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六 尉と姥
インフォメーション
題名:
6 尉と姥
著者:
出口澄子
ページ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c34
001
私もこのごろは、
002
すっかりとタバコを
止
(
や
)
めまして、
003
タバコの代わりにお水を頂いとりますんじゃ。
004
これはいくらいただいても、
005
いただくだけおかげがありまして、
006
まことにけっこうなものです。
007
だいたい私はいぜんからお水が好きでして、
008
冬でも夏でも汲みたてのお水を、
009
どんぶり
鉢
(
ばち
)
にまけん大きなコップでしじゅうに頂いております。
010
この大本は、
011
月日と土の恩を実地に教えるところであります。
012
人は月の神様のご恩でありますお水を頂いておれば、
013
よいお蔭を頂くことが出来ます。
014
きょねんの
暮
(
くれ
)
、
015
亀岡天恩郷の大本の事務所が焼けました時、
016
まことに不思議なことがありました。
017
その時焼け跡から、
018
木彫りの
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
のご二体が現われなさったのであります。
019
あの晩は、
020
舞鶴にも大火事がありまして、
021
ツルとカメの両方から火の手が
挙
(
あ
)
がり、
022
暁
(
あかつき
)
のさし
潮
(
しお
)
の時刻で、
023
神界ではまことに芽出たい火事でありました。
024
なににしましても非常に火の手が強く、
025
机といわず本箱といわず
木
(
き
)
のケのものは大方は焼け焦げていますのに、
026
その木彫りの
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
だけは、
027
着物のがらまでそのままで残ったのであります。
028
初めは灰をかぶって出てきましたが、
029
お水で洗いますと、
030
すっかり元のきれいなお姿が表われてきたというのであります。
031
この
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
のうち、
032
初め
姥
(
うば
)
の方は警察に焼け跡から出てきた
他
(
た
)
のものといっしょに
行
(
い
)
ってられたのでありますが、
033
帰っていただき、
034
ここにご夫婦でおそろいになったのであります。
035
これは不思議とかなんとか言うておったのではまことに申しわけのないことで、
036
こんどできます
大八洲
(
おおやしま
)
神社に地の高天原のご神体としてお祭りさしていただこうと思うております。
037
ごかいそ
のお筆先に──
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
とがあらわれて、
038
松の根もとの、
039
大そうじをするぞよ──というのがありまして、
040
この松の根もとということは大本のことでありますから、
041
わたしはこの筆先の意味はどういうのであろうと、
042
なが
年
(
ねん
)
不思議に思うて来たのであります。
043
そのなが
年
(
ねん
)
の謎が、
044
このたびの
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
のできごとで解けたのであります。
045
私はむかしから
筆
(
ふで
)
さき以外の本は、
046
読ましていただいたことも、
047
また
他
(
た
)
のほうめんのことを聞かしていただいたこともないのですが、
048
イザナギノミコト、
049
イザナミノミコトという名でおがんでいます神様が、
050
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
のご夫婦の神様のことであると思っています、
051
又これは
艮
(
うしとら
)
の金神さま、
052
坤
(
ひつじさる
)
の金神さまのお活躍であります。
053
これは私がじっと考えてきましたことであります。
054
イズノミタマ艮の金神国常立之尊さまは丹後のメシマに、
055
ミズノミタマ坤の金神豊雲野尊さまは
播州
(
ばんしゅう
)
の
高砂沖
(
たかさごおき
)
の
神島
(
かみじま
)
に世をしのんで、
056
かげのご守護になっていたのでありますが、
057
時節がきて綾部の
新宮
(
しんぐう
)
坪
(
つぼ
)
の
内
(
うち
)
、
058
元のお屋敷におかえりになることになったのであります。
059
教祖が
神懸
(
かむがか
)
りになりまして、
060
061
「でぐちが
本
(
もと
)
で大島が入口、
062
竜宮館
(
りゅうぐうやかた
)
の高天原の
宮屋敷
(
みややしき
)
と
相定
(
あいさだ
)
まった、
063
この
神屋敷
(
かみやしき
)
は、
064
この
方
(
ほう
)
の
住居
(
すまい
)
をするところ、
065
悪人どもが汚してしもうて、
066
もとの
神屋敷
(
かみやしき
)
にもどしてしまうぞよ」
067
「ばっし(
末子
(
ばっし
)
)のおすみどの、
068
おきて下され、
069
四方
(
しかた
)
の屋敷にいって水をふってきて下され」
070
と叫ばれ、
071
夜
(
よ
)
さりに起こされたのですが、
072
言うことをきかぬと叱られるし、
073
うろうろしていましたが、
074
けっく、
075
言い付け通りにしてきたのであります。
076
近所では寝耳に水で教祖様にドなられ……なんぞおなおさんはわしらに怨みがあるのやろか……と言うていました。
077
そのうち教祖さまの力になってくれる人ができて、
078
神様のお
還
(
かえ
)
りになるこの屋敷を返してもらうことになったので、
079
これにはいろいろ古い信者さんが骨をおられた苦労がとものうています。
080
そうして綾部の
神苑
(
しんえん
)
がだんだんとととのうてきまして、
081
ある日、
082
先生が“竜宮の乙姫の池”を掘れ、
083
と言われまして、
084
それが綾部大本神苑の
金竜池
(
きんりゅういけ
)
のはじまりであります。
085
そのころまだ信者は少ないし、
086
神さまはせかれるし、
087
大変なことでありました。
088
高台の
屋敷地
(
やしきち
)
でしたからサツマ
薯
(
いも
)
が植えてありまして、
089
いくら掘っても石ガラばかりでて、
090
水が出ようはずがありません。
091
町の人々は、
092
093
──金神さんの先生があんな高いところに池を掘ってナニするのやろう、
094
水のないのに──と言うて、
095
笑うていました。
096
私も人間心で水が出なんだら神様はどうなさることかと心配していました。
097
そのことを先生にいうと、
098
099
「神様が言われるから掘るんじゃえい」、
100
「とにかく掘ったらええんじゃ」というわけです。
101
ところが、
102
どこまで掘っても水がでてきません。
103
私は先生に、
104
105
「ほんまに阿呆なことして、
106
よい笑われもんや、
107
なした男やいや、
108
この男は」と、
109
そこは夫婦のことですから言うていましたが、
110
先生は一生懸命です。
111
「まあおすみや、
112
みておれい」というわけで信者さんを
指図
(
さしず
)
しておられました。
113
当時は先生が京、
114
大阪に宣伝にゆかれ、
115
宣伝にゆかれる時、
116
117
「しっかり掘らしとけよ」と言われて出かけられましたが、
118
神様の方では、
119
いついつまでに掘ると決っていても、
120
その
理
(
わけ
)
を言われんから、
121
私は
肉体心
(
にくたいごころ
)
でさほどに思うていませんので、
122
余りやかましく言わなんだのです。
123
そうすると夜になって帰って来て、
124
家にもよらず、
125
126
「池みにいってくる」と言うて、
127
えらい勢いで池を見に行かれました。
128
ところが自分の言うただけの仕事ができてないので、
129
130
「おれが帰るまでに掘っとけと言うたのに、
131
まだ掘れとらん」
132
と、
133
その時の先生はスサノオノミコトの
神
(
かみ
)
がかりで、
134
私はトビ
上
(
あ
)
がるほどに驚きましたが、
135
大きな声で、
136
137
「どいつもこいつも出てうせい」
138
というように叫ばれて、
139
それから池の
工事場
(
こうじば
)
に大きな木をくべて、
140
辺りがマッ赤になるほどの
焚
(
た
)
き
火
(
び
)
をして、
141
役員、
142
信者の老人も婦人も集めて夜なかの十二時ごろ、
143
雪みぞれのふる中を
大
(
おお
)
そうどうになり、
144
私もびっくりして池掘りをしました。
145
なんぼ神さまのお仕事というたて、
146
この裏夜中にと思うて、
147
小面
(
こずら
)
にくいほどでしたが、
148
あまり先生の勢いが強く、
149
光秀
(
みつひで
)
のしたように、
150
仕事中にまごまごしたり後ろ向いたら刀で首でも斬るというほどのケンマクでしたから、
151
そのお蔭でとうとう池が掘り上がりました。
152
そのころ綾部の町会議員や町の有力者が
質山
(
しちやま
)
の水を引いて、
153
防火用水にしようと工事をしていましたのが、
154
その水路がどうしても大本の屋敷を通さんと困るというので、
155
大本にそのことをたのみにきました。
156
ちょうど
金竜池
(
きんりゅういけ
)
の掘り上がったのと、
157
質山
(
しちやま
)
から町の用水路が大本に入るのと同じ日でして、
158
心配していた水も、
159
池が掘れたその日からどんどん流れこむことになりました。
160
そうして大本の池をとおって町に流れてゆきました。
161
むかしから
162
──人の手をかり口をかり、
163
でけんことをさしてみせる──
164
と言われていますが、
165
あの時ばかりは、
166
さすがに私もなんということだろうと思いました。
167
それから又、
168
土をやっともり上げて、
169
おかしなものをこしらえてや、
170
と思っていましたが、
171
これが
冠島山
(
おしまやま
)
、
172
沓島山
(
めしまやま
)
、
173
神島山
(
かみじまやま
)
になったのであります。
174
オシマ、
175
メシマ
開
(
びら
)
きがあったのは明治三十三年であります。
176
それから大正五年の五月ごろでした。
177
わたしは
門
(
かど
)
の材木に腰をかけ、
178
尚江
(
ひさえ
)
をだいて
涼
(
すず
)
んでいましたが、
179
先生は家の中の管長室にじっといて、
180
眼をつぶったり、
181
あけたり、
182
また眼をあけたり、
183
つぶったり、
184
そんなことばかりしておられます。
185
これは霊眼でなにか見てられるのでありますが、
186
「先生、
187
なにしていなさる」ときいても返事もなく、
188
なんにも言わずにただ眼をあけたり、
189
つぶったりしてられる。
190
ちょっとみると気味が悪いのですが、
191
それが大へん尊く見えるのです。
192
これまで先生が何か言われると、
193
私がよく反対したので、
194
それで何にも言われんのかと思うて、
195
「先生、
196
反対せえへんさかい、
197
言いないな」と私が言いましたが、
198
同じことです。
199
それからしばらくして先生は「わしは
穴太
(
あなお
)
の
高熊山
(
たかくまやま
)
で
神懸
(
かむがか
)
りの時にゆく先のことをすっかり神様から見せられたが、
200
教祖さまが
裏町
(
うらまち
)
の小さい倉をかりてられたことや、
201
教祖さまといっしょに神さまの御用をするようになることや、
202
大本の屋敷のことまで、
203
一さいがそのとおりになって何んにも違わんが、
204
高熊山で霊眼でみた時は
金竜海
(
きんりゅうかい
)
の池にオシドリが浮かんどったが、
205
いまはそのオシドリが居らんな」ということを言われました。
206
私は「そうですか」と言いますと、
207
また先生は「こん
夜
(
や
)
は、
208
坤の方の沖あいにホウラクを伏せたような島があるのを神さまがみせなさる。
209
ちょうど
大八洲
(
おおやしま
)
さんの池にあるのと同じ形の島が海のまん中に見えるのや」と言ってられました。
210
それから眼の下のところがウズきだし、
211
それが痛んで四十八日目にシャリ(
舎利
(
しゃり
)
)になってでました。
212
私はそのシャリを見ると
神島
(
かみじま
)
さんの山と同じ姿ですので「先生
神島
(
かみじま
)
さんの山と同じものですが」と言いますと、
213
「大切にしまっといてくれい」ということでした。
214
それから或る日「おすみ、
215
今のところが知れた」と言って寝とられたのが寝まきのままで起きてこられ、
216
早速にでかけるから誰にも言わんと用意をしてくれと言われて、
217
出かけられました。
218
これは大阪の
谷前
(
たにまえ
)
さんに、
219
「こうこういう島があったら知らしてくれ」とたのまれてあったので、
220
その返事が来たからであります。
221
そうして四五日たって「カミサマノオトモヲシテカエル」という電報がきました。
222
教祖さまが、
223
どうしたことかとご神前にいっておうかがいをされると、
224
225
──尊い神様のお
還
(
かえ
)
りであるからオミトを開いてお待ちうけせよ──
226
ということでした。
227
その時ふと私のこころに金竜海の
神島
(
かみじま
)
の姿が浮んできましたので、
228
私は神前においてあった草で
神島
(
かみじま
)
の型をつくり、
229
それを
三宝
(
さんぽう
)
にのせました。
230
その草は教祖さまが
弥仙山
(
みせんざん
)
の岩戸がくれから出てこられた時に、
231
弥仙山
(
みせんざん
)
で採られた
狐
(
きつね
)
カズラが神前におかれたままになっていたものです。
232
その狐カズラで
神島
(
かみじま
)
さんが出来上がりました。
233
そのとき、
234
私のこころに、
235
こんどはお月さまがお出ましになると思いましたので、
236
お月さんの形の石を探していますと秋岡さん(故
亀久雄
(
きくお
)
氏)が、
237
それなら私の家の庭にあります、
238
と言って自分の持っていた石をくれました。
239
その石で、
240
ミロクさんが半分出かかったところの作りものが出来上がりました。
241
その前に
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
をおき、
242
松と梅をかざり、
243
目出度いと言うので鯛を供え、
244
そうして
神島
(
かみじま
)
からミロク様がお
上
(
あ
)
がりになるのをお待ちうけしました。
245
これは考えてしたのでなく、
246
その時ふと心に浮んだままを知らずしらずのうちに作っていたのです。
247
先生は
神島
(
かみじま
)
にかくれてられた坤の金神がのりうつられ、
248
信者にはその眷族の神々がかかって、
249
元屋敷にお
還
(
かえ
)
りになりました。
250
そのとき先生が私に
下
(
くだ
)
された土産が高砂の
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
の絵ハガキでありました。
251
それから、
252
播州
(
ばんしゅう
)
の
神島
(
かみじま
)
にお宮がたって、
253
初めて教祖と先生がいっしょに参拝された時のことであります。
254
この時に初めて教祖は先生がミロクの神さまであるということを神さまから聞かされなさって、
255
非常に驚かれたのでありますが、
256
祭典が終わって、
257
参拝したものが、
258
舟
(
ふな
)
つき
場
(
ば
)
のところに
降
(
お
)
り、
259
そこで腰をおろして海の景色を眺めていますと、
260
山の上から松の枝が二本
降
(
ふ
)
ってきました。
261
これは先生が折って投げられたのでありますが、
262
誰もなんのことか分からんので、
263
うっかりさわって叱られでもしたらと言うので、
264
そのまま浜の砂の上に落ちてきたままにしておきました。
265
その時そこに遊んでいた私の娘の姉の
一二三
(
ひふみ
)
と妹の
尚江
(
ひさえ
)
が、
266
ちょこちょこと出てきて、
267
その松の枝を一本ずつ拾ってそこを掃きだしました。
268
尚江がたしか三ツだったと思いますが、
269
それをじっと見ておられた教祖さまが、
270
271
「おすみや、
272
これを何と思う、
273
こどもがしとるのでない、
274
神さまが実地をみせていなさるのやわいな」と申されましたが、
275
この時、
276
一二三と尚江が
尉
(
じょう
)
と
姥
(
うば
)
の型をしたのであります。
277
○
278
すみ子
279
末法の世の終わりなりみろくの世に
280
なるもならぬも心なりけり
281
日の
御恩
(
ごおん
)
月のお恵み土の恩
282
はなれて人の住むところなし
283
地
(
ち
)
の神の恵みさとりて
増産
(
ぞうさん
)
に
284
はげめば悪しき虫も去りゆく
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