霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 空気焔(からきえん)〔九七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻 篇:第2篇 ナイルの水源 よみ(新仮名遣い):ないるのすいげん
章:第14章 空気焔 よみ(新仮名遣い):からきえん 通し章番号:978
口述日:1922(大正11)年09月16日(旧07月25日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
一行四人がスッポンの湖に着いたときには、日はすでに暮れていた。あたりの恐ろしげな様子に、孫公はすっかり震えあがっていた。
暗夜にもかかわらず湖は泡立ち、波の柱があちこちに立ち始めた。湖中から赤白青黄などの火の玉が数限りなく現れて来た。火の玉にはいやらしい顔がついていて、四人のそばに来て頭上を前後左右に飛び回っていたが、身辺には寄り付いてこなかった。
虎公、三公、お愛はこの様子を泰然として眺めていた。三公がにわか宣伝使になったばかりの孫公に出陣を促すと、孫公は歯をがたがた言わせながら弱音を吐き、三公に先陣を頼み込んだ。
三公からどうしても孫公別宣伝使でなければこの戦いはだめだと急き立てられ、孫公はやせ我慢の震え声で宣伝歌を歌い始めた。最初は震え声だったのが、最後は拍子はずれな大声を張り上げて、自賛の宣伝歌で大蛇に降伏を迫った。
孫公の宣伝歌が終わると、恐ろしい唸り声が四方八方から聞こえだし、烈風が吹き大地は震動した。孫公は樫の木の根株にしがみついてしゃがんで震えてしまった。
三公は烈風の中、樫の木につかまって湖面に向かって宣伝歌を歌い始めた。両親の仇と、大蛇に出て来いと呼ばわり、勝負を挑む勇ましい歌であった。しかし三公の歌によって湖はますます荒れ狂った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-28 11:04:57 文字数:3261 OBC :rm3514
愛善世界社版:158頁 八幡書店版:第6輯 528頁 修補版: 校定版:167頁 普及版:61頁 初版: ページ備考:
001 一行(いつかう)四(よ)人(にん)は漸(やうや)くにしてスツポンの湖水(こすゐ)の南岸(なんがん)に辿(たど)り着(つ)いた。002此(この)時(とき)已(すで)に夜(よ)はズツプリと暮(く)れ果(は)て、003鬼哭(きこく)愁々(しうしう)として寂寥(せきれう)身(み)に迫(せま)り来(きた)る。004肝腎(かんじん)の自称(じしよう)宣伝使(せんでんし)孫公別(まごこうわけ)は、005地震(ぢしん)の孫(まご)よろしく歯(は)の根(ね)をガチガチ云(い)はせ乍(なが)ら、006蒼白(まつさを)の顔(かほ)してスクミ上(あが)つてゐる。007岩石(がんせき)も吹(ふ)き散(ち)らすばかりの疾風(しつぷう)頻(しき)りに吹(ふ)き来(きた)り、008其(その)物凄(ものすご)き事(こと)例(たと)ふるに物(もの)なく、009孫公別(まごこうわけ)は樹(き)の根(ね)に確(しか)と抱(だ)きついて、010其(その)身(み)の吹(ふ)き散(ち)るのを辛(から)うじて防(ふせ)いで居(ゐ)る。011三(さん)人(にん)も黄楊(つげ)の木(き)の根元(ねもと)にペタリと平太(へた)つて風(かぜ)の過(す)ぐるを待(ま)つのみ。
012 湖水(こすゐ)は俄(にはか)に沸(わ)き返(かへ)る様(やう)な音(おと)を立(た)て、013ブクブクブクと泡立(あわだ)ち始(はじ)めた。014暗夜(あんや)なれども湖面(こめん)の泡立(あわだ)つ色(いろ)は明瞭(めいれう)に見(み)えて居(ゐ)る。015暫(しば)らくすると大入道(おほにふだう)の立(た)つた様(やう)に波(なみ)の柱(はしら)が彼方(あちら)此方(こちら)にムクムクと突出(つきだ)し、016砕(くだ)けては湖面(こめん)に落(お)つる其(その)物音(ものおと)、017実(じつ)に凄(すさま)じく身(み)の毛(け)も竦(よだ)つ許(ばか)りなり。018湖中(こちう)の彼方(あちら)此方(こちら)より、019青(あを)赤(あか)白(しろ)黄(き)等(など)の火(ひ)の玉(たま)数(かず)限(かぎ)りもなく現(あら)はれ来(きた)り、020長(なが)い尾(を)を中空(ちうくう)に引摺(ひきず)りブーンブーンと呻(うな)りをたて、021四方(しはう)八方(はつぱう)に向(むか)つて突進(とつしん)し来(きた)る。022見(み)ればお玉杓子(たまじやくし)の様(やう)な姿(すがた)で、023玉(たま)の処(ところ)に色々(いろいろ)といやらしき凄(すご)い顔(かほ)がついて居(ゐ)る。024此(この)怪物(くわいぶつ)は四(よ)人(にん)の側(そば)に集(あつま)り来(きた)り、025頭上(づじやう)を前後(ぜんご)左右(さいう)に飛(と)び廻(まは)れども、026如何(どう)したものか身辺(しんぺん)には寄(よ)りついて来(こ)ない。027僅(わづ)か一二間(いちにけん)迄(まで)やつて来(く)るのが精々(せいぜい)である。
028お愛(あい)『今晩(こんばん)は妙(めう)な夜(よさ)で御座(ござ)いますな。029大蛇(をろち)の神(かみ)さま、030色々(いろいろ)と玉(たま)を現(あら)はし、031吾々(われわれ)一行(いつかう)の歓迎会(くわんげいくわい)を開(ひら)いて御座(ござ)らつしやるのでせう。032ほんに気(き)の利(き)いた神(かみ)さまですこと、033オホヽヽヽ。034火(ひ)の玉(たま)さまのお蔭(かげ)でレコード破(やぶ)りの風(かぜ)もスツカリ止(と)まつて了(しま)ひました。035あの物凄(ものすご)かりしブクブクも水柱(みづばしら)の大入道(おほにふだう)も、036何処(どこ)かへ沈没(ちんぼつ)して了(しま)つたと見(み)えます。037これも全(まつた)く孫公別(まごこうわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)で御座(ござ)いませう。038ねー虎公(とらこう)さま、039三公(さんこう)さま、040宣伝使(せんでんし)の御(ご)神徳(しんとく)と云(い)ふものは随分(ずゐぶん)えらいもので御座(ござ)いますなア』
041虎公(とらこう)『大蛇(をろち)の奴(やつ)、042今(いま)三番叟(さんばそう)を始(はじ)めよつた処(ところ)だ。043之(これ)からが見物(みもの)だよ。044こんな事(こと)はホンの一部分(いちぶぶん)だ。045之(これ)からが孫公別(まごこうわけ)宣伝使(せんでんし)のお骨(ほね)の折(を)れる処(ところ)だ。046もし宣伝使(せんでんし)様(さま)、047如何(いかが)で御座(ござ)いますか。048何時迄(いつまで)も木(き)の株(かぶ)に抱(だ)きついて居(を)つても木(き)はものを言(い)ひませぬぞ』
049 孫公別(まごこうわけ)は歯(は)をガチガチ云(い)はせ乍(なが)ら、
050孫公別『いやモウモウモウ タヽヽ大変(たいへん)な事(こと)が始(はじ)まりました。051本当(ほんたう)に愉快(ゆくわい)な……事(こと)で……御座(ござ)いませぬわい。052どうも早(はや)神力(しんりき)の持(も)ち合(あは)せが……ないものだから、053斯(こ)んな場合(ばあひ)には一寸(ちよつと)面喰(めんくら)ふ様(やう)な……男(をとこ)では…ありませぬ』
054虎公(とらこう)『ハヽヽヽヽ孫公別(まごこうわけ)様(さま)さへ此処(ここ)に控(ひか)へて御座(ござ)れば大磐石(だいばんじやく)だ。055なあ三公(さんこう)さま、056貴方(あなた)も安心(あんしん)でせう。057先(ま)づ宣伝使(せんでんし)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つて頂(いただ)き、058大蛇(をろち)の奴(やつ)を言向和(ことむけやは)して頂(いただ)きませうか』
059三公(さんこう)『三公(さんこう)(参考(さんかう))の為(た)めに一寸(ちよつと)宣伝歌(せんでんか)を試(こころ)みて頂(いただ)きませうか。060もしもし孫公別(まごこうわけ)様(さま)、061何卒(どうぞ)一(ひと)つ願(ねが)ひやす』
062孫公別『これだからものの頭(かしら)になると責任(せきにん)が加(くは)はつて困(こま)るのだ。063平和(へいわ)の時(とき)は大変(たいへん)結構(けつこう)な様(やう)だが、064こんな時(とき)に筒先(つつさき)に向(む)けられるのは随分(ずゐぶん)辛(つら)いな……オツト待(ま)てよ、065大将(たいしやう)は帷幄(ゐあく)の中(うち)に画策(くわくさく)を廻(めぐ)らすのがお役(やく)だ。066玉除(たまよ)けになるのは雑兵(ざふひやう)のする事(こと)だ。067兎(と)も角(かく)後(あと)は宣伝使(せんでんし)が引受(ひきう)けるから、068三公(さんこう)さま、069一(ひと)つ初陣(うひぢん)をやつて下(くだ)さい。070あの通(とほ)り火(ひ)の玉(たま)が刻々(こくこく)に殖(ふ)えて来(く)る。071愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)れば、072敵(てき)に先鞭(せんべん)をつけられる虞(おそ)れがあるから、073一(ひと)つ若(わか)い意気(いき)に先発隊(せんぱつたい)を勤(つと)めて下(くだ)さい。074孫公(まごこう)御(おん)大(たい)の命令(めいれい)だ』
075三公『是非(ぜひ)々々(ぜひ)先生(せんせい)に願(ねが)はなくちや、076此(この)戦闘(せんとう)は駄目(だめ)です。077戦(たたか)はずして敵(てき)を呑(の)むと云(い)ふ気概(きがい)のある、078三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が神力(しんりき)の試(ため)し時(どき)だ。079さあさあ意茶(いちや)つかさずにやつて下(くだ)さい……虎公(とらこう)さま、080お愛(あい)さま、081さう願(ねが)つたら如何(どう)でせうかな』
082虎公『無論(むろん)の事(こと)です。083先頭(せんとう)に立(た)つて働(はたら)くから宣伝使(せんでんし)と云(い)ふのだ。084何卒(どうぞ)孫公別(まごこうわけ)様(さま)、085お願(ねが)ひ申(まを)します』
086お愛『宣伝使(せんでんし)様(さま)、087女神(めがみ)から宜(よろ)しうお願(ねが)ひ致(いた)します。088一(ひと)つ御(ご)神力(しんりき)を現(あら)はして下(くだ)さいませ』
089孫公別『先頭(せんとう)に出(で)んから宣伝使(せんでんし)と云(い)ふのだけれどなア。090えー詮方(せんかた)ない。091そんなら一(ひと)つ千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の言霊(ことたま)の妙用(めうよう)を尽(つく)して、092あの火(ひ)の玉(たま)を一(ひと)つも残(のこ)らず水底(すゐてい)に蟄伏(ちつぷく)させて見(み)せませう』
093と、094痩我慢(やせがまん)を出(だ)し、095震(ふる)ひ声(ごゑ)になり宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ始(はじ)むる。
096孫公別『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
097千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の言霊(ことたま)で
098湖水(こすゐ)の大蛇(をろち)を言向(ことむ)ける
099湖水(こすゐ)に浮(うか)んだ火(ひ)の玉(たま)よ
100お前(まへ)はそれ程(ほど)三五(あななひ)の
101神(かみ)の教(をしへ)が怖(こは)いのか
102一間先(いつけんさき)迄(まで)やつて来(き)て
103怖(こは)相(さう)に怖(こは)相(さう)に尾(を)を下(さ)げて
104チツとも寄(よ)つて来(こ)ぬぢやないか
105矢張(やつぱ)りお前(まへ)も智慧(ちゑ)がある
106神徳(しんとく)高(たか)き宣伝使(せんでんし)
107孫公別(まごこうわけ)の御(おん)前(まへ)と
108恐(おそ)れみ謹(つつし)み萎縮(ゐしゆく)して
109怖々(おぢおぢ)してるに違(ちが)ひない
110善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
111此(この)世(よ)を造(つく)りし大神(おほかみ)の
112任(よさ)し給(たま)ひし神司(かむづかさ)
113善(ぜん)の身魂(みたま)を救(すく)ひあげ
114悪(あく)の身魂(みたま)を言向(ことむ)けて
115五六七(みろく)の神(かみ)の御世(みよ)となし
116神(かみ)も仏事(ぶつじ)も人間(にんげん)も
117鳥(とり)獣(けだもの)も虫族(むしけら)も
118草木(くさき)の末(すゑ)に至(いた)るまで
119神(かみ)の恵(めぐみ)を均霑(きんてん)し
120天ケ下(あめがした)なる万物(ばんぶつ)は
121大小(だいせう)高下(かうげ)の隔(へだ)てなく
122機会(きくわい)均等(きんとう)主義(しゆぎ)をとり
123残(のこ)らず桝掛(ますか)け引(ひ)き均(なら)し
124世(よ)を立直(たてなほ)す神(かみ)の道(みち)
125須弥仙(しゆみせん)山(ざん)に腰(こし)を掛(か)け
126艮金神(うしとらこんじん)鬼門神(きもんがみ)
127守(まも)り玉(たま)へる世(よ)の中(なか)ぢや
128湖水(こすゐ)に棲(す)める大蛇(をろち)ども
129今(いま)から心(こころ)を立直(たてなほ)し
130三五教(あななひけう)にて名(な)も高(たか)き
131神徳(しんとく)満(み)つる宣伝使(せんでんし)
132孫公別(まごこうわけ)の言霊(ことたま)を
133耳(みみ)をすまして聞(き)きとれよ
134天ケ下(あめがした)には善悪(ぜんあく)の
135区別(くべつ)も無(な)ければ敵味方(てきみかた)
136等(など)の差別(けぢめ)はない程(ほど)に
137迷(まよ)ひの雲霧(くもきり)吹(ふ)き払(はら)ひ
138火玉(ひだま)を鎮(しづ)めておとなしく
139尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)を
140慎(つつし)み畏(かしこ)み聞(き)くがよい
141あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
142吾(われ)は玉治別(たまはるわけ)の神(かみ)
143「オツトドツコイ」こりや違(ちが)ふ
144黒姫(くろひめ)さまの一(いち)の弟子(でし)
145何程(なにほど)強(つよ)い悪魔(あくま)でも
146仮令(たとへ)八岐(やまた)の大蛇(をろち)でも
147ビクとも致(いた)さぬヒーローよ
148見事(みごと)甲斐性(かひしやう)があるならば
149一(ひと)つ力(ちから)を出(だ)して見(み)よ
150孫公別(まごこうわけ)の吹(ふ)き捨(す)つる
151伊吹(いぶき)の狭霧(さぎり)に悉(ことごと)く
152木端(こつぱ)微塵(みぢん)に踏(ふ)み砕(くだ)き
153亡(ほろ)ぼし絶(た)やすは目(ま)のあたり
154之(これ)が合点(がつてん)いたならば
155心(こころ)の底(そこ)から改(あらた)めて
156孫公別(まごこうわけ)の御(おん)前(まへ)に
157お詫(わび)をするが第一(だいいち)だ
158これ程(ほど)事(こと)を細(こま)やかに
159分(わ)けて諭(さと)してやる事(こと)を
160聞(き)かねば聞(き)かぬで構(かま)はない
161俺(おれ)にも覚悟(かくご)がある程(ほど)に
162早(はや)く返答(へんたふ)を聞(き)かせよや
163孫公別(まごこうわけ)の宣伝使(せんでんし)
164国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)や
165金勝要(きんかつかねの)大御神(おほみかみ)
166神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
167三柱神(みはしらがみ)を代表(だいへう)し
168湖水(こすゐ)の底(そこ)に潜(ひそ)み居(ゐ)る
169大蛇(をろち)の魔神(まがみ)に宣(の)り伝(つた)ふ
170あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
171御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
172と始(はじ)めは恐(こは)相(さう)に震(ふる)ひ声(ごゑ)に歌(うた)つて居(ゐ)たが、173終(しま)ひにはド拍子(びやうし)の抜(ぬ)けた大声(おほごゑ)を張(は)り上(あ)げ歌(うた)ひ出(だ)す。174孫公(まごこう)の歌(うた)終(をは)るや否(いな)や、175獅子(しし)狼(おほかみ)の幾万匹(いくまんびき)、176一度(いちど)に呻(うな)る様(やう)な怪(あや)しき声(こゑ)四方(しはう)八方(はつぱう)より聞(きこ)え来(きた)り、177青(あを)赤(あか)黄(き)等(など)の火(ひ)は彼方(あちら)此方(こちら)にペロペロと燃(も)えては消(き)え、178燃(も)えては消(き)え、179又(また)もや烈風(れつぷう)吹(ふ)き出(だ)し大地(だいち)は震動(しんどう)し、180如何(いかん)ともする術(すべ)なければ、181孫公(まごこう)は再(ふたた)び元(もと)の樫(かし)の樹(き)の根株(ねかぶ)に確(しか)と喰(くら)ひつき身(み)を震(ふる)はし蹲(しやが)み居(ゐ)る。
182 三公(さんこう)は黄楊(つげ)の木(き)の幹(みき)を片手(かたて)で握(にぎ)り、183烈風(れつぷう)の中(なか)に立(た)ち身体(からだ)の中心(ちうしん)をとりながら湖面(こめん)に向(むか)つて言霊(ことたま)を宣(の)り始(はじ)めたり。
184三公『八岐(やまた)の大蛇(をろち)の片割(かたわ)れと
185現(あら)はれ湖底(こてい)に忍(しの)び居(ゐ)る
186大蛇(をろち)の魔神(まがみ)よよつく聞(き)け
187抑(そもそ)も大蛇(をろち)の三公(さんこう)とは
188吾(わが)事(こと)なるぞスツポンの
189湖水(こすゐ)を棲処(すみか)と致(いた)す奴(やつ)
190只(ただ)一匹(いつぴき)も残(のこ)らずに
191俺(おれ)の側(そば)までやつて来(こ)い
192吾(わが)両親(りやうしん)の敵討(かたきう)ち
193生命(いのち)を取(と)つて呉(く)れむぞと
194心(こころ)も勇(いさ)み来(き)て見(み)れば
195子供(こども)嚇(おど)しの火(ひ)の玉(たま)や
196泡立(あわだ)つ波(なみ)や水柱(みづばしら)
197呂律(ろれつ)も合(あ)はぬ呻(うな)り声(ごゑ)
198レコード破(やぶ)りの強風(きやうふう)に
199地(ち)まで揺(ゆす)つて嚇(おど)さうと
200何程(なにほど)企(たく)んで見(み)た処(とこ)が
201そのやり方(かた)は古(ふる)いぞや
202そんな嚇(おど)しにビクついて
203人気(ひとげ)の荒(あら)い熊襲国(くまそくに)の
204大親分(おほおやぶん)となれようか
205猪食(ししく)た犬(いぬ)の腕試(うでだめ)し
206もう斯(か)うなつて来(き)た上(うへ)は
207後(あと)へは引(ひ)かぬ俺(おれ)の意地(いぢ)
208さあ来(こ)い来(きた)れ早来(はやきた)れ
209惜(を)しき生命(いのち)の取(と)り合(あ)ひを
210此処(ここ)にて一(ひと)つやらうかい
211後(あと)には尊(たふと)い宣伝使(せんでんし)
212力(ちから)の余(あま)りに強(つよ)くない
213孫公別(まごこうわけ)も慄(ふる)ひつつ
214二人(ふたり)の喧嘩(けんくわ)を見(み)て御座(ござ)る
215武野(たけの)の村(むら)の侠客(をとこだて)
216虎公(とらこう)さまを初(はじ)めとし
217弁才天(べんざいてん)も恥(はぢ)らふて
218逃(に)げ出(だ)す様(やう)なお愛(あい)さま
219スツカリ道具(だうぐ)が揃(そろ)うて居(ゐ)る
220何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るか
221早(はや)く来(きた)つて勝負(しようぶ)せよ
222生命(いのち)を捨(す)てた三公(さんこう)は
223最早(もはや)此(この)世(よ)に恐(おそ)るべき
224物(もの)は一(ひと)つもない程(ほど)に
225親(おや)の敵(かたき)ぢや早(はや)来(きた)れ
226いざ尋常(じんじやう)に勝負(しようぶ)しよう
227それが嫌(いや)なら吾(わが)前(まへ)に
228頭(あたま)を下(さ)げて尾(を)をふつて
229四(よつ)つに這(は)うて謝(あやま)れよ
230貴様(きさま)の頭(あたま)を三(み)つ四(よつ)つ
231此(この)岩石(がんせき)で打(う)ちたたき
232吾(わが)両親(りやうしん)の無念(むねん)をば
233晴(は)らして助(たす)けてやる程(ほど)に
234早(はや)く来(きた)れよ曲津(まがつ)神(かみ)
235三公(さんこう)親分(おやぶん)が待(ま)つて居(ゐ)る
236あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
237御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
238と歌(うた)ひ終(をは)るや湖面(こめん)は益々(ますます)波(なみ)高(たか)く荒(あ)れ狂(くる)ひ、239火(ひ)の玉(たま)は刻々(こくこく)に殖(ふ)え来(きた)り、240ブンブンと呻(うな)りを立(た)て、241四(よ)人(にん)の殆(ほとん)ど身体(からだ)のとどく処(ところ)迄(まで)、242数(かず)限(かぎ)りもなくお玉杓子(たまじやくし)の火(ひ)の玉(たま)攻(せ)めかけ来(きた)る其(その)嫌(いや)らしさ、243実(じつ)に物凄(ものすご)き光景(くわうけい)なりけり。
244(大正一一・九・一六 旧七・二五 北村隆光録)
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