霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 人獣(にんじう)〔八七四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第2篇 紅裙隊 よみ(新仮名遣い):こうくんたい
章:第8章 人獣 よみ(新仮名遣い):にんじゅう 通し章番号:874
口述日:1922(大正11)年08月18日(旧06月26日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:国依別は紅井姫、エリナを伴ってアラシカ峠を越え、日暮シ山へ向かう。途中、常世神王の森で喧嘩をしていた秋山別とモリスを、大天狗の声色で脅して追い払う。三人は峠の山頂で一夜を明かし、翌日、日暮シ河の丸木橋に到着するが、大地震で橋が流失していたため、川辺の萱草の中で野宿する。

夜中、二人の女性が目を覚ますと、秋山別とモリスが近くをうろついていた。二人は国依別を恨み、改心したふりをして油断させ、暴力を振るって紅井姫とエリナを奪おうと相談する。紅井姫は恐怖に震えるが、エリナは化け物の声をまねて二人を追い払おうとする。しかし、紅井姫はその声にも怯えてしまう。

様子を聞いていた国依別は、自分も茂みを揺らし、怪しい声を発して二人を脅かす。さらに鳥、猫、牛、犬、狼、馬など、さまざまな動物の鳴き声を次々とまねる。秋山別とモリスは正体不明の怪物がいると思い込み、恐怖のあまり腰を抜かしてしまう。

二人が四つん這いで逃げ始めると、国依別は正体を明かして呼び止めるが、かえって国依別の声までまねる化け物だと勘違いされる。二人は人間らしい威勢も失い、獣のような姿で必死に逃げ去っていく。

(AIによる要約)
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-03-14 20:41:46 文字数:4384 OBC :rm3108
愛善世界社版:89頁 八幡書店版:第6輯 74頁 修補版: 校定版:91頁 普及版:41頁 初版: ページ備考:
001国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)は
002紅裙隊(こうくんたい)を引率(いんそつ)し
003ヒルの城下(じやうか)を立出(たちい)でて
004数多(あまた)の人(ひと)の病(いたづき)を
005鎮魂(ちんこん)言霊(ことたま)の神術(かむわざ)に
006救(すく)ひ助(たす)けつ漸(やうや)くに
007ヒルの城下(じやうか)を後(あと)にして
008アラシカ峠(たうげ)に差(さし)かかり
009足並(あしなみ)弱(よわ)き紅井姫(くれなゐひめ)
010エリナの二人(ふたり)を伴(ともな)ひつ
011黄昏時(たそがれどき)に鬱蒼(うつさう)と
012樟(くす)の大木(おほき)の茂(しげ)りたる
013神王(しんわう)の森(もり)に立寄(たちよ)りて
014夜露(よつゆ)を凌(しの)ぎ一夜(ひとよ)さを
015明(あ)かさむものと三(さん)人(にん)が
016樟(くす)の根元(ねもと)に腰(こし)をかけ
017息(いき)を休(やす)むる折柄(をりから)に
018暗(やみ)の中(なか)よりフウフウと
019怪(あや)しの声(こゑ)は響(ひび)き来(く)る
020暗(やみ)の帳(とばり)は深(ふか)くして
021確(たしか)にそれと分(わか)らなく
022山犬(やまいぬ)どものざれ合(あ)ひか
023但(ただし)は獅子(しし)のいがみ合(あ)ひ
024何(なに)か知(し)らねど近(ちか)よりて
025調(しら)べて見(み)むと星影(ほしかげ)に
026すかして見(み)れば此(こ)は如何(いか)に
027思(おも)ひも寄(よ)らぬ荒男(あらをとこ)
028揉(も)みつもまれつ搦(から)み合(あ)ひ
029命(いのち)カラガラ挑(いど)み合(あ)ふ
030国依別(くによりわけ)は諾(うな)づいて
031吾(わ)れは御(お)山(やま)の大天狗(だいてんぐ)
032神王(しんわう)の森(もり)の守護神(しゆごじん)ぞ
033不届(ふとどき)き至極(しごく)な聖場(せいぢやう)に
034来(きた)りて喧嘩(けんくわ)をなぜ致(いた)す
035何(いづ)れの奴(やつ)か知(し)らね共(ども)
036首筋(くびすぢ)つかむで樟(くす)の枝(え)に
037股(また)引裂(ひきさ)いてかけてやろ
038覚悟(かくご)致(いた)せと呼(よ)ばはれば
039二人(ふたり)の男(をとこ)は驚(おどろ)いて
040パツと二(ふた)つに立別(たちわか)れ
041両手(りやうて)を土(つち)につき乍(なが)ら
042ヒルの館(やかた)に仕(つか)へたる
043秋山別(あきやまわけ)と申(まを)す者(もの)
044私(わたし)はモリスと申(まを)します
045女房(にようばう)の選挙(せんきよ)につきまして
046競走(きやうそう)次第(しだい)に激烈(げきれつ)と
047なつた揚句(あげく)が此(この)通(とほ)り
048誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)でした
049是(こ)れ是(こ)れモウシ天狗(てんぐ)さま
050紅井姫(くれなゐひめ)を私(わたくし)の
051女房(にようばう)に与(あた)へて下(くだ)さンせ
052モリスの女房(にようばう)にやエリナ姫(ひめ)
053これを与(あた)へて下(くだ)さらば
054天下(てんか)は忽(たちま)ち太平(たいへい)に
055家庭(かてい)の円満(ゑんまん)目(ま)のあたり
056何卒(どうぞ)宜(よろ)しう願(ねが)ひます
057語(かた)ればモリスは首(くび)をふり
058イエイエもうし天狗(てんぐ)さま
059こンな男(をとこ)に紅井姫(くれなゐひめ)の
060やうな美人(びじん)は惚(ほれ)ませぬ
061どうぞ私(わたし)に下(くだ)さンせ
062彼(かれ)にはエリナで十分(じふぶん)だ
063宜(よろ)しく御(お)さばき頼(たの)みますと
064一心(いつしん)不乱(ふらん)に手(て)を合(あは)せ
065頼(たの)み入(い)るこそ可笑(おか)しけれ
066吹(ふ)き出(だ)す計(ばか)りの可笑(おか)しさを
067ヂツと怺(こら)へて国依別(くによりわけ)は
068又(また)もや天狗(てんぐ)の作(つく)り声(ごゑ)
069アラシカ峠(たうげ)を登(のぼ)り来(く)る
070二人(ふたり)の女(をんな)を競走(きやうそう)して
071勝(か)つた者(もの)には呉(く)れてやらう
072決勝点(けつしようてん)に先着(せんちやく)の
073勇士(ゆうし)に紅井姫(くれなゐひめ)をやる
074敗(ま)けた奴(やつ)にはエリナ姫(ひめ)
075与(あた)へてやるから辛抱(しんぼ)せよ
076国依別(くによりわけ)の神司(かむづかさ)は
077俺(おれ)が守護(しゆご)して望(のぞ)みの通(とほ)り
078谷(たに)の底(そこ)へと放(ほ)つてやらう
079一(ひ)二(ふ)三(みつ)つ早行(はやゆ)けと
080其(その)掛声(かけごゑ)に両人(りやうにん)は
081先(さき)を争(あらそ)ひバラバラと
082こけつ転(まろ)びつ降(くだ)り行(ゆ)く
083後(あと)に国依別(くによりわけ)は高笑(たかわら)ひ
084アハヽヽヽアハヽヽヽ
085エリナ紅井(くれなゐ)お姫(ひめ)さま
086今宵(こよひ)は実(じつ)に面白(おもしろ)い
087余興(よきよう)を見(み)せて貰(もら)つたと
088笑(わら)へば姫(ひめ)は驚(おどろ)いて
089妾(わたし)は胸(むね)がドキドキと
090怖(こわ)い思(おも)ひをしましたよ
091あなた如何(どう)して御座(ござ)つたか
092本当(ほんたう)に怖(こわ)い天狗(てんぐ)さま
093先(ま)づ先(ま)づ無事(ぶじ)で目出(めで)たいと
094未通娘(おぼこむすめ)の愛(あい)らしさ
095国依別(くによりわけ)は両人(りやうにん)を
096伴(ともな)ひ此処(ここ)を立出(たちい)でて
097アラシカ山(やま)の山頂(さんちやう)に
098漸(やうや)く登(のぼ)り傍(かたはら)の
099森林(しんりん)さして忍(しの)び入(い)り
100ここに一夜(いちや)を明(あ)かしつつ
101旭(あさひ)の光(ひかり)を浴(あ)び乍(なが)ら
102アラシカ峠(たうげ)の急坂(きふはん)を
103西南(せいなん)指(さ)して降(くだ)り行(ゆ)く
104あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
105御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
106 国依別(くによりわけ)は漸(やうや)くにして日(ひ)の暮(く)るる頃(ころ)、107二人(ふたり)の足(あし)弱(よわ)き女(をんな)を労(いた)はり乍(なが)ら、108日暮(ひぐら)シ河(がは)の丸木橋(まるきばし)の畔(ほとり)迄(まで)辿(たど)り着(つ)いた。109大地震(おほぢしん)の為(ため)に橋(はし)はスツカリ墜落(つゐらく)して了(しま)ひ、110日暮(ひぐら)シ河(がは)は滔々(とうとう)として濁水(だくすい)が流(なが)れて居(ゐ)る。111止(や)むを得(え)ず、112橋(はし)の袂(たもと)の萱草(かやぐさ)の中(なか)に三(さん)人(にん)は一夜(いちや)を明(あ)かす事(こと)となり、113安々(やすやす)夢路(ゆめぢ)を辿(たど)り居(ゐ)る。
114 夜中頃(よなかごろ)と覚(おぼ)しき頃(ころ)、115二人(ふたり)の女(をんな)はふと目(め)をさまし、116ガサガサとそよぐ萱(かや)の葉音(はおと)に戦(をのの)き、117目(め)を据(す)ゑて窺(うかが)ひ見(み)れば、118二人(ふたり)の荒男(あらをとこ)あたりをウロウロ迂路(うろ)つき乍(なが)ら、
119男(秋山別)『オイ、120モリス、121あの天狗(てんぐ)、122とうとう俺(おれ)等(ら)を馬鹿(ばか)にしよつたぢやないか。123あの時(とき)に天狗(てんぐ)に魅(つま)まれさへしなかつたら、124今頃(いまごろ)には甘(うま)く追(お)ひついて、125此方(こつち)の者(もの)にして居(ゐ)る所(ところ)だつたのに、126なア本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)を見(み)たぢやないか』
127モリス『それでもあの時(とき)に天狗(てんぐ)が現(あら)はれなかつたならば、128俺(おれ)かお前(まへ)か、129どちらか命(いのち)がなくなつてゐるのだぞ。130マアおかげで二人共(ふたりとも)命(いのち)丈(だけ)は助(たす)かり、131安全(あんぜん)に此処迄(ここまで)捜索(そうさく)に来(こ)られたのだが、132こう暗(くら)くなつては最早(もはや)進(すす)む事(こと)も出来(でき)ないワ。133大方(おほかた)国依別(くによりわけ)外(ほか)二人(ふたり)の女(をんな)は、134余(あま)り遠(とほ)くは行(い)つて居(を)ろまい。135日暮(ひぐら)シ山(やま)の岩窟(がんくつ)へは、136何程(なにほど)コンパスに撚(より)をかけても、137足弱(あしよわ)の二人(ふたり)の女(をんな)が従(つ)いてをるのだから、138到底(たうてい)到着(たうちやく)して居(ゐ)る気遣(きづかひ)はないワ。139やがて一時(ひととき)計(ばか)りしたら月(つき)が出(で)るから、140一足(ひとあし)でも先(さき)へ進(すす)まうぢやないか。141キツと此(この)川堤(かはづつみ)を行(ゆ)きよつたに違(ちが)ひないぞ』
142秋山別『さうだらうかなア。143併(しか)し足(あし)を痛(いた)めて、144此(この)辺(へん)にすつこみて居(ゐ)やせまいかな。145何(なん)だか人(ひと)臭(くさ)いやうな気(き)がするぢやないかい、146モリ公(こう)』
147モリス『そりやお前(まへ)の神経(しんけい)作用(さよう)だよ。148決(けつ)してこンな所(ところ)に居(を)るものかい』
149秋山別『アノ国依別(くによりわけ)と云(い)ふ奴(やつ)、150どこ迄(まで)も癪(しやく)に障(さは)る代物(しろもの)だから、151何(なん)とかこらしめてやりたいと思(おも)うのだが、152直(すぐ)に鎮魂(ちんこん)とか、153言霊(ことたま)とか云(いひ)よつて、154非常(ひじやう)な力(ちから)を出(だ)しよるから、155一通(ひととほ)りでは駄目(だめ)だぞ。156今度(こんど)は甘(うま)く尾(を)をふつて降参(かうさん)の体(てい)を装(よそほ)ひ、157誠(まこと)にすまぬ事(こと)を致(いた)しました。158今後(こんご)はスツパリ改心(かいしん)致(いた)しまして姫(ひめ)様(さま)始(はじ)め皆(みな)さまにお詫(わび)に出(で)ましたと、159下(した)から低(ひく)う出(で)て油断(ゆだん)をさせ、160小股(こまた)を掬(すく)うて、161ドサンと引(ひつ)くりかへし、162其(その)上(うへ)から土足(どそく)でギユツ ギユツとふみチヤクリ、163腸(はらわた)を破(やぶ)つて了(しま)うのだ。164其(その)後(あと)は此方(こつち)の者(もの)だ。165何(なん)と秋山別(あきやまわけ)は妙案(めうあん)を出(だ)すだらう』
166モリス『妙案(めうあん)々々(めうあん)キツとウラル教(けう)から、167軍師(ぐんし)として招聘(せうへい)しに来(く)るだらうよ。168併(しか)し乍(なが)ら此処(ここ)で一(ひと)つ選挙(せんきよ)のしなをしをやらないと、169又(また)しても紛擾(ふんぜう)の種(たね)を蒔(ま)く様(やう)な事(こと)では互(たがひ)の不利益(ふりえき)だからなア』
170秋山別『モウ、171モリス、172選挙(せんきよ)は止(や)めにせうかい。173成功(せいこう)せない中(うち)から定(き)めておいた所(ところ)が仕方(しかた)がないぢやないか。174それより願望(ぐわんもう)成就(じやうじゆ)の上(うへ)、175ヂヤンケン坊(ぼう)なつと、176籤引(くぢびき)なつと、177或(あるひ)は御(お)神籤(みくぢ)なつと、178どんな方法(はうはふ)でもあるから、179其(その)上(うへ)の事(こと)にせうかい。180今(いま)きまつて了(しま)ふと、181当選者(たうせんしや)の方(はう)は活動(くわつどう)する楽(たのし)みがあるが、182負(まけ)た方(はう)は張合(はりあひ)が無(な)うて命(いのち)がけの活動(くわつどう)は出来(でき)ぬからのウ』
183 紅井姫(くれなゐひめ)は二人(ふたり)の話(はなし)を聞(き)いて慄(ふる)ひ上(あが)り、184エリナの体(からだ)に喰(くら)ひついて息(いき)をこらし居(ゐ)る。
185 エリナは俄(にはか)に作(つく)り声(ごゑ)をし乍(なが)ら、186萱(かや)の繁(しげ)みに身(み)を隠(かく)し、
187エリナ『ホツホヽヽヽ』
188と力(ちから)のない厭(いや)らしい声(こゑ)で笑(わら)ひ出(だ)したものが在(あ)る。[※元々は「笑ひ出した。」で終わっていた文章を、御校正本で「ものが在る」という文言を書き加えた。そのため文法的におかしな文章になっている。愛世版では「ものが在る」を加えているが、校定版・八幡版では削除している。]189紅井姫(くれなゐひめ)はビツクリして、
190紅井姫『モシモシ姉(ね)えさま、191勘忍(かんにん)して下(くだ)さいな』
192と泣(な)き声(ごゑ)になる。
193エリナ『姫(ひめ)さま、194御(ご)心配(しんぱい)なさいますなや。195エリナが一寸(ちよつと)化者(ばけもの)の真似(まね)して、196彼奴(あいつ)等(ら)二人(ふたり)を追(お)ひちらしてやるのですから』
197紅井姫『それでも、198あなた、199そンな声(こゑ)をお出(だ)しになると、200妾(わたし)怖(こわ)うて堪(たま)りませぬワ。201貴女(あなた)が化者(ばけもの)の様(やう)に思(おも)はれてなりませぬもの』
202エリナ『心配(しんぱい)しなさるな。203怖(こわ)いこたありませぬよ。204向方(むかう)を怖(こわ)がらしてやりさへすれば良(よ)いのです。205これからエリナは、206チツと厭(いや)らしい事(こと)を云(い)ひますから其(その)積(つも)りで居(ゐ)て下(くだ)さい。207キツと怖(こわ)い事(こと)はありませぬからなア』
208紅井姫『それでもこンな怖(こわ)い野原(のはら)に寝(ね)てゐますのに、209まだそンな声(こゑ)を聞(き)かされては、210髪(かみ)の毛(け)が縮(ちぢ)むやうな気(き)がして、211怖(こわ)くて堪(たま)りませぬワ』
212エリナ『それ程(ほど)怖(こわ)ければ、213エリナも止(や)めておきませうかなア』
214紅井姫『どうぞ御(お)頼(たの)みですから、215厭(いや)らしい声(こゑ)は出(だ)さぬやうにして下(くだ)さい』
216と慄(ふる)うてゐる。217秋山別(あきやまわけ)は小声(こごゑ)になつて、
218秋山別『オイ、219モリス、220何(なん)だか妙(めう)な声(こゑ)がしたぢやないか。221気分(きぶん)の悪(わる)い晩(ばん)だなア。222こンな所(ところ)に鶯(うぐひす)の鳴(な)く筈(はず)もなし、223ホヽヽヽほンまに俺(おれ)は気分(きぶん)がカブラカブラして、224足(あし)が大根(だいこん)々々(だいこん)したよ。225どうやら肝(きも)つ玉(たま)が洋行(やうかう)しさうだ、226本当(ほんたう)に気味(きみ)の悪(わる)い夜(よ)さだなア』
227モリス『ナアニ心配(しんぱい)すな、228アリヤ鳩(はと)の爺(ぢ)イだよ。229野鳩(のばと)がこの辺(へん)に寝(ね)てゐるのだが、230年(とし)がよつて歯(は)が抜(ぬ)けたと見(み)え、231あンな声(こゑ)を出(だ)しよるのだよ』
232 国依別(くによりわけ)は最前(さいぜん)から目(め)をさまし、233双方(さうはう)の様子(やうす)を聞(き)きゐたり。
234国依別『ハテ面白(おもしろ)い、235此奴(こいつ)一(ひと)つおどかして、236帰(い)なしてやらねば、237未通(おぼこ)育(そだ)ちの姫(ひめ)さまが、238又(また)怖(こわ)がつて仕方(しかた)がない』
239と小声(こごゑ)に囁(ささや)き乍(なが)ら、240芒(すすき)の株(かぶ)を力(ちから)一杯(いつぱい)、241ガサガサガサと揺(ゆす)つて見(み)せた。242秋山別(あきやまわけ)は肝(きも)をつぶしドスンと腰(こし)を下(おろ)し、
243秋山別『ギヤハヽヽ、244抜(ぬ)けた抜(ぬ)けたア、245一寸(ちよつと)来(き)て呉(く)れやい』
246モリス『何(なに)が抜(ぬ)けたのだ』
247秋山別『腰(こし)だ腰(こし)だ、248どうしても歩(ある)けないワ。249何(なん)だか怪体(けたい)な者(もの)が居(ゐ)よるぢやないか。250昨夕(ゆうべ)の天狗(てんぐ)なら一寸(ちよつと)も怖(こわ)い事(こと)ないが、251あンな厭(いや)らしい声(こゑ)を出(だ)しよると厭(いや)らしくて仕方(しかた)がないワ、252モリ公(こう)、253お前(まへ)も怖(こわ)からふ』
254 モリスは何(なん)となく心(こころ)淋(さび)しくなり来(き)たり、255併(しか)し無理(むり)に空元気(からげんき)をつけて、256震(ふる)ひ声(ごゑ)を出(だ)し、
257モリス『オイ、258アヽヽ秋山別(あきやまわけ)、259ナヽヽ何(なに)がそれ程(ほど)怖(こわ)いのだ。260天下(てんか)無双(むさう)のヒーロー豪傑(がうけつ)、261ヂヤンヂヤヘールのモリスさまが、262ゴヽ御座(ござ)るぞよ。263バヽ化者(ばけもの)位(くらゐ)、264仮令(たとへ)千匹(せんびき)や万匹(まんびき)出(で)て来(き)た所(ところ)で、265チツとも怖(こわ)くない事(こと)はないワイ、266チヽヽチツとしつかりせぬかい』
267国依別『ギヤツハヽヽヽ、268ギユフヽヽヽ、269ギヨツホヽヽヽ』
270と国依別(くによりわけ)の怪声(くわいせい)。
271秋山別『モリス、272それ又(また)出(で)よつたぞ。273益々(ますます)怪体(けたい)な声(こゑ)を出(だ)すぢやないか』
274モリス『さうだ、275ギヤフアハヽヽなンて人(ひと)をギヤフンとさす化者(ばけもの)の計略(けいりやく)だらう……ヤイ化者(ばけもの)、276ギヨホヽヽヽて何(なん)ぢやい、277其(その)位(くらゐ)な事(こと)で此(この)方(はう)はギヨツとはせぬぞよ。278ギユフヽヽヽなンてそら何(なん)ぢや。279ギユーと云(い)はさうと思(おも)つたつて、280そンな事(こと)がこたへる様(やう)な俺(おれ)と思(おも)ふか。281バヽ馬鹿(ばか)らしい。282今日(けふ)は日(ひ)が悪(わる)いから、283又(また)明日(あす)に出直(でなほ)せよ』
284 紅井姫(くれなゐひめ)小声(こごゑ)で、
285紅井姫『なア姉(ね)えさま、286どうしましよう。287あンな事(こと)姉(ねえ)さまが仰有(おつしや)るものだから、288本(ほん)まの……本(ほん)まものが出(で)たぢやありませぬか、289妾(わたし)怖(こわ)いわ』
290 エリナ小声(こごゑ)で、
291エリナ『姫(ひめ)さま、292心配(しんぱい)なさいますな。293ありや国依別(くによりわけ)さまがあんな事(こと)を言(い)つてるのですよ。294化者(ばけもの)でも何(なん)でもありませぬから』
295紅井姫『姉(ねえ)さま、296どうぞ御(お)頼(たの)みですから、297国依別(くによりわけ)さまに、298あンな事(こと)言(い)はないやうに止(と)めて下(くだ)さいなア』
299エリナ『マア良(よ)いぢやありませぬか。300妾(わたし)が斯(か)うしつかりと抱(かか)へて上(あ)げますから、301さう震(ふる)はずに、302気(き)をしつかりなさいませ』
303 国依別(くによりわけ)萱(かや)をガサガサと揺(ゆす)り乍(なが)ら、304怪(あや)しい作(つく)り声(ごゑ)をして、
305国依別『ホーホーホホホー、306アホ アホ アホ アホ アホ、307アヽヽホヽヽキヽヽホヽヽヤホヽヽマホヽヽワホヽヽケホヽヽホホホイケキヨ、308モーホ、309リーホ、310スーホ、311ホホホーホーケキヨ、312ケツキヨ ケツキヨ ケツキヨ、313ニヤーン、314モウ モウ、315ワン ワン ウー、316ヒン ヒン ヒン』
317秋山別『オイ、318モリス、319いよいよ怪(け)しからぬ事(こと)になつて来(き)たぞ。320鳥(とり)だと思(おも)へば猫(ねこ)の声(こゑ)を出(だ)しよる、321猫(ねこ)かと思(おも)へば牛(うし)犬(いぬ)狼(おほかみ)虎(とら)に馬(うま)、322オイどうぞ頼(たの)みだ、323俺(おれ)を負(お)うて逃(に)げてくれぬかい。324腰(こし)が立(た)たぬワイ……』
325モリス『オヽヽ俺(おれ)だつて、326腰(こし)が怪(あや)しくなつて来(き)たワイ。327足(あし)だつて細(こま)かう動(うご)き出(だ)すなり、328お前(まへ)所(どころ)か、329俺(おれ)の身(み)が持(も)てぬのだイ』
330秋山別『なんぼ利己(りこ)主義(しゆぎ)が発達(はつたつ)した世(よ)の中(なか)だとて、331チツとは秋山別(あきやまわけ)にも同情(どうじやう)して呉(く)れたら如何(どう)だ』
332モリス『俺(おれ)だつてシンパシーの涙(なみだ)に暮(く)れては居(ゐ)るが、333斯(か)うなつては如何(いかん)ともする事(こと)が出来(でき)ないぢやないか。334心臓寺(しんぞうでら)の和尚(おしやう)奴(め)が無茶(むちや)苦茶(くちや)に早鐘(はやがね)をつきよつて、335何所(なにどこ)ぢやないワイ。336俺(おれ)やモウ人(ひと)の事(こと)所(どころ)ぢやない、337四這(よつばい)になつて逃(に)げ出(だ)すワイ』
338とワナワナする足(あし)を、339犬(いぬ)の様(やう)に四這(よつばい)となり、340ガサガサと元来(もとき)し道(みち)へ這(は)ひ出(だ)した。341秋山別(あきやまわけ)も余(あま)りの怖(こわ)さに、342腰(こし)の痛(いた)いのを打(う)ち忘(わす)れ、343無理(むり)無体(むたい)にモリスの後(あと)に従(つ)いて、344無暗(むやみ)矢鱈(やたら)に這(は)ひ出(だ)し逃(に)げ出(だ)す。
345国依別『アハヽヽヽ、346オイ秋山別(あきやまわけ)、347モリスの両人(りやうにん)さま、348アラシカ峠(たうげ)の大天狗(だいてんぐ)又(また)の御名(みな)は国依別(くによりわけの)命(みこと)、349紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)のお伴(とも)をしてエリナさまと三(さん)人(にん)、350此処(ここ)に休息(きうそく)して居(ゐ)るから、351チツと来(き)たら如何(どう)だ。352よい取持(とりもち)をしてやらうかなア』
353 両人(りやうにん)は益々(ますます)驚(おどろ)き、
354秋山別、モリス『ヤアバヽ化者(ばけもの)奴(め)、355国依別(くによりわけ)の声色(こわいろ)を使(つか)ひよつた。356コラ大変(たいへん)だ』
357と無性(むしやう)矢鱈(やたら)にガサ ガサ ガサ ガサと四這(よつばい)になつて、358力(ちから)限(かぎ)りに逃(に)げ出(だ)して行(ゆ)く。
359(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)
360(昭和九・一二・一七 王仁校正)
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