霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 宗匠財(そうしやうざい)〔一七三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第3篇 民声魔声 よみ(新仮名遣い):みんせいませい
章:第10章 宗匠財 よみ(新仮名遣い):そうしょうざい 通し章番号:1734
口述日:1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
バランス解放を求める民衆の勢いに、ついに大目付頭もバランスを解放する。
大目付頭はバランスの申し立てを調査するため、タルチンを拘引する。
タルチンは逆に理屈で大目付頭を言い負かし、釈放される。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-08 17:50:06 文字数:4847 OBC :rm6810
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第12輯 201頁 修補版: 校定版:137頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 取締所(とりしまりしよ)を中心(ちうしん)とし附近(ふきん)に於(お)ける民衆(みんしう)と侍(さむらひ)との闘争(とうさう)は、002一(いち)時(じ)酣(たけなは)となつて来(き)たが003民衆(みんしう)の救主(すくひぬし)、004貧民(ひんみん)の慈母(じぼ)と尊敬(そんけい)されて居(ゐ)る大頭目(だいとうもく)のバランスを取返(とりかへ)さむとして、005民衆(みんしう)一般(いつぱん)は爺(ぢぢ)も婆(ばば)も、006脛腰(すねこし)の立(た)つもの、007猫(ねこ)も杓子(しやくし)も刻々(こくこく)に集(あつ)まり来(きた)り其(そ)の勢(いきほひ)凄(すさま)じく、008目付隊(めつけたい)も侍(さむらひ)も如何(いかん)ともすべからず、009遂(つひ)に大目付頭(おほめつけがしら)も我(が)を折(を)つてバランスの縄(なは)を解(と)き、010民衆(みんしう)との妥協(だけふ)を図(はか)り011且(か)つ、0111諫言(かんげん)申上(まをしあ)げる事(こと)となし、012茶坊主(ちやばうず)を召喚(せうくわん)して事(こと)の実否(じつぴ)を調査(てうさ)した上(うへ)、013左守(さもり)の悴(せがれ)アリナを民衆(みんしう)の前(まへ)にて重刑(ぢうけい)に処(しよ)す事(こと)を誓(ちか)ひ、014茲(ここ)に漸(やうや)く大騒動(おほさうどう)も鎮定(ちんてい)するに至(いた)つた。015目付頭(めつけがしら)は逸早(いちはや)く部下(ぶか)に命(めい)じて茶坊主(ちやばうず)を拘引(こういん)せしめた。016茶坊主(ちやばうず)が拘引(こういん)されたのを見(み)るや、017スバール姫(ひめ)は大(おほい)に驚(おどろ)き、018折柄(をりから)労働服(らうどうふく)姿(すがた)にて忍(しの)び来(きた)りし恋人(こひびと)と共(とも)に019暗(やみ)に紛(まぎ)れて都(みやこ)を遠(とほ)く姿(すがた)を隠(かく)した。020アリナも亦(また)形勢(けいせい)の容易(ようい)ならざるを覚(さと)り、021忍(シノブ)と共(とも)に暗(やみ)に紛(まぎ)れて城内(じやうない)を逸走(いつそう)して了(しま)つた。022茶坊主(ちやばうず)のタルチンは厳(きび)しく縛(いましめ)られたまま、023大目付頭(おほめつけがしら)の前(まへ)に引出(ひきだ)され訊問(じんもん)を受(う)けた。
024大目付役(おほめつけやく)『其(その)方(はう)の姓名(せいめい)は何(なん)と申(まを)すか』
025 タルチンは長(なが)い禿頭(はげあたま)を二(ふた)つ三(み)つ振(ふ)り乍(なが)ら、026やや腰(こし)をかがめて、
027タルチン『ハイ、028私(わたし)は向日(むかひ)の森(もり)の傍(かたはら)に住(す)む茶(ちや)の湯(ゆ)の宗匠(そうしやう)タルチンと申(まを)すもので厶(ござ)います。029何(なん)ぞ折入(をりい)つた御用(ごよう)が御座(ござ)りますかな。030罪(つみ)も無(な)い私(わたし)をお役人(やくにん)さまが突然(とつぜん)遣(や)つて来(き)て、031斯(こ)んな処(ところ)へ連(つ)れて来(こ)られる覚(おぼ)えは御座(ござ)りませぬ。032爰(ここ)は悪人(あくにん)の来(く)る処(ところ)ぢや御座(ござ)りませぬか、033清浄(しやうじやう)無垢(むく)の私(わたし)、034神妙(しんめう)に茶(ちや)の湯(ゆ)をお歴々(れきれき)方(がた)に伝授(でんじゆ)し淋(さび)しく大人(おとな)しく余世(よせい)を送(おく)つてゐるもので厶(ござ)います。035それに三(さん)年(ねん)も連(つ)れ添(そ)うて居(を)つた大切(だいじ)の大切(だいじ)の嬶(かか)に逃(にげ)られ、036心配(しんぱい)の最中(さいちう)、037斯(こ)んな処(ところ)へ連(つ)れて来(こ)られては一向(いつかう)、038日当(につたう)も取(と)られず、039誠(まこと)に貧民(ひんみん)の私(わたし)、040明日(あす)から腮櫃(あご)が上(あが)つて了(しま)ひますがな。041どうか相当(さうたう)の日当(につたう)を頂戴(ちやうだい)致(いた)し度(た)い者(もの)で御座(ござ)ります。042そして罪(つみ)もない私(わたし)をお縛(しば)りに成(な)りましたのだから、043賠償品(ばいしやうひん)を頂(いただ)き度(た)う御座(ござ)ります。044冤罪者(えんざいしや)賠償法(ばいしやうはふ)が、045発布(はつぷ)されむとする今日(こんにち)、046どうか、047其所(そこ)は、048あんまり高(たか)い事(こと)は申(まを)しませぬから、049私(わたし)の価値(ねうち)相当(さうたう)に御(ご)支給(しきふ)を願(ねが)ひ度(た)いもので御座(ござ)ります』
050大目付(おほめつけ)『貴様(きさま)は馬鹿(ばか)だな。051お歴々(れきれき)の家庭(かてい)に出入(でいり)し茶(ちや)の湯(ゆ)の伝授(でんじゆ)でもしようと云(い)ふ身(み)であり乍(なが)ら、052斯様(かやう)な処(ところ)へ引連(ひきつ)れられて、053左様(さやう)の請求(せいきう)をすると云(い)ふ事(こと)があるものか、054エーン』
055タルチン『如何(いか)なる処(ところ)へ参(まゐ)りましても、056ヤツパリ日当(につたう)は請求(せいきう)致(いた)します。057左守(さもり)の司(かみ)の邸(やしき)へ参(まゐ)つても、058又(また)畏多(おそれおほ)くもタラハン城内(じやうない)の茶寮(ちやりやう)に参(まゐ)りましても、059相当(さうたう)のお手当(てあて)を頂(いただ)いて居(を)りますから、060仮令(たとへ)半時(はんとき)でも、061それ丈(だ)けのお手当(てあて)を頂(いただ)かなくちや渡世(とせい)が出来(でき)ませぬ。062お前(まへ)さまの様(やう)に沢山(たくさん)の子分(こぶん)を使(つか)つて063朝(あさ)の九(く)時(じ)頃(ごろ)から出勤(しゆつきん)して、0631椅子(いす)に凭(もた)れ064面白(おもしろ)さうに新聞(しんぶん)を見(み)ながら彼是(かれこれ)する間(うち)に十二(じふに)時(じ)が来(く)る、065さうすりや料理屋(れうりや)弁当(べんたう)を取(と)つて強(した)たかお食(あが)りなされ、066又(また)一(いち)時間(じかん)ばかり食後(しよくご)の運動(うんどう)だと云(い)つて面白(おもしろ)い処(ところ)を廻(まは)り、067夫(それ)から読(よ)み残(のこ)りの新聞(しんぶん)を読(よ)み、068盲判(めくらばん)を二(ふた)つ三(み)つポンポンと押(お)して、0681サツサと宅(うち)に帰(かへ)り069大小名(だいせうみやう)の待遇(たいぐう)を受(う)けて、0691沢山(たくさん)の月給(げつきふ)を取(と)るお方(かた)と同(おな)じに見(み)て貰(もら)つては、070チツと割(わ)りが悪(わる)う御座(ござ)ります。071私(わたし)のやうに高(たか)い炭(すみ)を爐(ろ)にくべ、072「ヘーコラ、073ハイコラ」とお辞儀(じぎ)許(ばか)りして、074ヤツトの事(こと)で糊口(ここう)を凌(しの)ぐ許(ばか)りのものと同日(どうじつ)に語(かた)る事(こと)は出来(でき)ませぬ』
075大目付(おほめつけ)『その方(はう)は女房(にようばう)に逃(に)げられたと申(まを)したが、076その女房(にようばう)は何(なん)と申(まを)すものか』
077タル『ハイ、078私(わたし)の女房(にようばう)は思(おも)ひの外(ほか)のドテンバで厶(ござ)いますが、079どうしても名(な)を申(まを)しませぬので袋(ふくろ)と申(まを)してゐます。080その袋(ふくろ)に千(せん)両(りやう)の金(かね)を持(も)つて逃(に)げられ、081私(わたし)は梟(ふくろ)が夜食(やしよく)に外(はづ)れたやうな失望(しつばう)落胆(らくたん)の淵(ふち)に沈(しづ)んでゐます。082貴方(あなた)も人民(じんみん)保護(ほご)のお役(やく)なら私(わたし)の女房(にようばう)を捜(さが)して下(くだ)さい。083そして女房(にようばう)と金(かね)とを取返(とりかへ)して貰(もら)ひ度(た)いものです。084実(じつ)は保護願(ほごねがひ)をしようと思(おも)ひましたが、085何分(なにぶん)珍客(ちんきやく)さまがおいで遊(あそ)ばすので目放(めばな)しが出来(でき)ず、086其処(そこ)へあの大火事(おほくわじ)と来(き)てゐますのでツヒ遅(おく)れてゐました』
087大目付(おほめつけ)『其(その)方(はう)は、088その日(ひ)暮(ぐら)しと申(まを)してゐるが、089どうして其(その)千(せん)両(りやう)の金(かね)を所持(しよぢ)致(いた)して居(を)つたのだ』
090タル『之(これ)は又(また)妙(めう)な事(こと)を仰(おほ)せられます。091お金(かね)と云(い)ふものは人間(にんげん)の持(も)つべきものです。092人間(にんげん)が金(かね)をもつているのが、093どこが不思議(ふしぎ)ですかな』
094大目付(おほめつけ)『持(も)つてゐるのが悪(わる)いとは云(い)はぬ、095どうして拵(こしら)へたかと云(い)ふのだ』
096タル『之(これ)は又(また)大目付頭(おほめつけがしら)にも似合(にあ)はぬお言葉(ことば)、097どうして拵(こしら)へたかとは私(わたし)をも紙幣(しへい)偽造(ぎざう)犯人(はんにん)とお思(おも)ひですか。098彼(あ)の紙幣(しへい)は兌換(だくわん)だか不換(ふくわん)だか知(し)りませぬが、099貴方(あなた)がたが経営(けいえい)して御座(ござ)る印刷局(いんさつきよく)から刷(す)り出(だ)された物(もの)ぢや御座(ござ)りませぬか。100キューピーさまや福助(ふくすけ)さまが付(つ)いて御座(ござ)る彼(あ)のお札(さつ)ですよ。101私(わたし)は紙幣(しへい)を拵(こしら)へるやうな器用(きよう)なものでは厶(ござ)いませぬ。102茶(ちや)の湯(ゆ)では十二(じふに)手前(てまへ)を本(もと)とし、103それから分(わか)れて三百(さんびやく)十六(じふろく)手前(てまへ)となり、104又(また)茶(ちや)の湯(ゆ)の綱目(かうもく)としては初段(しよだん)から七段(しちだん)迄(まで)の手前(てまへ)を存(ぞん)じて居(を)ります。105茶(ちや)の湯(ゆ)の事(こと)なら、106いくらでもお答(こた)へ致(いた)しますが、107金(かね)を拵(こしら)へる事(こと)はチツとも存(ぞん)じませぬ。108之(これ)はお役人(やくにん)さまの、109お眼鏡(めがね)違(ちが)ひで御座(ござ)りませう、110オツホン』
111大目付(おほめつけ)『エー、112分(わか)らぬ奴(やつ)だな。113その金(かね)を、114どうして儲(まう)けたかと聞(き)いてゐるのだ』
115タル『之(これ)は亦(また)妙(めう)なお尋(たづ)ねで御座(ござ)りますな。116私(わたし)は茶(ちや)の湯(ゆ)の宗匠(そうしやう)が稼業(かげふ)で厶(ござ)ります。117如何(どう)して儲(まう)けようと、118商売(しやうばい)の上(うへ)で、119儲(まう)けた事(こと)をお叱(とが)めを蒙(かうむ)る訳(わけ)も有(あ)るまいし、120又(また)夫(それ)を貴方(あなた)に説明(せつめい)する義務(ぎむ)も無(な)し、121又(また)貴方(あなた)も人(ひと)の儲(まう)けた金(かね)を彼是(かれこれ)言(い)ふ権利(けんり)も御座(ござ)りますまい、122そんな事(こと)は要(い)らぬお節介(せつかい)ですよ。123私(わたし)もチヨコチヨコお前(まへ)さまの御(ご)親類内(しんるゐうち)へ茶(ちや)の湯(ゆ)で出入(でい)りを仕(し)て居(ゐ)ますが、124お親類(しんるゐ)の方(かた)の話(はなし)を聞(き)けば、125大目付(おほめつけ)さまは沢山(たくさん)な賄賂(わいろ)を取(と)つて町(まち)の真中(まんなか)へ待合(まちあひ)を許(ゆる)し、126其所(そこ)へ妾(めかけ)を抱(かか)へて御座(ござ)るとの事(こと)、127此(この)話(はなし)は決(けつ)して違(ちが)ひますまい。128何(なん)と云(い)つても、129貴方(あなた)の御(ご)親類(しんるゐ)、130しかも、131貴方(あなた)のお妹御(いもうとご)の嫁入先(よめいりさき)で聴(き)いたのですから』
132大目付(おほめつけ)『こりやこりや、133外聞(ぐわいぶん)の悪(わる)い134何(なに)を云(い)ふのだ。135沢山(たくさん)の目付(めつけ)が、136其所(そこ)に聞(き)いて居(ゐ)るぢや無(な)いか。137其(その)方(はう)は神法(しんぱふ)を心得(こころえ)ぬか、138「事(こと)の有無(うむ)に拘(かかは)らず、139人(ひと)を公衆(こうしう)の前(まへ)にて誹謗(ひばう)した者(もの)は知計法(ちけいはふ)[※「治警法(治安警察法)」のもじりだと思われる。第八百条とは嘘八百にかけたもの。]第八百(だいはつぴやく)条(でう)にて刑鉢(けいばつ)に処(しよ)す」と書(か)いて有(あ)る。140メツタの事(こと)を云(い)ふものではないぞ』
141タル『ヘツヘヽヽ、142御(ご)都合(つがふ)が悪(わる)う御座(ござ)りますかな。143チツト茶(ちや)の湯(ゆ)加減(かげん)が過(す)ぎましたので、144熱(あつ)い汗(あせ)をかかせました。145ハツハヽヽ』
146大目付(おほめつけ)『お前(まへ)の宅(うち)に、147エー、148珍客(ちんきやく)が居(を)られたと云(い)ふ事(こと)だが、149本当(ほんたう)か』
150タル『ヘーヘー、151居(を)られましたとも、152まだ現(げん)にゐられるでせう。153畏(おそ)れ多(おほ)くもスダルマン様(さま)が、154元(もと)の左守(さもり)の娘子(むすめご)スバール姫(ひめ)と云(い)ふ、155夫(それ)は夫(それ)は天女(てんによ)のやうな美人(びじん)をかくまつて呉(く)れと云(い)ふ事(こと)で、156夜(よ)な夜(よ)なお通(かよ)ひで御座(ござ)ります。157本当(ほんたう)に素敵(すてき)な美人(びじん)ですよ。158何(なん)と言(い)つてもスダルマン様(さま)の御(おん)身(み)、159御(ご)意見(いけん)申(まを)すも恐(おそ)れ多(おほ)いと謹(つつし)んで御意(ぎよい)に応(おう)じました。160何分(なにぶん)取締所(とりしまりしよ)あたりから御(ご)褒美(はうび)でも頂(いただ)け相(さう)なものと、161首(くび)を長(なが)うして待(ま)つて居(を)りますよ。162妙法(スダルマ)様(さま)のお心(こころ)を慰(なぐさ)め奉(まつ)り、163無上(むじやう)の歓喜(くわんき)をお与(あた)へ申(まを)した此(この)タルチンは、164正(まさ)に勲一等(くんいつとう)功一級(こういつきふ)の価値(かち)は確(たしか)にあるでせう。165夫(それ)にも拘(かかわ)らず、166タラハン国(ごく)に於(おい)て雷名(らいめい)隠(かく)れなき最大(さいだい)権力者(けんりよくしや)、167左守(さもり)のガンヂー様(さま)の一人(ひとり)息子(むすこ)アリナの君様(きみさま)に頼(たの)まれて、168未来(みらい)のお妃様(ひーさま)のスバール嬢(ぢやう)様(さま)に、169お茶(ちや)の手前(てまへ)を伝授(でんじゆ)申(まを)し上(あ)げて居(ゐ)るのです。170何程(なにほど)偉(えら)相(さう)に申(まを)してもお前(まへ)さまとしては、171妙法(スダルマ)様(さま)を直接(ちよくせつ)にお世話(せわ)したり、172お妃(ひー)さまに尊(たふと)い茶道(さだう)を伝授(でんじゆ)すると云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ますまい。173マアそんな小難(こむつか)しい顔(かほ)せずにお考(かんが)へなさいませ。174今(いま)に妙法(スダルマ)様(さま)が、175大王(だいわう)の跡(あと)を継(つ)がれましたならば、176私(わたし)は大王(だいわう)様(さま)のお師匠(ししやう)様(さま)と成(な)つて、177殿内(でんない)深(ふか)く、178すまし込(こ)み、179殿下(でんか)の耳(みみ)を嗅(か)ぐ役(やく)に抜擢(ばつてき)されますよ。180夫(それ)だから181お前(まへ)さまも出世(しゆつせ)が仕度(した)くば今(いま)の中(うち)、182此(この)タルチンを十分(じふぶん)待遇(たいぐう)して置(お)きなさい。183葡萄酒(ぶどうしゆ)の一打(いちダース)位(ぐらゐ)贈(おく)つても可(よ)し、184金平糖(こんぺいとう)の一斤(いつきん)位(ぐらゐ)はチヨイチヨイ贈(おく)つて下(くだ)さい。185此方(こちら)も茶菓子(ちやぐわし)の足(た)しにも成(な)り、186誠(まこと)に好都合(かうつがふ)だ。187お前(まへ)さまも、188私(わたし)に取(と)り入(い)るのは今(いま)の中(うち)ですよ、189オツホン』
190と豪然(がうぜん)としてすまし込(こ)んでゐる。
191大目付(おほめつけ)『オイ、192ハルヤ、193タルチンの縄目(なはめ)を解(と)いて遣(や)れ』
194ハルヤ『ハイ、195承知(しようち)致(いた)しました』
196タル『イヤ、197ならぬならぬ、198此(この)縄目(なはめ)は此(この)儘(まま)にして置(お)いて呉(く)れ。199妙法(スダルマ)様(さま)に、200お前(まへ)等(ら)が寄(よ)つて集(たか)つて、201斯(こ)んな目(め)に会(あ)はしやがつたと云(い)つて、202具(つぶ)さに言上(ごんじやう)して遣(や)る。203さうすると、204屹度(きつと)タルチンの贔屓(ひいき)をなさつて、205お前(まへ)等(ら)は直(す)ぐ様(さま)免職(めんしよく)だ。206お気(き)の毒(どく)様(さま)の事(こと)だ、207愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)ると大目付頭(おほめつけがしら)様(さま)に飛火(とびひ)が致(いた)しますよ。208此(この)縄(なわ)が解(とか)し度(た)ければ、209解(と)かして遣(や)らう。210幾等(いくら)機密費(きみつひ)を出(だ)しますかな』
211大目付(おほめつけ)『アツハヽヽヽヽ此奴(こいつ)ア、212どうも、213キ印(じるし)だ。214キ印(じるし)を捉(つか)まへて法律(はふりつ)で罰(ばつ)する事(こと)は出来(でき)ぬ。215身心(しんしん)喪失者(そうしつしや)と認(みと)める。216オイ、217タルチン、218唯今(ただいま)より放免(はうめん)する、219有難(ありがた)う思(おも)へ』
220タル『ヘン、221さう、222うまくは問屋(とひや)が卸(おろ)しませぬよ。223妙法(スダルマ)様(さま)の御(おん)覚(おぼ)え目出度(めでた)き寵臣(ちようしん)を縛(しば)り上(あ)げ乍(なが)ら、224放免(はうめん)も糞(くそ)も有(あ)つたものか、225チツとお前(まへ)さまの遣(や)り方(かた)は方面(はうめん)が間違(まちが)つて居(ゐ)るぢや無(な)いか。226いつかな いつかな此処(ここ)を立退(たちの)いて成(な)るものか。227今(いま)に妙法(スダルマ)様(さま)がタルチンの所在(ありか)を尋(たづ)ねて、228最新調(さいしんてう)の自動車(じどうしや)を以(もつ)て迎(むか)へに来(こ)られるに違(ちが)ひない。229夫(それ)迄(まで)は誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても、230此処(ここ)は一寸(ちよつと)も動(うご)きませぬぞ』
231大目付(おほめつけ)『アヽ困(こま)つたものを引張(ひつぱ)つて来(き)たものだな。232オイ、233ハルヤ、234兎(と)も角(かく)、235此(この)狂人(きちがひ)の縄(なは)を解(と)き、236彼(かれ)が館(やかた)に送(おく)つて遣(や)れ。237さうして妙法(スダルマ)様(さま)が御(ご)在宿(ざいしゆく)かいなかと云(い)ふ事(こと)を、238よく調(しら)べて来(く)るのだぞ。239必(かなら)ず不都合(ふつがふ)の無(な)いやうに気(き)を注(つ)けて行(ゆ)け』
240と云(い)ひ乍(なが)ら大目付(おほめつけ)は懐(ふところ)から時計(とけい)を出(だ)して、
241大目付『ヤア、242もう退出(たいしゆつ)時間(じかん)だ』
243と云(い)ひ乍(なが)ら逃(に)ぐるが如(ごと)く、244ドアを開(あ)けて妾宅(せふたく)さして帰(かへ)り行(ゆ)く。
245 タルチンは、246大声(おほごゑ)を張上(はりあ)げ乍(なが)ら、
247タル『コリヤ、248大目付(おほめつけ)の奴(やつ)、249逃(にげ)ると云(い)ふ事(こと)があるか。250待(ま)て、251貴様(きさま)に一(ひと)つ灸(きう)を据(す)ゑて遣(や)る事(こと)が有(あ)る。252俺(おれ)の言(い)ふ事(こと)を聞(き)かずに逃(にげ)て行(ゆ)けば、253明日(あす)から免職(めんしよく)だぞ』
254と呶鳴(どな)り立(た)てて居(ゐ)る。
255 漸(やうや)くにして数多(あまた)の目付(めつけ)が持(も)て余(あま)しもののタルチンをいろいろと納得(なつとく)させ、256葡萄酒(ぶだうしゆ)や菓子(くわし)等(など)を与(あた)へて機嫌(きげん)をとり、257ヤツとの事(こと)で彼(かれ)の家(いへ)に送(おく)り届(とど)ける事(こと)となつた。
258 タルチンは目付(めつけ)連(れん)に護送(ごそう)され乍(なが)ら吾(わが)家(や)に帰(かへ)り行(ゆ)く道々(みちみち)、259葡萄酒(ぶだうしゆ)の酔(よひ)がまはつて、260謡(うた)ひ出(だ)した。
261タルチン『あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
262この世(よ)の中(なか)は何(なん)として
263馬鹿(ばか)に面白(おもしろ)うなつたのか
264妙法(スダルマ)の君(きみ)は吾(わが)家(いへ)に
265タラハン城(じやう)と間違(まちが)へて
266妃(きさい)の君(きみ)と諸共(もろとも)に
267朝(あさ)から晩(ばん)まで意茶(いちや)付(つ)いて
268涎(よだれ)を垂(た)らしてお在(は)します
269それに左守(さもり)のガンヂーの
270悴(せがれ)のアリナがチヨコチヨコと
271横目(よこめ)を使(つか)つて遣(や)つて来(く)る
272さう斯(か)うする中(うち)タラハンの
273町(まち)に響(ひび)いた鐘(かね)の音(おと)
274窓(まど)押(お)し開(あ)けて眺(なが)むれば
275ドンドンドンと町中(まちなか)の
276民家(みんか)は燃(も)える人(ひと)は泣(な)く
277瞬(またた)く間(うち)にタラハンの
278街(まち)の半(なかば)は黒土(くろつち)と
279成(な)つて了(しま)つた気(き)の毒(どく)さ
280今(いま)迄(まで)贅沢(ぜいたく)三昧(ざんまい)を
281尽(つく)して居(ゐ)よつた富者(ふうしや)等(ら)の
282今日(けふ)の惨(みじ)めの態(さま)見(み)れば
283ホンに愉快(ゆくわい)な世(よ)の中(なか)だ
284大目付頭(おほめつけがしら)と云(い)ふ奴(やつ)は
285俺(おれ)を態々(わざわざ)引張(ひつぱ)つて
286下(くだ)らぬ事(こと)を尋(たづ)ね上(あ)げ
287理窟(りくつ)に負(ま)けて泡(あわ)を吹(ふ)き
288屁古垂(へこた)れよつてブルブルと
289菎蒻(こんにやく)のやうに慄(ふる)ひ出(だ)し
290懐中(くわいちう)時計(どけい)を取出(とりだ)して
291もはや退出(たいしゆつ)時間(じかん)だと
292甘(うま)い辞令(じれい)を浴(あ)びせかけ
293コソコソコソと逃(に)げよつた
294斯(こ)んな瓦落多(がらくた)役人(やくにん)が
295都大路(みやこおほぢ)の真中(まんなか)に
296頑張(ぐわんば)つて居(ゐ)るやうな世(よ)の中(なか)は
297如何(どう)して吾々(われわれ)人民(じんみん)が
298枕(まくら)を高(たか)く寝(ね)られよか
299さはさり乍(なが)ら是(これ)も皆(みな)
300大神(おほかみ)様(さま)の仕組(しぐみ)だろ
301零落(おちぶ)れ果(は)てた俺(わし)さへも
302妙法(スダルマ)の君(きみ)のお見出(みだ)しに
303預(あづか)りよつて姫(ひめ)様(さま)の
304お手(て)をとつての指南役(しなんやく)
305茶(ちや)の湯(ゆ)のお蔭(かげ)でこの俺(おれ)も
306薬鑵頭(やくわんあたま)が霑(うるほ)うた
307エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ
308さつてもさても世(よ)の中(なか)は
309人間(にんげん)万事(ばんじ)一切(いつさい)は
310皆(みな)塞翁(さいをう)の馬(うま)の糞(くそ)
311糞(くそ)でも喰(くら)へ大目付(おほめつけ)よ
312俺(わし)がもうツヒ出世(しゆつせ)して
313貴様(きさま)の頭(あたま)を抑(おさ)へたろか
314エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ
315お嬶(かか)の袋(ふくろ)は逸早(いちはや)く
316俺(おれ)を見捨(みす)てて逃(に)げよつた
317之(これ)も矢張(やつぱ)り神(かみ)様(さま)の
318俺(おれ)を助(たす)ける思召(おぼしめし)
319お尻(けつ)の大(おほ)きい嬶(かか)貰(もら)へや
320向(むか)ふの方(はう)から逃(に)げ出(だ)して
321行(い)つて了(しま)つたその訳(わけ)は
322後(あと)の悶錯(もんさく)なきやうと
323ウラルの神(かみ)の御(お)計(はか)らひ
324天女(てんによ)のやうな妻(つま)を持(も)ち
325結構(けつこう)に結構(けつこう)に世(よ)の中(なか)を
326面白(おもしろ)可笑(をか)しう暮(くら)すため
327之(これ)ほどボロイ事(こと)はない
328エヘヽヽエツヘ葡萄酒(ぶだうしゆ)に
329酔(よ)た酔(よ)た酔(よ)た酔(よ)たよた助(すけ)の
330呉(く)れた酒(さけ)でも味(あぢ)がある
331ほんに浮世(うきよ)は斯(か)うしたものか
332三分(さんぶ)五厘(ごりん)に茶化(ちやくわ)して通(とほ)る
333茶(ちや)の湯(ゆ)の師匠(ししやう)のタルチンは
334天下(てんか)に無比(むひ)の幸福者(しあわせもの)だ
335向(むか)ふに見(み)えるは吾(わが)住(す)める
336館(やかた)の側(そば)の向日(むかひ)の森(もり)だ
337オイオイ皆(みな)の御(ご)連中(れんちう)
338少時(しばらく)待(ま)つてゐるがよい
339俺(おれ)が出世(しゆつせ)の暁(あかつき)は
340キツト引立(ひきた)ててやるほどに
341必(かなら)ず必(かなら)ず世(よ)の中(なか)を
342悲観(ひくわん)なさるな善(よ)い後(あと)は
343必(かなら)ず悪(わる)い悪(わる)いあとは
344必(かなら)ず善(よ)い芽(め)が吹(ふ)くものだ
345エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ
346これこれ皆(みな)の衆(しう) 347御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)つた。348もう之(これ)から去(い)んで下(くだ)さい』
349(大正一四・一・六 新一・二九 北村隆光録)
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