修行者も平蔵正信さと人も不動の山に福島とのぼる
修行場は黒田きよ子と野崎等が祭壇の前に端坐し守れり
黒髪を後に垂らしそりかへり素盞嗚の神と黒田がほざく
篤三郎神前に端然とかしこまり黒田に向つて敬礼をなす
上田来たか勿体なくも素盞嗚の尊でござるとふり返る黒田
黒『その方が改心せぬため金明会を気の毒ながら灰にするぞよ』
一時も早く綾部に立帰り消防の用意にかかれとほざく
黒『その方は千騎一騎のこの場合上谷なんかに来る身でないぞ』
その方は野狐正体あらはせと霊をかくれば四つばひとなる
こんこんと怪しき声をはり上げて一目散に裏山にかけ入る
驚いて野崎は後を追ひかけつ谷間に黒田をとらへて帰る
黒『これからは福島のことはききませぬええ残念な狐につかれた』
うまいこといふな四つ堂の古狐奴と睨めばまたもこんこんとなく
こんこんとなきつつ不動の山さして一目散に黒田は逃げゆく
をりもあれ例の勇佑はせ来り神に反対するなと頼む
勇『黒田さんに素盞嗚尊がうつられて山でいかつて居られますぞや』
勇『先生の我が強いから金明会が焼けると神が仰有いますぞや』
勇『この爺も一生懸命に大難を小難にかはれと祈つて居ります』
勇『三体の大神様の肉の宮を狐とおつしやるあなたが悪い』
勇『神様はもつての外の御立腹どうしてもお許しござりますまい』
勇『私が一生の願ひ黒田さんに詑びて大難をのがれて下さい』
勇佑は二つの目より滝のごと涙の雨を降らせてたのむ
上『金明会の広間が焼けるはみな嘘だ狐の言葉にだまされな爺』
上『何事もみな野狐の出鱈目だ火事があるなら上谷へは来ぬ』
勇佑は安心したかほほ笑みて煙管煙草をふかし休らふ
堂山に登るとすれば勇佑は何卒綾部に帰つてくれといふ
福島の神が立腹なされたらまた大変と勇佑がふるふ
勇佑に神界のことを説ききかせ菊をともなひ綾部へ帰らす
暴言暴動
雑木茂る叢わけて只一人不動山にのぼり木蔭にかくれみる
平蔵や正信福島寅之助その他の連中わがあるを知らず
たそがれの闇おそひたる松のかげにわれは様子を見てゐたりけり
『艮の金神福島大先生開祖と上田が改心しますように』
『私等の命あげます金明会を焼くことだけはお許し下さい』
一同が涙まじりに福島のまへに両手をあはせてたのめり
福『出口直は金光大神の敵ぞよ上田を引き入れて教会をつぶす』
福『出口直と上田と二人で本宮の金光教会つぶした罪人』
福『出口直は偽の艮金神ぢや福島先生がまことの金神』
福『今度こそ堪忍袋の緒が切れた上田の審神者をはうり出さねば』
福『出口上田平蔵が改心いたさねば金明会は何べんでも焼くぞ』
福『上田をば何時までも綾部におくなれば神がゆるさぬ神罰あてるぞ』
金光教の信者ばかりがあつまつて出口上田の攻撃のみする
若けれど野心の強き春蔵は金光信者を煽動のみする
黒田きよ子は髪ふり乱し神がかり口調で足立を叱りはじめぬ
黒『正信よしつかり致せその方は金光教会の教師でないか』
黒『出口直のそばに三年も居りながら上田の審神者に教会をとられて』
黒『教会をたたきつぶされ何として金光殿へ申しわけする』
黒『朝寝して手水も使はぬ猫よりも劣つた上田に頭を下げるか』
黒『寝所で朝飯を食ひ茶をくらひ顔も洗はぬ無精な上田を』
黒『あのやうな道楽者を出口直が経綸といふのが気にくはぬぞや』
黒『上田をば放り出さねば如何しても金光教会は立ちてゆかぬぞ』
黒『あれみやれ金明会が焼けるぞよ出口上田が改心せぬゆゑ』
たそがれの山の尾の上に大勢が集り綾部の火をみてあやしむ
瓦屋の窯の火を見て一同が火事よ火事よと驚くをかしさ
黒『綾部では出口上田が消防に一心不乱火傷してゐる』
黒『このままにして置いたなら両人の火傷大きく命があぶない』
四方足立春蔵竹村大先生おわびおわびと信徒がなく
たそがれの闇はますます深くして瓦屋の火も見えなくなりぬ
火事にしてはあんまり早く消えました福島先生と信徒たづぬる
大神の経綸で金明会一棟を焼いて綾部を助けたと福島いふ
福『皆のもの出口お直の我を折らせ明日から上田をほり出してしまへ』
福『本当の艮金神は寅之助神とあらはれ教会をまもる』
福『艮の金神福島寅之助三千世界の立替いたすぞ』
福『福島があつぱれこの世にあらはれてみろくの神代にたて直すぞよ』
福『人民が何程偉いと申しても神には勝てぬ改心いたせよ』
福『この神は毛筋の横巾も間違はぬまことの金神は寅之助ぞや』
福『何時までも改心せぬと足もとから鳥がたつぞよびつくりするぞよ』
福『この神を疑うてをる人民はめまひが来るぞよ改心いたせよ』
こんなことのべつまくなし呶鳴りをる信者は恐れて合掌するのみ
福島にあざむかれたる村人は闇の尾の上にさまよひて居り
闇の幕ますます深く不動山くだる道さへ見当がつかず
神様のおかげで綾部が救はれしと福島の名を連呼する信者
この神は嘘は言はぬと言ひながらいま目の前で嘘ばれてをり
良心のなき福島四方等は助けてやつたと得意然たり
曲神は愚人の心を奪はんと尻のつぼめの合はぬこといふ
恐怖心と欲心なければ何人も曲津の言に迷はざるべし
上谷に古く巣ぐへる曲神は大本占領せんと狂ふも
四方春蔵竹村仲蔵正信は大本に野心持ちていたける
上田あればわが目的のさまたげと日夜反対運動のみする
迷信に魂くもらせし平蔵は曲津の曲言信じて動かず
曲神は曇れる数多の身魂をば山の尾の上に引きずり上げたり
出口開祖清き教と厳格なる上田の審神者を曲神恐れつ
何よりも烟たき奴は上田なり退去させんと曲人のたくらみ
不動山の尾の上に曲津は信徒を伴ひ上田の放逐を計りぬ
如何にして闇の山路を降らんと泣く信徒の声の悲しき
改心の足らぬ身魂はこの山が下れぬぞよと呼ばはる福島
恐ろしきことが来るぞよ改心を致さな谷底へ投ると曲言ふ
改心を致しますから此の山を無事に下らせたまへと皆泣く
福島をまことの神と拝むなら守つてやると法螺吹く曲神
春三は誠の神ぢや取次ぢや取り違ひすなと又も呼ばはる
平蔵は天眼通ぢや闇の夜も目が見えるだろと福島大声に言ふ
ハイハイと四方平蔵拝跪してしきりに神名唱へ出だせり
闇の神声
闇ふかき尾の上の松の木かげよりわれ曲神と突然呶鳴れり
綾部にて大怪我せしと思ひゐし吾が声聞きておどろく曲神
信徒は天狗がわれに化けしものとふるひをののき救ひを叫ぶ
済まなんだ小松林の天狗様皆をおたすけ下されと泣く
天狗にはあらずまことの上田なりといへど一同実とはせず
金明会が焼けて上田が怪我せしと思へる信徒容易に信ぜず
上『慢心のつよき汝等悪神にだまされ今のさまは何ぞや』
上『わが審神きかず極力反対しだまされて闇の山に苦しむ』
上『われこそはまことの上田審神者なり数時間以前にここに来てをり』
上『常磐木の松の木かげに休らひて暴言暴動を見聞きしたりき』
上『福島にかかれる神は盲神足もとにゐるわれをさとらず』
上『瓦屋の窯の火を見て広前の火事とはなんだ盲神ども』
上『目を覚まし悔い改めざれば忽ちに汝等神の怒りにふれん』
上『暗黒な山の尾の上におびき出され進退きはまる状あはれなり』
上『金明会万一焼けると思ふなら何故綾部へかけつけぬのか』
上『弁当や茶を携へてお広間の火事見するとは怪しかぬ奴』
上『福島や春蔵等真の神なればこんな行ひなさざるはずなり』
上『胸に手をおいて考へみるがよいまことの神か偽の神かを』
上田さんは綾部にゐると思つたに藪から棒とおどろく信徒
福島の一味四人は面くらひへらず口たたき山下りゆく
山道の闇につまづき倒れつつ茨にかかりて泣き叫ぶあり
命がけ闇の山路を転がりつ真夜中ごろに修行場に帰る
何人も顔や手足に茨かきの負傷せざるは一人も無かりき
平蔵のわれは手を引き山下りせしため彼は傷一つせず
信者等は邪神の言葉の嘘なりしをさとりしならむ急ぎ帰綾す
愚夫愚婦
真夜中を綾部に帰りしそのあとでわれを放逐の協議なしたり
正信と春蔵仲蔵三人は全権公使となりてきたれり
神神が御立腹です上田さんは居つてくれなと三人が言ふ
君たちの気狂ひを後に残しおきてわれは帰るに帰られずといふ
『神様は気を引きなさる福島をあなたは気狂ひ曲津と見えるか』
三人はくだらぬことをべらべらとしきりにしやべりまだ目はさめず
開祖様とわれをのぞけばことごとく金光教会の信者のみなる
金光教の悪霊信者に憑依して力かぎりにわれにはむかふ
大勢の中に一人相立ちてまことを説くは苦しかりけり
愚夫愚婦は如何に説くともさとすとも到底諒解出来ぬをさとりぬ