四王山新緑はえて萌えあがりふくれあがりつ夏はふかめり
何鹿の田の面はおほかた植ゑられて若き稲苗風になびけり
山つつじあかあかもゆる夕暮を雲低うして時鳥啼く
時鳥八千八声啼きはててまだ五月雨は降り止まぬなり
瀬戸川のあやめの花はむらさきに夏を匂ひて雨しとどなり
御開祖ははるばる出雲に詣でんといとおごそかに神示宣らせり
御神示にそむく由なく痛む足をこらへしのびて出雲に向ふ
約百里山陰道を辿り行く其頃の旅を遠しと思へり
汽車もなく船の便なき出雲路に旅ゆく五月十五日の朝
御開祖はじめ澄子平蔵慶太郎すべて一行十五人なり
五月雨のそぼ降る野路をたどりつつ開祖にしたがひ福知に向ふ
御開祖は御年六十六才の夏を長途の旅にたたせり
福知山の料亭に長途を休憩し信徒たちは別れを惜しめり
小やみなく降る五月雨をものとせず立原の宿に夕べを着きぬ
そぼぬれし蓑笠ぬぎて足あらひ宿の夕餉を楽しみにけり
和田山や城ノ崎こえて関の宮日数かさねて岩井につきたり
長旅の疲れに足をいためつつ神の守りに岩井につきたり
岩井温泉駒屋に一夜を宿りつつわれ温泉にはじめてひたる
温泉に入りしことなき吾にして腰のいたみのなほりしに驚く
十数年痛みとほせしわが腰も一夜の温泉に全治なしたり
四方平蔵竹村野崎松原ら湯かぶり唄に興じゐたりき
われもまた湯かぶり唄をうたひつつ温泉の夜を興じたりけり
温泉のいさをしるけく今一夜宿らんと思へどせんなく旅ゆく
一行の先にたちつつ御開祖は御足まめに進みたまへり
雨けぶる日本海の面みつつ心はるけし出雲路の旅
鳥取にやうやくつけば雨はれて海路の無事を大社教に祈る
大社教分院教師に海上の無事の祈祷をたのまひにけり
大社教鳥取分院たちいでて千代川の泥舟にのる
千代川濁水滔滔みなぎりて棚無泥舟あやふく渡る
千代川舟に下れば加露ケ浜波の音旅館に夕べをつきたり
加露ケ浜ゆ舟をやとひて三保ケ関に渡らんとすれば海荒れにけり
風強く波狂ひつつ日本海の漁舟さへ出でずなりけり
宿ごとに烏賊と鰯を食はされて野菜物などほしくなりたり
野菜なき山陰道の旅枕やや腹具合悪しくなりたり
日本海沿岸視察の命おびて伊東海軍中将来る
わが宿に中将伊東祐享氏同宿なして親しく語らふ
大本の話を聞きて祐享氏開祖の威厳にうたれたるらし
御開祖は諄諄として中将に神のしぐみをとき給ひけり
ともかくも御国のために活動を願ふと云ひて中将いでゆく
福林竹村木下烏賊にあたり吐きつ下しつもだへ苦しむ
竹村はわが座の前ににじりより手を合せつつ泣きてたのめり
今までの無礼をおゆるし下されと泣きつつ竹村合掌してをり
吐き下し瘠せおとろへし竹村はわが言霊に恢復なしたり
福林木下二人は病かるく二日目の朝ゆおき出でにけり