二十八歳の頃
松風のかなづる小琴の音も清み宝座ひそけく照らす月かげ
ふくろふの声ねむたげに向つ尾の松のしげみに聞ゆる宝座
四十八宝座の岩ケ根露冷えて松吹く風の涼しき小夜更け
岩ケ根にくろぐろ実る岩梨の甘きかをりのただよふ夜更け
月光にすかし熟れたる岩梨の実をとり食ひて咽喉しめしけり
小夜更けの月はうごかず岩ケ根を真白に照らしてそよ風わたる
神界の旅
うつらうつら松風の音にさそはれてわが精霊は霊界にかよふ
目路の限り百花千花咲き匂ふ野辺を楽しくわれ一人ゆく
花匂ひ小鳥はうたひ蝶は舞ふ広野にたちて神の息吸ふ
山も野も生気にみちたる天地の楽しき中にひたるわが魂
むらさきの雲四方八方にたなびきて心すがしも霊界のたび
山も野も風も草木も光りつつわれもひかりて花園にたつ
夜のなきこの神国に玉の緒の生きの生命のたのしさにひたる
むらきものこころ楽しさおもはずもわれ霊界の歌口ずさむ
地の上にためしもあらぬこの眺めわれ霊界に見るぞ楽しき
ままならばわが身このまま現界に帰らず永久に住みたしと思ふ
木も草も黄金の色にはえながらみづみづしもよ常夏の呼吸
恍惚とわれを忘れてたたずみぬこの神国の清きながめに
死後の世界ありとは知れどかくまでも楽しき国とは思はざりけり
吹く風も清く涼しくやはらかく梅花のかをり四方に流るる
たぐひなき珍の景色にひたりつつわれは静に無我の声きく
無我の声こゑなき声をききながらわれ神国の花に息すも
むらきもの心のどけし花匂ふ春の神国にわれひとりゐて
ひさかたの天の岩戸の開けたる後の神代のすがたなるかも
梢吹く風にも神の声をきく神国の春にわが酔へるかも
悠悠と黄金の翼ひるがへしわが目路ちかくみ空すべる鷹
草も樹も小鳥も蝶も黄金の色にかがよふ天国の春
貴の姫神
忽然とあらはれ出でし神人は笑みたたえつつわれを手招く
自らひきよせらるる心地して女神の前にわれ近づきぬ
ぷんぷんとあたりに匂ふ芳香は女神の肌をすぎて来し風
何神におはしますやと名を問へどほほゑみにつつ御名は宣らさず
かにかくにわがゆく道を辿りませと宣りて女神は先にたたせり
稚姫の神の命か木の花姫かとおもひつつわれ従ひてゆく
行きゆけば清水流るる大川に黄金橋の虹のごとかかれる
姫神はあと振り返りいざさらば渡らせ玉へと指もてさせり
渡らむとおもへど足のすべらひて幾度となく転がりしわれ
姫神はわが手をとりてひき起し塵うち払ひてほほゑみませり
姫神のわたらふ橋を男の子われわたらえぬかと恥らひにけり
汝こそは女神にませば必ずやはぢらひますなと姫神宣らせり
不思議なることを宣らすと佇めば黄金の橋にうつらふわが顔
何時の間にかわれは女神となりてをり五色の衣をまとひたるまま
黄金の宮
うち仰ぐ雲のあなたにきらきらと黄金の宮居の輝きてあり
何神の宮居にますかとたづぬれば月の宮よと宣らす姫神
霊国もはや近づきぬいざさらば急がせ玉へとうながしたまふ
なめらなる黄金の橋にすべらひて心あせれど足もとたゆたふ
はづかしさ苦しさ汗は滝のごとわが全身にふき出でにけり
わが汗に苦しむ刹那さつと吹く川風涼しく汗かわきけり
おばしまにもたれて川の面見渡せば白衣の神人衣洗ひをり
水浅き清き流れに小魚あまた浮べるさまの麗しきかな
汀辺に匂へる花のむらさきはうつし世にみる花あやめかも
川底の砂利は五色にかがやきつ女神の脛を洗ひながるる
姫神は川のおもてをゆびさして八洲の河原と宣らせ玉へり
ウーピーの神
ウーピーの神出でますといふ声の何処ともなくきこえ来にけり
ウーピーの神はいづれにましますかととへば女神は君よと宣らせる
七乙女はしの袂にたたずみて橋わたりゆくわれを迎へり
後になり先になりつつ姫神はわれを気づかひ玉ふかしこさ
七乙女声を揃へてうたひけりその歌記憶を辿りてしるさむ
エンゼルの歌
久方の天津み国は開けたり 黄金の橋をわたらす姫神
今あれませる姫神は 木の花姫の御神よ
賢和田の姫の御神よ 経と緯との経綸に
四方の草木はうるほひつ 百の神人春うたふ
実にたのもしき神国や 一度に開く白梅の
花のかをりの永遠に つきぬ千歳の足る御代を
開かせたまふ姫神の 昇り来ませる今日こそは
天の岩戸もあけそめて 日月星辰光まし
忽ち天国の礎を 開かせたまひし尊さよ
葦原の中津み国をみはらせば 常やみの世のくも深く
やその曲津の雄たけびに 泥海世界となりにけり
地上の泥をすすがせて 神国を建つる時は来ぬ
神国を建つる時は来ぬ この姫神のあれし上は
天地隈なくはれわたり 夜なき国の瑞祥を
いや永遠に祝ふべし ああ惟神惟神
神のよさしに従ひて 世にも芽出度き神人を
八洲の河原にかけわたす 黄金の橋の橋詰に
迎へまつりしわれらが幸を 神の御前にことほがん
百のエンゼルまします中に えらまれ出でし七乙女
松の代をさむる主の神の 御霊迎へしうれしさよ
ああとこしへにとこしへに 覚めであれかしこの正夢を
○
姫神に手をひかれつつ七乙女案内のもとに神国にすすむ
八洲川の水潺せんと流れつつ波音きよくわが胸洗へり
七乙女迎ふる珍のおん姿わが目清しくしばし見つむる
天国かはた霊国か知らねども吾たましひは勇みにいさむ