天地の曇晴らして久方の太陽光を青葉に投げつつ
梅雨ばれの空を照して夏の夜の月は本宮山にかかれり
四ツ王の山の尾の上の緑葉の露にかがよふ夏の夜の月
地の上の人のさわぎを知らぬがに清しく照れる本宮の月
たのむべき人さへもなき醜の世の力と仰ぎぬ天心の月
立替を待望したる小人の野望をよそに月はほほゑむ
出雲行すめば世界の立替と迷信したる人の面あをし
御開祖の出雲詣でを期待せし信徒の顔の力なきかな
地の上の大立替をさけびたる竹村俄かにしよげかへりつつ
小松林お供せしゆゑ立替がおくれしと悔む二三の役員
会長がをらねば世界の立替は容易ならむとよりより協議す
よくぼけの愚物ばかりが寄り合ひて囁く声のをかしき夏なり
百舌鳥雀四十雀がら立替を待ちあぐみたる頭上に月照る
金光の教師足立は偉かつたと役員われに鉾さき向くる
一家族つれて穴太にかへれよと頑固頭が日夜にせまる
帰らんと吾は思へどかむながら道重ければ動きもならず
京都より土佐の新米おくり来ぬ旧六月の廿五日に
神の道認識不足の役員にあきて綾部の橋上にあそぶ
水清くながるる橋の上に立ちて上と下とに夏月を見る
淙淙と流れも清き和知川にうつらふ月のさわやかなるも
わが心月の如しと言ひながら雄たけびしたり綾部橋の上に
橋の上に夕べを立てば吾が袂ひるがへしつつ吹く風すずし
村肝の心きたなき人の群のがれて吾は橋上の月見し
わがなげきつゆ白波の面照らし無心の月は夜半をかがやく
わが心慰むるものは夏の夜の橋上にみる月なりにけり
洗はれし如くかがよふ夏の夜の月仰ぎつつわが魂をねる
綾部橋夕べを立てば月冴えて漁火のかげ遠くみゆるも
並松の枝をうつせる川底にみ空の月は澄みきらひたり
真夜中に家に帰れば竹村は表戸とざして吾を入れなく
力限り戸をうち叩けば竹村は面ふくらせて門開けにけり
神様に仕ふる身ながら夜遊びをなぜなさるかと詰る竹村
橋上の愛人にあひて知らず識らず夜は更けたりとわざと答へぬ
愛人は何人なるか怪しからぬ調べにやおかぬといきまく竹村
愛人は松ケ枝にてる夏の月水の面ながるる天の月舟
ああさうよ大槻とう子といひながらまなじりつりて鼻息あらし
開祖様に申しあげねばおかないと開祖の居間に竹村かけ入る
『竹村』教祖様会長さんは恋人と綾部の橋であひびきしました
『竹村』あんな人一日も早く帰らせてこの大本の立替なされよ
御開祖は寝耳に水の忠言におどろき床をはねおき給へり
ともかくも神示こはんと御開祖は水あみ神前にぬかづき給ふ
竹村も開祖とともに神前に手をあはせつつ何か祈れり
御開祖はにはかに吹き出し給ひつつ会長さんの恋人は月
『開祖』地の上の善悪美醜をにこやかに照らせる月はみろくの大神
みろく様は私にとつても恋人とほほゑみながら開祖は宣らせり
竹村は開祖の言葉に失望し頭かきかき神前を下る
吾恋は人にはあらず御空行く月の光の影なりにけり
月恋ふる心の空は晴れにつつ勇みて朝夕神に仕へし
千早振神の御業にあらざれば吾は愚人の中には棲まじ
和知川の面を流るる大空の月は静に夏更けわたれり