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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第81巻(申の巻)
総説
第1篇 伊佐子の島
第1章 イドム戦
第2章 月光山
第3章 月見の池
第4章 遷座式
第5章 心の禊
第6章 月見の宴
第2篇 イドムの嵐
第7章 月音し
第8章 人魚の勝利
第9章 維新の叫び
第10章 復古運動
第3篇 木田山城
第11章 五月闇
第12章 木田山颪
第13章 思ひの掛川
第14章 鷺と烏
第15章 厚顔無恥
第4篇 猛獣思想
第16章 亀神の救ひ
第17章 再生再会
第18章 蠑螈の精
第19章 悪魔の滅亡
第20章 悔悟の花
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霊界物語
>
天祥地瑞(第73~81巻)
>
第81巻(申の巻)
> 第4篇 猛獣思想 > 第16章 亀神の救ひ
<<< 厚顔無恥
(B)
(N)
再生再会 >>>
第一六章
亀神
(
きしん
)
の
救
(
すく
)
ひ〔二〇四三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:
第4篇 猛獣思想
よみ(新仮名遣い):
もうじゅうしそう
章:
第16章 亀神の救ひ
よみ(新仮名遣い):
きしんのすくい
通し章番号:
2043
口述日:
1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日)
口述場所:
水明閣
筆録者:
谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
センリウと取り替えられたチンリウ姫は、丸木舟に乗せられて嘆きの歌を歌いつつ、「かくれ島」に送られていた。
姫を護送してきた騎士は島につくと、姫を上陸させ、送り届けた印に姫の左の耳を切り落として去っていった。
次第に島は水没してゆき、姫は進退窮まってただ死期を待つのみとなってしまった。
島の頂上に立って悲嘆の歌を歌ううちに、海水は姫の膝まで届くほどになり、最早これまでと覚悟を決めた。
するとその折、大きな亀がどこからともなく現れ来ると、姫の前にぽっかりと甲羅を浮かせた。そして、背中に乗れとばかりに頭をもたげて控えている。
チンリウ姫は、これこそ神の助けと亀の背中に乗ると、亀は荒波をくぐりつつ南へ南へと泳ぎ始めた。
姫は海亀の助けに感謝し、またこれまでを述懐するうちに、敵国の王妃になったセンリウの身の上に憐れを催し、自分の身魂が汚されずに済んだことに感謝を覚えた。アララギの悪計も、結果として自分の操を守ることになったことに思いを致していた。
亀はイドム国の海岸を指して海を泳ぎ渡り、イドム国真砂ケ浜に姫を下ろした。チンリウ姫が感謝の歌を歌うと、亀は二、三度うなずいて海中に姿を消した。
真砂ケ浜は月光山の西方の峰伝いに位置し、丘陵が迫った森林地帯であった。姫は、現在父母が月光山に篭もっているとは夢にも知らず、ただ木の実を探ろうと、不案内のまま森林深く忍び行ることとなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm8116
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 516頁
修補版:
校定版:
347頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
山川
(
やまかは
)
は
清
(
きよ
)
く
爽
(
さや
)
けく
果実
(
くだもの
)
は
002
豊
(
ゆた
)
かに
実
(
みの
)
る
伊佐子
(
いさご
)
の
島
(
しま
)
の
真秀良場
(
まほらば
)
や
003
天国
(
てんごく
)
楽土
(
らくど
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
004
イドムの
国
(
くに
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
005
イドムの
城
(
しろ
)
の
御
(
おん
)
主
(
あるじ
)
006
アヅミ、ムラジが
二人
(
ふたり
)
が
仲
(
なか
)
に
007
昇
(
のぼ
)
る
朝日
(
あさひ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
008
初声
(
うぶごゑ
)
挙
(
あ
)
げしチンリウ
姫
(
ひめ
)
は
009
こよなき
宝
(
たから
)
と
両親
(
りやうしん
)
が
010
日夜
(
にちや
)
心
(
こころ
)
をつくしつつ
011
育
(
はぐく
)
みここに
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
012
花
(
はな
)
の
盛
(
さか
)
りの
春
(
はる
)
の
宵
(
よひ
)
013
サールの
国
(
くに
)
のエールスが
014
暴虐
(
ぼうぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
魔軍
(
まいくさ
)
に
015
攻
(
せ
)
め
破
(
やぶ
)
られて
父母
(
ちちはは
)
は
016
遠
(
とほ
)
くイドムの
城
(
しろ
)
を
捨
(
す
)
て
017
月光山
(
つきみつやま
)
に
逃
(
のが
)
れまし
018
一陽
(
いちやう
)
来復
(
らいふく
)
時
(
とき
)
待
(
ま
)
ち
給
(
たま
)
ふ。
019
『かなしき
吾
(
われ
)
は
如何
(
いか
)
にして
020
かかる
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
ふものか
021
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
のいますならば
022
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
今日
(
けふ
)
の
悲
(
かな
)
しみを
023
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
024
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
025
春
(
はる
)
の
夜
(
よ
)
の
暖
(
あたた
)
かき
夢
(
ゆめ
)
を
破
(
やぶ
)
られて
026
敵
(
てき
)
に
捕
(
とら
)
はれ
縄目
(
なはめ
)
の
恥
(
はぢ
)
を
027
主従
(
しうじう
)
三人
(
みたり
)
遇
(
あ
)
ひながら
028
さも
荒々
(
あらあら
)
しき
駿馬
(
はやこま
)
の
029
背
(
せな
)
に
運
(
はこ
)
ばれはるばると
030
恋
(
こひ
)
しき
故国
(
ここく
)
を
後
(
あと
)
にして
031
大栄山
(
おほさかやま
)
の
嶮
(
けん
)
を
越
(
こ
)
え
032
前
(
まへ
)
も
後
(
うしろ
)
も
魔軍
(
まいくさ
)
に
033
囲
(
かこ
)
まれサールの
国中
(
くになか
)
の
034
木田山
(
きたやま
)
城
(
じやう
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
035
歎
(
なげ
)
きの
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
る
折
(
をり
)
036
仇
(
かたき
)
の
太子
(
たいし
)
の
恋慕
(
れんぼ
)
より
037
又
(
また
)
も
一
(
ひと
)
きは
悩
(
なや
)
みしが
038
賢
(
さか
)
しき
乳母
(
うば
)
の
忠言
(
ちうげん
)
を
039
心
(
こころ
)
ならずも
諾
(
うべな
)
ひて
040
木田山
(
きたやま
)
城
(
じやう
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
041
エームス
王
(
わう
)
と
結婚
(
けつこん
)
の
042
儀式
(
ぎしき
)
を
挙
(
あ
)
ぐる
間
(
ま
)
もあらず
043
乳母
(
うば
)
アララギの
奸計
(
かんけい
)
に
044
うまうまのせられ
忽
(
たちま
)
ちに
045
大罪人
(
だいざいにん
)
にと
強
(
し
)
ひられて
046
口
(
くち
)
には
嵌
(
は
)
ます
猿轡
(
さるぐつわ
)
047
撃
(
ぶ
)
ち
打擲
(
ちやうちやく
)
のその
揚句
(
あげく
)
048
血潮
(
ちしほ
)
したたり
面
(
おも
)
破
(
やぶ
)
れ
049
見
(
み
)
るかげもなき
吾
(
わが
)
姿
(
すがた
)
050
センリウ
侍女
(
じぢよ
)
とさげすまれ
051
数多
(
あまた
)
の
騎士
(
ナイト
)
に
送
(
おく
)
られて
052
荒浪
(
あらなみ
)
猛
(
たけ
)
る
磯
(
いそ
)
ばたに
053
送
(
おく
)
られ
是
(
これ
)
より
独木舟
(
まるきぶね
)
054
潮
(
しほ
)
の
流
(
なが
)
れのそのままに
055
身
(
み
)
を
捨小舟
(
すてをぶね
)
忽
(
たちま
)
ちに
056
逆
(
さか
)
まく
波
(
なみ
)
のゆくままに
057
これのさびしき
島ケ根
(
しまがね
)
に
058
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
着
(
つ
)
きにけり
059
ああ
如何
(
いか
)
にせむ
今
(
いま
)
となりて
060
言問
(
ことと
)
ふ
由
(
よし
)
も
泣
(
な
)
く
涙
(
なみだ
)
061
空
(
そら
)
ゆく
雁
(
かり
)
の
影
(
かげ
)
あらば
062
吾
(
わが
)
憂
(
う
)
きことを
垂乳根
(
たらちね
)
の
063
御
(
おん
)
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
伝
(
つた
)
へむと
064
思
(
おも
)
へど
望
(
のぞ
)
みは
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
065
消
(
き
)
えてあとなき
泡沫
(
うたかた
)
の
066
闇路
(
やみぢ
)
を
辿
(
たど
)
る
心地
(
ここち
)
かな
067
闇路
(
やみぢ
)
にさまよふ
心地
(
ここち
)
かな』
068
独木舟
(
まるきぶね
)
をあやつり、
069
ここに
送
(
おく
)
り
来
(
きた
)
りし
一人
(
ひとり
)
の
毛武者
(
けむしや
)
の
騎士
(
ナイト
)
は、
070
隠
(
かくれ
)
の
島
(
しま
)
に
姫
(
ひめ
)
を
上陸
(
じやうりく
)
させ、
071
声
(
こゑ
)
もあらあらしく、
072
『こりや
尼
(
あま
)
つちよ、
073
端女
(
はしため
)
の
分際
(
ぶんざい
)
としてお
国
(
くに
)
の
宝
(
たから
)
を
打
(
う
)
ち
毀
(
こは
)
した
天罰
(
てんばつ
)
によつて、
074
その
方
(
はう
)
はこの
隠島
(
かくれじま
)
に
捨
(
す
)
てられたのだ。
075
もうかうなる
上
(
うへ
)
は、
076
今日
(
けふ
)
ぎりの
生命
(
いのち
)
だ、
077
覚悟
(
かくご
)
するがよからう。
078
この
島
(
しま
)
は
隠
(
かくれ
)
の
島
(
しま
)
と
言
(
い
)
つて、
079
昼
(
ひる
)
は
水面
(
すゐめん
)
にポツカリと
浮
(
うか
)
んでゐるが、
080
そろそろ
陽
(
ひ
)
が
沈
(
しづ
)
み
出
(
だ
)
すと
潮
(
しほ
)
が
高
(
たか
)
まり
来
(
きた
)
り、
081
この
島
(
しま
)
は
ずんぼり
と
波
(
なみ
)
の
底
(
そこ
)
に
沈
(
しづ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ふのだ。
082
この
島
(
しま
)
に
捨
(
す
)
てられたが
最後
(
さいご
)
、
083
魚
(
さかな
)
でない
限
(
かぎ
)
り
到底
(
たうてい
)
生命
(
いのち
)
の
助
(
たす
)
かりつこはない。
084
てもさてもいぢらしいものだ。
085
俺
(
おれ
)
も
内密
(
ないみつ
)
で
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
美人
(
びじん
)
を
助
(
たす
)
け
出
(
だ
)
し、
086
女房
(
にようばう
)
にしたいは
山々
(
やまやま
)
なれど、
087
磯端
(
いそばた
)
には
沢山
(
たくさん
)
の
目附
(
めつけ
)
が
騎士
(
ナイト
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れて
監視
(
かんし
)
してゐるから、
088
それも
仕方
(
しかた
)
がない。
089
可哀
(
かはい
)
さうだが、
090
もう
暫
(
しばら
)
くの
生命
(
いのち
)
だ。
091
いづれ
鮫
(
さめ
)
がやつて
来
(
き
)
て
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へ
葬
(
はうむ
)
つてくれるだらう。
092
まあ
感謝
(
かんしや
)
したがよからう。
093
泣
(
な
)
いても
叫
(
さけ
)
んでも、
094
かうなりや
仕方
(
しかた
)
がない。
095
然
(
しか
)
しながら
貴様
(
きさま
)
をこの
島
(
しま
)
に
捨
(
す
)
てたと
言
(
い
)
ふ
標
(
しるし
)
がなくては
承知
(
しようち
)
せまい。
096
肉
(
にく
)
の
附
(
つ
)
いた
一握
(
ひとにぎ
)
りの
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
を
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
るか、
097
お
前
(
まへ
)
の
耳
(
みみ
)
をそいで
帰
(
かへ
)
るか、
098
それでなくちや
袖
(
そで
)
でも
捩
(
ね
)
ぢ
断
(
き
)
つて、
099
隠島
(
かくれじま
)
特有
(
とくいう
)
の
貝
(
かひ
)
でも
持
(
も
)
ち
帰
(
かへ
)
り、
100
証拠
(
しようこ
)
にせなくつちや
今日
(
けふ
)
の
勤
(
つと
)
めが
果
(
はた
)
せぬのだ。
101
可哀想
(
かはいさう
)
だが、
102
たつた
今
(
いま
)
死
(
し
)
ぬる
生命
(
いのち
)
だ。
103
耳
(
みみ
)
の
一
(
ひと
)
つ
位
(
くらゐ
)
取
(
と
)
つたつて
惜
(
を
)
しくもあるまい』
104
と
言
(
い
)
ひながら
石刀
(
いしがたな
)
を
懐
(
ふところ
)
より
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
105
姫
(
ひめ
)
を
矢場
(
やには
)
に
地上
(
ちじやう
)
に
打
(
う
)
ち
倒
(
たふ
)
し、
106
しきりと
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ
姫
(
ひめ
)
に
目
(
め
)
もくれず、
107
鋸引
(
のこぎりび
)
きにして
左
(
ひだり
)
の
耳
(
みみ
)
を
切
(
き
)
りとり、
108
血
(
ち
)
の
滴
(
したた
)
る
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
冷
(
ひや
)
やかに
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
めながら、
109
『ヤアもう
時刻
(
じこく
)
が
迫
(
せま
)
つた、
110
ぐづぐづしてゐると、
111
俺
(
おれ
)
の
舟
(
ふね
)
までどうなるか
解
(
わか
)
らない』
112
と
言
(
い
)
ひながら
足早
(
あしばや
)
に
独木舟
(
まるきぶね
)
に
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
り、
113
艪
(
ろ
)
をあやつり
夕靄
(
ゆふもや
)
の
包
(
つつ
)
む
海原
(
うなばら
)
を
急
(
いそ
)
ぎ
帰
(
かへ
)
りゆく。
114
姫
(
ひめ
)
は
進退
(
しんたい
)
維谷
(
これきは
)
まり
悲歎
(
ひたん
)
やる
方
(
かた
)
なく、
115
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
にまかせて、
116
死期
(
しき
)
を
待
(
ま
)
つより
何
(
なん
)
の
手段
(
てだて
)
もなかりける。
117
姫
(
ひめ
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
沈
(
しづ
)
みゆく
島
(
しま
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
立
(
た
)
ち
微
(
かす
)
かに
歌
(
うた
)
ふ。
118
『
思
(
おも
)
ひ
廻
(
まは
)
せば
廻
(
まは
)
す
程
(
ほど
)
119
吾
(
われ
)
ほど
悲
(
かな
)
しき
者
(
もの
)
は
世
(
よ
)
に
120
又
(
また
)
とあらうか
父母
(
ちちはは
)
は
121
敵
(
てき
)
に
城
(
しろ
)
をば
落
(
おと
)
されて
122
今
(
いま
)
は
行方
(
ゆくへ
)
も
白雲
(
しらくも
)
の
123
遥
(
はるか
)
の
国
(
くに
)
に
出
(
い
)
でましぬ
124
妾
(
わらは
)
は
騎士
(
ナイト
)
に
送
(
おく
)
られて
125
敵
(
てき
)
の
本城
(
ほんじやう
)
木田山
(
きたやま
)
に
126
縄目
(
なはめ
)
の
恥
(
はぢ
)
を
忍
(
しの
)
びつつ
127
昼夜
(
ちうや
)
の
別
(
わか
)
ちもあら
涙
(
なみだ
)
128
泣
(
な
)
き
暮
(
くら
)
したる
折
(
をり
)
もあれ
129
エームス
王
(
わう
)
の
恋慕
(
れんぼ
)
より
130
色々
(
いろいろ
)
様々
(
さまざま
)
言問
(
ことと
)
はれ
131
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ざれば
本心
(
ほんしん
)
を
132
まげて
仇
(
あだ
)
なるエームスに
133
仕
(
つか
)
へむとせしは
一生
(
いつしやう
)
の
134
あやまりなりしか
村肝
(
むらきも
)
の
135
心
(
こころ
)
汚
(
きたな
)
き
乳母
(
うば
)
母子
(
おやこ
)
に
136
うまうま
計
(
はか
)
られ
今
(
いま
)
ここに
137
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
悲
(
かな
)
しき
捨小舟
(
すてをぶね
)
138
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
さへ
絶
(
た
)
へはてし
139
隠
(
かくれ
)
の
島
(
しま
)
に
捨
(
す
)
てられて
140
今
(
いま
)
に
知死期
(
ちしご
)
を
待
(
ま
)
たむより
141
果敢
(
はか
)
なき
吾
(
わが
)
身
(
み
)
となりにけり
142
この
世
(
よ
)
に
生
(
い
)
きて
仇人
(
あだびと
)
の
143
牢獄
(
ひとや
)
に
繋
(
つな
)
がれ
朝夕
(
あさゆふ
)
を
144
縄目
(
なはめ
)
の
恥
(
はぢ
)
をさらすより
145
いつそ
死
(
し
)
なむと
思
(
おも
)
ひつつ
146
また
父母
(
ちちはは
)
の
御
(
おん
)
上
(
うへ
)
に
147
心
(
こころ
)
くばりて
再会
(
さいくわい
)
を
148
望
(
のぞ
)
みしことも
仇
(
あだ
)
なれや
149
浪
(
なみ
)
は
次
(
つ
)
ぎ
次
(
つ
)
ぎ
高
(
たか
)
まりて
150
吾
(
わが
)
立
(
た
)
つ
島
(
しま
)
は
荒潮
(
あらしほ
)
に
151
その
大方
(
おほかた
)
は
呑
(
の
)
まれたり
152
ああさびしもよ、かなしもよ
153
夢
(
ゆめ
)
になりともこの
歎
(
なげ
)
き
154
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
とに
知
(
し
)
らせたや
155
歎
(
なげ
)
きの
涙
(
なみだ
)
つきはてて
156
今
(
いま
)
は
知死期
(
ちしご
)
を
待
(
ま
)
つのみぞ
157
浪
(
なみ
)
の
音
(
おと
)
いや
高
(
たか
)
まりて
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
るは
158
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
生命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
ひ
去
(
さ
)
る
159
猛
(
たけ
)
き
獣
(
けもの
)
の
声
(
こゑ
)
にして
160
さも
恐
(
おそ
)
ろしき
夕
(
ゆふべ
)
かな』
161
斯
(
か
)
く
歎
(
なげ
)
きの
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
162
隠島
(
かくれじま
)
の
最頂上
(
さいちやうじやう
)
に
立
(
た
)
てる
姫
(
ひめ
)
の
膝
(
ひざ
)
を
没
(
ぼつ
)
するまで
水量
(
みづかさ
)
まさりけるが、
163
姫
(
ひめ
)
は
最早
(
もはや
)
これまでなりと
覚悟
(
かくご
)
を
極
(
きは
)
むる
折
(
をり
)
もあれ、
164
大
(
おほ
)
いなる
亀
(
かめ
)
いづくよりか
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
165
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
にボツカリと
甲羅
(
かふら
)
を
浮
(
う
)
かせ、
166
わが
背
(
せ
)
に
乗
(
の
)
り
給
(
たま
)
へと
言
(
い
)
はむばかり
頭
(
あたま
)
をもたげてひかへ
居
(
ゐ
)
る。
167
チンリウ
姫
(
ひめ
)
はこれこそ
神
(
かみ
)
の
助
(
たす
)
けと
矢場
(
やには
)
に
亀
(
かめ
)
の
背
(
せ
)
に
打
(
う
)
ち
乗
(
の
)
れば、
168
亀
(
かめ
)
は
荒浪
(
あらなみ
)
をくぐりながら
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと
泳
(
およ
)
ぎゆく。
169
チンリウ
姫
(
ひめ
)
は
亀
(
かめ
)
の
背
(
せ
)
に
立
(
た
)
ちながら
微
(
かす
)
かに
歌
(
うた
)
ふ。
170
『この
亀
(
かめ
)
は
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
かわが
生命
(
いのち
)
171
完全
(
うまら
)
に
委曲
(
つばら
)
に
救
(
すく
)
ひたるはや
172
大
(
おほ
)
いなる
海亀
(
うみがめ
)
の
背
(
せ
)
にのせられて
173
故郷
(
くに
)
に
帰
(
かへ
)
ると
思
(
おも
)
へば
嬉
(
うれ
)
しも
174
様々
(
さまざま
)
の
悩
(
なや
)
ひに
遇
(
あ
)
ひて
海亀
(
うみがめ
)
の
175
助
(
たす
)
けの
舟
(
ふね
)
にのせられにける
176
亀
(
かめ
)
よ
亀
(
かめ
)
よサールの
国
(
くに
)
に
近
(
ちか
)
よらず
177
イドムの
磯辺
(
いそべ
)
に
吾
(
われ
)
を
送
(
おく
)
れよ
178
独木舟
(
まるきぶね
)
にまして
大
(
おほ
)
けきこの
亀
(
かめ
)
は
179
海
(
うみ
)
の
旅路
(
たびぢ
)
も
安
(
やす
)
けかるべし
180
海原
(
うなばら
)
に
立
(
た
)
ちのぼりたる
靄
(
もや
)
も
晴
(
は
)
れて
181
御空
(
みそら
)
の
月
(
つき
)
は
輝
(
かがや
)
き
初
(
そ
)
めたり
182
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
も
憐
(
あは
)
れみ
給
(
たま
)
ひしか
183
助
(
たす
)
けの
舟
(
ふね
)
を
遣
(
つか
)
はし
給
(
たま
)
へり
184
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
にまかせつつ
185
浪路
(
なみぢ
)
を
渡
(
わた
)
りて
国
(
くに
)
に
帰
(
かへ
)
らむ
186
曲神
(
まがかみ
)
の
伊猛
(
いたけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
醜国
(
しこぐに
)
に
187
送
(
おく
)
られ
吾
(
われ
)
は
悩
(
なや
)
みてしかな
188
アララギの
深
(
ふか
)
き
奸計
(
たくみ
)
は
憎
(
にく
)
けれど
189
吾
(
われ
)
は
忘
(
わす
)
れむ
今日
(
けふ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
190
たのみなき
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
悟
(
さと
)
りけり
191
乳母
(
うば
)
アララギの
為
(
な
)
せし
仕業
(
しわざ
)
に
192
センリウは
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
全
(
まつた
)
くなりすまし
193
妃
(
きさき
)
となりてゑらぎ
居
(
ゐ
)
るらむ
194
外国
(
とつくに
)
の
仇
(
あだ
)
の
王
(
こきし
)
の
妻
(
つま
)
となる
195
センリウ
姫
(
ひめ
)
は
憐
(
あは
)
れなりけり
196
吾
(
わが
)
霊魂
(
みたま
)
身体
(
からたま
)
共
(
とも
)
に
汚
(
けが
)
さるる
197
真際
(
まぎは
)
を
救
(
すく
)
ひし彼なりにけり
198
かく
思
(
おも
)
へばアララギとても
憎
(
にく
)
まれじ
199
吾
(
わが
)
操
(
みさを
)
をば
守
(
まも
)
りたる
彼
(
かれ
)
200
暫
(
しばら
)
くの
栄華
(
えいぐわ
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
結
(
むす
)
ばむと
201
仇
(
あだ
)
に
従
(
したが
)
ふ
心
(
こころ
)
の
憐
(
あは
)
れさ
202
吾
(
われ
)
は
又
(
また
)
心
(
こころ
)
の
弱
(
よわ
)
きそのままに
203
仇
(
あだ
)
に
身魂
(
みたま
)
をまかさむとせし
204
ありがたし
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
くして
205
吾
(
わが
)
身体
(
からたま
)
は
汚
(
けが
)
さずありけり
206
夕
(
ゆふ
)
されば
波間
(
なみま
)
に
沈
(
しづ
)
む
島ケ根
(
しまがね
)
に
207
捨
(
す
)
てられし
吾
(
われ
)
も
救
(
すく
)
はれにけり
208
この
亀
(
かめ
)
は
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
太
(
ふと
)
りつつ
209
海原
(
うなばら
)
安
(
やす
)
くなりにけりしな
210
大空
(
おほぞら
)
に
水底
(
みそこ
)
に
月
(
つき
)
は
輝
(
かがや
)
きて
211
海原
(
うなばら
)
明
(
あか
)
るく
真昼
(
まひる
)
の
如
(
ごと
)
し
212
亀
(
かめ
)
よ
亀
(
かめ
)
イドムの
国
(
くに
)
に
送
(
おく
)
れかし
213
アヅミの
王
(
きみ
)
のいます
国
(
くに
)
まで』
214
亀
(
かめ
)
は
無言
(
むごん
)
のまま
荒浪
(
あらなみ
)
を
分
(
わ
)
け、
215
一瀉
(
いつしや
)
千里
(
せんり
)
の
勢
(
いきほ
)
ひにてサールの
国
(
くに
)
の
方面
(
はうめん
)
へは
頭
(
かしら
)
を
向
(
む
)
けず、
216
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと、
217
イドムの
海岸
(
かいがん
)
さして
走
(
はし
)
りつつありける。
218
暁
(
あかつき
)
近
(
ちか
)
き
頃
(
ころ
)
、
219
大亀
(
おほかめ
)
は
数百
(
すうひやく
)
ノットの
海面
(
かいめん
)
を
乗
(
の
)
りきり、
220
イドムの
国
(
くに
)
の
真砂
(
まさご
)
ケ
浜
(
はま
)
に
安着
(
あんちやく
)
した。
221
チンリウ
姫
(
ひめ
)
は
無事
(
ぶじ
)
浜辺
(
はまべ
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し、
222
亀
(
かめ
)
に
向
(
むか
)
つて
感謝
(
かんしや
)
の
心
(
こころ
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
223
『
汝
(
なれ
)
こそは
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
かな
224
玉
(
たま
)
の
生命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
ひ
給
(
たま
)
ひし
225
いつの
世
(
よ
)
か
汝
(
なれ
)
が
功
(
いさを
)
を
忘
(
わす
)
れまじ
226
海原
(
うなばら
)
守
(
まも
)
る
神
(
かみ
)
とあがめて
227
あぢ
気
(
き
)
なき
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をここに
送
(
おく
)
り
来
(
こ
)
し
228
汝
(
なれ
)
は
生命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
なりにけり』
229
斯
(
か
)
く
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
るや、
230
亀
(
かめ
)
は
二三回
(
にさんくわい
)
頷
(
うなづ
)
きながら
水中
(
すいちう
)
にズボリと
沈
(
しづ
)
み、
231
跡白浪
(
あとしらなみ
)
となりにける。
232
この
地点
(
ちてん
)
は
月光山
(
つきみつやま
)
の
峰伝
(
みねづた
)
ひ、
233
遠
(
とほ
)
く
西方
(
せいはう
)
に
延長
(
えんちやう
)
したる
丘陵
(
きうりよう
)
近
(
ちか
)
き
森林
(
しんりん
)
なりけるが、
234
姫
(
ひめ
)
はイドムの
国
(
くに
)
とは
略
(
ほぼ
)
察
(
さつ
)
すれども、
235
現在
(
げんざい
)
父母
(
ふぼ
)
の
隠生
(
いんせい
)
せる
月光山
(
つきみつやま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
森林
(
しんりん
)
とは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
236
不案内
(
ふあんない
)
のまま
雨露
(
うろ
)
をしのぎ、
237
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
森林
(
しんりん
)
深
(
ふか
)
く
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
りける。
238
(
昭和九・八・一五
旧七・六
於水明閣
谷前清子
謹録)
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