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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
第1章 貞操論
第2章 恋盗詞
第3章 山出女
第4章 茶湯の艶
第2篇 恋火狼火
第5章 変装太子
第6章 信夫恋
第7章 茶火酌
第8章 帰鬼逸迫
第3篇 民声魔声
第9章 衡平運動
第10章 宗匠財
第11章 宮山嵐
第12章 妻狼の囁
第13章 蛙の口
第4篇 月光徹雲
第14章 会者浄離
第15章 破粋者
第16章 戦伝歌
第17章 地の岩戸
第5篇 神風駘蕩
第18章 救の網
第19章 紅の川
第20章 破滅
第21章 祭政一致
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第68巻(未の巻)
> 第2篇 恋火狼火 > 第5章 変装太子
<<< 茶湯の艶
(B)
(N)
信夫恋 >>>
第五章
変装
(
へんさう
)
太子
(
たいし
)
〔一七二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第2篇 恋火狼火
よみ(新仮名遣い):
れんかろうか
章:
第5章 変装太子
よみ(新仮名遣い):
へんそうたいし
通し章番号:
1729
口述日:
1925(大正14)年01月29日(旧01月6日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
太子は、スバール姫との逢瀬のため、アリナを自分の身代わりにする。太子は労働服を着て城を抜け出し、アリナは太子の錦衣を着て太子の部屋に座り込んだ。アリナは、太子が平民生活を希望するなら、自分が代わりに王位に上ろうか、と独語している。
ところへ、アリナの父、左守が太子に会いにやってくる。妻の命日に、息子を帰宅させようと頼みにやってきたのであった。アリナははっとするが、「アリナは先に帰った」と嘘を言って、その場を切り抜ける。
アリナが、自分の父親さえも騙せた自分の手並みに一人悦にいっているうちに、夜はふけていった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6805
愛善世界社版:
71頁
八幡書店版:
第12輯 176頁
修補版:
校定版:
71頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
タラハン
城
(
じやう
)
太子殿
(
たいしでん
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には、
002
スダルマン
太子
(
たいし
)
と、
003
アリナがいつもの
如
(
ごと
)
く
睦
(
むつま
)
しげに
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
或
(
ある
)
秘密
(
ひみつ
)
を
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
004
アリナ『
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
、
005
昨夜
(
さくや
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
006
定
(
さだ
)
めてスバール
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
もお
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばしたでせう』
007
太子
(
たいし
)
は
稍
(
やや
)
頬
(
ほほ
)
を
染
(
そ
)
めながら、
008
アリナに
顔
(
かほ
)
を
隠
(
かく
)
すやうな
調子
(
てうし
)
で、
009
太子
(
たいし
)
『いやもう
本当
(
ほんたう
)
に
愉快
(
ゆくわい
)
だつた。
010
人生
(
じんせい
)
恋愛
(
れんあい
)
の
成就
(
じやうじゆ
)
した
時
(
とき
)
位
(
くらゐ
)
楽
(
たの
)
しいものはない。
011
余
(
よ
)
も
生
(
うま
)
れかへつたやうな
心持
(
こころもち
)
がしたよ。
012
之
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふのもお
前
(
まへ
)
の
尽力
(
じんりよく
)
の
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
と
感謝
(
かんしや
)
して
居
(
ゐ
)
る』
013
ア『
勿体
(
もつたい
)
ない
014
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますか。
015
臣下
(
しんか
)
が
君
(
きみ
)
の
為
(
ため
)
に、
016
所有
(
あらゆる
)
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
すのは
当然
(
あたりまへ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
017
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らタルチンの
家
(
いへ
)
は
見
(
み
)
る
影
(
かげ
)
もない
茅屋
(
あばらや
)
で
018
嘸
(
さぞ
)
お
窮屈
(
きうくつ
)
で
厶
(
ござ
)
いましたでせう。
019
九五
(
きうご
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
彼
(
あ
)
のやうな
所
(
ところ
)
へお
通
(
かよ
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすやうにしたのも
020
皆
(
みな
)
私
(
わたくし
)
の
不行届
(
ふゆきとど
)
きからで
厶
(
ござ
)
います』
021
太
(
たい
)
『それだと
云
(
い
)
つて
外
(
ほか
)
に
姫
(
ひめ
)
を
匿
(
かく
)
す
適当
(
てきたう
)
の
家
(
いへ
)
もなし、
022
お
前
(
まへ
)
としては
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
尽
(
つく
)
して
呉
(
く
)
れたのだ。
023
そんな
心遣
(
こころづかひ
)
は
無用
(
むよう
)
だ。
024
さうしていつも
広
(
ひろ
)
い
館
(
やかた
)
で
起臥
(
きぐわ
)
して
居
(
ゐ
)
る
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は、
025
あのやうな
風流
(
ふうりう
)
な
茅屋
(
ばうをく
)
が
大変
(
たいへん
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたよ。
026
平民
(
へいみん
)
生活
(
せいくわつ
)
の
味
(
あぢ
)
を
覚
(
おぼ
)
え、
027
昨日
(
さくじつ
)
初
(
はじ
)
めて
平民
(
へいみん
)
の
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
や、
028
何事
(
なにごと
)
も
大袈裟
(
おほげさ
)
でなく
簡単
(
かんたん
)
に
片
(
かた
)
づく
事
(
こと
)
の
味
(
あぢ
)
を
覚
(
おぼ
)
え
029
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
かつたよ。
030
初
(
はじ
)
めて
人間
(
にんげん
)
になつたやうな
心持
(
こころもち
)
がした。
031
あゝ
俺
(
わし
)
はなぜこんな
身分
(
みぶん
)
に
生
(
うま
)
れて
来
(
き
)
たのだらう、
032
門
(
もん
)
の
出入
(
でいり
)
にも
仰々
(
ぎやうぎやう
)
しい
数多
(
あまた
)
の
衛兵
(
ゑいへい
)
に
送迎
(
そうげい
)
され、
033
まるきり
動物園
(
どうぶつゑん
)
の
虎
(
とら
)
を
送
(
おく
)
るやうな
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ。
034
出来
(
でき
)
る
事
(
こと
)
なら
035
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
わし
)
と
地位
(
ちゐ
)
を
代
(
かは
)
つて
欲
(
ほ
)
しいものだ』
036
ア『
左様
(
さやう
)
に
思召
(
おぼしめ
)
すのも
御
(
ご
)
無理
(
むり
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
037
御
(
ご
)
窮屈
(
きうくつ
)
の
御
(
ご
)
境遇
(
きやうぐう
)
察
(
さつ
)
し
奉
(
たてまつ
)
ります。
038
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
039
殿下
(
でんか
)
はタラハン
国
(
ごく
)
の
君主
(
きみ
)
たるべく
040
使命
(
しめい
)
をもつて、
0401
天
(
てん
)
よりお
降
(
くだ
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
041
是
(
これ
)
許
(
ばか
)
りはどうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬ。
042
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
私
(
わたくし
)
は
能
(
あた
)
ふ
限
(
かぎ
)
り
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
自由
(
じいう
)
になるやうと
務
(
つと
)
めて
居
(
を
)
るので
厶
(
ござ
)
います』
043
太
(
たい
)
『
実
(
じつ
)
はアリナよ、
044
お
前
(
まへ
)
に
折入
(
をりい
)
つての
頼
(
たの
)
みがある。
045
何
(
なん
)
と
聞
(
き
)
いては
呉
(
く
)
れまいかなア。
046
余
(
よ
)
が
一生
(
いつしやう
)
の
願
(
ねが
)
ひだから』
047
ア『
父祖
(
ふそ
)
代々
(
だいだい
)
厚恩
(
こうおん
)
を
受
(
う
)
けた
私
(
わたくし
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
048
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
でも
身命
(
しんめい
)
を
賭
(
と
)
して
承
(
うけたま
)
はりませう』
049
太
(
たい
)
『
早速
(
さつそく
)
の
承知
(
しようち
)
満足
(
まんぞく
)
に
思
(
おも
)
ふ。
050
実
(
じつ
)
はアリナ
051
お
前
(
まへ
)
が
俺
(
わし
)
に
変装
(
へんさう
)
して
暫
(
しばら
)
く
此
(
この
)
殿内
(
でんない
)
に
納
(
をさ
)
まつて
居
(
ゐ
)
て
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いのだ』
052
ア『
成程
(
なるほど
)
、
053
妙案
(
めうあん
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
054
私
(
わたくし
)
を
替玉
(
かへだま
)
にしておいて
殿下
(
でんか
)
は
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
匿家
(
かくれが
)
へお
通
(
かよ
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすと
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
考案
(
かうあん
)
ですか。
055
半日
(
はんにち
)
や
一
(
いち
)
日
(
にち
)
位
(
ぐらゐ
)
は
化
(
ば
)
け
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るでせう。
056
併
(
しか
)
し
長
(
なが
)
くなりますと
化狐
(
ばけぎつね
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
が
見
(
み
)
えますから』
057
太
(
たい
)
『ハヽヽヽヽ。
058
化狐
(
ばけぎつね
)
か
化狸
(
ばけだぬき
)
か
知
(
し
)
らぬが、
059
お
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
は
余
(
よ
)
に
生写
(
いきうつ
)
しと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
060
瓦
(
かはら
)
を
金
(
きん
)
に
化
(
くわ
)
したやうな
事
(
こと
)
もあるまい。
061
どうか
頼
(
たの
)
むよ』
062
ア『
殿下
(
でんか
)
の
仰
(
おほ
)
せなれば
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
でも
謹
(
つつし
)
んでお
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
しますが、
063
金玉
(
きんぎよく
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
に
化
(
ば
)
け
済
(
す
)
ました
所
(
ところ
)
で、
064
塗
(
ぬ
)
つた
金箔
(
きんぱく
)
は
直
(
すぐ
)
に
剥
(
は
)
げて
仕舞
(
しま
)
ひますから、
065
是
(
こ
)
れは
私
(
わたくし
)
に
取
(
と
)
つて
随分
(
ずいぶん
)
重大
(
ぢうだい
)
な
役目
(
やくめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
066
私
(
わたくし
)
も
今日
(
けふ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
か
半日
(
はんにち
)
か、
067
仮
(
かり
)
に
殿下
(
でんか
)
となつて
太子
(
たいし
)
気分
(
きぶん
)
を
味
(
あぢ
)
はつて
見
(
み
)
ませう。
068
殿下
(
でんか
)
は
暫
(
しばら
)
く
平民
(
へいみん
)
気分
(
きぶん
)
を
味
(
あぢ
)
はつて
御覧
(
ごらん
)
なさいませ』
069
太
(
たい
)
『アヽ
面白
(
おもしろ
)
い、
070
どうか
頼
(
たの
)
むよ。
071
今日
(
けふ
)
の
夕方
(
ゆふがた
)
から
薄暗
(
うすやみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
頬被
(
ほほかむり
)
をグツスリとなし、
072
労働服
(
らうどうふく
)
でも
纏
(
まと
)
うて
鼻歌
(
はなうた
)
でも
謡
(
うた
)
ひ
出
(
で
)
かけて
見
(
み
)
よう。
073
どうか
其
(
その
)
服
(
ふく
)
をそつと
調達
(
てうたつ
)
しておいては
呉
(
く
)
れまいか』
074
ア『かかる
御
(
ご
)
用命
(
ようめい
)
は
必
(
かなら
)
ず
下
(
くだ
)
るべきものと
存
(
ぞん
)
じまして、
075
ちやんと
用意
(
ようい
)
をしておきました』
076
太
(
たい
)
『お
前
(
まへ
)
は
労働者
(
らうどうしや
)
に
知己
(
ちき
)
でもあるのか』
077
ア『いえ
別
(
べつ
)
に
知己
(
ちき
)
と
云
(
い
)
つてはありませぬが、
078
横町
(
よこまち
)
の
古物商
(
ふるてや
)
で
買
(
か
)
つておきました』
079
太
(
たい
)
『
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
のない
男
(
をとこ
)
だな、
080
アツハヽヽヽヽ』
081
ア『
私
(
わたくし
)
も
亦
(
また
)
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものの
肌
(
はだ
)
は
存
(
ぞん
)
じませぬが、
082
殿下
(
でんか
)
に
於
(
お
)
かせられてもお
初
(
はつ
)
の
様
(
やう
)
に
伺
(
うかが
)
ひます。
083
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
084
随分
(
ずいぶん
)
趣味
(
しゆみ
)
津々
(
しんしん
)
たるものでせうなア』
085
太
(
たい
)
『
趣味
(
しゆみ
)
津々
(
しんしん
)
どころか
086
天
(
てん
)
も
地
(
ち
)
もタラハン
城
(
じやう
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
なり、
087
自分
(
じぶん
)
の
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
どこかへ
吸収
(
きふしう
)
されたやうな
心持
(
こころもち
)
になつたよ。
088
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふもの
位
(
くらゐ
)
神聖
(
しんせい
)
な
尊貴
(
そんき
)
なものは
有
(
あ
)
るまいと
思
(
おも
)
ふ。
089
あゝもう
耐
(
たま
)
らなくなつて
来
(
き
)
た。
090
早
(
はや
)
く
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れないかなア』
091
ア『
殿下
(
でんか
)
、
092
余
(
あま
)
りぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
093
貴方
(
あなた
)
は
恋
(
こひ
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
、
094
私
(
わたくし
)
は
云
(
い
)
はば
恋
(
こひ
)
の
敗者
(
はいしや
)
否
(
いな
)
従僕
(
じゆうぼく
)
です。
095
従僕
(
じゆうぼく
)
の
前
(
まへ
)
でさう
惚
(
のろ
)
けられては
此
(
この
)
アリナもやり
切
(
き
)
れませぬわ、
096
アツハヽヽヽヽ』
097
太
(
たい
)
『
夫
(
それ
)
だと
云
(
い
)
つて「どんな
塩梅
(
あんばい
)
だつた」などとお
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
余
(
よ
)
の
情緒
(
じやうちよ
)
を
引
(
ひ
)
きずり
出
(
だ
)
さうとするものだから
098
恋
(
こひ
)
には
脆
(
もろ
)
き
余
(
よ
)
の
魂
(
たましひ
)
は
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
浮
(
う
)
いて
出
(
で
)
たのだ。
099
あゝアリナ
100
もう
余
(
よ
)
は
耐
(
た
)
へ
切
(
き
)
れなくなつて
来
(
き
)
たよ』
101
ア『
大変
(
たいへん
)
お
気
(
き
)
に
召
(
め
)
したやうですが、
102
私
(
わたくし
)
は
一
(
ひと
)
つ
心配
(
しんぱい
)
が
殖
(
ふ
)
えて
来
(
き
)
たやうです。
103
殿下
(
でんか
)
が
神聖
(
しんせい
)
な
恋愛
(
れんあい
)
に
魂
(
たましひ
)
を
傾注
(
けいちう
)
されるのは
大変
(
たいへん
)
結構
(
けつこう
)
では
有
(
あ
)
りますが、
104
それが
為
(
ため
)
に
王家
(
わうけ
)
を
忘
(
わす
)
れ、
105
或
(
あるひ
)
は
平民
(
へいみん
)
にならうなどの
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
されては、
106
お
取持
(
とりもち
)
をしたこのアリナは
王家
(
わうけ
)
に
対
(
たい
)
し
国家
(
こくか
)
に
対
(
たい
)
し、
107
死
(
し
)
をもつて
詫
(
わび
)
ても
及
(
およ
)
ばないやうな
罪
(
つみ
)
になりますから、
108
そこは
余
(
あま
)
り
熱
(
ねつ
)
せないやう
程々
(
ほどほど
)
に
恋
(
こひ
)
を
味
(
あぢ
)
はつて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いものです』
109
太
(
たい
)
『
王家
(
わうけ
)
は
王家
(
わうけ
)
、
110
国家
(
こくか
)
は
国家
(
こくか
)
だ。
111
王家
(
わうけ
)
や
国家
(
こくか
)
と
恋愛
(
れんあい
)
とを
混同
(
こんどう
)
して
貰
(
もら
)
つては
困
(
こま
)
るよ。
112
余
(
よ
)
が
王位
(
わうゐ
)
に
上
(
のぼ
)
れば
国
(
くに
)
の
父
(
ちち
)
として
万機
(
ばんき
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
総攪
(
そうらん
)
し、
113
又
(
また
)
恋愛
(
れんあい
)
としては
上下
(
じやうげ
)
の
障壁
(
しやうへき
)
を
撤廃
(
てつぱい
)
し、
114
天成
(
てんせい
)
の
意志
(
いし
)
によつて
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
愛
(
あい
)
の
情味
(
じやうみ
)
を
味
(
あぢ
)
はふ
積
(
つも
)
りだ』
115
ア『
殿下
(
でんか
)
がそこ
迄
(
まで
)
お
打
(
う
)
ち
込
(
こ
)
み
遊
(
あそば
)
した
上
(
うへ
)
は
116
到底
(
たうてい
)
私
(
わたくし
)
の
言葉
(
ことば
)
は
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
耳
(
みみ
)
にはお
留
(
と
)
め
下
(
くだ
)
さいますまい。
117
水
(
みづ
)
の
出端
(
でばな
)
、
118
火
(
ひ
)
の
燃
(
も
)
え
盛
(
さか
)
りは、
119
鬼神
(
きしん
)
と
雖
(
いへど
)
も
是
(
これ
)
を
制止
(
せいし
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬとの
事
(
こと
)
。
120
暫
(
しばら
)
く
猛烈
(
まうれつ
)
な
殿下
(
でんか
)
の
情炎
(
じやうえん
)
が
稍
(
やや
)
下火
(
したび
)
になる
迄
(
まで
)
何事
(
なにごと
)
も
申上
(
まをしあげ
)
ますまい』
121
太
(
たい
)
『やア
有難
(
ありがた
)
い、
122
それが
余
(
よ
)
に
対
(
たい
)
しての
忠義
(
ちうぎ
)
だ。
123
余
(
よ
)
と
雖
(
いへど
)
も
決
(
けつ
)
して
魂
(
たましひ
)
は
腐
(
くさ
)
つて
居
(
ゐ
)
ないから、
124
王家
(
わうけ
)
や
国家
(
こくか
)
を
捨
(
す
)
てるやうな
事
(
こと
)
はしないから
安心
(
あんしん
)
して
呉
(
く
)
れ』
125
ア『
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
126
些
(
すこ
)
しく
胸
(
むね
)
が
落
(
お
)
ち
付
(
つ
)
きました。
127
どうか
充分
(
じゆうぶん
)
に
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つて
完全
(
くわんぜん
)
に
恋
(
こひ
)
をお
遂
(
と
)
げ
遊
(
あそば
)
しませ』
128
太
(
たい
)
『
未
(
ま
)
だ
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れないのかな。
129
アヽどうして
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
これ
程
(
ほど
)
日
(
ひ
)
が
長
(
なが
)
いのだらう。
130
一日
(
いちじつ
)
千秋
(
せんしう
)
の
思
(
おも
)
ひとはよく
云
(
い
)
つたものだ。
131
やつぱり
聖人
(
せいじん
)
は
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
はないなア』
132
ア『まだ
八
(
や
)
つ
時
(
どき
)
で
厶
(
ござ
)
います。
133
夕暮
(
ゆふぐれ
)
迄
(
まで
)
には
二時
(
ふたとき
)
余
(
あま
)
りも
厶
(
ござ
)
いますから、
134
御悠
(
ごゆつく
)
りなさいませ』
135
太
(
たい
)
『どうも、
136
じつとしては
居
(
を
)
られないやうだ。
137
余
(
よ
)
が
魂
(
たましひ
)
は
向日
(
むかひ
)
の
森
(
もり
)
の
茶坊主
(
ちやばうず
)
の
館
(
やかた
)
を
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
訪問
(
はうもん
)
して
居
(
ゐ
)
るやうだ。
138
エヽもう
耐
(
たま
)
らない
労働服
(
らうどうふく
)
を
貸
(
か
)
して
呉
(
く
)
れ』
139
ア『
夫
(
そ
)
れはお
易
(
やす
)
い
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
140
さうお
急
(
せ
)
きになつても
昼
(
ひる
)
の
内
(
うち
)
は
人目
(
ひとめ
)
にかかる
恐
(
おそ
)
れが
有
(
あ
)
ります。
141
どうして
此
(
この
)
門
(
もん
)
をお
潜
(
くぐ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしますか』
142
太
(
たい
)
『アツハヽヽヽ、
143
そんな
心配
(
しんぱい
)
はして
呉
(
く
)
れな。
144
今日
(
けふ
)
も
早朝
(
さうてう
)
から
裏
(
うら
)
の
高壁
(
たかべい
)
を
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
える
稽古
(
けいこ
)
をしておいた。
145
精神
(
せいしん
)
一到
(
いつたう
)
何事
(
なにごと
)
か
成
(
な
)
らざらむやだ。
146
表門
(
おもてもん
)
や
裏門
(
うらもん
)
は
衛士
(
ゑいし
)
が
立
(
た
)
つてゐるから、
147
余
(
よ
)
は
適当
(
てきたう
)
な
148
人目
(
ひとめ
)
にかからない
所
(
ところ
)
から
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
す
積
(
つも
)
りだ』
149
ア『
万々一
(
まんまんいち
)
お
怪我
(
けが
)
でもあつては
大変
(
たいへん
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
150
もう
暫
(
しばら
)
くの
中
(
うち
)
お
待
(
ま
)
ちを
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
いものです』
151
太
(
たい
)
『や、
152
今日
(
けふ
)
だけは
自由
(
じいう
)
に
任
(
まか
)
して
呉
(
く
)
れ。
153
暗雲
(
やみくも
)
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
りの
芸当
(
げいたう
)
も
恋
(
こひ
)
の
為
(
た
)
めには
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
まい。
154
アヽ、
155
スバール
姫
(
ひめ
)
はどうして
居
(
ゐ
)
るだらう。
156
きつと
白
(
しろ
)
い
首
(
くび
)
を
延
(
の
)
ばして
余
(
よ
)
の
行
(
ゆ
)
く
姿
(
すがた
)
を
157
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
窓
(
まど
)
を
開
(
あ
)
けて
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
ゐ
)
るだらう。
158
アヽ
可愛
(
かあい
)
いものだ。
159
……オイ、
160
スバール
161
今
(
いま
)
行
(
ゆ
)
くから
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ。
162
きつと
余
(
よ
)
は
其方
(
そなた
)
を
見捨
(
みす
)
てるやうな
事
(
こと
)
はしない。
163
「
永久
(
えいきう
)
に
永久
(
えいきう
)
にミロクの
世
(
よ
)
迄
(
まで
)
お
前
(
まへ
)
を
愛
(
あい
)
する」と
云
(
い
)
つた
事
(
こと
)
は
滅多
(
めつた
)
に
反古
(
ほご
)
にはしないよ』
164
アリナは
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
165
ア『もし
殿下
(
でんか
)
余
(
あま
)
りぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
166
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
貴方
(
あなた
)
のお
声
(
こゑ
)
でも
向日
(
むかひ
)
の
森
(
もり
)
迄
(
まで
)
は
届
(
とど
)
きませぬよ。
167
そして
私
(
わたくし
)
の
前
(
まへ
)
でお
惚
(
のろ
)
けをたつぷりお
聞
(
き
)
かせ
下
(
くだ
)
さるとは、
168
些
(
ちつ
)
と
殺生
(
せつしやう
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
169
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
ゆる
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
も
170
些
(
ちつ
)
とは
察
(
さつ
)
して
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
171
太
(
たい
)
『ウン、
172
それや
察
(
さつ
)
して
居
(
ゐ
)
るよ。
173
そんな
事
(
こと
)
に
粋
(
すゐ
)
の
利
(
き
)
かないやうな
余
(
よ
)
ではない。
174
お
前
(
まへ
)
も
其
(
その
)
内
(
うち
)
、
175
どこかでスバールのやうな
美人
(
びじん
)
を
探
(
たづ
)
ね
出
(
だ
)
し、
176
妻
(
つま
)
にしたらよいぢやないか。
177
ま
一度
(
いちど
)
178
どこかの
山
(
やま
)
へ
来月
(
らいげつ
)
あたり
遊
(
あそ
)
びに
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
ようか。
179
又
(
また
)
あんな
美人
(
びじん
)
に
遇
(
あ
)
ふかも
知
(
し
)
れない』
180
ア『
殿下
(
でんか
)
もう
沢山
(
たくさん
)
です。
181
私
(
わたくし
)
は
神妙
(
しんめう
)
に
御
(
ご
)
名代
(
みやうだい
)
を
務
(
つと
)
めて
居
(
を
)
りますから、
182
殿下
(
でんか
)
は
変装
(
へんさう
)
遊
(
あそ
)
ばして
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つてお
出
(
いで
)
なさいませ。
183
些
(
すこ
)
し
夕暮
(
ゆふぐれ
)
には
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
184
恋愛
(
れんあい
)
の
神
(
かみ
)
のお
守
(
まも
)
りが
有
(
あ
)
れば、
185
人目
(
ひとめ
)
にかからず
安全
(
あんぜん
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
傍
(
そば
)
に
行
(
ゆ
)
かれるでせう。
186
サア
労働服
(
らうどうふく
)
を
着
(
き
)
る
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へて
上
(
あ
)
げませう。
187
早
(
はや
)
く
錦衣
(
きんい
)
をお
脱
(
ぬ
)
ぎなさいませ』
188
太子
(
たいし
)
はアリナの
言葉
(
ことば
)
に
得
(
え
)
たり
賢
(
かしこ
)
しと
無雑作
(
むざふさ
)
に
錦衣
(
きんい
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て、
189
真裸体
(
まつぱだか
)
となつて
仕舞
(
しま
)
つた。
190
アリナは
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た
自分
(
じぶん
)
の
大
(
おほ
)
トランクから
労働服
(
らうどうふく
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し
太子
(
たいし
)
に
着
(
き
)
せた。
191
太子
(
たいし
)
はニコニコしながら、
192
太
(
たい
)
『オイ、
193
アリナ、
194
どうだ、
195
労働者
(
らうどうしや
)
として
似合
(
にあ
)
ふかな』
196
ア『
如何
(
いか
)
にもよく
似合
(
にあ
)
ひますよ。
197
金看板
(
きんかんばん
)
付
(
づ
)
きの
労働者
(
らうどうしや
)
に
見
(
み
)
えますよ。
198
殿下
(
でんか
)
はお
徳
(
とく
)
が
高
(
たか
)
いから、
199
どんな
衣裳
(
いしやう
)
をお
召
(
め
)
しになつても
本当
(
ほんたう
)
によく
似合
(
にあ
)
ひます。
200
労働者
(
らうどうしや
)
としても
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
なものですわ。
201
それではスバール
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
がゾツコン
恋慕
(
れんぼ
)
遊
(
あそ
)
ばすのも
無理
(
むり
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
202
太
(
たい
)
『
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
203
此
(
この
)
衣裳
(
いしやう
)
は
末代
(
まつだい
)
放
(
はな
)
したくない。
204
労働者
(
らうどうしや
)
となつて
九尺
(
くしやく
)
二間
(
にけん
)
の
裏長屋
(
うらながや
)
で、
205
姫
(
ひめ
)
を
世話
(
せわ
)
女房
(
にようばう
)
として、
206
一
(
ひと
)
つ
簡易
(
かんい
)
生活
(
せいくわつ
)
でも
送
(
おく
)
つて
見
(
み
)
たいものだなア、
207
アツハヽヽヽ。
208
オイ、
209
アリナ、
210
後
(
あと
)
を
頼
(
たの
)
むよ』
211
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
身軽
(
みがる
)
になつたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
212
頬被
(
ほほかむり
)
をグツスリとしながら
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
高壁
(
たかかべ
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
へ
213
深
(
ふか
)
い
堀
(
ほり
)
を
巧
(
たくみ
)
に
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
して、
214
城
(
しろ
)
の
馬場
(
ばんば
)
の
密林
(
みつりん
)
の
中
(
なか
)
へ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
215
後
(
あと
)
にアリナは
茫然
(
ばうぜん
)
として
溜息
(
ためいき
)
をつき、
216
ア『アヽ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
たものだわい。
217
どうか
無事
(
ぶじ
)
に
茶坊主
(
ちやばうず
)
の
屋敷
(
やしき
)
迄
(
まで
)
お
着
(
つ
)
き
遊
(
あそ
)
ばせばよいがなア。
218
アヽ
是
(
これ
)
から
生
(
うま
)
れてから
一度
(
いちど
)
も
着
(
き
)
た
事
(
こと
)
もない
錦衣
(
きんい
)
を
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ
219
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
迄
(
まで
)
太子
(
たいし
)
となり
済
(
す
)
ましてやらうか』
220
と
錦衣
(
きんい
)
を
纏
(
まと
)
ひ
自分
(
じぶん
)
の
着物
(
きもの
)
をトランクの
中
(
なか
)
に
納
(
をさ
)
め、
221
わざと
物々
(
ものもの
)
しく
簾
(
みす
)
をさげ、
222
桐
(
きり
)
の
火鉢
(
ひばち
)
を
前
(
まへ
)
に
置
(
お
)
き
沢山
(
たくさん
)
の
坐布団
(
ざぶとん
)
を
敷
(
し
)
き、
223
バイの
化物然
(
ばけものぜん
)
と
澄
(
す
)
まし
込
(
こ
)
んで
見
(
み
)
た。
224
ア『
何
(
なん
)
とまア
猿
(
さる
)
にも
衣裳
(
いしやう
)
とか
云
(
い
)
つて、
225
よく
似合
(
にあ
)
うものだなア。
226
どれ
一
(
ひと
)
つ
227
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
で
鏡
(
かがみ
)
でも
見
(
み
)
て
来
(
こ
)
う』
228
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
229
つと
立
(
た
)
つて
鏡
(
かがみ
)
の
間
(
ま
)
に
入
(
い
)
り
独語
(
ひとりごと
)
、
230
『ヤア
吾
(
われ
)
乍
(
なが
)
ら
見紛
(
みまが
)
ふ
許
(
ばか
)
り
太子
(
たいし
)
に
能
(
よ
)
く
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
るわい。
231
これなら
一生
(
いつしやう
)
化
(
ば
)
け
済
(
す
)
ました
所
(
ところ
)
で
232
滅多
(
めつた
)
に
尻尾
(
しつぽ
)
を
捉
(
つか
)
まる
事
(
こと
)
はない。
233
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
は
平民
(
へいみん
)
生活
(
せいくわつ
)
がお
好
(
す
)
きなり、
234
自分
(
じぶん
)
も
同様
(
どうやう
)
だが、
235
併
(
しか
)
し
人間
(
にんげん
)
と
生
(
うま
)
れて
一度
(
いちど
)
は
王位
(
わうゐ
)
に
上
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
るも
男
(
をとこ
)
らしい
仕事
(
しごと
)
だ。
236
太子
(
たいし
)
が
永遠
(
えいゑん
)
に
代
(
かは
)
つて
欲
(
ほ
)
しいと
仰有
(
おつしや
)
つたら
太子
(
たいし
)
の
為
(
ため
)
だ、
237
代
(
かは
)
つてもあげよう。
238
又
(
また
)
自分
(
じぶん
)
の
為
(
ため
)
にも
栄誉
(
えいよ
)
だ。
239
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大王
(
だいわう
)
殿下
(
でんか
)
や
父
(
ちち
)
の
左守
(
さもり
)
や
其
(
その
)
他
(
た
)
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
の
目
(
め
)
を
甘
(
うま
)
く
晦
(
くら
)
ます
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようかなア。
240
暗雲
(
やみくも
)
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
りの
芸当
(
げいたう
)
とは
所謂
(
いはゆる
)
この
事
(
こと
)
だ。
241
太子
(
たいし
)
は
危険
(
きけん
)
ををかして
恋愛
(
れんあい
)
の
充実
(
じゆうじつ
)
を
遂
(
と
)
げ、
242
此
(
こ
)
のアリナは
又
(
また
)
大危険
(
だいきけん
)
を
犯
(
をか
)
して
王位
(
わうゐ
)
に
上
(
のぼ
)
らむとするのだ。
243
徳川
(
とくがは
)
天一坊
(
てんいちばう
)
も
真裸足
(
まつぱだし
)
で
逃
(
に
)
げるだらう、
244
アツハヽヽヽ。
245
いや
併
(
しか
)
し
246
何時
(
いつ
)
老臣
(
らうしん
)
共
(
ども
)
が
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
伺
(
うかが
)
ひに
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れない。
247
どれ、
248
太子
(
たいし
)
の
玉座
(
ぎよくざ
)
に
澄
(
す
)
まし
込
(
こ
)
んで
居
(
を
)
らねばなるまい』
249
と
又
(
また
)
もや
鏡
(
かがみ
)
の
間
(
ま
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でて、
250
太子
(
たいし
)
の
居間
(
ゐま
)
に
何
(
なに
)
喰
(
く
)
はぬ
顔
(
かほ
)
して
坐
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
んだ。
251
そこへ
奥女中
(
おくぢよちう
)
の
案内
(
あんない
)
で
252
父
(
ちち
)
の
左守
(
さもり
)
が
太子
(
たいし
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
伺
(
うかが
)
ひと
称
(
しよう
)
し
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た。
253
左守
(
さもり
)
はポンポンと
二拍手
(
にはくしゆ
)
しながら
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
し、
254
左
(
さ
)
『エヽ
老臣
(
らうしん
)
左守
(
さもり
)
255
謹
(
つつし
)
んで
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
伺
(
うかが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
ります。
256
父
(
ちち
)
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
にも
御
(
お
)
変
(
かは
)
らせなく
御
(
ご
)
政務
(
せいむ
)
を
臠
(
みそな
)
はせたまふこと
大慶
(
たいけい
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
ります。
257
畏
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
殿下
(
でんか
)
に、
258
老臣
(
らうしん
)
として
王家
(
わうけ
)
の
為
(
た
)
めに
一応
(
いちおう
)
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
ますが、
259
臣
(
しん
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナなるもの
余
(
あま
)
り
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
寵愛
(
ちようあい
)
に
溺
(
おぼ
)
れ
260
親
(
おや
)
を
親
(
おや
)
とも
思
(
おも
)
はず、
261
悪言
(
あくげん
)
暴語
(
ばうご
)
を
放
(
はな
)
ち、
262
デモクラシーだとか、
263
共産
(
きやうさん
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか
訳
(
わけ
)
の
解
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
て、
264
此
(
この
)
父
(
ちち
)
を
手古擦
(
てこず
)
らせます。
265
それに
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
殿下
(
でんか
)
のお
傍
(
そば
)
に
御用
(
ごよう
)
なりと
申
(
まを
)
し、
266
一度
(
いちど
)
も
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
参
(
まゐ
)
りませぬ。
267
どうか
今晩
(
こんばん
)
は
亡妻
(
ばうさい
)
の
命日
(
めいにち
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
268
霊前
(
れいぜん
)
に
参拝
(
さんぱい
)
させ
度
(
た
)
く
思
(
おも
)
ひますれば、
269
どうか
明朝
(
みやうてう
)
迄
(
まで
)
お
暇
(
ひま
)
をお
遣
(
つか
)
はし
下
(
くだ
)
さいませ。
270
折
(
を
)
り
入
(
い
)
つてお
願
(
ねが
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました』
271
アリナはハツと
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせ、
272
俄
(
にはか
)
に
顔色
(
がんしよく
)
青
(
あを
)
ざめ
唇
(
くちびる
)
さえビリビリと
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
したが
273
遉
(
さすが
)
の
横着物
(
わうちやくもの
)
。
274
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
にグツと
息
(
いき
)
を
詰
(
つ
)
め、
275
大胆
(
だいたん
)
至極
(
しごく
)
にも
初
(
はじ
)
めて
太子
(
たいし
)
の
口真似
(
くちまね
)
をやり
出
(
だ
)
した。
276
ア『やア
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
老臣
(
らうしん
)
左守
(
さもり
)
で
厶
(
ござ
)
るか。
277
老体
(
らうたい
)
の
身
(
み
)
をもつて
好
(
よ
)
くも
入内
(
にふだい
)
致
(
いた
)
した。
278
余
(
よ
)
は
満足
(
まんぞく
)
に
思
(
おも
)
ふぞ。
279
汝
(
なんぢ
)
の
申
(
まを
)
す
通
(
とほ
)
り
父
(
ちち
)
は
極
(
きは
)
めて
健全
(
けんぜん
)
に
政務
(
せいむ
)
を
臠
(
みそなは
)
すによつて、
280
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
心痛
(
しんつう
)
致
(
いた
)
すな。
281
もはや
夜間
(
やかん
)
の
事
(
こと
)
でもあり、
282
余
(
よ
)
は
少
(
すこ
)
し
研究
(
けんきう
)
したい
事
(
こと
)
もあれば、
283
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
せよ。
284
又
(
また
)
明日
(
あす
)
面会
(
めんくわい
)
を
許
(
ゆる
)
すであらう』
285
左
(
さ
)
『
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
殿下
(
でんか
)
の
仰
(
おほ
)
せを
否
(
いな
)
むでは
厶
(
ござ
)
りませぬが、
286
如何
(
いか
)
なる
御用
(
ごよう
)
が
厶
(
ござ
)
いませうとも、
287
今晩
(
こんばん
)
だけはアリナをおかへし
下
(
くだ
)
さいませ』
288
ア『
其
(
その
)
アリナは
二時
(
ふたとき
)
以前
(
いぜん
)
父
(
ちち
)
の
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
ると
申
(
まをし
)
て
出
(
で
)
ていつた。
289
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
汝
(
なんぢ
)
と
途中
(
とちう
)
で
入
(
い
)
れ
違
(
ちが
)
ひになつたのであらう』
290
左
(
さ
)
『アヽ、
291
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか、
292
これは
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
ました。
293
それでは
老臣
(
らうしん
)
も
急
(
いそ
)
ぎ
帰宅
(
きたく
)
を
致
(
いた
)
しませう、
294
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
295
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
倉皇
(
さうくわう
)
として
奥女中
(
おくぢよちう
)
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれながら
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
296
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つてアリナはホツと
一息
(
ひといき
)
つきながら、
297
ア『アヽ、
298
地獄
(
ぢごく
)
の
上
(
うへ
)
の
一足飛
(
いつそくとび
)
だつた。
299
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
暗雲
(
やみくも
)
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
りの
第一線
(
だいいつせん
)
を
突破
(
とつぱ
)
したやうなものだ。
300
現在
(
げんざい
)
の
悴
(
せがれ
)
を
殿下
(
でんか
)
と
間違
(
まちが
)
へ
帰
(
かへ
)
るやうだからもう
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
301
彼
(
あ
)
の
抜目
(
ぬけめ
)
のない
狸爺
(
たぬきおやぢ
)
が
吾
(
わが
)
正体
(
しやうたい
)
を
看破
(
かんぱ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない
迄
(
まで
)
巧
(
たくみ
)
に
化
(
ば
)
け
済
(
す
)
ましたのも
全
(
まつた
)
く
天
(
てん
)
の
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
だ。
302
だがも
一
(
ひと
)
つの
難関
(
なんくわん
)
は
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
のお
見
(
み
)
えになつた
時
(
とき
)
だ。
303
エヽ
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だ。
304
まア
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
又
(
また
)
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くだらう。
305
あゝ
愉快
(
ゆくわい
)
々々
(
ゆくわい
)
。
306
もう
何
(
なん
)
だかタラハン
国
(
ごく
)
の
国王
(
こくわう
)
になつたやうな
気
(
き
)
がする。
307
イツヒヽヽヽ』
308
と
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
にも
会心
(
くわいしん
)
の
笑
(
ゑみ
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
309
夜
(
よる
)
の
帳
(
とばり
)
は
下
(
お
)
ろされて
310
間毎
(
まごと
)
々々
(
まごと
)
に
銀燭
(
ぎんしよく
)
の
火
(
ひ
)
が
瞬
(
またた
)
き
出
(
だ
)
した。
311
(
大正一四・一・六
新一・二九
於月光閣
加藤明子
録)
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