霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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天王の山

インフォメーション
題名:天王の山 著者:出口王仁三郎
ページ:175
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-10-31 06:24:00 OBC :B120900c34
をみなへし桔梗(ききやう)の匂ふ(いち)()天王山(てんのうやま)(きのこ)狩りたり
松茸(まつたけ)は一本もなく雑茸(ざふたけ)いくち(かご)にみちたらひたり
(たに)あひに(あを)あを水を(たた)へたる山池(やまいけ)波たち秋風(あきかぜ)すずし
夕津陽(ゆふつひ)山池(やまいけ)()()かしつつ秋を(しづか)に山に落ちたり
(いけ)()(ひし)をとらむとあやまちて(すべ)り落ちたる(ゆふ)べの冷たさ
池水(いけみづ)をはつはつおよぎ土手にのぼり裸になりて着物をしぼる
理不尽
ともなひし春蔵(はるざう)竹村(たけむら)浦上(うらかみ)らわが(おぼ)れしを笑うて見てをり
われ水に落ちしを何故(なにゆゑ)救はずに笑ひたるかと(なじ)りてみたりき
竹村は両手を()ちて高笑(たかわら)ひ神のしぐみと妙なこといふ
神様のおしぐみ邪魔するお前さんは(おぼ)れ死ぬのが道のためといふ
理不尽なその暴言にあきれはてわれ一言(ひとこと)もかへさずにゐる
浦上(うらかみ)はやにはに竹村の前頭部をぴしやりぴしやりと打ち据ゑてをり
『竹村』筆先の御用をいたすこの方をなぐつた奴は手が()れるぞよ
『浦上』人情を知らぬ貴様をうつたのは(みな)神様の制裁と思へ
『竹村』神様が人をなぐるといふことがどこにあるかい浦上(うらかみ)の野郎
逆理屈
春蔵(はるざう)は蒼い顔してこの場をば(きのこ)たづさへすごすご逃げゆく
浦上(うらかみ)と竹村二人は土手の()に組みつ組まれつ争ひてをり
浦上に睾丸(かうぐわん)しめられ竹村は蒼き顔してふんのびにけり
浦上は呆然として立ちあがり()うしませうと心配顔なる
心配はするに及ばず救はむとわれ数歌(かずうた)を宣りあげにけり
数歌(かずうた)を宣れば竹村動き出し息ふきかへしきよろきよろ見てをり
竹村さん(しつか)りせよとわれ言へば馬鹿にするなと逆に(にら)めり
浦上に内証でいひつけこの(はう)を苦しめよつたとさか理屈いふ
山に入る
竹村の暴言にわれ堪へかねて二人を見すて山奥に()
天王山(てんのうやま)尾根に鎮まる午頭(ごづ)神社の社前(しやぜん)()りて黙考(もくかう)なしをり
わからずやの金光教の信徒(しんと)のみゐる綾部をば去らむと思へり
闇の(まく)つぎつぎ迫り咫尺(しせき)さへ弁ぜぬまでになりて淋しき
つくづくと思案にくるる(をり)もあれ足下(あしもと)を通る(きつね)のすがた
知らぬ顔なしつつあればこの(きつね)いづくともなく立去(たちさ)りにけり
月光照闇
(ひんがし)の山の()(てら)して十七夜の月はやうやく昇りそめたり
味方山(みかたやま)尾根に昇りし月かげは胸のそこまで冴えわたりたり
ただひとり山の尾上(をのへ)に月をみる(よる)は淋しくまたも(すが)しき
ひとりみる月はことさら冷えびえと身にしみわたる心地せりけり
あるは()ちあるひは()くる月かげに胸の雲霧(くもきり)ややはれわたる
半月(はんつき)は闇の()なれど半月(はんつき)(つき)()づるおもへば人生(たの)
いかならむ悪魔の中も忍び忍び道(ひら)かむと雄心(をごころ)の湧く
この()より月の恋しさ(すが)しさを今更(いまさら)のごと悟りたりけり
山上の月
つぎつぎに高く昇りし月光(つきかげ)は右にまはりて木の枝にかかれり
常磐木(ときはぎ)の松にかかりし月光(つきかげ)をまためづらしと(すが)しみ見てをり
山上(さんじやう)の月に霊魂(みたま)を洗はむとわれ夜明(よあか)しをせむと思へり
(ふくろふ)(めす)の鳴く()雌狐(めぎつね)かぎやあぎやあ(いや)らしき声のきこゆる
森閑(しんかん)と静まりかへる小夜更(さよふけ)はいやらしき声も(ちから)と思へり
大空(おほぞら)の月に語れど(なげ)けども(こた)へなきこそ淋しかりけり
わがみたる今宵(こよひ)の月はよろこびの月なりにけり悲しみの月
わが(たま)をよみかやしたる月光(つきかげ)はわが一生の導師(だうし)なりけり
小夜嵐
小夜(さよ)(あらし)さつと吹きつつばらばらと屋根に落ち来る枯松葉(かれまつば)の音
社前(しやぜん)をば立ちいで松の(かげ)に立ちて天津祝詞の奏上をなす
一塊(いつくわい)黒雲(くろくも)天にあらはれて(たちま)ちちからの月を呑みけり
あたり皆うばたまの闇におそはれてわが足元(あしもと)もわかずなりけり
(くだ)るべき道もわからず呆然と()の明くるまで待たむかと思ふ
提灯の灯
提灯(ちやうちん)()山下(やました)に五つ六つちらつきそめて人声(ひとごゑ)たかし
御開祖(ごかいそ)の厳命によりて竹村らわれを探しに()しと見えたり
小夜(さよ)(あらし)吹きのまにまに(きこ)()る声はたしかに浦上(うらかみ)竹村(たけむら)
四五人の男女の(ささや)きかしましく次第次第に近づきにけり
迎へられて帰るも男の意地たたず(むか)(たに)べをさして()りたり
こそこそと木下(こした)の闇をくぐりゆけば(きつね)一匹わが(まへ)通る
われ行けば狐も歩み狐ゆけばわれもその(あと)伝ひて歩む
やうやくに天王平(てんのうだひら)東谷(ひがしだに)(くさ)踏みしだき寺村(てらむら)()でたり
本宮山の夜
寺村(てらむら)田圃路(たんぼみち)をば辿りつつ本宮山(ほんぐうやま)にかけ登りたり
本宮山(ほんぐうやま)尾根にたたづみ眺むれば天王山(てんのうやま)に提灯きらめく
一二間(いちにけん)間隔たもち提灯は(いち)の字なりに山につらなる
枯芝(かれしば)をかき集めつつ本宮山(ほんぐうやま)の南の(はし)に火を()きにけり
火を()きておーいおーいと呼ばはれば天王山(てんのうやま)(こだま)ひびかふ
提灯(ちやうちん)()(たちま)ちにゆらつきて山を()()るさまあはれなり
本宮山(ほんぐうやま)(くだ)りて広間に帰りみれば開祖祈願の最中(もなか)なりけり
御祈願のをはるを待ちて開祖様(かへ)りましたと挨拶をなす「挨拶」の「挨」は底本では「埃」になっているが誤字であろう。
先生かまづまづ無事で結構とまたも神前(みまへ)に感謝し給へり
開祖の慰撫
感謝の()(をは)りて開祖はおもむろに辛抱せよとさとし給へり
『上田』竹村があまり無体(むたい)を申すゆゑ綾部を去らうと思案しました
そんな気の小さいことで神様の御用が出来るかと御声(おんこゑ)強し
こんなことでへこたれるやうなお前さんと思はなんだとえらい権幕
今晩はこれでおやすみなされよと言ひつつ開祖は寝所(しんじよ)()らせり
ざわざわと人の足音かしましく五人の男女は帰り来たれり
表戸(おもてど)をぴつしやりしめて(ぢやう)おろしものをも言はず寝てゐたりけり
浦上(うらかみ)表戸(おもてど)たたき開祖様先生さんは帰られましたか
戸を叩くはげしき音に()開祖は耳ざとく眼をさまし給へり
『開祖』先生は無事に帰つてござる(ゆゑ)早う帰つておやすみなされ
御神徳(ごしんとく)いただきましたと一同は拍手しながら吾家(わがや)に帰りゆく
(きた)るべき世の(さま)思ひ巡らせて秋の長夜(ながよ)を眠りがてにゐる
大本の前途は(はる)けし今の()に準備せばやと教典を(あら)はす
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