夏草の茂らふ野路をわけゆけば右も左もばつた飛ぶなり
夏草の茂みにひそみ鳴くぎすの声さわがしき何鹿の野べ
夏深くなりにけらしな若宮の杜の茂みになく蝉のこゑ
ガツト虫羽翼そなへて樹の枝に蝉と化りつつ鳴ける夏なり
本宮の山のふもとの常磐木にあした夕べを油蝉なく
かしましくさへづりながら近よれば小便あびせて逃げゆく夏蝉
大江山雲わきおこり何鹿の野にひとしきり夕立の降る
夕立の音になき出す田蛙のはだかで叫ぶ夏なりにけり
ぎすばつた蛙むれゐる本宮の山のふもとの叢の池
あづさ弓矢田の谷むら草しげみひそみゐるかもばつたの群は
夏草の茂らひ深くふみてゆく道さへわかず蚯蚓なくなり
蝉なける森の茂みの深ければ夏は地上にとどかざりけり
払へども刈れども茂る醜草の深きに夏の陽光とほらず
かむながら道に茂らふ雑草をきりはふらんと吾は汗すも
やき鎌の利鎌をもちて刈りとれどまたもや茂る醜草の若芽
かんかんと夏陽の照れば本宮の山下の蛙水かぶるなり
あてもなき野心にかられ夏蝉のささやく森に昼月白し
並松の道のかたへになでしこの花咲きにつつ秋は近めり
なでしこの花を摘まんと和知川の土堤の夕べをゆきかひにけり
庭の面に植ゑうつしたる撫子を醜の蛙のひきさりてゆく
日並べて雨は降れども撫子の花の色香はあせざりにけり
吾妹子とともに眺むる庭の面の撫子の花いたむる蛆虫
水無月の祭の太鼓ひびかひつ夕べを鳴ける蝉のむた声
水無月の神の宮居に詣でゆくわが後姿につきそふ影あり
どこまでも執念ぶかくついて来る怪しのかげは心よからず
わがゆけば後よりおくり狼のありと思へば油断ならなく
御開祖の手植ゑになりし藤棚は青葉茂りてかげ深かりき
大神の拝礼終りて帰り路の辻にあやしき人のかげあり
何人と声をかくればお迎へとしどろもどろの答へあやしき
何処までもわが身辺をつけねらふ怪しのかげは闇にふえつつ
和衣の綾部の町はにぎはへり水無月祭の人の山にて
水無月の宮居の庭の白藤を見つつ教祖の心偲べり
憲法の信教自由を曲解し許可をうけよと司せまり来
信教の自由は憲法保証せりといへば司は左右に首ふる
許可なくば道の宣伝相ならずと認識不足の司の言葉
長きものにまかるる譬その筋の許しうけんと吾は思へり
大本は神のひらきし神の道許可はいらぬと開祖の強腰
御開祖と司の中にはさまれて吾は去就に苦しみにけり
御神示は兎も角日本は法治国認可を得んと思ひなほせり
やむを得ず木下慶太郎ともなひて長沢恩師の許にはせゆく
わが話長沢翁は聞きをはり皇道会にて願へとのらせり
出願の手続き了へてはるばると京都をさして帰り路につく
稲みのる秋の田の面をながめつつ東海道の旅は長しも
朝夕は風冷えにつつ秋ふかみ人の心もしづまりにけり
ともかくも京都の支部にとどまりて実印押すべく木下帰らず
木下は綾部に帰りなに故か何んの答へもなさざりにけり
木下の返事待つ間のもどかしく吾は伏見の支部に向へり
伏見支部山本の家にやすらひてわれ朝夕に宣伝をなす
桃山の稲荷おろしを調べむと夕べをかけて教会にいたる
大成教敬神教会支部といふ大看板はかかげられあり
支部長は稲荷下しをはじめだしわが霊縛にふんぞりかへれり
鞍馬山大天狗ぞと憑霊は起きあがりさま吾を睨めり
その方は天狗にあらず狸よとつぼささされて憑霊うつむく
隣室に狂女はひとりひそみ居て山子教会と叫べ出せり
この男教会教師は看板よ暇さへあれば賭博するといふ
これからは決して嘘は申さぬと教師は吾にあやまりてをり
大本の支部員山本安田小島教師の詐術にあきれかへれり
現代の神道教師は六七分狐狸の容器なりけり
京都より御牧杉浦時田金太郎松江元利氏たづねきたれり
桃山の夕を吹ける松風の音さらさらと鳴りひびくなり
此頃は明治の御陵無かりせば松吹く風も淋しかりけり
そのむかし豊太閤の築きたる桃山城趾見る影もなし
月かげは雲に包まれ桃山のあたり小暗く夜は更けにける