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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
第1章 主一無適
第2章 大地震
第3章 救世神
第4章 不知恋
第5章 秋鹿の叫
第6章 女弟子
第2篇 紅裙隊
第7章 妻の選挙
第8章 人獣
第9章 誤神託
第10章 噂の影
第11章 売言買辞
第12章 冷い親切
第13章 姉妹教
第3篇 千里万行
第14章 樹下の宿
第15章 丸木橋
第16章 天狂坊
第17章 新しき女
第18章 シーズンの流
第19章 怪原野
第20章 脱皮婆
第21章 白毫の光
第4篇 言霊将軍
第22章 神の試
第23章 化老爺
第24章 魔違
第25章 会合
余白歌
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>
海洋万里(第25~36巻)
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第31巻(午の巻)
> 第2篇 紅裙隊 > 第8章 人獣
<<< 妻の選挙
(B)
(N)
誤神託 >>>
第八章
人獣
(
にんじう
)
〔八七四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第2篇 紅裙隊
よみ(新仮名遣い):
こうくんたい
章:
第8章 人獣
よみ(新仮名遣い):
にんじゅう
通し章番号:
874
口述日:
1922(大正11)年08月18日(旧06月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-03-14 20:41:46
OBC :
rm3108
愛善世界社版:
89頁
八幡書店版:
第6輯 74頁
修補版:
校定版:
91頁
普及版:
41頁
初版:
ページ備考:
001
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
002
紅裙隊
(
こうくんたい
)
を
引率
(
いんそつ
)
し
003
ヒルの
城下
(
じやうか
)
を
立出
(
たちい
)
でて
004
数多
(
あまた
)
の
人
(
ひと
)
の
病
(
いたづき
)
を
005
鎮魂
(
ちんこん
)
言霊
(
ことたま
)
の
神術
(
かむわざ
)
に
006
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けつ
漸
(
やうや
)
くに
007
ヒルの
城下
(
じやうか
)
を
後
(
あと
)
にして
008
アラシカ
峠
(
たうげ
)
に
差
(
さし
)
かかり
009
足並
(
あしなみ
)
弱
(
よわ
)
き
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
010
エリナの
二人
(
ふたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひつ
011
黄昏時
(
たそがれどき
)
に
鬱蒼
(
うつさう
)
と
012
樟
(
くす
)
の
大木
(
おほき
)
の
茂
(
しげ
)
りたる
013
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
に
立寄
(
たちよ
)
りて
014
夜露
(
よつゆ
)
を
凌
(
しの
)
ぎ
一夜
(
ひとよ
)
さを
015
明
(
あ
)
かさむものと
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
016
樟
(
くす
)
の
根元
(
ねもと
)
に
腰
(
こし
)
をかけ
017
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
むる
折柄
(
をりから
)
に
018
暗
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
よりフウフウと
019
怪
(
あや
)
しの
声
(
こゑ
)
は
響
(
ひび
)
き
来
(
く
)
る
020
暗
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
は
深
(
ふか
)
くして
021
確
(
たしか
)
にそれと
分
(
わか
)
らなく
022
山犬
(
やまいぬ
)
どもの
ざれ
合
(
あ
)
ひか
023
但
(
ただし
)
は
獅子
(
しし
)
の
いが
み
合
(
あ
)
ひ
024
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
らねど
近
(
ちか
)
よりて
025
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
むと
星影
(
ほしかげ
)
に
026
すかして
見
(
み
)
れば
此
(
こ
)
は
如何
(
いか
)
に
027
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
荒男
(
あらをとこ
)
028
揉
(
も
)
みつもまれつ
搦
(
から
)
み
合
(
あ
)
ひ
029
命
(
いのち
)
カラガラ
挑
(
いど
)
み
合
(
あ
)
ふ
030
国依別
(
くによりわけ
)
は
諾
(
うな
)
づいて
031
吾
(
わ
)
れは
御
(
お
)
山
(
やま
)
の
大天狗
(
だいてんぐ
)
032
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
ぞ
033
不届
(
ふとどき
)
き
至極
(
しごく
)
な
聖場
(
せいぢやう
)
に
034
来
(
きた
)
りて
喧嘩
(
けんくわ
)
をなぜ
致
(
いた
)
す
035
何
(
いづ
)
れの
奴
(
やつ
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
036
首筋
(
くびすぢ
)
つかむで
樟
(
くす
)
の
枝
(
え
)
に
037
股
(
また
)
引裂
(
ひきさ
)
いてかけてやろ
038
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せと
呼
(
よ
)
ばはれば
039
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
040
パツと
二
(
ふた
)
つに
立別
(
たちわか
)
れ
041
両手
(
りやうて
)
を
土
(
つち
)
につき
乍
(
なが
)
ら
042
ヒルの
館
(
やかた
)
に
仕
(
つか
)
へたる
043
秋山別
(
あきやまわけ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
044
私
(
わたし
)
はモリスと
申
(
まを
)
します
045
女房
(
にようばう
)
の
選挙
(
せんきよ
)
につきまして
046
競走
(
きやうそう
)
次第
(
しだい
)
に
激烈
(
げきれつ
)
と
047
なつた
揚句
(
あげく
)
が
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
048
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
でした
049
是
(
こ
)
れ
是
(
こ
)
れモウシ
天狗
(
てんぐ
)
さま
050
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
を
私
(
わたくし
)
の
051
女房
(
にようばう
)
に
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さンせ
052
モリスの
女房
(
にようばう
)
にやエリナ
姫
(
ひめ
)
053
これを
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さらば
054
天下
(
てんか
)
は
忽
(
たちま
)
ち
太平
(
たいへい
)
に
055
家庭
(
かてい
)
の
円満
(
ゑんまん
)
目
(
ま
)
のあたり
056
何卒
(
どうぞ
)
宜
(
よろ
)
しう
願
(
ねが
)
ひます
057
語
(
かた
)
ればモリスは
首
(
くび
)
をふり
058
イエイエもうし
天狗
(
てんぐ
)
さま
059
こンな
男
(
をとこ
)
に
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
の
060
やうな
美人
(
びじん
)
は
惚
(
ほれ
)
ませぬ
061
どうぞ
私
(
わたし
)
に
下
(
くだ
)
さンせ
062
彼
(
かれ
)
にはエリナで
十分
(
じふぶん
)
だ
063
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
さばき
頼
(
たの
)
みますと
064
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
065
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
るこそ
可笑
(
おか
)
しけれ
066
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
す
計
(
ばか
)
りの
可笑
(
おか
)
しさを
067
ヂツと
怺
(
こら
)
へて
国依別
(
くによりわけ
)
は
068
又
(
また
)
もや
天狗
(
てんぐ
)
の
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
069
アラシカ
峠
(
たうげ
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
る
070
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
を
競走
(
きやうそう
)
して
071
勝
(
か
)
つた
者
(
もの
)
には
呉
(
く
)
れてやらう
072
決勝点
(
けつしようてん
)
に
先着
(
せんちやく
)
の
073
勇士
(
ゆうし
)
に
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
をやる
074
敗
(
ま
)
けた
奴
(
やつ
)
にはエリナ
姫
(
ひめ
)
075
与
(
あた
)
へてやるから
辛抱
(
しんぼ
)
せよ
076
国依別
(
くによりわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
は
077
俺
(
おれ
)
が
守護
(
しゆご
)
して
望
(
のぞ
)
みの
通
(
とほ
)
り
078
谷
(
たに
)
の
底
(
そこ
)
へと
放
(
ほ
)
つてやらう
079
一
(
ひ
)
二
(
ふ
)
三
(
みつ
)
つ
早行
(
はやゆ
)
けと
080
其
(
その
)
掛声
(
かけごゑ
)
に
両人
(
りやうにん
)
は
081
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひバラバラと
082
こけつ
転
(
まろ
)
びつ
降
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
083
後
(
あと
)
に
国依別
(
くによりわけ
)
は
高笑
(
たかわら
)
ひ
084
アハヽヽヽアハヽヽヽ
085
エリナ
紅井
(
くれなゐ
)
お
姫
(
ひめ
)
さま
086
今宵
(
こよひ
)
は
実
(
じつ
)
に
面白
(
おもしろ
)
い
087
余興
(
よきよう
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
つたと
088
笑
(
わら
)
へば
姫
(
ひめ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
089
妾
(
わたし
)
は
胸
(
むね
)
がドキドキと
090
怖
(
こわ
)
い
思
(
おも
)
ひをしましたよ
091
あなた
如何
(
どう
)
して
御座
(
ござ
)
つたか
092
本当
(
ほんたう
)
に
怖
(
こわ
)
い
天狗
(
てんぐ
)
さま
093
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
無事
(
ぶじ
)
で
目出
(
めで
)
たいと
094
未通娘
(
おぼこむすめ
)
の
愛
(
あい
)
らしさ
095
国依別
(
くによりわけ
)
は
両人
(
りやうにん
)
を
096
伴
(
ともな
)
ひ
此処
(
ここ
)
を
立出
(
たちい
)
でて
097
アラシカ
山
(
やま
)
の
山頂
(
さんちやう
)
に
098
漸
(
やうや
)
く
登
(
のぼ
)
り
傍
(
かたはら
)
の
099
森林
(
しんりん
)
さして
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り
100
ここに
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かしつつ
101
旭
(
あさひ
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
102
アラシカ
峠
(
たうげ
)
の
急坂
(
きふはん
)
を
103
西南
(
せいなん
)
指
(
さ
)
して
降
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
104
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
105
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
106
国依別
(
くによりわけ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
るる
頃
(
ころ
)
、
107
二人
(
ふたり
)
の
足
(
あし
)
弱
(
よわ
)
き
女
(
をんな
)
を
労
(
いた
)
はり
乍
(
なが
)
ら、
108
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
の
畔
(
ほとり
)
迄
(
まで
)
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
109
大地震
(
おほぢしん
)
の
為
(
ため
)
に
橋
(
はし
)
はスツカリ
墜落
(
つゐらく
)
して
了
(
しま
)
ひ、
110
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
は
滔々
(
とうとう
)
として
濁水
(
だくすい
)
が
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
111
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
112
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
の
萱草
(
かやぐさ
)
の
中
(
なか
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かす
事
(
こと
)
となり、
113
安々
(
やすやす
)
夢路
(
ゆめぢ
)
を
辿
(
たど
)
り
居
(
ゐ
)
る。
114
夜中頃
(
よなかごろ
)
と
覚
(
おぼ
)
しき
頃
(
ころ
)
、
115
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
はふと
目
(
め
)
をさまし、
116
ガサガサとそよぐ
萱
(
かや
)
の
葉音
(
はおと
)
に
戦
(
をのの
)
き、
117
目
(
め
)
を
据
(
す
)
ゑて
窺
(
うかが
)
ひ
見
(
み
)
れば、
118
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
あたりをウロウロ
迂路
(
うろ
)
つき
乍
(
なが
)
ら、
119
男(秋山別)
『オイ、
120
モリス、
121
あの
天狗
(
てんぐ
)
、
122
とうとう
俺
(
おれ
)
等
(
ら
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にしよつたぢやないか。
123
あの
時
(
とき
)
に
天狗
(
てんぐ
)
に
魅
(
つま
)
まれさへしなかつたら、
124
今頃
(
いまごろ
)
には
甘
(
うま
)
く
追
(
お
)
ひついて、
125
此方
(
こつち
)
の
者
(
もの
)
にして
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だつたのに、
126
なア
本当
(
ほんたう
)
に
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
たぢやないか』
127
モリス
『それでもあの
時
(
とき
)
に
天狗
(
てんぐ
)
が
現
(
あら
)
はれなかつたならば、
128
俺
(
おれ
)
かお
前
(
まへ
)
か、
129
どちらか
命
(
いのち
)
がなくなつてゐるのだぞ。
130
マアおかげで
二人共
(
ふたりとも
)
命
(
いのち
)
丈
(
だけ
)
は
助
(
たす
)
かり、
131
安全
(
あんぜん
)
に
此処迄
(
ここまで
)
捜索
(
そうさく
)
に
来
(
こ
)
られたのだが、
132
こう
暗
(
くら
)
くなつては
最早
(
もはや
)
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ないワ。
133
大方
(
おほかた
)
国依別
(
くによりわけ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
は、
134
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
くは
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
ろまい。
135
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
へは、
136
何程
(
なにほど
)
コンパスに
撚
(
より
)
をかけても、
137
足弱
(
あしよわ
)
の
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
が
従
(
つ
)
いてをるのだから、
138
到底
(
たうてい
)
到着
(
たうちやく
)
して
居
(
ゐ
)
る
気遣
(
きづかひ
)
はないワ。
139
やがて
一時
(
ひととき
)
計
(
ばか
)
りしたら
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
るから、
140
一足
(
ひとあし
)
でも
先
(
さき
)
へ
進
(
すす
)
まうぢやないか。
141
キツと
此
(
この
)
川堤
(
かはづつみ
)
を
行
(
ゆ
)
きよつたに
違
(
ちが
)
ひないぞ』
142
秋山別
『さうだらうかなア。
143
併
(
しか
)
し
足
(
あし
)
を
痛
(
いた
)
めて、
144
此
(
この
)
辺
(
へん
)
にすつこみて
居
(
ゐ
)
やせまいかな。
145
何
(
なん
)
だか
人
(
ひと
)
臭
(
くさ
)
いやうな
気
(
き
)
がするぢやないかい、
146
モリ
公
(
こう
)
』
147
モリス
『そりやお
前
(
まへ
)
の
神経
(
しんけい
)
作用
(
さよう
)
だよ。
148
決
(
けつ
)
してこンな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
るものかい』
149
秋山別
『アノ
国依別
(
くによりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
150
どこ
迄
(
まで
)
も
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
る
代物
(
しろもの
)
だから、
151
何
(
なん
)
とかこらしめてやりたいと
思
(
おも
)
うのだが、
152
直
(
すぐ
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
とか、
153
言霊
(
ことたま
)
とか
云
(
いひ
)
よつて、
154
非常
(
ひじやう
)
な
力
(
ちから
)
を
出
(
だ
)
しよるから、
155
一通
(
ひととほ
)
りでは
駄目
(
だめ
)
だぞ。
156
今度
(
こんど
)
は
甘
(
うま
)
く
尾
(
を
)
をふつて
降参
(
かうさん
)
の
体
(
てい
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
157
誠
(
まこと
)
にすまぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
158
今後
(
こんご
)
はスツパリ
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
しまして
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
始
(
はじ
)
め
皆
(
みな
)
さまにお
詫
(
わび
)
に
出
(
で
)
ましたと、
159
下
(
した
)
から
低
(
ひく
)
う
出
(
で
)
て
油断
(
ゆだん
)
をさせ、
160
小股
(
こまた
)
を
掬
(
すく
)
うて、
161
ドサンと
引
(
ひつ
)
くりかへし、
162
其
(
その
)
上
(
うへ
)
から
土足
(
どそく
)
でギユツ ギユツとふみチヤクリ、
163
腸
(
はらわた
)
を
破
(
やぶ
)
つて
了
(
しま
)
うのだ。
164
其
(
その
)
後
(
あと
)
は
此方
(
こつち
)
の
者
(
もの
)
だ。
165
何
(
なん
)
と
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
妙案
(
めうあん
)
を
出
(
だ
)
すだらう』
166
モリス
『
妙案
(
めうあん
)
々々
(
めうあん
)
キツとウラル
教
(
けう
)
から、
167
軍師
(
ぐんし
)
として
招聘
(
せうへい
)
しに
来
(
く
)
るだらうよ。
168
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
選挙
(
せんきよ
)
のしなをしをやらないと、
169
又
(
また
)
しても
紛擾
(
ふんぜう
)
の
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
く
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
互
(
たがひ
)
の
不利益
(
ふりえき
)
だからなア』
170
秋山別
『モウ、
171
モリス、
172
選挙
(
せんきよ
)
は
止
(
や
)
めにせうかい。
173
成功
(
せいこう
)
せない
中
(
うち
)
から
定
(
き
)
めておいた
所
(
ところ
)
が
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
174
それより
願望
(
ぐわんもう
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
上
(
うへ
)
、
175
ヂヤンケン
坊
(
ぼう
)
なつと、
176
籤引
(
くぢびき
)
なつと、
177
或
(
あるひ
)
は
御
(
お
)
神籤
(
みくぢ
)
なつと、
178
どんな
方法
(
はうはふ
)
でもあるから、
179
其
(
その
)
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
にせうかい。
180
今
(
いま
)
きまつて
了
(
しま
)
ふと、
181
当選者
(
たうせんしや
)
の
方
(
はう
)
は
活動
(
くわつどう
)
する
楽
(
たのし
)
みがあるが、
182
負
(
まけ
)
た
方
(
はう
)
は
張合
(
はりあひ
)
が
無
(
な
)
うて
命
(
いのち
)
がけの
活動
(
くわつどう
)
は
出来
(
でき
)
ぬからのウ』
183
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
慄
(
ふる
)
ひ
上
(
あが
)
り、
184
エリナの
体
(
からだ
)
に
喰
(
くら
)
ひついて
息
(
いき
)
をこらし
居
(
ゐ
)
る。
185
エリナは
俄
(
にはか
)
に
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
186
萱
(
かや
)
の
繁
(
しげ
)
みに
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
し、
187
エリナ
『ホツホヽヽヽ』
188
と
力
(
ちから
)
のない
厭
(
いや
)
らしい
声
(
こゑ
)
で
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
したものが
在
(
あ
)
る。
[
※
元々は「笑ひ出した。」で終わっていた文章を、御校正本で「ものが在る」という文言を書き加えた。そのため文法的におかしな文章になっている。愛世版では「ものが在る」を加えているが、校定版・八幡版では削除している。
]
189
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
はビツクリして、
190
紅井姫
『モシモシ
姉
(
ね
)
えさま、
191
勘忍
(
かんにん
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
192
と
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
になる。
193
エリナ
『
姫
(
ひめ
)
さま、
194
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますなや。
195
エリナが
一寸
(
ちよつと
)
化者
(
ばけもの
)
の
真似
(
まね
)
して、
196
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
追
(
お
)
ひちらしてやるのですから』
197
紅井姫
『それでも、
198
あなた、
199
そンな
声
(
こゑ
)
をお
出
(
だ
)
しになると、
200
妾
(
わたし
)
怖
(
こわ
)
うて
堪
(
たま
)
りませぬワ。
201
貴女
(
あなた
)
が
化者
(
ばけもの
)
の
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
はれてなりませぬもの』
202
エリナ
『
心配
(
しんぱい
)
しなさるな。
203
怖
(
こわ
)
いこたありませぬよ。
204
向方
(
むかう
)
を
怖
(
こわ
)
がらしてやりさへすれば
良
(
よ
)
いのです。
205
これからエリナは、
206
チツと
厭
(
いや
)
らしい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひますから
其
(
その
)
積
(
つも
)
りで
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
207
キツと
怖
(
こわ
)
い
事
(
こと
)
はありませぬからなア』
208
紅井姫
『それでもこンな
怖
(
こわ
)
い
野原
(
のはら
)
に
寝
(
ね
)
てゐますのに、
209
まだそンな
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
かされては、
210
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
が
縮
(
ちぢ
)
むやうな
気
(
き
)
がして、
211
怖
(
こわ
)
くて
堪
(
たま
)
りませぬワ』
212
エリナ
『それ
程
(
ほど
)
怖
(
こわ
)
ければ、
213
エリナも
止
(
や
)
めておきませうかなア』
214
紅井姫
『どうぞ
御
(
お
)
頼
(
たの
)
みですから、
215
厭
(
いや
)
らしい
声
(
こゑ
)
は
出
(
だ
)
さぬやうにして
下
(
くだ
)
さい』
216
と
慄
(
ふる
)
うてゐる。
217
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
小声
(
こごゑ
)
になつて、
218
秋山別
『オイ、
219
モリス、
220
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がしたぢやないか。
221
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い
晩
(
ばん
)
だなア。
222
こンな
所
(
ところ
)
に
鶯
(
うぐひす
)
の
鳴
(
な
)
く
筈
(
はず
)
もなし、
223
ホヽヽヽほンまに
俺
(
おれ
)
は
気分
(
きぶん
)
がカブラカブラして、
224
足
(
あし
)
が
大根
(
だいこん
)
々々
(
だいこん
)
したよ。
225
どうやら
肝
(
きも
)
つ
玉
(
たま
)
が
洋行
(
やうかう
)
しさうだ、
226
本当
(
ほんたう
)
に
気味
(
きみ
)
の
悪
(
わる
)
い
夜
(
よ
)
さだなア』
227
モリス
『ナアニ
心配
(
しんぱい
)
すな、
228
アリヤ
鳩
(
はと
)
の
爺
(
ぢ
)
イだよ。
229
野鳩
(
のばと
)
がこの
辺
(
へん
)
に
寝
(
ね
)
てゐるのだが、
230
年
(
とし
)
がよつて
歯
(
は
)
が
抜
(
ぬ
)
けたと
見
(
み
)
え、
231
あンな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよるのだよ』
232
国依別
(
くによりわけ
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
目
(
め
)
をさまし、
233
双方
(
さうはう
)
の
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
きゐたり。
234
国依別
『ハテ
面白
(
おもしろ
)
い、
235
此奴
(
こいつ
)
一
(
ひと
)
つおどかして、
236
帰
(
い
)
なしてやらねば、
237
未通
(
おぼこ
)
育
(
そだ
)
ちの
姫
(
ひめ
)
さまが、
238
又
(
また
)
怖
(
こわ
)
がつて
仕方
(
しかた
)
がない』
239
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
240
芒
(
すすき
)
の
株
(
かぶ
)
を
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
、
241
ガサガサガサと
揺
(
ゆす
)
つて
見
(
み
)
せた。
242
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
肝
(
きも
)
をつぶしドスンと
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
し、
243
秋山別
『ギヤハヽヽ、
244
抜
(
ぬ
)
けた
抜
(
ぬ
)
けたア、
245
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れやい』
246
モリス
『
何
(
なに
)
が
抜
(
ぬ
)
けたのだ』
247
秋山別
『
腰
(
こし
)
だ
腰
(
こし
)
だ、
248
どうしても
歩
(
ある
)
けないワ。
249
何
(
なん
)
だか
怪体
(
けたい
)
な
者
(
もの
)
が
居
(
ゐ
)
よるぢやないか。
250
昨夕
(
ゆうべ
)
の
天狗
(
てんぐ
)
なら
一寸
(
ちよつと
)
も
怖
(
こわ
)
い
事
(
こと
)
ないが、
251
あンな
厭
(
いや
)
らしい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよると
厭
(
いや
)
らしくて
仕方
(
しかた
)
がないワ、
252
モリ
公
(
こう
)
、
253
お
前
(
まへ
)
も
怖
(
こわ
)
からふ』
254
モリスは
何
(
なん
)
となく
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しくなり
来
(
き
)
たり、
255
併
(
しか
)
し
無理
(
むり
)
に
空元気
(
からげんき
)
をつけて、
256
震
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
257
モリス
『オイ、
258
アヽヽ
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
259
ナヽヽ
何
(
なに
)
がそれ
程
(
ほど
)
怖
(
こわ
)
いのだ。
260
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
のヒーロー
豪傑
(
がうけつ
)
、
261
ヂヤンヂヤヘールのモリスさまが、
262
ゴヽ
御座
(
ござ
)
るぞよ。
263
バヽ
化者
(
ばけもの
)
位
(
くらゐ
)
、
264
仮令
(
たとへ
)
千匹
(
せんびき
)
や
万匹
(
まんびき
)
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
で、
265
チツとも
怖
(
こわ
)
くない
事
(
こと
)
はないワイ、
266
チヽヽチツとしつかりせぬかい』
267
国依別
『ギヤツハヽヽヽ、
268
ギユフヽヽヽ、
269
ギヨツホヽヽヽ』
270
と
国依別
(
くによりわけ
)
の
怪声
(
くわいせい
)
。
271
秋山別
『モリス、
272
それ
又
(
また
)
出
(
で
)
よつたぞ。
273
益々
(
ますます
)
怪体
(
けたい
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
すぢやないか』
274
モリス
『さうだ、
275
ギヤフアハヽヽなンて
人
(
ひと
)
をギヤフンとさす
化者
(
ばけもの
)
の
計略
(
けいりやく
)
だらう……ヤイ
化者
(
ばけもの
)
、
276
ギヨホヽヽヽて
何
(
なん
)
ぢやい、
277
其
(
その
)
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
で
此
(
この
)
方
(
はう
)
はギヨツとはせぬぞよ。
278
ギユフヽヽヽなンてそら
何
(
なん
)
ぢや。
279
ギユーと
云
(
い
)
はさうと
思
(
おも
)
つたつて、
280
そンな
事
(
こと
)
がこたへる
様
(
やう
)
な
俺
(
おれ
)
と
思
(
おも
)
ふか。
281
バヽ
馬鹿
(
ばか
)
らしい。
282
今日
(
けふ
)
は
日
(
ひ
)
が
悪
(
わる
)
いから、
283
又
(
また
)
明日
(
あす
)
に
出直
(
でなほ
)
せよ』
284
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
小声
(
こごゑ
)
で、
285
紅井姫
『なア
姉
(
ね
)
えさま、
286
どうしましよう。
287
あンな
事
(
こと
)
姉
(
ねえ
)
さまが
仰有
(
おつしや
)
るものだから、
288
本
(
ほん
)
まの……
本
(
ほん
)
まものが
出
(
で
)
たぢやありませぬか、
289
妾
(
わたし
)
怖
(
こわ
)
いわ』
290
エリナ
小声
(
こごゑ
)
で、
291
エリナ
『
姫
(
ひめ
)
さま、
292
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
293
ありや
国依別
(
くによりわけ
)
さまがあんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つてるのですよ。
294
化者
(
ばけもの
)
でも
何
(
なん
)
でもありませぬから』
295
紅井姫
『
姉
(
ねえ
)
さま、
296
どうぞ
御
(
お
)
頼
(
たの
)
みですから、
297
国依別
(
くによりわけ
)
さまに、
298
あンな
事
(
こと
)
言
(
い
)
はないやうに
止
(
と
)
めて
下
(
くだ
)
さいなア』
299
エリナ
『マア
良
(
よ
)
いぢやありませぬか。
300
妾
(
わたし
)
が
斯
(
か
)
うしつかりと
抱
(
かか
)
へて
上
(
あ
)
げますから、
301
さう
震
(
ふる
)
はずに、
302
気
(
き
)
をしつかりなさいませ』
303
国依別
(
くによりわけ
)
萱
(
かや
)
をガサガサと
揺
(
ゆす
)
り
乍
(
なが
)
ら、
304
怪
(
あや
)
しい
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をして、
305
国依別
『ホーホーホホホー、
306
アホ アホ アホ アホ アホ、
307
ア
ヽヽホヽヽ
キ
ヽヽホヽヽ
ヤ
ホヽヽ
マ
ホヽヽ
ワ
ホヽヽ
ケ
ホヽヽホホホイケキヨ、
308
モ
ーホ、
309
リ
ーホ、
310
ス
ーホ、
311
ホホホーホーケキヨ、
312
ケツキヨ ケツキヨ ケツキヨ、
313
ニヤーン、
314
モウ モウ、
315
ワン ワン ウー、
316
ヒン ヒン ヒン』
317
秋山別
『オイ、
318
モリス、
319
いよいよ
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
たぞ。
320
鳥
(
とり
)
だと
思
(
おも
)
へば
猫
(
ねこ
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよる、
321
猫
(
ねこ
)
かと
思
(
おも
)
へば
牛
(
うし
)
犬
(
いぬ
)
狼
(
おほかみ
)
虎
(
とら
)
に
馬
(
うま
)
、
322
オイどうぞ
頼
(
たの
)
みだ、
323
俺
(
おれ
)
を
負
(
お
)
うて
逃
(
に
)
げてくれぬかい。
324
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
たぬワイ……』
325
モリス
『オヽヽ
俺
(
おれ
)
だつて、
326
腰
(
こし
)
が
怪
(
あや
)
しくなつて
来
(
き
)
たワイ。
327
足
(
あし
)
だつて
細
(
こま
)
かう
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
すなり、
328
お
前
(
まへ
)
所
(
どころ
)
か、
329
俺
(
おれ
)
の
身
(
み
)
が
持
(
も
)
てぬのだイ』
330
秋山別
『なんぼ
利己
(
りこ
)
主義
(
しゆぎ
)
が
発達
(
はつたつ
)
した
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だとて、
331
チツとは
秋山別
(
あきやまわけ
)
にも
同情
(
どうじやう
)
して
呉
(
く
)
れたら
如何
(
どう
)
だ』
332
モリス
『
俺
(
おれ
)
だつてシンパシーの
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れては
居
(
ゐ
)
るが、
333
斯
(
か
)
うなつては
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないぢやないか。
334
心臓寺
(
しんぞうでら
)
の
和尚
(
おしやう
)
奴
(
め
)
が
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
早鐘
(
はやがね
)
をつきよつて、
335
何所
(
なにどこ
)
ぢやないワイ。
336
俺
(
おれ
)
やモウ
人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
所
(
どころ
)
ぢやない、
337
四這
(
よつばい
)
になつて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すワイ』
338
とワナワナする
足
(
あし
)
を、
339
犬
(
いぬ
)
の
様
(
やう
)
に
四這
(
よつばい
)
となり、
340
ガサガサと
元来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
へ
這
(
は
)
ひ
出
(
だ
)
した。
341
秋山別
(
あきやまわけ
)
も
余
(
あま
)
りの
怖
(
こわ
)
さに、
342
腰
(
こし
)
の
痛
(
いた
)
いのを
打
(
う
)
ち
忘
(
わす
)
れ、
343
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
にモリスの
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて、
344
無暗
(
むやみ
)
矢鱈
(
やたら
)
に
這
(
は
)
ひ
出
(
だ
)
し
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す。
345
国依別
『アハヽヽヽ、
346
オイ
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
347
モリスの
両人
(
りやうにん
)
さま、
348
アラシカ
峠
(
たうげ
)
の
大天狗
(
だいてんぐ
)
又
(
また
)
の
御名
(
みな
)
は
国依別
(
くによりわけの
)
命
(
みこと
)
、
349
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
様
(
さま
)
のお
伴
(
とも
)
をしてエリナさまと
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
350
此処
(
ここ
)
に
休息
(
きうそく
)
して
居
(
ゐ
)
るから、
351
チツと
来
(
き
)
たら
如何
(
どう
)
だ。
352
よい
取持
(
とりもち
)
をしてやらうかなア』
353
両人
(
りやうにん
)
は
益々
(
ますます
)
驚
(
おどろ
)
き、
354
秋山別、モリス
『ヤアバヽ
化者
(
ばけもの
)
奴
(
め
)
、
355
国依別
(
くによりわけ
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
ひよつた。
356
コラ
大変
(
たいへん
)
だ』
357
と
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
にガサ ガサ ガサ ガサと
四這
(
よつばい
)
になつて、
358
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
して
行
(
ゆ
)
く。
359
(
大正一一・八・一八
旧六・二六
松村真澄
録)
360
(昭和九・一二・一七 王仁校正)
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