霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 茶湯(ちやのゆ)の艶(えん)〔一七二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第1篇 名花移植 よみ(新仮名遣い):めいかいしょく
章:第4章 茶湯の艶 よみ(新仮名遣い):ちゃのゆのえん 通し章番号:1728
口述日:1925(大正14)年01月28日(旧01月5日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
スバールは、タラハン市の町外れにある、茶湯の宗匠タルチンの館にかくまわれることになった。タルチンは、茶湯の道をかなり悟ってはいるが、流行らない宗匠。その女房は若い色黒の大女で、五斗俵を軽々と持ち運び、ヒステリ性を尊ぶ当世流の才子連には、見向きもされないようなタイプである。
タルチンがスバール姫に茶湯を教えているところへ、スダルマン太子がやってくる。二人は互いの逢瀬に恋の歌を交換し合う。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-08-30 17:38:36 文字数:3709 OBC :rm6804
愛善世界社版:58頁 八幡書店版:第12輯 171頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 タラハン市(し)の町外(まちはづ)れ、002裏(うら)は薄濁(うすにご)つた可(か)なり広(ひろ)い溝(みぞ)が流(なが)れてゐる。003常磐木(ときはぎ)のこんもりとした余(あま)り広(ひろ)からぬ屋敷(やしき)の中(なか)に004茶湯(ちやのゆ)の宗匠(そうしやう)タルチンの形(かたち)ばかりの茅屋(ばうをく)が建(た)つてゐる。005家(いへ)は古(ふる)く狭(せま)けれども006宗匠(そうしやう)一人(ひとり)が独身(どくしん)生活(せいくわつ)には可(か)なり広(ひろ)い。007しかも母屋(おもや)と離(はな)れて煩(うるさ)き物音(ものおと)も聞(きこ)えず、008生(お)い茂(しげ)れる庭(には)の植込(うゑこ)みを吾(わが)物(もの)と見(み)れば、009世間体(せけんてい)を飾(かざ)つた紳士(しんし)紳商(しんしやう)の苦(くる)しい外観(みえ)を飾(かざ)る別荘(べつさう)よりも遥(はるか)に勝(まさ)り、010呑気(のんき)で住心地(すみごこち)もよい。011春雨(はるさめ)に包(つつ)まるる向日(むかひ)の森(もり)、012朧月夜(おぼろづきよ)に見渡(みわた)す田圃道(たんぼみち)、013軒端(のきば)に近(ちか)い若葉(わかば)の揺(ゆ)るぎ、014窓(まど)に聞(きこ)ゆる小田(をだ)の蛙(かはず)の泣(な)き声(ごゑ)、015見(み)るからに茶人(ちやじん)の住(す)みさうな家構(いへがま)へである。
016 雀(すずめ)の子(こ)が羽(は)ばたきをするのは、017やがて天空(てんくう)をかける準備(じゆんび)だ。018猫(ねこ)の子(こ)がじやれるのは大好物(だいかうぶつ)の鼠(ねずみ)をとらむとする下稽古(したげいこ)だ。019年頃(としごろ)の女(をんな)が鏡(かがみ)に向(むか)つて、020顔面(がんめん)や頭髪(とうはつ)の整理(せいり)をするのは恋愛(れんあい)至上(しじやう)主義(しゆぎ)を完全(くわんぜん)に達(たつ)せむ為(ため)の準備(じゆんび)である。
021 茶(ちや)の湯(ゆ)の宗匠(そうしやう)タルチンは朝(あさ)早(はや)うから、022坊主頭(ばうずあたま)に捻鉢巻(ねぢはちまき)、023腰衣(こしごろも)を高(たか)くまき上(あ)げ座敷(ざしき)を掃(は)いたり、024門(かど)を掃除(さうぢ)したり、025何(なに)か珍客(ちんきやく)の出(で)て来(く)る様子(やうす)。026さうして何(なん)となく万金(まんきん)の宝(たから)を人知(ひとし)れぬ処(ところ)で拾(ひろ)つたやうな顔付(かほつき)して027ニコニコと笑(わら)つて居(ゐ)る。028愚者(ぐしや)の一芸(いちげい)とか云(い)つて、029此(この)茶坊主(ちやばうず)も茶(ちや)の湯(ゆ)の道(みち)丈(だ)けは可(か)なり覚(さと)つて居(ゐ)るやうである。030母屋(おもや)の方(はう)には宗匠(そうしやう)の女房(にようばう)として年(とし)の若(わか)い体格美(たいかくび)に傾(かたむ)き過(す)ぎた布袋(ほてい)女(をんな)が一人(ひとり)住(す)まつてゐる。031五斗俵(ごとべう)を軽々(かるがる)と持(も)ち運(はこ)ぶその力(ちから)、032どこに一点(いつてん)の女(をんな)らしい処(ところ)も見(み)えない。033顔色(がんしよく)黒(くろ)く頭髪(とうはつ)は茶褐色(ちやかつしよく)の大女(おほをんな)、034到底(たうてい)ヒステリ性(せい)を尊(たふと)ぶ小説家(せうせつか)の材料(ざいれう)になりさうもない奴(やつ)。035もし当世流(たうせいりう)の才子風(さいしふう)より見(み)れば036一切(いつさい)の境遇(きやうぐう)に何(なん)等(ら)の意味(いみ)もなく殆(ほとん)ど生存(せいぞん)の要(えう)もなく、037只(ただ)一個(いつこ)の哀(あは)れ至極(しごく)なる肉体物(にくたいぶつ)に過(す)ぎないのだ。038鞋虫(わらぢむし)の文学者(ぶんがくしや)や、039穀潰(ごくつぶ)しの政治家(せいぢか)や、040蓄音器(ちくおんき)の教育家(けういくか)や、041米搗(こめつき)螽斯(ばつた)の小役人(こやくにん)共(ども)が、042仔細(しさい)らしく茶(ちや)の湯(ゆ)の手前(てまへ)を誇(ほこ)り、043交際(かうさい)場裡(じやうり)の補助(ほじよ)にもがなと、044茶坊主(ちやばうず)の茅屋(ばうをく)を折々(をりをり)訪(たづ)ねて来(く)るのみで、045余(あま)り流行(はや)らない宗匠(そうしやう)である。046身代(しんだい)は痩(や)せて壁(かべ)迄(まで)が骨(ほね)を出(だ)し軒(のき)は傾(かたむ)き、047上雪隠(かみせつちん)の屋根(やね)から月(つき)を見(み)る重宝(ちようはう)な住居(すまゐ)である。048夕立(ゆふだち)の時(とき)にはバケツや、049盥(たらひ)、050手桶(てをけ)等(など)を慌(あわ)てまはして座敷中(ざしきぢう)に持(も)ち運(はこ)び、051時(とき)ならぬ雨太鼓(あまだいこ)の音(おと)をさせてゐる。
052 此(この)頃(ごろ)此(この)茶室(ちやしつ)に家(いへ)と主人(しゆじん)に不相当(ふさうたう)な珍客(ちんきやく)が、053チヨコチヨコ窓(まど)の内外(ないぐわい)から顔(かほ)を出(だ)す事(こと)がある。054艶々(つやつや)した髪(かみ)の色(いろ)、055名人(めいじん)の描(ゑが)いた天人(てんにん)の絵(ゑ)から抜(ぬ)け出(だ)したやうな美人(びじん)が、056何処(どこ)とはなしに初心(うぶ)々々(うぶ)しいけれども、057さりとて田舎出(いなかで)の女(をんな)とも見(み)えず、058山猿(やまざる)の娘(むすめ)とも見(み)えず、059起居(ききよ)振舞(ふるまひ)しとやかに、060頭(あたま)の先(さき)から指(ゆび)の先(さき)まで、061一寸(ちよつと)動(うご)けば四辺(あたり)の空気(くうき)は千万(せんまん)里(り)の彼方(かなた)迄(まで)波動(はどう)するかと思(おも)はるる位(くらゐ)、062有情(いうじやう)男子(だんし)の肝魂(きもたま)を奪(うば)つた。063宗匠(そうしやう)のタルチンは妙齢(めうれい)の美人(びじん)に向(むか)つて得意(とくい)の茶道(さだう)に就(つ)いて鹿爪(しかつめ)らしき講義(かうぎ)を初(はじ)め出(だ)した。064美(うつく)しき乙女(をとめ)は云(い)ふ迄(まで)もなくアリナが山奥(やまおく)から生捕(いけど)つて来(き)た、065山霊(さんれい)水伯(すいはく)の精(せい)の変化(へんげ)と云(い)ふべき、066スバール姫(ひめ)たる事(こと)は云(い)ふ迄(まで)もない。
067タル『姫(ひめ)様(さま)、068女(をんな)の最(もつと)も習(なら)つておかねばならない事(こと)は茶(ちや)の湯(ゆ)で厶(ござ)いますから、069今日(こんにち)は太子(たいし)様(さま)の有難(ありがた)き尊(たふと)き御(ご)命令(めいれい)によりまして、070卑(いや)しき私(わたし)が茶(ちや)の湯(ゆ)の御(お)手前(てまへ)を恐(おそ)れ乍(なが)ら伝授(でんじゆ)さして頂(いただ)きませう。071先(ま)ず茶(ちや)の湯(ゆ)の講目(かうもく)から心得(こころえ)て居(を)つて貰(もら)はなくてはなりませぬから、072あらましの事(こと)を申(まをし)上(あ)げます』
073ス『ハイ、074何(なに)から何(なに)までお世話(せわ)になりまして有難(ありがた)う厶(ござ)います。075何(なん)と云(い)つても十(じふ)年(ねん)許(ばか)りも子供(こども)の時(とき)から山奥(やまおく)に連(つ)れ行(ゆ)かれ、076此(この)世(よ)の風(かぜ)にも当(あた)つてゐないやうな、077おぼこ娘(むすめ)の世間(せけん)知(し)らずで厶(ござ)いますから、078茶(ちや)の湯(ゆ)に限(かぎ)らず何事(なにごと)も御(ご)指導(しだう)をお願(ねが)ひ申(まを)します』
079 タルチンは笑(ゑみ)を満面(まんめん)に浮(うか)べ、080低(ひく)い鼻(はな)をピコつかせ、081三方白(さんぱうじろ)の目(め)をきよろつかせ乍(なが)ら、082フンと右(みぎ)の手(て)の甲(かふ)で鼻(はな)を左(ひだり)から右(みぎ)へ撫(な)で、083自分(じぶん)の尻(しり)の方(はう)でモシヤモシヤとこすりつけ、084言葉(ことば)迄(まで)も荘重(さうちよう)らしく粧(よそほ)ひ乍(なが)ら、
085タル『抑(そもそも)茶(ちや)の湯(ゆ)は三ケ(さんこ)の綱領(かうりやう)を以(もつ)て本(もと)とされてゐます。086さうして茶(ちや)の湯(ゆ)の仲通(なかどほり)の習(なら)ひと云(い)ふのは明徳(めいとく)を明(あきら)かにするの謂(いひ)であつて、087天命(てんめい)に基(もとづ)いて性(せい)を率(ひき)ゆるの道(みち)で厶(ござ)います。088扨(さ)て茶(ちや)の湯(ゆ)も、089その大本(たいほん)を極(きは)めるならば何(いづ)れの手前(てまへ)も十三(じふさん)手前(てまへ)が父(ちち)となり母(はは)となるのです。090之(これ)から三百(さんびやく)八十(はちじふ)手前(てまへ)も分(わか)れるのです。091「すべて物(もの)は本末(ほんまつ)があり、092事(こと)には終始(しうし)があり、093前後(ぜんご)する事(こと)を知(し)る時(とき)は即(すなは)ち道(みち)に近(ちか)し。094その本(もと)乱(みだ)れて未(いま)だ其(その)末(すゑ)をさまるものは非(あら)ざる也(なり)」と聖人(せいじん)が説(と)かれてゐるでせう。095それ故(ゆゑ)に茶(ちや)の湯(ゆ)は十三(じふさん)手前(てまへ)を根本(こんぽん)にして諸々(もろもろ)の手前(てまへ)は此(この)中(うち)にあるのです。096そして又(また)許可(ゆるし)の手前(てまへ)と云(い)ふ所(ところ)迄(まで)稽古(けいこ)が進(すす)むと技芸(ことわざ)が広(ひろ)くて、097色々(いろいろ)に別(わか)れます。098これ新民(しんみん)の場(ば)にして品々(しなじな)変(かは)りあり。099手前(てまへ)は、100その心(こころ)を選択(せんたく)するの謂(いひ)であります。101古(いにしへ)東山殿(ひがしやまどの)より千(せん)の利休(りきう)及(および)現代(げんだい)に至(いた)つて其(そ)の命(めい)維(こ)れ新(あたら)しく、102拙者(せつしや)の教(をし)ふる所(ところ)は真台子(しんだいす)[※「真台子(しんだいす)」とは、茶道で使う棚物の中で最も格式が高い基本の道具。]七段(しちだん)は允可(いんか)至極(しごく)なり。103徳(とく)を明(あきら)かにするを本(もと)となし、104民(たみ)を明(あきら)かにするを末(すゑ)とするが故(ゆゑ)に、105茶(ちや)の湯(ゆ)なるものは仲通(なかどほり)を本(もと)となし、106手前(てまへ)を末(すゑ)となすのです。107真台子(しんだいす)を本(もと)となすを至善(しぜん)とするのです。108されば七段(しちだん)は、109その目(もく)の大(だい)なるものです。110ここに於(おい)て其(その)精美(せいび)を極(きは)め、111皆(みな)以(もつ)て其(その)止(とど)まる所(ところ)を知(し)る時(とき)は、112少(すこ)しの疑(うたが)ひもなし。113故(ゆゑ)に私(わたくし)の教(をし)へるのを茶(ちや)の湯(ゆ)の真台子(しんだいす)と申(まを)します。114先(ま)づ茶(ちや)の湯(ゆ)の席(せき)にはこれ此(この)通(とほ)り四畳半(よでふはん)、115順勝手(じゆんかつて)と云(い)ふ事(こと)がある。116そして順(じゆん)のまはり式(しき)とは居畳(ゐだたみ)より左(ひだり)へ廻(まは)るのを順(じゆん)と申(まを)し、117又(また)四畳半(よでふはん)に順逆(じゆんぎやく)の勝手(かつて)に習(なら)ひがある。118順(じゆん)の回(まは)り式(しき)にして仲(なか)の半畳(はんぜふ)に爐(ろ)をきり、119自在鎖(じざいぐさり)をかけるか、120または五徳(ごとく)に釜(かま)をかけるか、121之(これ)を順勝手(じゆんかつて)と申(まを)すのです。122今(いま)私(わたくし)が一(ひと)つの歌(うた)を詠(よ)みますから、123つけとめておいて下(くだ)さい』
124ス『ハイ、125いろいろと高遠(かうゑん)な御(ご)教訓(けうくん)を頂(いただ)きまして有難(ありがた)う厶(ござ)います。126何分(なにぶん)世間(せけん)慣(な)れのしない少女(せうぢよ)の事(こと)ですから、127嘸(さぞ)御(お)師匠(ししやう)様(さま)もまどろしい事(こと)で厶(ござ)いませう』
128と云(い)ひ乍(なが)ら料紙箱(れうしばこ)より硯(すずり)、129筆(ふで)、130墨(すみ)、131巻紙(まきがみ)等(など)とり出(だ)し、132タルチンの読(よ)み上(あ)げる歌(うた)を記(しる)し初(はじ)めける。
 
133タル『一、134門(かど)に入(い)り右(みぎ)に座敷(ざしき)のあるならば
135  順勝手(じゆんかつて)とはかねて知(し)るべし。
136 一、137亭主(ていしゆ)居(ゐ)て左(ひだり)へ廻(まは)るを順(じゆん)と云(い)ふ
138  之(これ)は即(すなは)ち正(せい)の字(じ)の心(こころ)。
139 一、140家(いへ)造(つく)りかねて思案(しあん)をしてぞよき
141  建(た)て上(あが)りのなきは悪(あし)きものぞと。
142 一、143爐(ろ)の内(うち)の見(み)えにくき程(ほど)難儀(なんぎ)なは
144  炭(すみ)する時(とき)に燈火(あかり)欲(ほ)しきぞ。
145 一、146枯木(かれき)だも香(にほ)へと藤(ふぢ)をまとわせて
147  流石(さすが)亭主(ていしゆ)の手利(てぎ)きとは知(し)る。
148 一、149野(の)も山(やま)も花(はな)も香(にほひ)も見(み)乍(なが)らに
150  生(い)ける心(こころ)を知(し)る人(ひと)ぞ知(し)る。
151 一、152よりよりに埃(ほこり)を払(はら)ふ茶(ちや)の湯師(ゆし)の
153  心(こころ)の塵(ちり)はさもあらむかし。
154 一、155門(かど)に入(い)り左(ひだり)に座敷(ざしき)のあるものは
156  逆勝手(ぎやくかつて)ぞと知(し)るがよろしき。
157 一、158亭主(ていしゆ)居(ゐ)て右(みぎ)へ廻(まは)るを逆(ぎやく)と云(い)ひ
159  之(これ)は即(すなは)ち従(じゆう)の字(じ)の心(こころ)。
 
160サアサア此(この)歌(うた)によつて爐(ろ)の構(かま)へや室内(しつない)の様子(やうす)があらまし解(わか)るでせう。161あまり一度(いちど)に沢山(たくさん)教(をし)へると、162お忘(わす)れになるといかぬから、163もう少(すこ)し教(をし)へて之(これ)で休(やす)みませう。164又(また)明日(みやうにち)から実地(じつち)の手前(てまへ)を御覧(ごらん)に入(い)れますから。165扨(さて)茶(ちや)の湯(ゆ)の講目(かうもく)七段(しちだん)の習(なら)ひを申(まを)します。
 
166初段(しよだん)、167大盆(だいぼん)、168小盆(こぼん)、169唐津物(からつもの)、170茶入台(ちやいれだい)、171天目(てんもく)
172二段(にだん)、173大盆(だいぼん)、174大海(だいかい)茶入(ちやいれ)、175合子(がふす)の物置(ものおき)、176盆点(ぼんてん)
177三段(さんだん)、178大盆袋(だいぼんぶくろ)、179天目(てんもく)茶筌入(ちやせんいれ)
180四段(よだん)、181大盆(だいぼん)内海(ないかい)長緒(ながお)、182薄茶台(うすちやだい)、183天目(てんもく)三組(みくみ)
184五段(ごだん)、185大盆台(だいぼんだい)、186天目(てんもく)茶碗(ちやわん)、187二眼点(にがんてん)
188六段(ろくだん)、189丸盆(まるぼん)、190分紊(ぶんぶん)隠架(いんか)の蓋置(ふたおき)
191七段(しちだん)、192大盆(だいぼん)二(ふた)つ台(だい)、193天目(てんもく)穂屋(ほや)、194香爐(かうろ)、195蓋置(ふたおき)
 
196の次第(しだい)をもボツボツ教(をし)へませう』
197ス『ハイ、198有難(ありがた)う、199どうかよろしう願(ねが)ひます』
200 かかる所(ところ)へ面(おもて)を包(つつ)み足音(あしおと)を忍(しの)ばせて、201空巣(あきす)狙(ねら)ひが人(ひと)の住宅(ぢうたく)を覗(のぞ)くやうな様子(やうす)で、202四辺(あたり)を憚(はばか)り乍(なが)ら入(い)り来(く)るのはスダルマン太子(たいし)の君(きみ)であつた。
203 タルチンは太子(たいし)の姿(すがた)を見(み)るより且(かつ)驚(おどろ)き且(かつ)喜(よろこ)び乍(なが)ら、204米搗(こめつき)螽斯(ばつた)宜(よろ)しく幾度(いくど)となく禿頭(とくとう)の杵(きね)で畳(たたみ)の上(うへ)に餅(もち)をつき乍(なが)ら、205玄関口(げんくわんぐち)迄(まで)五足(いつあし)六足(むあし)スルスルと後(あと)ひざり[※「後ひざり」とは、後ずさりの方言]をなし、206雪駄(せつた)のやうに擦(す)りへらした庭下駄(にはげた)を足(あし)にひつかけ、207粋(すゐ)を利(き)かして母屋(おもや)の方(はう)へと208茶色(ちやいろ)の帽子(ばうし)を目深(まぶか)に冠(かぶ)り、2081稍(やや)俯向(うつむ)き気味(ぎみ)になつて、209尻(しり)をプリンプリンとふり乍(なが)ら庭(には)の木立(こだち)を縫(ぬ)うて帰(かへ)り行(ゆ)く。
210 野山(のやま)に嘯(うそぶ)く虎(とら)、211獅子(しし)、212熊(くま)、213狼(おほかみ)も、214山林(さんりん)に囀(さへづ)る百鳥(ももどり)も乃至(ないし)は虫族(むしけら)地虫(ぢむし)の類(るゐ)に至(いた)る迄(まで)、215天地(てんち)の間(あひだ)に生(い)きとし生(い)けるもの、216一(いつ)として恋(こひ)を歌(うた)はぬはなく、217色情(いろ)におぼれぬものはない。218況(ま)してや坊(ぼつ)ちやま育(そだ)ちのタラハン城(じやう)の太子(たいし)、219青春(せいしゆん)の血(ち)にもゆる好男子(かうだんし)が220花(はな)も恥(はぢ)らう天成(てんせい)の美人(びじん)の前(まへ)に出(で)ては胸(むね)の高鳴(たかな)りを、2201止(とど)むる事(こと)は出来(でき)なかつた。221スバール姫(ひめ)も同(おな)じ思(おも)ひの恋衣(こひごろも)、222頬(ほほ)を紅(くれなゐ)に染(そめ)乍(なが)ら、223片袖(かたそで)に艶麗(えんれい)な顔(かほ)を包(つつ)んで暫(しば)しは無言(むごん)の幕(まく)をつづけてゐた。224恋(こひ)にかけては初心(うぶ)の太子(たいし)と初心(うぶ)の乙女(をとめ)、225互(たがひ)に云(い)ひたき事(こと)も口(くち)ごもり、226何(なん)とはなく恋(こひ)の曲物(くせもの)にとり挫(ひし)がれて、
227『会(あ)ひたかつた、228見(み)たかつた、229可愛(かあ)いいものよ』
230と只(ただ)一言(ひとこと)の口切(くちき)りさへも、231なし得(え)ぬ迄(まで)に臆病(おくびやう)になつてゐた。232さりながら、233数多(あまた)のよからぬ小盗人(こぬすびと)と共(とも)に、234山(やま)の奥(おく)とは云(い)ひ乍(なが)ら、235揉(も)まれて居(ゐ)たスバール姫(ひめ)は、236比較(ひかく)的(てき)心(こころ)も開(ひら)けオキヤンになつて居(ゐ)た。237スバール姫(ひめ)は思(おも)ひきつて太子(たいし)の肩(かた)に飛(と)びつき、238腕(うで)もむしれる許(ばか)り固(かた)く抱(だ)き〆(し)めて239互(たがひ)の熱(あつ)い頬面(ほほべた)をピタリと合(あは)せた。240四(よ)つの目(め)には恋(こひ)の叶(かな)うた嬉(うれ)し涙(なみだ)が滲(にじ)んでゐた。
241 スバール姫(ひめ)は思(おも)ひきつて三十一(みそひと)文字(もじ)に思(おも)ひを述(の)べた。
242『我(わが)君(きみ)の御幸(みゆき)のありしその日(ひ)より
243今日(けふ)の吉(よ)き日(ひ)を待(ま)ちし苦(くる)しさ。
244嬉(うれ)しくもアリナの君(きみ)に迎(むか)へられ
245太子(よつぎ)の君(きみ)に会(あ)ひし嬉(うれ)しさ。
246吾(わが)恋路(こひぢ)いや永久(とこしへ)に続(つづ)けかしと
247過(す)ぎにし日(ひ)より祈(いの)りけるかな』
248太(たい)『浅倉(あさくら)の山(やま)に見初(みそ)めし乙女子(をとめご)の
249御姿(みすがた)こそは命(いのち)なりけり。
250汝(なれ)思(おも)ふ吾(わが)恋衣(こひごろも)ボトボトと
251乾(かわ)く間(ま)もなく涙(なみだ)しにけり。
252天地(あめつち)の神(かみ)の恵(めぐ)みに守(まも)られて
253今日(けふ)嬉(うれ)しくも汝(なれ)に会(あ)ふかな。
254人(ひと)はいざ如何(いか)に吾(わが)身(み)を図(はか)ゆとも
255いねてむ後(のち)は如何(いか)で恐(おそ)れむ』
256ス『有難(ありがた)し吾(わが)恋(こ)ふ君(きみ)の御言葉(みことば)は
257賤(しづ)の乙女(をとめ)の命(いのち)なりけり。
258永久(とこしへ)に変(かは)らずあれと祈(いの)るかな
259君(きみ)と吾(わが)身(み)の美(うつく)しき仲(なか)を』
260(大正一四・一・五 新一・二八 北村隆光録)
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