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小琴の滝

インフォメーション

題名：小琴の滝著者：出口王仁三郎

ページ：173 目次メモ：

概要：28歳の頃備考：タグ：データ凡例：データ最終更新日：2023-05-08 00:00:00 OBC ：B119800c051

二十八歳の頃

連日の旱(ひでり)つづきに琴滝(ことたき)の水はだんぜん落ちずなりたり

渇きたる咽喉(のど)しめさんと滝壺に残れる水を手に掬(すく)ひ飲む

山風(やまかぜ)のあたらぬ渓間(たにま)の滝の辺(へ)は藪蚊(やぶか)と蚋子(ぶよ)の群(むらが)りて居り［※「蚋」は底本では「蟆」（ひきがえる）になっているが「ぶよ」とフリガナが付いているので誤字であろう。］

水掬(すく)ふひまにも蚋子(ぶよ)と蚊の群(むれ)はところかまはずわが身体(からだ)さす［※「蚋」は底本では「蟆」（ひきがえる）になっているが「ぶよ」とフリガナが付いているので誤字であろう。］

茂り合へる小柴(こしば)をわけてやうやくに宝座の岩ケ根に登りやすらふ

竹製の水筒に水(みづ)もり立ておけばわが裾(すそ)にふれころりとこけたり

水筒はのこらず水を吐き出して岩の台(うてな)に平然たりけり

むらさきの雲押し分けて朝津日は山王寺(さんわうじ)山峡(やまかひ)ゆのぼれり［※山王寺は高熊山の南東方向にある寺院。亀岡市曽我部町犬飼北山3］

天津日は高熊山の岩ケ根に直(ただ)かがやきてむしあつき朝

携(たづさ)へしパンを囓(かぢ)りて朝飯(あさめし)をはつはつ済ませ静坐にかかる

感触(かんしよく)のためにこころを乱さじと瞑目静坐ややしばしをり

未見国

精神は澄みきらひつつ自(おのづか)らまだ見ぬ国に踏み入(い)りにけり

松風の音をたよりにたどり行く高天原の旅はすがしも

縹渺(へうべう)とかぎりも知らぬ青野原(あをのはら)草は匂へり花はわらへり

百千花(ももちばな)右も左も咲きみちてわが行く旅のかぎりなき幸(さち)

青野(あをの)吹く風は笛の音(ね)交(まじ)へつつやはく涼しくわが頬なめゆく

行きゆけば底まで澄める小川(ささがは)のせせらぎ涼し八雲琴の音(ね)

小川(ささがは)に足をひたしてやすらへば数多の鰻(うなぎ)あつまり来たる

あいらしき鰻(うなぎ)の群は一筋(ひとすぢ)の綱(つな)のごとくに上(かみ)のぼり行く

花をもてかざりし小舟(をぶね)川下ゆ鰻(うなぎ)の綱(つな)にひかれのぼり来(く)

この舟に乗らせ給へと空中よりやさしき声の聞(きこ)ゆるわが耳

わが心愧(はぢ)らひながら恐るおそる花のみ舟に身を任せけり

わがのれば舟は次第にひろがりて川幅広く底深くなりぬ

紺青(こんぜう)の波をたたへし清川(きよかは)を鰻(うなぎ)の綱(つな)にひかるるたのしさ

右(みぎ)左(ひだり)青野ケ原はふくれあがりたちまち紫藍(しらん)の山となりけり

よく見れば紫藍(しらん)の山は百千花(ももちばな)ところ狭(せ)きまで咲きみちてをり

水の面(も)に紫藍(しらん)の山かげうつろひてわが行く舟の色さへ変(かは)る

蜒蜒(えんえん)と谷間の流れはくねりくねりさざ波もなく静かにすべる

山高(たか)み川ひろみつつ風冴(さ)えてこころますます落ちつきにけり

風のむた響きにつれて神人(しんじん)の詩歌(しか)管絃(くわんげん)の音きこえ来(く)る

管絃(くわんげん)の響きますます冴えわたり唄の諸声(もろごゑ)澄みにすみつつ

八千尋(やちひろ)の水底(みなそこ)までも見え透けるこの渓川(たにがは)の心地よきかな

水底(みなそこ)をしづかに見ればかぎりなき鰭(はた)の広物(ひろもの)跳ねをどりをり

よく見れば鰭(はた)の広物(ひろもの)狭物(さもの)までわが舟(ふね)見つつ噞喁(あぎと)ひて居り

わが舟は何時(いつ)の間にかは大いなる亀と変(かは)りて水泳(およ)ぎをり

紫の海

渓川(たにがは)は次第しだいにひろまりて大海原(おほうなばら)となりかはりたり

波の奥にかすかに見ゆる島山(しまやま)の頂き朝日をうけてきらめく

海原に舟みち続けすすみ来(く)る中(なか)にことごと乗れる神人(しんじん)

天空(てんくう)をかがやかしつつ大いなる火団(くわだん)はわが乗る亀に落ちたり

大いなる火団(くわだん)はたちまち神人(しんじん)と姿かはりてほほゑみ給ふ

われこそは竜宮城の使神(つかひがみ)日の出の神よとしづかに宣らす

ありがたし忝(かたじけ)なしと感謝する間(あひだ)もあらず亀は沈めり

神人(しんじん)に抱(いだ)かれながら波の上(へ)をわれいぶかしみ安(やす)やすわたる

行きゆきて暗礁の上(へ)に足休め日の出の神と倶(とも)にたたずむ

海水はふくれふくれてわが身体(からだ)宙空(ちうくう)高くまき上げにけり

華頂山

よく見れば波にはあらで海中(わだなか)の花咲き匂ふ華頂山(くわちやうざん)なる

華頂山島(しま)のまはりを取りまける御舟(みふね)に十曜(とえう)の神旗(みはた)ひらめく

華頂山めぐれる波はことごとく黄金(こがね)の色にかがやき初(そ)めたり

黄金(こがね)なす波のおもてにむくむくと数万の頭あらはれにけり

よく見れば白衣(びやくい)をつけし神人(しんじん)の笏(しやく)を手に持ち波の上(へ)に浮く

波の秀(ほ)をしづしづ踏みて神人(しんじん)は華頂(くわちやう)の山(やま)を目当(めあて)にあつまる

天地(あめつち)もどよむばかりの音楽の音さやさやと響(ひび)かひ来たる

磯端(いそはた)に並べる百舟(ももぶね)千船(ちぶね)より容色(みめ)うるはしき女神のぼり来(く)

波の秀(ほ)を踏みて寄り来(き)し神人(しんじん)はいづれも女神にましましにけり

華頂山ところ狭(せ)きまで立ちならぶ女神の姿は花と匂へり

容色(ようしよく)端麗(たんれい)たとふものなき姫神(ひめがみ)の姿ながめて呆然たるわれ

日の出の神

美(うる)はしき女神の姿にあこがれるわが背を叩く日の出の男(を)の神

かへりみれば日の出の神は儼然(げんぜん)と女神の群(むれ)を睨(ね)めつけいませり

汝(なれ)が目に女神と見ゆらん竜宮の使神(つかひがみ)よとわらはせたまふ

目をこすりよくよく見れば竜宮の海にすまへる鱗族(うろくづ)の群(むれ)

おどろきの心おさへてややしばし臍下(さいか)丹田(たんでん)に息つめゐたる

霊界は意志想念の世界なり女神に心うばはれしかわれ

おそろしき鰐(わに)に鼈(すつぽん)鱶(ふか)に海老(ゑび)竜(りう)のすがたにをののくわが胸

花にほひ華頂の山は荒浪(あらなみ)のくるへる海の岩島(いはしま)となりぬ

いつのまにか日の出の神のかげもなくわれ島山(しまやま)に寂しく佇(たたず)む

荒波の猛(たけ)り狂ひて打ち寄する孤島に一人さびしさを泣く

山岳の浪(なみ)おそひ来てわが立てる島山(しまやま)一度に呑まんとぞする

天津日の影

驚きて日の出の神よと呼ぶ声にふと目醒(めざ)むれば高熊の山

青嵐(あをあらし)吹きにふきつつ高熊の岩も飛べよとばかりはげしも

よく見ればわれ全身に膏汗(あぶらあせ)かきてころもは湿(しめ)らひにけり

晃晃(くわうくわう)と天津日のかげ松(まつ)ケ枝(え)にさゆれさゆれてかがやきにけり

岩の上(へ)に坐したる膝の痛みだし起き上(あが)らんとしてはまろびつ

全身の力(ちから)ぬけたる心地してにはかにわれは淋しくなりぬ

道の為(た)め世のためはげむ朝夕の修業も零(ぜろ)となりし心地す

いざさらばこころの駒(こま)を立て直しまこと一つの道にすすまむ

渇(かは)きたる咽喉(のど)しめさむと水筒を見れば果敢(はか)なく空虚(くうきよ)となれり

青嵐(あをあらし)に吹き倒れたる草わけていざるがごとく滝壺にくだる

滝壺にわづかに残る真清水(ましみづ)を水筒にうけて咽喉(のど)鳴らし飲む

水飲みし刹那(せつな)にこころ遠くなりふたたび霊国の旅に立ちたり

○

意志想念の霊界に入(い)つて人間の浅間敷(あさまし)い心を歎く夜半(よは)

現幽一致の大宇宙に厄介な奴は人間の自我心と自己愛だ

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