、
315
大変
(
たいへん
)
な
人気
(
にんき
)
ださうだ。
316
それを
聞
(
き
)
いて
自分
(
じぶん
)
も、
317
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
安心
(
あんしん
)
はしてゐるが、
318
何
(
なん
)
とかしてガンヂーを
戒
(
いまし
)
め、
319
モウ
一層
(
いつそう
)
、
320
善
(
い
)
い
人間
(
にんげん
)
になつて、
321
国政
(
こくせい
)
をとらせたいと、
322
それ
許
(
ばか
)
りを
念
(
ねん
)
じてゐるのだ』
323
アリ『
承
(
うけたま
)
はれば
承
(
うけたま
)
はる
程
(
ほど
)
、
324
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
り、
325
驚
(
おどろ
)
きに
堪
(
た
)
へませぬ。
326
貴方
(
あなた
)
のお
説
(
せつ
)
の
通
(
とほり
)
、
327
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
は
余
(
あま
)
り
心
(
こころ
)
の
好
(
よ
)
い
人
(
ひと
)
だとは
存
(
ぞん
)
じませぬ。
328
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
親任
(
しんにん
)
厚
(
あつ
)
きが
為
(
ため
)
に、
329
漸
(
やうや
)
く
沢山
(
たくさん
)
の
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
を
統一
(
とういつ
)
し、
330
国家
(
こくか
)
も
余
(
あま
)
り
大
(
おほ
)
きな
騒動
(
さうだう
)
もなく、
331
細々
(
ほそぼそ
)
と
治
(
おさ
)
まつて
居
(
を
)
ります。
332
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何時
(
いつ
)
事変
(
じへん
)
が
突発
(
とつぱつ
)
するか
分
(
わか
)
らないと
云
(
い
)
つて、
333
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
と
私
(
わたし
)
とが
始終
(
しじう
)
歎
(
なげ
)
いてゐるので
厶
(
ござ
)
います』
334
シャ『
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
、
335
ムサ
苦
(
くる
)
しい
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますけれど、
336
どうかおくつろぎ
下
(
くだ
)
さいませ。
337
誠
(
まこと
)
に
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました』
338
太
(
たい
)
『イヤ
余
(
よ
)
は
結構
(
けつこう
)
だ。
339
どうぞ
心配
(
しんぱい
)
をしてくれな』
340
シャ『ハイ、
341
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
342
時
(
とき
)
にアリナさま、
343
お
前
(
まへ
)
は
親
(
おや
)
にも
似
(
に
)
ず、
344
誠忠
(
せいちう
)
無比
(
むひ
)
の
青年
(
せいねん
)
だ。
345
どうか、
346
私
(
わたし
)
は
此
(
この
)
様
(
やう
)
に
世捨人
(
よすてびと
)
になり、
347
最早
(
もはや
)
国政
(
こくせい
)
に
参与
(
さんよ
)
することは
出来
(
でき
)
ないから、
348
お
前
(
まへ
)
は
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
を
助
(
たす
)
けて、
349
立派
(
りつぱ
)
な
政治
(
せいぢ
)
をやつて
下
(
くだ
)
さい』
350
アリ『いろいろと
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
なお
言葉
(
ことば
)
、
351
さぞ
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
は
貴方
(
あなた
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
をかけたで
厶
(
ござ
)
いませうが、
352
其
(
その
)
お
怒
(
いか
)
りもなく、
353
私
(
わたし
)
に
対
(
たい
)
し
斯様
(
かやう
)
な
親切
(
しんせつ
)
な
言葉
(
ことば
)
をおかけ
下
(
くだ
)
さいまする、
354
公平
(
こうへい
)
無私
(
むし
)
な
貴方
(
あなた
)
の
赤心
(
まごころ
)
、
355
実
(
じつ
)
に
感謝
(
かんしや
)
に
堪
(
た
)
へませぬ』
356
シャ『
夜
(
よる
)
も
余程
(
よほど
)
更
(
ふ
)
けた
様
(
やう
)
でもあり、
357
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
もお
疲
(
つか
)
れだらうから、
358
今晩
(
こんばん
)
はゆつくり
泊
(
とま
)
つて
頂
(
いただ
)
いて、
359
明日
(
あす
)
ゆるゆるとお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
きませう。
360
サア、
361
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
、
362
お
寝
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
363
太
(
たい
)
『あゝお
前
(
まへ
)
が
忠臣
(
ちうしん
)
の
誉
(
ほまれ
)
を
今
(
いま
)
に
残
(
のこ
)
してゐる
左守
(
さもり
)
のシャカンナであつたか。
364
天
(
てん
)
は
未
(
いま
)
だタラハン
国
(
ごく
)
を
捨
(
す
)
てさせ
玉
(
たま
)
はぬとみえる。
365
どうぢや。
366
お
前
(
まへ
)
、
367
モウ
一度
(
いちど
)
思
(
おも
)
ひ
直
(
なほ
)
して、
368
今
(
いま
)
や
亡
(
ほろ
)
びむとするタラハン
国
(
ごく
)
を
救
(
すく
)
うてくれる
気
(
き
)
はないか』
369
シャ『
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない、
370
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
のお
言葉
(
ことば
)
。
371
かやうな
老骨
(
らうこつ
)
、
372
最早
(
もはや
)
お
間
(
ま
)
には
合
(
あ
)
ひませぬ。
373
それよりも
此
(
この
)
アリナを
重
(
おも
)
く
用
(
もち
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばして、
374
王家
(
わうけ
)
の
基礎
(
きそ
)
を
固
(
かた
)
め、
375
国家
(
こくか
)
を
泰山
(
たいざん
)
の
安
(
やす
)
きにおいて
下
(
くだ
)
さいませ。
376
それが、
377
せめてもの
私
(
わたくし
)
の
老後
(
らうご
)
の
頼
(
たの
)
みで
厶
(
ござ
)
います』
378
太
(
たい
)
『あゝ
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
379
余
(
あま
)
りくたぶれたから
寝
(
やす
)
まして
貰
(
もら
)
はう。
380
シャカンナ
381
許
(
ゆる
)
せよ』
382
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
383
ゴロリと
横
(
よこ
)
になり、
384
早
(
はや
)
くも
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
き
鼾
(
いびき
)
をかいてゐる。
385
コルトンは
此
(
この
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
吃驚
(
びつくり
)
し、
386
床
(
ゆか
)
の
下
(
した
)
にもぐり
込
(
こ
)
んで
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
だらけになつて、
387
一眠
(
ひとねむ
)
りも
得
(
え
)
せず
夜
(
よ
)
をあかして
了
(
しま
)
つた。
388
十個
(
じつこ
)
の
鼻口
(
はなくち
)
より
出入
(
しゆつにふ
)
する
空気
(
くうき
)
の
音
(
おと
)
は
389
恰
(
あたか
)
も
鍛冶師
(
かぢし
)
の
鞴
(
ふいご
)
の
様
(
やう
)
に
聞
(
きこ
)
えてゐた。
390
春
(
はる
)
の
夜
(
よ
)
は
容赦
(
ようしや
)
もなく
更
(
ふ
)
けてゆく。
391
大空
(
おほぞら
)
の
月
(
つき
)
は
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へて、
392
此
(
この
)
不思議
(
ふしぎ
)
なる
主従
(
しゆじゆう
)
の
数奇
(
すうき
)
極
(
きは
)
まる
邂逅
(
かいごう
)
を
清
(
きよ
)
く
照
(
てら
)
してゐる。
393
(
大正一三・一二・三
新一二・二八
於祥雲閣
松村真澄
録)
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