霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 誤神託(ごしんたく)〔八七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第2篇 紅裙隊 よみ(新仮名遣い):こうくんたい
章:第9章 誤神託 よみ(新仮名遣い):ごしんたく 通し章番号:875
口述日:1922(大正11)年08月19日(旧06月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-03-15 22:09:31 文字数:5496 OBC :rm3109
愛善世界社版:102頁 八幡書店版:第6輯 79頁 修補版: 校定版:105頁 普及版:46頁 初版: ページ備考:
001 秋山別(あきやまわけ)、002モリスの両人(りやうにん)は、003日暮(ひぐら)シ河(がは)の南岸(なんがん)の萱野原(かやのはら)に休息(きうそく)する折(をり)忽(たちま)ち暗(くら)がりより怪(あや)しき声(こゑ)の聞(きこ)え来(きた)りしに怖気(おぢけ)付(づ)き、004四這(よつばい)となつて其処(そこ)を逃(に)げ出(だ)し、005二三丁(にさんちやう)計(ばか)り引返(ひつかや)[*ママ]し、006やうやうここに胸(むね)を撫(な)でおろし、007それより再(ふたた)びアラシカ山(やま)を駆登(かけのぼ)り、008神王(しんわう)の森(もり)に到着(たうちやく)し、009神勅(しんちよく)を受(うけ)て、010紅井姫(くれなゐひめ)の行方(ゆくへ)を伺(うかが)ふ事(こと)となしぬ。011秋山別(あきやまわけ)は、012神主(かむぬし)となり、013モリスは審神者(さには)となつて、014翌日(あくるひ)の真夜中(まよなか)頃(ごろ)に神占(しんせん)を奉伺(ほうし)する事(こと)とはなりぬ。
015 古(ふる)ぼけた祠(ほこら)の床(ゆか)の上(うへ)に三四(さんし)尺(しやく)間隔(かんかく)を置(お)いて、016神主(かむぬし)、017審神者(さには)は向(むか)ひ合(あ)ひ、018モリスは双手(もろで)を組(く)み、019不整調(ふせいてう)な音調(おんてう)もて天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)ぐる。
020モリス『人(ひと)、021二人(ふたり)、022見(み)つけて、023四(よ)るでも昼(ひる)でも、024五(い)ちやつきまはし、025六(む)りやりに押(お)さへつけて、026七(な)んでもかでも八(や)り倒(たふ)し、027九(こ)ころに思(おも)ふ丈(だけ)十(と)く心(しん)する迄(まで)、028百千万(ひやくせんまん)遍(べん)でも、029思惑(おもわく)を立(た)てさせ玉(たま)はねば、030常世(とこよ)神王(しんわう)の森(もり)は離(はな)れませぬぞや』
031秋山別『コラ、032モリス、033何(なに)を吐(ぬか)すのだ。034そんな事(こと)で霊(れい)がかかるかい。035馬鹿(ばか)らしくつて、036きばつて居(を)れぬぢやないかい。037モ一遍(いつぺん)やり直(なほ)せ』
038モリス『専売(せんばい)特許(とくきよ)の新規(しんき)発明(はつめい)だ。039特許(とくきよ)意匠(いしやう)登録(とうろく)の手続(てつづ)き中(ちう)だから、040マア黙(だま)つて聞(き)いて居(を)らう。041何(なん)でも新(あたら)しい事(こと)が流行(りうかう)する時節(じせつ)だから、042開闢(かいびやく)の初(はじめ)から襲用(しふよう)して来(き)た一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)……も余(あま)り苔(こけ)が生(は)えて面白(おもしろ)くないからなア。043神(かみ)様(さま)も今迄(いままで)の数歌(かずうた)はモウ聞(き)き飽(あ)いてゐらつしやるから、044チツと珍(めづ)らしい事(こと)を申(まを)し上(あ)げて、045此方(こちら)を向(む)かすと云(い)ふ俺(おれ)の一厘(いちりん)の秘密(ひみつ)だ』
046秋山別『お前(まへ)神主(かむぬし)になれ、047秋山別(あきやまわけ)が審神者(さには)をしてやらう。048お前(まへ)の審神者(さには)では根(ね)つから気乗(きの)りがせぬワイ。049審神者(さには)さへよければ、050どンな立派(りつぱ)な神(かみ)でも憑(うつ)り玉(たま)ふのだからなア。051併(しか)し何(なん)ぼモリスだつて、052モリ住居(すまゐ)の烏(からす)の神懸(かむがか)りは御免(ごめん)だから、053臍下(さいか)丹田(たんでん)に心(こころ)を納(をさ)めて、054無我(むが)の境遇(きやうぐう)に入(い)らねば駄目(だめ)だよ。055先(ま)づ第一(だいいち)に一切(いつさい)の夢想(むさう)を除去(ぢよきよ)する事(こと)。056身体(しんたい)衣服(いふく)を清潔(せいけつ)にする事(こと)。057併(しか)し旅行中(りよかうちう)だから衣服(いふく)を清潔(せいけつ)にする事(こと)丈(だけ)は免除(めんぢよ)しておかう。058山(やま)の上(うへ)で水行(すいぎやう)する所(ところ)がないから、059身体(しんたい)の清潔(せいけつ)も已(や)むを得(え)ずとして、060是(これ)も免除(めんぢよ)する。061次(つぎ)に感覚(かんかく)を蕩尽(たうじん)し、062意念(いねん)を断滅(だんめつ)する事(こと)、063大死(たいし)一番(いちばん)の境(きやう)に入(い)る事(こと)。064姿勢(しせい)を正(ただ)しうして瞑目(めいもく)静座(せいざ)する事(こと)。065次(つぎ)に審神者(さには)が何(なに)を尋(たづ)ねるか……何(なん)ぞと云(い)ふ様(やう)な疑惑(ぎわく)を持(も)たぬ事(こと)。066取越(とりこし)苦労(くらう)を致(いた)さぬ事(こと)。067過越(すぎこし)苦労(くらう)を致(いた)さぬ事(こと)。068刹那心(せつなしん)を楽(たのし)むこと。069それから最(もつと)も大切(たいせつ)な心得(こころえ)は、070紅井姫(くれなゐひめ)に対(たい)して少(すこ)しも執着(しふちやく)のなき事(こと)。071これ丈(だけ)の心得(こころえ)がなければ、072正(ただ)しい神(かみ)が憑(うつ)つて来(き)て、073正(ただ)しい判断(はんだん)を与(あた)へてくれぬから、074其(その)積(つ)もりで心身(しんしん)を澄清(ちようせい)にし、075感触(かんしよく)の為(ため)に乱(みだ)れざる事(こと)を慎(つつし)むべし……マアこンなものだ』
076モリス『大変(たいへん)に六(む)つかしい事(こと)を言(い)うのだね。077モツと平(ひら)たく云(い)うて呉(く)れないか』
078秋山別『俺(おれ)だつて平(ひら)たく言(い)ふこた出来(でき)ぬワイ。079現在(げんざい)どンな意味(いみ)だと云(い)ふ事(こと)は、080俺(おれ)も分(わか)らぬのだからな。081楓別(かえでわけの)命(みこと)さまが何時(いつ)も仰有(おつしや)る事(こと)を無意識(むいしき)に腹(はら)へ詰(つ)め込(こ)みた丈(だけ)だ。082併(しか)し分(わか)らぬのが有難(ありがた)いのだよ。083お経(きやう)だつてさうぢやないか。084唱(とな)へてる坊主(ぼうづ)でさへもテンデ何(なん)の事(こと)か分(わか)らず、085聞(き)いてる連中(れんぢう)にも分(わか)らぬとこに有難味(ありがたみ)があるのだからのウ。
086 分(わか)つて見(み)ての後(のち)の心(こころ)に比(くら)ぶれば、087分(わか)らぬ昔(むかし)ぞ有難(ありがた)かりけり
088と云(い)ふ様(やう)なものだな。089サア早(はや)く瞑目(めいもく)静座(せいざ)せぬかい』
090モリス『サア、091どンなエライ神(かみ)さまが、092お憑(うつ)りになるか知(し)れぬぞ。093ビツクリするなよ』
094秋山別『何(なん)だ其(その)スタイルは、095無茶(むちや)苦茶(くちや)に肱(ひぢ)を張(は)りよつて、096馬鹿(ばか)に威張(ゐば)つとるぢやないか。097丸(まる)で鉛(なまり)の天神(てんじん)さま見(み)たいに、098見(み)つともないぞ。099モウちつと肩(かた)を下(さげ)て、100品(ひん)のよい地蔵肩(ぢざうかた)にせぬかい』
101 モリスは無性(むしやう)矢鱈(やたら)に手(て)を振(ふ)り、102首(くび)を揺(ゆす)り、103口(くち)をパクパクさせ乍(なが)ら、104歯糞(はくそ)だらけの不整律(ふせいりつ)な田螺(たにし)の様(やう)な歯(は)を剥(む)き出(だ)し、
105モリス『ウーウーウー』
106 ドスンドスンドスンと床(ゆか)をふるはせ乍(なが)ら飛(と)びあがり出(だ)した。107秋山別(あきやまわけ)は、108随分(ずいぶん)烈(はげ)しい神懸(かむがか)りだナアと小声(こごゑ)に言(い)ひ乍(なが)ら、109ポンポンと二拍手(にはくしゆ)し、110恭(うやうや)しく頭(かしら)を下(さ)げ、
111秋山別『何(いづ)れの神(かみ)様(さま)で御座(ござ)いますか? 何卒(なにとぞ)御名(みな)を告(つ)げさせ玉(たま)へ。112及(およ)ばず乍(なが)ら秋山別(あきやまわけ)、113審神者(さには)を仕(つかまつ)りまする』
114モリス『アハー アハー アハー、115阿(あ)呆(はう)らしいワイ。116アキもせぬ恋路(こひぢ)にあくせくと致(いた)して、117そこらあたりを歩(ある)き廻(まは)し、118憐(あは)れな面(つら)を致(いた)して、119姫(ひめ)に会(あ)ひたい会(あ)ひたいと憧憬(あこがれ)歩(ある)く、120安本丹(あんぽんたん)、121悪人(あくにん)の癖(くせ)に女(をんな)に対(たい)しては、122随分(ずいぶん)涙(なみだ)脆(もろ)い奴(やつ)ぢやのう。123此(この)方(はう)は神王(しんわう)の森(もり)に、124年古(としふる)く守護(しゆご)致(いた)す悪魔(あくま)大王(だいわう)と申(まを)す大天狗(だいてんぐ)であるぞよ』
125秋山別『アヽヽ余(あま)りぢや御座(ござ)いませぬか。126アタ悪性(あくしやう)な人(ひと)の欠点(あら)計(ばか)り並(なら)べ立(た)てて、127あられもない事(こと)を仰有(おつしや)ります。128余(あんま)りのこつて、129秋山別(あきやまわけ)も呆(あき)れてものが言(い)はれませぬワイ、130アフンとして開(あ)いた口(くち)が早速(さつそく)には塞(ふさ)がりませぬ。131悪魔(あくま)大王(だいわう)様(さま)、132モウちつと色(いろ)よい御(ご)託宣(たくせん)をして下(くだ)さつたら如何(どう)です』
133モリス『イヒヽヽヽ色(いろ)よい返事(へんじ)をせいと申(まを)すが、134此(この)大天狗(だいてんぐ)は男(をとこ)であるぞよ。135其(その)方(はう)の色(いろ)よい返事(へんじ)がして欲(ほ)しいのは、136紅井姫(くれなゐひめ)の口(くち)からであらう。137いろいろと工夫(くふう)を致(いた)し、138手(て)を廻(まは)し、139足(あし)を働(はたら)かせ、140幾年(いくねん)掛(かか)つても意思(いし)互(たがひ)に疏通(そつう)するまで行(ゆ)くのだ、141さうすれば色(いろ)よい返事(へんじ)が来(く)るかも知(し)れぬぞよ。142いらつでないぞよ。143勢(いきほひ)に任(まか)して早(はや)く盛物(もりもの)に手(て)をかけようと致(いた)すと、144サツパリ可(い)かぬぞよ。145何事(なにごと)もイヽ因縁(いんねん)づくぢや。146力一杯(ちからいつぱい)意茶(いちや)つく様(やう)になるのは、147一二(いちに)年(ねん)先(さき)かも知(し)れぬぞよ。148一(いち)日(にち)も早(はや)く添(そ)ひたくば、149イモリの黒焼(くろやき)を拵(こしら)へてふりかけたが、150一番(いちばん)著(いちじる)しい偉効(ゐかう)があるぞよ。151要(い)らぬことに何時(いつ)までも心配(しんぱい)を致(いた)すでないぞよ。152いけすかない面(つら)をして、153余(あま)り威張(ゐば)るものだから、154厭(いや)がられて了(しま)ふのだ。155俺(おれ)の意見(いけん)に異議(いぎ)があれば、156どこ迄(まで)でも尋(たづ)ねたがよいぞよ。157委細(ゐさい)の様子(やうす)を一伍(いちぶ)一什(しじふ)、158説(と)き諭(さと)してやるぞよ』
159秋山別『イヽヽ意茶(いちや)つかさずに、160モツと一(いつ)さくにとつとと言(い)つて下(くだ)さいませ。161心(こころ)が、162いらいらして、163意思(いし)が固(かた)まりませぬ。164石(いし)よりも固(かた)い私(わたくし)の決心(けつしん)、165いつかないつかな、166何時(いつ)になつても動(うご)く様(やう)なチヨロ臭(くさ)い恋(こひ)では御座(ござ)いませぬ。167意地(いぢ)づくでも目的(もくてき)を立(た)てねば置(お)かぬので御座(ござ)いますが、168一体(いつたい)此(この)恋(こひ)は何時(いつ)になつたら成就(じやうじゆ)するもので御座(ござ)いませうかな。169一(いち)年(ねん)も二(に)年(ねん)も待(ま)てと仰有(おつしや)つても、170到底(たうてい)さう永(なが)くは待(ま)てませぬワ』
171モリス『ウフヽヽヽうるさがられて、172肱鉄(ひぢてつ)を乱射(らんしや)され乍(なが)ら、173まだ目(め)が醒(さ)めぬか。174うろたへ者(もの)奴(め)、175紅井姫(くれなゐひめ)もお前(まへ)の迂濶(うくわつ)な智慧(ちゑ)にはウンザリしてゐるぞよ。176何程(なにほど)其(その)方(はう)が秋波(しうは)を送(おく)つても、177膿(う)んだ鼻(はな)が潰(つぶ)れたとも、178言(い)つて来(く)る気遣(きづか)ひはあるまい。179うぶの心(こころ)になつて神(かみ)の誠(まこと)の教(をしへ)を悟(さと)り、180普(あまね)く人(ひと)を愛(あい)し、181牛(うし)の様(やう)に俯(うつ)むいて働(はたら)きさへすれば、182美(うつく)しい女(をんな)がうるさい程(ほど)、183ウザウザと其(その)方(はう)の側(そば)へ集(あつ)まつて来(く)るぞよ。184先(ま)づ第一(だいいち)運(うん)の循(めぐ)つて来(く)る迄(まで)、185誠(まこと)を尽(つく)して待(ま)つて居(を)るが良(よ)からう』
186秋山別『ウヽヽうつかり聞(き)いて居(を)らうものなら、187此(この)天狗(てんぐ)何(なに)を吐(ぬか)すか分(わか)つたものぢやないワ。188モウ御(お)引取(ひきと)り下(くだ)さい……』
189 ポンポンと手(て)を拍(う)つ。
190モリス『エツヘヽヽヽ、191まだまだ言(い)はねばならぬ事(こと)がある。192縁(えん)と月日(つきひ)は待(ま)つがよいと云(い)ふ事(こと)があらうがなア。193併(しか)し乍(なが)ら其(その)方(はう)と紅井姫(くれなゐひめ)との縁(えん)は余(あま)り遠方(ゑんぱう)過(す)ぎて、194届(とど)き兼(か)ねるから、195其(その)方(はう)から遠慮(ゑんりよ)を致(いた)したが得(とく)だらう。196絵(ゑ)にもかけない様(やう)な美人(びじん)を、197鳥羽絵(とばゑ)の如(や)うな面(つら)をした其(その)方(はう)が、198女房(にようばう)に選(えら)ぶとは、199チツと提灯(ちやうちん)に釣鐘(つりがね)だ。200閻魔(えんま)の帳面(ちやうめん)を拝借(はいしやく)して調(しら)べて見(み)い、201紅井姫(くれなゐひめ)はモリスの妻(つま)なりと、202ハツキリと附(つ)け止(と)めてあるぞよ』
203秋山別『エヽ此奴(こいつ)ア偽神懸(にせかむがか)りをやつてやがるのだな。204感覚(かんかく)を蕩尽(たうじん)し、205意念(いねん)を断滅(だんめつ)した神懸(かむがか)りがモリスの都合(つがふ)の好(よ)い事(こと)を吐(ぬか)すと云(い)ふのが怪(あや)しい……オイ、206モリス、207もう駄目(だめ)だ。208サツパリ化(ば)けが現(あら)はれたぞ。209秋山別(あきやまわけ)の審神者(さには)を瞞(だま)さうと思(おも)つても、210此(この)方(はう)の天眼通(てんがんつう)を欺(あざむ)く事(こと)は出来(でき)まい。211頭到(とうたう)狐(きつね)の尻尾(しつぽ)を出(だ)しよつたぢやないか』
212モリス『オツホヽヽヽ、213尾(を)を出(だ)したと申(まを)すが、214其(その)方(はう)に尾(を)が見(み)えるか、215見(み)えるなら一(ひと)つ掴(つか)まへて見(み)よ。216横道者(わうだうもの)奴(め)、217大天狗(だいてんぐ)を掴(つか)まへて狐(きつね)などとは能(よ)くも大(おほ)きな口(くち)で申(まを)したなア』
218秋山別『オヽヽおきやがれ。219脅(おど)し文句(もんく)計(ばか)り並(なら)べて、220往生(わうじやう)さそうと思(おも)つて、221そンな事(こと)に尾(を)を巻(ま)いて、222ヘーヘー言(い)ふ様(やう)な俺(おれ)ぢやないワイ』
223モリス『カツカツヽヽヽ烏(からす)の婿(むこ)に孔雀(くじやく)の嫁(よめ)とは、224チツと釣合(つりあは)ぬぢやないか。225能(よ)く考(かんが)へて見(み)い』
226秋山別『カヽ構(かま)うない、227俺(おれ)の嬶(かか)の事(こと)まで干渉(かんせふ)する権利(けんり)がどこにあるか』
228モリス『キツヽヽヽ貴様(きさま)、229それでも嬶(かかあ)の事(こと)に就(つ)いて神勅(しんちよく)を伺(うかが)ふと申(まを)し、230モリスを神主(かむぬし)として尋(たづ)ねて居(ゐ)るのではないか。231チツときまり悪(わる)うなり、232気味(きみ)が良(よ)くない事(こと)を吐(ぬか)す気(き)にくはぬ、233気障(きざ)な大天狗(だいてんぐ)だと思(おも)つて居(を)るであらうのウ。
234クヽヽ黒(くろ)い面(つら)をして、235雪(ゆき)の如(や)うな姫(ひめ)に恋(こひ)だの鮒(ふな)だのと、236何(なに)を洒落(しやれ)るのだ』
237秋山別『ハテ、238どうしても此奴(こいつ)ア怪(あや)しいぞ。239オーイ、240モリス、241いい加減(かげん)に止(や)めたら如何(どう)だい。242そンな偽神懸(にせかむがか)りをやつたつて、243駄目(だめ)だぞ』
244モリス『ケツ ケツ ケツ怪(け)つ体(たい)の悪(わる)い、245とうとう尻尾(しつぽ)を掴(つか)みよつたな、246ヤツパリ俺(おれ)はモリス大明神(だいみやうじん)だ。247烏(からす)一匹(いつぴき)の霊(れい)も蜥蜴(とかげ)の霊(れい)も、248実(じつ)は懸(かか)つてゐないのだよ。249何(なん)と云(い)つても俺(おれ)の霊(れい)が皆(みな)紅井姫(くれなゐひめ)にかかつてるものだから、250サツパリ脱殻(ぬけがら)だ。251受(う)ける霊(れい)がないものだから、252大天狗(だいてんぐ)も懸(かか)る事(こと)が出来(でき)ぬぞよ。253アツハヽヽヽ』
254秋山別『コツコヽ斯(こ)んな事(こと)を言(い)つて居(を)つても、255何時(いつ)までも果(は)てぬから、256是(これ)から口占(くちうら)を行(や)つて、257吾々(われわれ)の進退(しんたい)をきめる事(こと)にせうかい、258のう、259モリ公(こう)』
260モリス『モリスも同感(どうかん)だ、261サヽヽ早速(さつそく)口占(くちうら)で決定(きめ)て了(しま)はう。262シヽヽ確(しつか)りと腹帯(はらおび)を締(し)めて掛(かか)らぬと、263又(また)国依別(くによりわけ)にスヽヽすつぱ抜(ぬけ)を喰(く)はされて了(しま)ふぞ。264国依別(くによりわけ)の奴(やつ)甘(うま)い事(こと)をしよつて、265セヽヽ雪隠(せついん)で饅頭(まんぢう)食(く)たよな面(つら)をしてゐやがるのが癪(しやく)に障(さは)つて堪(たま)らぬぢやないか?』
266秋山別『ソヽヽそらさうぢや。267互(たがひ)にしつかりせぬと、268タヽヽ忽(たちま)ち……忽(たちま)ちぢや。269チヽヽ血道(ちみち)を分(わ)けて、270ツヽヽ附(つ)き纒(まと)うた、271テヽヽ、272天女(てんによ)の様(やう)な御(お)姫(ひめ)さまを、273トヽヽ取(と)られて了(しま)うて、274ナヽヽ、275情(なさけ)ないぢなないか。276ニヽヽ二(に)人(にん)共(とも)能(よ)い面(つら)曝(さらし)て、277月夜(つきよ)に釜(かま)を、278ヌヽヽ抜(ぬ)かれて了(しま)ひ、279ネヽヽ根(ね)つから葉(は)つから、280糞面白(くそおもしろ)くもない。281斯(こ)んな目(め)に会(あ)うて、282ノヽヽ呑気(のんき)な顔(かほ)しても居(を)られぬワイ。283ハヽヽ早(はや)う何(なん)とか良(よ)い智慧(ちゑ)をめぐらし、284ヒヽヽ秘密(ひみつ)の奥(おく)を探(さぐ)り、285妙(めう)を尽(つく)し、286一時(ひととき)も早(はや)くフヽヽ夫婦(ふうふ)になつて、287ヘヽヽ平和(へいわ)な家庭(かてい)を作(つく)り、288姫(ひめ)をホヽヽホームの女王(ぢよわう)と仰(あふ)ぎ奉(たてまつ)り、289マヽヽまめやかに、290ミヽヽ身(み)を粉(こ)にして、291一言(ひとこと)も背(そむ)かず、292女王(ぢよわう)さまのムヽヽ無理(むり)を無理(むり)と思(おも)はずに喜(よろこ)ンで参(まゐ)り、293メヽヽ滅多(めつた)に怒(おこ)らぬ様(やう)にせなくては、294折角(せつかく)モヽヽ貰(もら)うた奥(おく)さまもサツパリ駄目(だめ)になつて了(しま)うかも知(し)れないぞ』
295 モリスは又(また)喋(しやべ)り出(だ)した。
296モリス『ヤヽヽ喧(やかま)しワイ、297イヽヽいろいろとらつちもないことを、298ユヽヽ言(ゆ)やがつて、299エヽヽ縁起(えんぎ)の悪(わる)い、300ヨヽヽヨタリスクを、301ラヽヽ乱発(らんぱつ)し、302リヽヽ理窟(りくつ)にも合(あは)ぬ事(こと)を、303ルヽヽ縷々(るる)数万言(すうまんげん)を並(なら)べ立(た)て、304レヽヽ廉恥心(れんちしん)を一寸(ちよつと)弁(わきま)へぬか、305ロヽヽ碌(ろく)でなし奴(め)、306ワヽヽ笑(わら)はしやがる、307ヰヽヽ何時迄(いつまで)も女(をんな)の尻(しり)を、308ウヽヽ迂路(うろ)々々(うろ)と、309うろつき廻(まは)り、310エヽヽエツパツパを喰(く)はされても、311オヽヽお前(まへ)はまだ目(め)が醒(さ)めぬのか、312ガヽヽ餓鬼(がき)ぢやなア、313我利(がり)我利(がり)亡者(まうじや)の、314ギヽヽ義理(ぎり)知(し)らず奴(め)、315グヽヽ愚(ぐ)にもつかぬ事(こと)を、316何時迄(いつまで)もグヅグヅと、317ゲヽヽげん糞(くそ)の悪(わる)い、318ゴヽヽ御託(がふたく)を並(なら)べ、319ザヽヽザマが悪(わる)いぞ。320ジヽヽジつと胸(むね)に手(て)を当(あ)てて考(かんが)へて見(み)い、321貴様(きさま)の様(やう)なズヽヽづ法螺(ぼら)に誰(たれ)がエリナだつて、322ゼヽヽ膳(ぜん)を据(す)ゑるものかい、323ゾヽヽぞぞ髪(かみ)が立(た)つと云(い)うて逃(に)げ出(だ)すぞよ』
324 秋山別(あきやまわけ)も又(また)負(まけ)ぬ気(き)になり、
325秋山別『ダヽヽ黙(だま)れ、326矢釜(やかま)しいワイ。327ヂヽヽぢつとして聞(き)いて居(を)れば、328ヅヽヽ図々(づうづう)しくも止(と)め度(ど)もなく喋(しや)べり立(た)てよつて、329モウ俺(おれ)もウンザリした。330勝手(かつて)に喋(しやべ)つておけ、331デヽヽでんでん虫(むし)でさへも家(いへ)を持(も)つてるのに、332宿無(やどな)し坊(ばう)奴(め)が、333ドヽヽどこまでも毒(どく)つきよつて、334バヽヽ馬鹿(ばか)にするも程(ほど)があるワイ。335此(この)上(うへ)何(なん)なつと吐(ほざ)いて見(み)よ、336ビヽヽ貧乏(びんばふ)揺(ゆる)ぎもならぬよに霊(れい)をかけて封(ふう)じてやろか。337ブヽヽ無細工(ぶさいく)な鯱面(しやちつら)をし依(よ)つて、338ベヽヽべらべらと色男(いろをとこ)気取(きどり)で、339何(なに)を吐(ほざ)くのだい、340ボヽヽぼけの粕(かす)奴(め)が』
341 モリスは又(また)喋(しやべ)り出(だ)す。
342モリス『パヽピヽプヽペヽポヽと庇(へ)をこいた様(やう)な庇理窟(へりくつ)をやめて、343是(これ)から二人(ふたり)の女(をんな)を力(ちから)一杯(いつぱい)アイウエオだ。344さうすれば向方(むかう)だつて結局(しまひ)にはお前(まへ)さま私(わたし)に向(むか)つてナニヌネノなさると言(い)はれまい。345終(しま)ひの果(はて)にやサシスセソだ。346彼奴(あいつ)の事(こと)思(おも)うと、347何時(いつ)も何(なん)だか知(し)らぬが、348タチツテトだ。349暗(くら)がりに○○の○○へハヒフヘホして肱鉄(ひぢてつ)をかまされ、350恥(はぢ)をカキクケコやるよりも、351あのナイスをワヰウヱヲにして了(しま)うのだなア。352サア神懸(かむがか)りや口卜(くちうら)で伺(うかが)つて居(を)つても根(ね)つからマミムメモな事(こと)を知(し)らして呉(く)れないから、353実地(じつち)が一番(いちばん)早道(はやみち)だ。354キツと日暮(ひぐら)シ山(やま)の岩窟(がんくつ)の中(なか)で陥穽(おとしあな)に放(ほ)り込(こ)まれ、355誰(たれ)か強(つよ)い人(ひと)が出(で)て来(き)て私(わたし)を早(はや)く助(たす)けて紅井姫(くれなゐひめ)かなア……と青息(あをいき)吐息(といき)をついてるかも知(し)れないよ。356サア天狗(てんぐ)の託宣(たくせん)ぢやないが、357マラソン競争(きやうそう)で決勝点(けつしようてん)を得(え)た者(もの)が紅井姫(くれなゐひめ)のハズバンドだ。358スヰートハートし切(き)つたナイスを無下(むげ)に見殺(みごろ)しにするのも、359男(をとこ)の顔(かほ)が立(た)たない。360都合(つがふ)よく陥(はま)つて居(を)れば良(よ)いがなア、361秋公(あきこう)』
362秋山別『さうすれば此(この)秋山別(あきやまわけ)が、363紅井姫(くれなゐひめ)さまをグツと抱上(だきあ)げ……これはこれはどなたかと思(おも)へば、364ヒルの館(やかた)の楓別(かへでわけの)命(みこと)様(さま)の御(おん)妹(いもうと)の紅井(くれなゐ)の君(きみ)で御座(ござ)いましたか、365誠(まこと)に危(あやふ)いとこで御座(ござ)いましたが、366マアマア結構(けつこう)で御座(ござ)います。367是(これ)と云(い)ふのも神(かみ)様(さま)の御(お)かげ、368第一(だいいち)秋山別(あきやまわけ)の舎身(しやしん)的(てき)活動(くわつどう)の結果(けつくわ)で御座(ござ)いますワイ……と円滑(ゑんくわつ)に高飛車(たかびしや)に言霊車(ことたまぐるま)を運転(うんてん)さす、369さうすると姫(ひめ)様(さま)が玉(たま)の涙(なみだ)を泛(うか)べ給(たま)ひ……誰(たれ)かと思(おも)へばお前(まへ)は秋山別(あきやまわけ)であつたか、370これ程(ほど)世(よ)の中(なか)に沢山(たくさん)の人(ひと)があつても、371妾(わたし)に命(いのち)がけの同情(どうじやう)をして呉(く)れる者(もの)はお前(まへ)より無(な)い、372あゝ済(す)まなかつた。373そンな親切(しんせつ)な男(をとこ)と知(し)らずして、374今(いま)まで飯(めし)の上(うへ)の蠅(はへ)を追(お)うやうにすげなうしたのは、375済(す)まなかつた。376秋山別(あきやまわけ)、377相変(あひかは)らず可愛(かあい)がつて頂戴(ちやうだい)ね……なんて反対(はんたい)に紅井姫(くれなゐひめ)さまの方(はう)からラバーすると云(い)ふ段取(だんど)りだ。378イヒヽヽヽウフヽヽヽエヘヽヽヽオホヽヽヽおゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)いイヤお芽出(めで)たい。379割(わり)なき仲(なか)となつて御(お)互(たがひ)に面白(おもしろ)く可笑(おか)しく此(この)世(よ)を送(おく)るのだなア。380泣(な)いて暮(くら)すも一生(いつしやう)なら、381笑(わら)つて暮(くら)すも一生(いつしやう)だ。382アハヽヽヽ、383モリ公(こう)、384どうだい』
385モリス『勝手(かつて)に何(なん)なつと言(い)つて、386糠喜(ぬかよろこ)びをして居(ゐ)るが好(よ)いワ。387サア一時(いつとき)も早(はや)く決勝点(けつしようてん)に達(たつ)した者(もの)がハズバンドだ。388誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても、389大天狗(だいてんぐ)の御(お)許(ゆる)しだから、390……オイ、391グヅグヅしてると、392丸木橋(まるきばし)のあたりで日(ひ)でも暮(く)れようものなら、393例(れい)のホヽヽヽヽだよ。394サア行(ゆ)かう』
395と尻(しり)ひつからげ、396神王(しんわう)の森(もり)を後(あと)に、397二人(ふたり)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、398又(また)もや日暮(ひぐら)シ山(やま)の岩窟(がんくつ)さして進(すす)み行(ゆ)く。
399(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)
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