わが期待裏切られつつ稲荷山あとに丹波をさして帰れり
丹波にはまだ汽車通はぬ時なればわれはテクシーをたよりに帰る
半長の浮名をながす桂川長橋わたれば川風さむし
ぬかるみの道を左右に飛び交ひて漸く大枝の坂にかかれり
若き日を通ひつめたる道ながら雪のぬかるみ坂は苦しき
山城と丹波境の松風洞二丁くぐれば子安観音なり
腹ぼての女四五人観音の堂のみまへにうづくまりをり
ここもまた迷信女の集ふかと思へば明治の御代も淋しき
十年前本田先生に出遭ひたる梨の木峠の巌に憩ふ
眼鏡橋わたれば丹波亀岡の荒れたる城趾眼下に横たふ
従兄月樵
くらがりの宮の社務所に立寄りて従兄の田村月樵を訪ふ
くらがりの宮の笠松幹ふとく丈たかくして天にのびをり
久闊を叙せば従兄の月樵は何してゐるかとしみじみ尋ぬる
去年の春ゆ惟神の道に仕へしといへば月樵黙しゐたりき
ややしばしありて月樵おもむろに絵を学べよとわれにすすむる
絵の道はわれ好めどもかむながら神の道にはそむけじと答ふ
月樵はうなづきながら神国の前途のために尽せと教ふる
荒城の月
帰り路は亀岡城趾に立寄りて変りしさまに涙ぐみつつ
待てしばしわが時来らばこの城趾昔のさまにかへさむと雄たけぶ
この城趾みるかげもなく荒れはてて椢林は風にふるへり
いとけなき日わが見し城趾にひきかへて荒れにあれたるさまに涙す
産土の神にねぎごとまをさんとわれ故郷に立寄りにけり
故郷の小幡の宮にぬかづけばゆゑ知らぬ涙腮辺につたふ
○余白に
稚日本根子比古大毘毘天皇の神を祭りし小幡の大宮
あたらしき若き日本の根本の宮の氏子と生れしわれなり
新日本もとつ光を地の上にあまねく照さむ御名ぞかしこき
大毘毘の神の命のあれまさむ世は近づきぬこの地の上に
石の上ふるきゆかりのあらはれて世人おどろく時近みかも
いつはりの殻ぬぎ捨てて天地の真木の柱の道光るなり
古のいつはりごとのことごとくさらけ出さるる神の御代なり
最上の善とおもひし事柄のあやまちあるを悟る神代かな