霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 衡平(かうへい)運動(うんどう)〔一七三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第3篇 民声魔声 よみ(新仮名遣い):みんせいませい
章:第9章 衡平運動 よみ(新仮名遣い):こうへいうんどう 通し章番号:1733
口述日:1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所:月光閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
上に王はあっても、時代を解し、王を助けて政治を行うべき臣なく、結果として虚偽、罪悪、権謀術数を事とし、重税を課して民の血を絞っていた。
一方ブルジョワ階級は贅を尽くし、文明、教育、病院等の公共の施設は上流階級のみに供され、貧民はそれらの益に預かることなく、飢えと寒さに凍え、生存難の声は日に日に大きくなり、自殺するものは後を絶たない惨状となっていた。
各地に大名、小名撲滅の声があがり、決起大会、争闘が絶え間なく起こり、タラハン国は修羅の巷となっているのが現状であった。
このような世情を背景に、不逞団、過激団その他の団体が都大路に集まり、タラハン国創立記念日の五月五日を期して一斉に放火し、蜂起したのが先の騒ぎであった。
騒ぎが収まった後、有志各団体が罹災民救護のため走り回っていたが、到底すべてを満たすに至らず、流言飛語が盛んに起こり、人心恟々としていた。
そこへ、大兵肥満の女が一人現れ、札ビラを路上に撒き散らし、声高々と歌いながら街中を駆け巡っていた。その歌に曰く、
今は、優勝劣敗の世の中と成り果てている。
この世は神様が万民平等、天国浄土の神政を敷こうとの思し召しにも関わらず、富裕・長者連は国民を苦しめている。
その報いは忽ちにして現れた。今こそ正しき神が神軍を引率し、悪を滅ぼす時が来た。
民衆よ、勇んで悪人を踏みにじり、血潮を持って世を洗え。
自分は、富裕連に出入りする茶湯の宗匠の後妻と化け入り、富裕連の事情を調べていたが、もはや時節が満ちたのを知った。そこで部下に命令してこの大火を起こさせたのだ。
自分こそは民衆団の頭目、バランスである。世界の改造を命の綱と神事、今こそ振るい立ち上がれ。
数百の目付隊は、有無を言わせずバランスを縛り付け、取締所へ連行した。バランスの部下は頭を取り戻そうと目付隊と闘争を始めたが、二千人の侍が押し寄せ、民衆団は退却せざるをえなくなった。
バランスは目付け頭の前に引き出され、尋問を受ける。
バランスは、あまり平等を欠いた世の中なので、平衡をもたらそうと、バランス(balance=均衡、平衡)と命名したと答える。自分の部下は国内に数十万おり、万が一自分を処刑したならば、彼らが一斉に蜂起するだろう、と嘯く。また、太子とスバール姫の情事をすっぱ抜き、王家を非難する。
バランスが明かす王家のスキャンダルに、目付け頭も目付けも色を失い、互いに顔を見合すのみであった。外からは、またしても民衆と目付隊の戦う声が聞こえてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-06 18:56:49 文字数:3916 OBC :rm6809
愛善世界社版:125頁 八幡書店版:第12輯 197頁 修補版: 校定版:125頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 上(かみ)に大名(だいみやう)あれ共(ども)、002時代(じだい)を解(かい)し国家(こくか)永遠(えいゑん)の神策(しんさく)を弁(わきま)へたる輔弼(ほひつ)棟梁(とうりやう)たるべき小名(せうみやう)なく、003所在(あらゆる)虚偽(きよぎ)と罪悪(ざいあく)と権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)を以(もつ)て施政(しせい)の大本(たいほん)となし、004重税(ぢうぜい)を課(くわ)して膏血(こうけつ)を絞(しぼ)り、005上(うへ)に立(た)てるブルジョア階級(かいきふ)なる者(もの)は、006肥馬(ひば)軽裘(けいきう)、007有(あ)らむ限(かぎ)りの贅(ぜい)を尽(つく)し、008行人(かうじん)の迷惑(めいわく)を顧(かへり)みずブウブウと自動車(じどうしや)を飛(と)ばして、009臭気(しうき)紛々(ふんぷん)たる屁(へ)と土埃(つちぼこり)を浴(あ)びせて平気(へいき)に行(ゆ)く。010貧民(ひんみん)の子(こ)は自動車(じどうしや)に轢(ひ)き殺(ころ)されても、011之(これ)を訴(うつた)へ出(い)づる術(すべ)も無(な)く、012強者(きやうしや)は白昼(はくちう)強盗(がうとう)に等(ひと)しき行(おこな)ひを為(な)して、013公々然(こうこうぜん)縦横(じうわう)に濶歩(くわつぽ)し、014弱者(じやくしや)は往来(わうらい)の車馬(しやば)に踏(ふ)み躙(にじ)られ悲鳴(ひめい)を上(あ)げ、015九死(きうし)の境(さかひ)に呻吟(しんぎん)す。016文明(ぶんめい)利器(りき)の交通(かうつう)機関(きくわん)は可(か)なりに進歩(しんぽ)し完備(くわんび)すれども、017貧者(ひんじや)は之(これ)を利用(りよう)する事(こと)を得(え)ず。018教育(けういく)機関(きくわん)は立派(りつぱ)に設(まう)けられたりと雖(いへど)も、019貧者(ひんじや)は是(これ)に入学(にふがく)するを得(え)ず。020寄席(よせ)劇場(げきぢやう)などは市(まち)の四方(しはう)に建設(けんせつ)され地上(ちじやう)の楽園(らくゑん)を現出(げんしゆつ)すれども、021貧者(ひんじや)は又(また)之(これ)に一回(いつくわい)の慰安(ゐあん)を求(もと)むる事(こと)を得(え)ず。022病院(びやうゐん)は各所(かくしよ)に甍(いらか)を列(つら)ねて樹立(じゆりつ)すれども、023貧者(ひんじや)は是(これ)に入(い)つて治療(ちりやう)を受(う)くる事(こと)を得(え)ず。024美味(びみ)佳肴(かかう)は料理屋(れうりや)の店頭(てんとう)に並(なら)べられたりと雖(いへど)も、025貧者(ひんじや)又(また)此(この)恩恵(おんけい)に浴(よく)するを得(え)ず。026錦繍(きんしう)綾羅(りようら)を店頭(てんとう)に陳列(ちんれつ)せる大(だい)呉服店(ごふくてん)は市中(しちう)目抜(めぬき)の場処(ばしよ)に櫛比(しつぴ)すれども貧者(ひんじや)は一片(いつぺん)の布(ぬの)も購求(こうきう)する事(こと)を得(え)ず。027日夜(にちや)飢(うゑ)に泣(な)き寒(さむ)さに凍(こご)え、028空虚腹(すきはら)を抱(かか)えて半病人(はんびやうにん)の如(ごと)く路(みち)の傍(かたはら)を悄々(しほしほ)と喘(あえ)ぎ行(ゆ)くのみ。029富者(ふうしや)は大小名(だいせうみやう)と結托(けつたく)して暴利(ばうり)を貪(むさぼ)り、030物価(ぶつか)は日(ひ)を逐(お)うて暴騰(ばうとう)し、031生存難(せいぞんなん)の声(こゑ)は日(ひ)を逐(お)うて喧(かまび)すしく、032淵川(ふちかは)に身(み)を投(な)ぐるもの、033鉄砲腹(てつぱうばら)を為(な)すもの、034ブランコ往生(わうじやう)を演(えん)ずるもの、035線路(せんろ)を枕(まくら)に命(いのち)を捨(す)つるもの、036日(ひ)に夜(よ)に数(かず)限(かぎ)りも無(な)く、037暗黒(あんこく)の幕(まく)は下層(かそう)社会(しやくわい)に日(ひ)に日(ひ)に濃厚(のうこう)に下(くだ)されて来(き)た。038民衆(みんしう)の憤怒(ふんど)怨嗟(ゑんさ)の声(こゑ)、039号泣(がうきふ)の叫(さけ)び、040恰(あたか)も阿鼻(あび)叫喚(けうかん)041地獄(ぢごく)の状態(じやうたい)と成(な)つて来(き)た。042大小名(だいせうみやう)撲滅(ぼくめつ)の声(こゑ)は国内(こくない)各処(かくしよ)に起(おこ)り、043市民(しみん)大会(たいくわい)、044民衆(みんしう)大会(たいくわい)其(その)他(た)所有(あらゆる)民衆(みんしう)の会合(くわいがふ)は、045各処(かくしよ)に開(ひら)かれ、046目付役(めつけやく)と民衆(みんしう)の争闘(さうとう)、0461絶間(たへま)なく血腥(ちなまぐさ)き風(かぜ)は四方(しはう)に吹(ふ)き荒(すさ)び、047流石(さすが)安逸(あんいつ)なりしタラハン国(ごく)も、048今(いま)は漸(やうや)く修羅(しゆら)の巷(ちまた)と成(な)つて了(しま)つた。049不逞団(ふていだん)歌劇団(かげきだん)其(その)他(た)の各種(かくしゆ)の団体(だんたい)は期(き)せずして都大路(みやこおほぢ)に集(あつま)り、050タラハン国(ごく)の創立(さうりつ)記念日(きねんび)なる五月(ごぐわつ)五日(いつか)を期(き)して、051城下(じやうか)の場所(ばしよ)に一斉(いつせい)に放火(はうくわ)を始(はじ)め、052其(その)虚(きよ)に乗(じやう)じて血(ち)に飢(う)ゑたる民衆(みんしう)は所有(あらゆる)悪業(あくげふ)を恣(ほしいまま)にし、053一(いち)時(じ)は殆(ほと)んど無取締(むとりしまり)の状態(じやうたい)になりしが、054漸(やうや)くにして侍(さむらひ)連(れん)の力(ちから)を借(か)つて稀有(けう)の騒乱(さうらん)を鎮圧(ちんあつ)する事(こと)を得(え)たので有(あ)る。055此(この)騒擾(さうぜう)勃発(ぼつぱつ)の為(ため)に、056富有(ふいう)連(れん)の傍杖(そばづゑ)を食(く)つて僅(わづ)かの財産(ざいさん)を焼失(せうしつ)したるもの、057親(おや)を失(うしな)ひ、058妻(つま)を失(うしな)ひ、059夫(をつと)に別(わか)れ、060或(あるひ)は一家(いつか)全滅(ぜんめつ)したる者(もの)数限(かずかぎ)りもなく、0601都大路(みやこおほぢ)は流血(りうけつ)の巷(ちまた)と化(くわ)し、061死屍(しし)累々(るゐるゐ)として目(め)も当(あ)てられぬ惨状(さんじやう)と成(な)つた。062子(こ)は母(はは)の背(せ)にあつて飢(うゑ)に泣(な)き、063老人(らうじん)は腰(こし)を抜(ぬ)かして路傍(ろばう)に倒(たふ)れ、064或(あるひ)は半死(はんし)半生(はんしやう)、065重傷(ぢうしやう)を負(お)うて苦(くるし)む者(もの)幾千(いくせん)人(にん)とも数(かぞ)へ切(き)れぬ程(ほど)であつた。066有志(いうし)の各団体(かくだんたい)は罹災民(りさいみん)救護(きうご)の為(ため)、067東西(とうざい)南北(なんぼく)に駆(かけ)まはり、068米(こめ)麦(むぎ)野菜(やさい)などをあさつて、069一(いち)時(じ)の急(きふ)を救(すく)はむとすれ共(ども)、070到底(たうてい)其(その)一部(いちぶ)の要求(えうきう)を充(みた)すにも足(た)らなかつた。071流言(りうげん)蜚語(ひご)盛(さか)ンに起(おこ)り、072人心(じんしん)恟々(きようきよう)として安(やす)からず、073今(いま)にタラハン国(ごく)は滅亡(めつぼう)の悲運(ひうん)に向(むか)ふべしなどと人々(ひとびと)の口(くち)に依(よ)つて喧伝(けんでん)された。074斯(か)かる所(ところ)へ肉体美(にくたいび)に過(す)ぎた大兵(だいひやう)肥満(ひまん)の女(をんな)一人(ひとり)現(あら)はれ来(きた)り、075札(さつ)ビラを路上(ろじやう)に撒(ま)き散(ち)らし乍(なが)ら声(こゑ)高々(たかだか)と何事(なにごと)か唄(うた)ひ乍(なが)ら、076碁盤(ごばん)の目(め)の街(まち)を彼方(かなた)此方(こなた)と駆(か)けめぐつてゐる。
077女(をんな)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
078人(ひと)と鬼(おに)とを立別(たてわ)ける
079天(てん)には黒雲(くろくも)塞(ふさ)がりて
080月日(つきひ)の影(かげ)も地(ち)に照(て)らず
081天(あめ)が下(した)なる人草(ひとぐさ)は
082優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)日(ひ)をかさね
083強(つよ)きは高(たか)く登(のぼ)りつめ
084栄耀(えいえう)栄華(えいぐわ)の有(あり)丈(たけ)を
085尽(つく)して下(しも)の難儀(なんぎ)をば
086空(そら)吹(ふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)し
087貧(まづ)しき民(たみ)を虐(しひた)げて
088生血(いきち)を絞(しぼ)り脂(あぶら)をば
089力(ちから)限(かぎ)りに吸(すひ)取(と)れば
090痩(や)せ衰(おとろ)へて餓鬼(がき)の如(ごと)
091骨(ほね)と皮(かは)とに成(な)り果(は)てぬ
092神(かみ)が此(この)世(よ)に在(ま)す上(うへ)は
093何時(いつ)迄(まで)許(ゆる)し玉(たま)はむや
094此(この)世(よ)の中(なか)は神(かみ)様(さま)が
095万(よろづ)の民(たみ)を平等(べうどう)に
096楽(たのし)く嬉(うれ)しく暮(くら)させて
097天国(てんごく)浄土(じやうど)の神政(しんせい)を
098布(し)かむが為(ため)の思召(おぼしめし)
099然(しか)るに何(なん)ぞ計(はか)らむや
100上(かみ)は左守(さもり)を始(はじ)めとし
101富有(ふいう)連(れん)や長者(ちやうじや)等(ら)が
102勝手(かつて)気儘(きまま)に振(ふ)れ舞(ま)ひて
103下(しも)国民(くにたみ)を苦(くる)しめし
104報(むく)いは忽(たちま)ち目(ま)の当(あた)り
105思(おも)ひ知(し)つたか左守司(さもりかみ)
106其(その)他(ほか)百(もも)の司(つかさ)達(たち)
107今(いま)に心(こころ)を直(なほ)さねば
108打(う)てや懲(こ)らせと民衆(みんしう)が
109鬨(とき)を作(つく)つて攻(せめ)寄(よ)せる
110其(その)凶兆(きようてう)はありありと
111今(いま)より伺(うかが)ひ知(し)られたり
112あゝ民衆(みんしう)よ民衆(みんしう)よ
113必(かなら)ず憂(うれ)ふる事(こと)なかれ
114至仁(しじん)至愛(しあい)の神(かみ)さまは
115必(かなら)ず汝(なれ)が窮状(きうじやう)を
116何時(いつ)まで見捨(みす)て給(たま)はむや
117必(かなら)ず一陽(いちやう)来復(らいふく)の
118春(はる)を迎(むか)へて永久(とこしへ)に
119安(やす)き楽(たのし)き神(かみ)の国(くに)
120此(この)世(よ)の中(なか)に樹(た)て玉(たま)ひ
121今(いま)迄(まで)下(しも)に苦(くる)しみし
122清(きよ)き正(ただ)しき汝(なんぢ)等(ら)を
123高(たか)きに救(すく)ひ給(たま)ふべし
124天(てん)は降(くだ)つて地(つち)と成(な)り
125地(つち)は上(のぼ)つて天(てん)と成(な)る
126有為(うゐ)天変(てんぺん)の世(よ)の中(なか)は
127何時(いつ)まで大名(だいみやう)小名(せうみやう)の
128自由(じいう)の振舞(ふるまひ)許(ゆる)さむや
129あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
130神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
131吾(われ)等(ら)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
132愈々(いよいよ)時節(じせつ)が参(まゐ)りなば
133今(いま)迄(まで)此(この)世(よ)に落(お)ち居(ゐ)たる
134百(もも)の正(ただ)しき神(かみ)さまは
135数多(あまた)の神軍(しんぐん)引率(いんそつ)し
136悪(あく)を亡(ほろぼ)しよこしまを
137平(たひ)らげ尽(つく)し給(たま)ふべし
138勇(いさ)めよ勇(いさ)め民衆(みんしう)よ
139時(とき)は来(きた)れり時(とき)は今(いま)
140神政(しんせい)復古(ふくこ)の暁(あかつき)ぞ
141不意(ふい)に起(おこ)つた大火災(だいくわさい)
142是(これ)ぞ全(まつた)く人間(にんげん)の
143力(ちから)に及(およ)ぶ術(すべ)でない
144何(いづ)れも貴(たふと)き神(かみ)様(さま)の
145悪(あく)に対(たい)する警戒(けいかい)ぞ
146如何(いか)に大名(だいみやう)小名(せうみやう)や
147富有(ふいう)連(れん)が覇張(はば)るとも
148彼(かれ)等(ら)が覇張(はば)る世(よ)の中(なか)は
149最早(もはや)末期(まつご)と成(な)りにけり
150勇(いさ)めよ勇(いさ)め皆(みな)勇(いさ)め
151民衆(みんしう)を苦(くる)しむ悪人(あくにん)を
152片(かた)つ端(ぱし)から踏(ふ)み躙(にじ)り
153怯(お)めず臆(おく)せず堂々(だうだう)と
154火(ひ)の洗礼(せんれい)を施(ほどこ)せよ
155血汐(ちしほ)を以(もつ)て世(よ)を洗(あら)へ
156向日(むかひ)の森(もり)の茶坊主(ちやばうず)が
157館(やかた)に後妻(ごさい)と化(ば)けすまし
158三(さん)年(ねん)以来(このかた)身(み)を潜(ひそ)み
159富有(ふいう)連(れん)に出入(でいり)する
160彼(かれ)に付(つ)き添(そ)ひ富有(ふいう)連(れん)の
161事情(じじやう)を査(しら)べ居(ゐ)たりしが
162最早(もはや)時節(じせつ)も充(み)ちぬれば
163数多(あまた)の部下(ぶか)に命令(めいれい)し
164火(ひ)の洗礼(せんれい)を為(さ)せたのは
165大兵(だいひやう)肥満(ひまん)の此(この)女(をんな)
166富有(ふいう)連中(れんちう)が何(なに)恐(こは)い
167大名(だいみやう)小名(せうみやう)糞喰(くそくら)へ
168取締役(とりしまりやく)や目付役(めつけやく)が
169怖(こは)くて此(この)世(よ)に居(を)られうか
170勇(いさ)めよ勇(いさ)め民衆(みんしう)よ
171女(をんな)乍(なが)らも吾(わが)部下(ぶか)は
172タラハン国(ごく)の山(やま)に野(の)に
173幾十万(いくじふまん)の生身魂(いくみたま)
174腕(かひな)を撫(ぶ)して待(ま)つて居(ゐ)る
175愈々(いよいよ)命令(めいれい)一下(いつか)すりや
176四方(しはう)八方(はつぱう)の隅々(すみずみ)ゆ
177ドンドン狼火(のろし)が上(あが)るだろ
178今(いま)の好機(かうき)を逸(いつ)せずに
179汝(なんぢ)等(ら)世界(せかい)の改造(かいざう)を
180命(いのち)の綱(つな)と信(しん)じつつ
181振(ふる)へよ立(た)てよ立上(たちあが)れ
182民衆団(みんしうだん)の頭目(とうもく)と
183世(よ)に聞(きこ)えたるバランスは
184即(すなは)ち吾(わが)身(み)の事(こと)なるぞ
185あゝ勇(いさ)ましや勇(いさ)ましや
186此(この)惨状(さんじやう)を見(み)るに付(つ)け
187下(しも)人民(じんみん)の傍杖(そばづゑ)は
188実(じつ)に涙(なみだ)の種(たね)なれど
189大小名(だいせうみやう)の狼狽(らうばい)の
190其(その)状態(ありさま)を眺(なが)めては
191少(すこ)しは虫(むし)も治(をさ)まらむ
192更生院(かうせいゐん)が何(なに)に成(な)る
193之(これ)も矢(や)つ張(ぱ)り富有(ふいう)等(ら)の
194汝(なんぢ)等(ら)民衆(みんしう)一般(いつぱん)の
195生血(いきち)を絞(しぼ)る手品(てじな)ぞや
196必(かなら)ず迷(まよ)ふな迷(まよ)はされな
197思(おも)へば思(おも)へば村肝(むらきも)の
198心(こころ)の神(かみ)が踊(をど)り出(だ)す
199あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
200御霊(みたま)幸(さちは)へましませよ
201奸侫(かんねい)邪智(じやち)の輩(ともがら)の
202目玉(めだま)飛出(とびだ)しましませよ』
203 十字(じふじ)街道(がいだう)に待(ま)ち構(かま)へて居(ゐ)た数百(すうひやく)の目付隊(めつけたい)は204有無(うむ)を言(い)はせずバラバラと駆(か)け寄(よ)つて手(て)取(と)り足(あし)取(と)り、205取縄(とりなは)を以(もつ)て雁字搦(がんじがら)みに縛(しば)り付(つ)け、206バランスを荷車(にぐるま)に乗(の)せて横大路(よこおほぢ)の取締所(とりしまりしよ)へと運(はこ)び込(こ)むで了(しま)つた。207民衆(みんしう)に化(ば)けて居(ゐ)た彼(かれ)の子分(こぶん)はバランスを取返(とりかへ)さむと潮(うしほ)の如(ごと)く押寄(おしよ)せ、208目付(めつけ)と団員(だんいん)との闘争(とうさう)が演出(えんしゆつ)された。209目付隊(めつけたい)は既(すで)に危(あやふ)く見(み)えた時(とき)、210喇叭(らつぱ)の声(こゑ)も勇(いさ)ましく二千(にせん)人(にん)の侍(さむらひ)は押寄(おしよ)せ来(きた)り211銃(じう)を擬(ぎ)して威喝(ゐかつ)を試(こころ)みたり。212素(もと)より完全(くわんぜん)な武器(ぶき)を有(も)つて居(ゐ)ない民衆(みんしう)は歯(は)がみを為(な)し乍(なが)ら213見(み)す見(み)す大棟梁(だいとうりやう)を奪(うば)はれしまま、214退却(たいきやく)するの止(や)むを得(え)ざるに立至(たちいた)りける。
215 バランスは目付頭(めつけがしら)の前(まへ)に引出(ひきだ)され、216厳重(げんぢう)なる訊問(じんもん)を受(う)けた。217バランスは少(すこ)しも怯(ひる)む色(いろ)無(な)く滔々(たうたう)として目付頭(めつけがしら)に食(く)つて掛(か)かつた。
218目付頭(めつけがしら)『其(その)方(はう)の姓名(せいめい)は何(なん)といふか』
219バランス『俺(おれ)の名(な)はバランスと云(い)ふ者(もの)だ。220民衆(みんしう)救護団(きうごだん)の大頭目(だいとうもく)だ。221有名(いうめい)なバランスの面(つら)を今(いま)迄(まで)知(し)らぬようなウツソリした事(こと)で、222何(ど)うして大目付頭(おほめつけがしら)が勤(つと)まると思(おも)ふか、223余(あま)り平等(べうどう)を欠(か)いだ強食(きやうしよく)弱肉(じやくにく)の現代(げんだい)だから、224バランスを取(と)る為(ため)にバランスと命名(めいめい)したのだ』
225目付頭(めつけがしら)『其(そ)の方(はう)は民衆(みんしう)を煽(おだ)て上(あ)げ、226不逞(ふてい)の徒(と)を鳩集(きうしふ)し、227市街(しがい)に火(ひ)を放(はな)ち、228剰(あまつ)さへ所在(あらゆる)悪業(あくげふ)を敢(あへ)てし、229尚(なほ)飽(あ)き足(た)らず民衆(みんしう)を煽動(せんどう)するとは何(なん)の事(こと)だ。230汝(なんぢ)の如(ごと)き極(ごく)重悪人(ぢうあくにん)は裁判(さいばん)の必要(ひつえう)も無(な)い、231国家(こくか)の為(ため)不愍(ふびん)ながら銃殺(じうさつ)の刑(けい)に処(しよ)するに仍(よ)つて、232此(この)世(よ)の名残(なごり)に念仏(ねんぶつ)でも唱(とな)へて置(お)くが可(よ)からうぞ』
233 バランスは女(をんな)に似合(にあ)はぬ大胆(だいたん)不敵(ふてき)の英雄(えいゆう)で有(あ)る。234身動(みうご)きも成(な)らぬ所(ところ)迄(まで)縛(しば)られ乍(なが)ら、235少(すこ)しも恐(おそ)るる色(いろ)なく大口(おほぐち)開(あ)けて高笑(たかわら)ひ、
236バランス『アハヽヽヽ、237向(むか)ふの見(み)えぬ盲(めくら)ども、238銃殺(じうさつ)なつと絞殺(かうさつ)なつと、239出来(でき)るなら遣(や)つて見(み)よ。240此(この)バランスの命(いのち)はタラハン国(ごく)全体(ぜんたい)とつり代(かへ)の命(いのち)だ。241数十万(すうじふまん)の吾(わが)部下(ぶか)は国内(こくない)の各所(かくしよ)に242バランスが殺(ころ)されたと聞(き)くならば、2421一(いち)時(じ)に蜂起(ほうき)するだらう。243汝(なんぢ)等(ら)如(ごと)き悪目付(あくめつけ)共(ども)は能(よ)く後前(あとさき)の成行(なりゆき)を考(かんが)へて手(て)を下(くだ)したが可(よ)からうぞ。244第一(だいいち)国民(こくみん)の模範(もはん)たるべきものの行状(ぎやうじやう)は何(なん)だ。245向日(むかひ)の森(もり)の畔(ほとり)に住(す)む茶坊主(ちやばうず)タルチンの茅屋(ばうをく)に年(とし)若(わか)き女(をんな)を忍(しの)ばせ、246夜(よ)な夜(よ)な労働者(らうどうしや)の服(ふく)を着(つ)けて通(かよ)ひつめ、247恋(こひ)の奴(やつこ)と成(な)つて脂下(やにさが)つて居(ゐ)るで無(な)いか、248斯様(かやう)な事(こと)で、249如何(どう)して世話(せわ)が完全(くわんぜん)に出来(でき)るか、250其(その)方(はう)共(ども)は呑舟(どんしう)の魚(うを)には恐(おそ)れて近寄(ちかよ)らず、251鮒(ふな)やモロコの如(ごと)きウロクヅを漁(あさ)つて目付力(めつけりよく)が何(ど)うの、252政治(せいぢ)が如何(どう)のと、253好(え)え気(き)に成(な)つて国(くに)の滅亡(めつぼう)を知(し)らない馬鹿者(ばかもの)だ』
254目付頭(めつけがしら)『バランス、255何(なん)と云(い)ふ畏(おそ)れ多(おほ)い事(こと)を言(い)ふのか、256人民(じんみん)の分際(ぶんざい)として、257その行動(かうどう)を云々(うんぬん)すると云(い)ふ不敵(ふてき)な事(こと)が有(あ)るか』
258バランス『ハツハヽヽ、259それほどお邪魔(じやま)に成(な)りますかな。260然(しか)らば此(この)問題(もんだい)は御(ご)推量(すゐりやう)を願(ねが)つて置(お)きませう。261能(よ)く茶坊主(ちやばうず)を呼出(よびだ)してお査(しら)べなさい。262夫(それ)に付(つい)ても許(ゆる)し難(がた)きは左守(さもり)ガンヂーが悴(せがれ)アリナと云(い)ふ奴(やつ)、263不届(ふとどき)至極(しごく)にも茶坊主(ちやばうず)を取込(とりこ)み、264山出(やまだ)し女(をんな)との媒介(ばいかい)を致(いた)して居(ゐ)るのみならず、265自分(じぶん)は殿中(でんちう)に錦衣(きんい)を着(つ)け、266偽(にせ)太将(たいしやう)と成(な)り代(かは)り、267左守(さもり)右守(うもり)の目(め)を眩(くら)まして居(ゐ)るでは無(な)いか。268大王(だいわう)殿下(でんか)は御(ご)重病(ぢうびやう)にて上下(しやうか)憂鬱(いううつ)に沈(しづ)む折柄(をりから)、269悴(せがれ)たるものは女(をんな)に狂(くる)ひ、270又(また)左守(さもり)の悴(せがれ)は王位(わうゐ)を奪(うば)はむとして居(ゐ)る大胆(だいたん)不敵(ふてき)の曲者(くせもの)、271其(その)他(た)の大名(だいみやう)共(ども)は之(これ)を見(み)ても推(お)して知(し)るべしで有(あ)る。272此(この)バランスはタラハン国(ごく)民衆(みんしう)全部(ぜんぶ)の代表者(だいへうしや)だ、273決(けつ)して嘘(うそ)は言(い)はないぞ、274早速(さつそく)調(しら)べて見(み)るが宜(よ)からう』
275 此(この)言葉(ことば)に目付頭(めつけがしら)も並(な)み居(ゐ)る目付(めつき)等(ら)も色(いろ)を失(うしな)ひ、276太(ふと)き息(いき)を漏(も)らして互(たがひ)に面(かほ)を見合(みあは)すのみで有(あ)つた。277又(また)もや民衆(みんしう)と目付役(めつけやく)と闘(たたか)ふ声(こゑ)、278庭(には)の近辺(きんぺん)に喧(やかま)しく響(ひび)いて来(き)た。
279(大正一四・一・六 新一・二九 於月光閣 松村真澄録)
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