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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第35巻(戌の巻)
序文
総説歌
第1篇 向日山嵐
第1章 言の架橋
第2章 出陣
第3章 進隊詩
第4章 村の入口
第5章 案外
第6章 歌の徳
第7章 乱舞
第8章 心の綱
第9章 分担
第2篇 ナイルの水源
第10章 夢の誡
第11章 野宿
第12章 自称神司
第13章 山颪
第14章 空気焔
第15章 救の玉
第16章 浮島の花
第3篇 火の国都
第17章 霧の海
第18章 山下り
第19章 狐の出産
第20章 疑心暗狐
第21章 暗闘
第22章 当違
第23章 清交
第24章 歓喜の涙
余白歌
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霊界物語
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第35巻(戌の巻)
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<<< 山颪
(B)
(N)
救の玉 >>>
第一四章
空気焔
(
からきえん
)
〔九七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
篇:
第2篇 ナイルの水源
よみ(新仮名遣い):
ないるのすいげん
章:
第14章 空気焔
よみ(新仮名遣い):
からきえん
通し章番号:
978
口述日:
1922(大正11)年09月16日(旧07月25日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行四人がスッポンの湖に着いたときには、日はすでに暮れていた。あたりの恐ろしげな様子に、孫公はすっかり震えあがっていた。
暗夜にもかかわらず湖は泡立ち、波の柱があちこちに立ち始めた。湖中から赤白青黄などの火の玉が数限りなく現れて来た。火の玉にはいやらしい顔がついていて、四人のそばに来て頭上を前後左右に飛び回っていたが、身辺には寄り付いてこなかった。
虎公、三公、お愛はこの様子を泰然として眺めていた。三公がにわか宣伝使になったばかりの孫公に出陣を促すと、孫公は歯をがたがた言わせながら弱音を吐き、三公に先陣を頼み込んだ。
三公からどうしても孫公別宣伝使でなければこの戦いはだめだと急き立てられ、孫公はやせ我慢の震え声で宣伝歌を歌い始めた。最初は震え声だったのが、最後は拍子はずれな大声を張り上げて、自賛の宣伝歌で大蛇に降伏を迫った。
孫公の宣伝歌が終わると、恐ろしい唸り声が四方八方から聞こえだし、烈風が吹き大地は震動した。孫公は樫の木の根株にしがみついてしゃがんで震えてしまった。
三公は烈風の中、樫の木につかまって湖面に向かって宣伝歌を歌い始めた。両親の仇と、大蛇に出て来いと呼ばわり、勝負を挑む勇ましい歌であった。しかし三公の歌によって湖はますます荒れ狂った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-28 11:04:57
OBC :
rm3514
愛善世界社版:
158頁
八幡書店版:
第6輯 528頁
修補版:
校定版:
167頁
普及版:
61頁
初版:
ページ備考:
001
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
くにしてスツポンの
湖水
(
こすゐ
)
の
南岸
(
なんがん
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
002
此
(
この
)
時
(
とき
)
已
(
すで
)
に
夜
(
よ
)
はズツプリと
暮
(
く
)
れ
果
(
は
)
て、
003
鬼哭
(
きこく
)
愁々
(
しうしう
)
として
寂寥
(
せきれう
)
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
り
来
(
きた
)
る。
004
肝腎
(
かんじん
)
の
自称
(
じしよう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
孫公別
(
まごこうわけ
)
は、
005
地震
(
ぢしん
)
の
孫
(
まご
)
よろしく
歯
(
は
)
の
根
(
ね
)
をガチガチ
云
(
い
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
006
蒼白
(
まつさを
)
の
顔
(
かほ
)
してスクミ
上
(
あが
)
つてゐる。
007
岩石
(
がんせき
)
も
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らすばかりの
疾風
(
しつぷう
)
頻
(
しき
)
りに
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り、
008
其
(
その
)
物凄
(
ものすご
)
き
事
(
こと
)
例
(
たと
)
ふるに
物
(
もの
)
なく、
009
孫公別
(
まごこうわけ
)
は
樹
(
き
)
の
根
(
ね
)
に
確
(
しか
)
と
抱
(
だ
)
きついて、
010
其
(
その
)
身
(
み
)
の
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
るのを
辛
(
から
)
うじて
防
(
ふせ
)
いで
居
(
ゐ
)
る。
011
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
黄楊
(
つげ
)
の
木
(
き
)
の
根元
(
ねもと
)
にペタリと
平太
(
へた
)
つて
風
(
かぜ
)
の
過
(
す
)
ぐるを
待
(
ま
)
つのみ。
012
湖水
(
こすゐ
)
は
俄
(
にはか
)
に
沸
(
わ
)
き
返
(
かへ
)
る
様
(
やう
)
な
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て、
013
ブクブクブクと
泡立
(
あわだ
)
ち
始
(
はじ
)
めた。
014
暗夜
(
あんや
)
なれども
湖面
(
こめん
)
の
泡立
(
あわだ
)
つ
色
(
いろ
)
は
明瞭
(
めいれう
)
に
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
015
暫
(
しば
)
らくすると
大入道
(
おほにふだう
)
の
立
(
た
)
つた
様
(
やう
)
に
波
(
なみ
)
の
柱
(
はしら
)
が
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
にムクムクと
突出
(
つきだ
)
し、
016
砕
(
くだ
)
けては
湖面
(
こめん
)
に
落
(
お
)
つる
其
(
その
)
物音
(
ものおと
)
、
017
実
(
じつ
)
に
凄
(
すさま
)
じく
身
(
み
)
の
毛
(
け
)
も
竦
(
よだ
)
つ
許
(
ばか
)
りなり。
018
湖中
(
こちう
)
の
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
より、
019
青
(
あを
)
赤
(
あか
)
白
(
しろ
)
黄
(
き
)
等
(
など
)
の
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りもなく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
020
長
(
なが
)
い
尾
(
を
)
を
中空
(
ちうくう
)
に
引摺
(
ひきず
)
りブーンブーンと
呻
(
うな
)
りをたて、
021
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
向
(
むか
)
つて
突進
(
とつしん
)
し
来
(
きた
)
る。
022
見
(
み
)
ればお
玉杓子
(
たまじやくし
)
の
様
(
やう
)
な
姿
(
すがた
)
で、
023
玉
(
たま
)
の
処
(
ところ
)
に
色々
(
いろいろ
)
といやらしき
凄
(
すご
)
い
顔
(
かほ
)
がついて
居
(
ゐ
)
る。
024
此
(
この
)
怪物
(
くわいぶつ
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
側
(
そば
)
に
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
り、
025
頭上
(
づじやう
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
飛
(
と
)
び
廻
(
まは
)
れども、
026
如何
(
どう
)
したものか
身辺
(
しんぺん
)
には
寄
(
よ
)
りついて
来
(
こ
)
ない。
027
僅
(
わづ
)
か
一二間
(
いちにけん
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
く
)
るのが
精々
(
せいぜい
)
である。
028
お
愛
(
あい
)
『
今晩
(
こんばん
)
は
妙
(
めう
)
な
夜
(
よさ
)
で
御座
(
ござ
)
いますな。
029
大蛇
(
をろち
)
の
神
(
かみ
)
さま、
030
色々
(
いろいろ
)
と
玉
(
たま
)
を
現
(
あら
)
はし、
031
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
の
歓迎会
(
くわんげいくわい
)
を
開
(
ひら
)
いて
御座
(
ござ
)
らつしやるのでせう。
032
ほんに
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
神
(
かみ
)
さまですこと、
033
オホヽヽヽ。
034
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
さまのお
蔭
(
かげ
)
でレコード
破
(
やぶ
)
りの
風
(
かぜ
)
もスツカリ
止
(
と
)
まつて
了
(
しま
)
ひました。
035
あの
物凄
(
ものすご
)
かりしブクブクも
水柱
(
みづばしら
)
の
大入道
(
おほにふだう
)
も、
036
何処
(
どこ
)
かへ
沈没
(
ちんぼつ
)
して
了
(
しま
)
つたと
見
(
み
)
えます。
037
これも
全
(
まつた
)
く
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
038
ねー
虎公
(
とらこう
)
さま、
039
三公
(
さんこう
)
さま、
040
宣伝使
(
せんでんし
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
と
云
(
い
)
ふものは
随分
(
ずゐぶん
)
えらいもので
御座
(
ござ
)
いますなア』
041
虎公
(
とらこう
)
『
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
、
042
今
(
いま
)
三番叟
(
さんばそう
)
を
始
(
はじ
)
めよつた
処
(
ところ
)
だ。
043
之
(
これ
)
からが
見物
(
みもの
)
だよ。
044
こんな
事
(
こと
)
はホンの
一部分
(
いちぶぶん
)
だ。
045
之
(
これ
)
からが
孫公別
(
まごこうわけ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
骨
(
ほね
)
の
折
(
を
)
れる
処
(
ところ
)
だ。
046
もし
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
047
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
048
何時迄
(
いつまで
)
も
木
(
き
)
の
株
(
かぶ
)
に
抱
(
だ
)
きついて
居
(
を
)
つても
木
(
き
)
はものを
言
(
い
)
ひませぬぞ』
049
孫公別
(
まごこうわけ
)
は
歯
(
は
)
をガチガチ
云
(
い
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
050
孫公別
『いやモウモウモウ タヽヽ
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
始
(
はじ
)
まりました。
051
本当
(
ほんたう
)
に
愉快
(
ゆくわい
)
な……
事
(
こと
)
で……
御座
(
ござ
)
いませぬわい。
052
どうも
早
(
はや
)
神力
(
しんりき
)
の
持
(
も
)
ち
合
(
あは
)
せが……ないものだから、
053
斯
(
こ
)
んな
場合
(
ばあひ
)
には
一寸
(
ちよつと
)
面喰
(
めんくら
)
ふ
様
(
やう
)
な……
男
(
をとこ
)
では…ありませぬ』
054
虎公
(
とらこう
)
『ハヽヽヽヽ
孫公別
(
まごこうわけ
)
様
(
さま
)
さへ
此処
(
ここ
)
に
控
(
ひか
)
へて
御座
(
ござ
)
れば
大磐石
(
だいばんじやく
)
だ。
055
なあ
三公
(
さんこう
)
さま、
056
貴方
(
あなた
)
も
安心
(
あんしん
)
でせう。
057
先
(
ま
)
づ
宣伝使
(
せんでんし
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つて
頂
(
いただ
)
き、
058
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
して
頂
(
いただ
)
きませうか』
059
三公
(
さんこう
)
『
三公
(
さんこう
)
(
参考
(
さんかう
)
)の
為
(
た
)
めに
一寸
(
ちよつと
)
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
試
(
こころ
)
みて
頂
(
いただ
)
きませうか。
060
もしもし
孫公別
(
まごこうわけ
)
様
(
さま
)
、
061
何卒
(
どうぞ
)
一
(
ひと
)
つ
願
(
ねが
)
ひやす』
062
孫公別
『これだから
もの
の
頭
(
かしら
)
になると
責任
(
せきにん
)
が
加
(
くは
)
はつて
困
(
こま
)
るのだ。
063
平和
(
へいわ
)
の
時
(
とき
)
は
大変
(
たいへん
)
結構
(
けつこう
)
な
様
(
やう
)
だが、
064
こんな
時
(
とき
)
に
筒先
(
つつさき
)
に
向
(
む
)
けられるのは
随分
(
ずゐぶん
)
辛
(
つら
)
いな……オツト
待
(
ま
)
てよ、
065
大将
(
たいしやう
)
は
帷幄
(
ゐあく
)
の
中
(
うち
)
に
画策
(
くわくさく
)
を
廻
(
めぐ
)
らすのがお
役
(
やく
)
だ。
066
玉除
(
たまよ
)
けになるのは
雑兵
(
ざふひやう
)
のする
事
(
こと
)
だ。
067
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
後
(
あと
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
が
引受
(
ひきう
)
けるから、
068
三公
(
さんこう
)
さま、
069
一
(
ひと
)
つ
初陣
(
うひぢん
)
をやつて
下
(
くだ
)
さい。
070
あの
通
(
とほ
)
り
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
が
刻々
(
こくこく
)
に
殖
(
ふ
)
えて
来
(
く
)
る。
071
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
れば、
072
敵
(
てき
)
に
先鞭
(
せんべん
)
をつけられる
虞
(
おそ
)
れがあるから、
073
一
(
ひと
)
つ
若
(
わか
)
い
意気
(
いき
)
に
先発隊
(
せんぱつたい
)
を
勤
(
つと
)
めて
下
(
くだ
)
さい。
074
孫公
(
まごこう
)
御
(
おん
)
大
(
たい
)
の
命令
(
めいれい
)
だ』
075
三公
『
是非
(
ぜひ
)
々々
(
ぜひ
)
先生
(
せんせい
)
に
願
(
ねが
)
はなくちや、
076
此
(
この
)
戦闘
(
せんとう
)
は
駄目
(
だめ
)
です。
077
戦
(
たたか
)
はずして
敵
(
てき
)
を
呑
(
の
)
むと
云
(
い
)
ふ
気概
(
きがい
)
のある、
078
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
神力
(
しんりき
)
の
試
(
ため
)
し
時
(
どき
)
だ。
079
さあさあ
意茶
(
いちや
)
つかさずにやつて
下
(
くだ
)
さい……
虎公
(
とらこう
)
さま、
080
お
愛
(
あい
)
さま、
081
さう
願
(
ねが
)
つたら
如何
(
どう
)
でせうかな』
082
虎公
『
無論
(
むろん
)
の
事
(
こと
)
です。
083
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
つて
働
(
はたら
)
くから
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
084
何卒
(
どうぞ
)
孫公別
(
まごこうわけ
)
様
(
さま
)
、
085
お
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
086
お愛
『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
087
女神
(
めがみ
)
から
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します。
088
一
(
ひと
)
つ
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
現
(
あら
)
はして
下
(
くだ
)
さいませ』
089
孫公別
『
先
頭
(
せんとう
)
に
出
(
で
)
ん
から
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふのだけれどなア。
090
えー
詮方
(
せんかた
)
ない。
091
そんなら
一
(
ひと
)
つ
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
妙用
(
めうよう
)
を
尽
(
つく
)
して、
092
あの
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
を
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
水底
(
すゐてい
)
に
蟄伏
(
ちつぷく
)
させて
見
(
み
)
せませう』
093
と、
094
痩我慢
(
やせがまん
)
を
出
(
だ
)
し、
095
震
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
になり
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
むる。
096
孫公別
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
097
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
言霊
(
ことたま
)
で
098
湖水
(
こすゐ
)
の
大蛇
(
をろち
)
を
言向
(
ことむ
)
ける
099
湖水
(
こすゐ
)
に
浮
(
うか
)
んだ
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
よ
100
お
前
(
まへ
)
はそれ
程
(
ほど
)
三五
(
あななひ
)
の
101
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
が
怖
(
こは
)
いのか
102
一間先
(
いつけんさき
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
て
103
怖
(
こは
)
相
(
さう
)
に
怖
(
こは
)
相
(
さう
)
に
尾
(
を
)
を
下
(
さ
)
げて
104
チツとも
寄
(
よ
)
つて
来
(
こ
)
ぬぢやないか
105
矢張
(
やつぱ
)
りお
前
(
まへ
)
も
智慧
(
ちゑ
)
がある
106
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
107
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
と
108
恐
(
おそ
)
れみ
謹
(
つつし
)
み
萎縮
(
ゐしゆく
)
して
109
怖々
(
おぢおぢ
)
してるに
違
(
ちが
)
ひない
110
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
111
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
大神
(
おほかみ
)
の
112
任
(
よさ
)
し
給
(
たま
)
ひし
神司
(
かむづかさ
)
113
善
(
ぜん
)
の
身魂
(
みたま
)
を
救
(
すく
)
ひあげ
114
悪
(
あく
)
の
身魂
(
みたま
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
115
五六七
(
みろく
)
の
神
(
かみ
)
の
御世
(
みよ
)
となし
116
神
(
かみ
)
も
仏事
(
ぶつじ
)
も
人間
(
にんげん
)
も
117
鳥
(
とり
)
獣
(
けだもの
)
も
虫族
(
むしけら
)
も
118
草木
(
くさき
)
の
末
(
すゑ
)
に
至
(
いた
)
るまで
119
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
を
均霑
(
きんてん
)
し
120
天ケ下
(
あめがした
)
なる
万物
(
ばんぶつ
)
は
121
大小
(
だいせう
)
高下
(
かうげ
)
の
隔
(
へだ
)
てなく
122
機会
(
きくわい
)
均等
(
きんとう
)
主義
(
しゆぎ
)
をとり
123
残
(
のこ
)
らず
桝掛
(
ますか
)
け
引
(
ひ
)
き
均
(
なら
)
し
124
世
(
よ
)
を
立直
(
たてなほ
)
す
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
125
須弥仙
(
しゆみせん
)
山
(
ざん
)
に
腰
(
こし
)
を
掛
(
か
)
け
126
艮金神
(
うしとらこんじん
)
鬼門神
(
きもんがみ
)
127
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ぢや
128
湖水
(
こすゐ
)
に
棲
(
す
)
める
大蛇
(
をろち
)
ども
129
今
(
いま
)
から
心
(
こころ
)
を
立直
(
たてなほ
)
し
130
三五教
(
あななひけう
)
にて
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
131
神徳
(
しんとく
)
満
(
み
)
つる
宣伝使
(
せんでんし
)
132
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
133
耳
(
みみ
)
をすまして
聞
(
き
)
きとれよ
134
天ケ下
(
あめがした
)
には
善悪
(
ぜんあく
)
の
135
区別
(
くべつ
)
も
無
(
な
)
ければ
敵味方
(
てきみかた
)
136
等
(
など
)
の
差別
(
けぢめ
)
はない
程
(
ほど
)
に
137
迷
(
まよ
)
ひの
雲霧
(
くもきり
)
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
138
火玉
(
ひだま
)
を
鎮
(
しづ
)
めておとなしく
139
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
140
慎
(
つつし
)
み
畏
(
かしこ
)
み
聞
(
き
)
くがよい
141
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
142
吾
(
われ
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
神
(
かみ
)
143
「オツトドツコイ」こりや
違
(
ちが
)
ふ
144
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
一
(
いち
)
の
弟子
(
でし
)
145
何程
(
なにほど
)
強
(
つよ
)
い
悪魔
(
あくま
)
でも
146
仮令
(
たとへ
)
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
でも
147
ビクとも
致
(
いた
)
さぬヒーローよ
148
見事
(
みごと
)
甲斐性
(
かひしやう
)
があるならば
149
一
(
ひと
)
つ
力
(
ちから
)
を
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
よ
150
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
吹
(
ふ
)
き
捨
(
す
)
つる
151
伊吹
(
いぶき
)
の
狭霧
(
さぎり
)
に
悉
(
ことごと
)
く
152
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
に
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
き
153
亡
(
ほろ
)
ぼし
絶
(
た
)
やすは
目
(
ま
)
のあたり
154
之
(
これ
)
が
合点
(
がつてん
)
いたならば
155
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
改
(
あらた
)
めて
156
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
157
お
詫
(
わび
)
をするが
第一
(
だいいち
)
だ
158
これ
程
(
ほど
)
事
(
こと
)
を
細
(
こま
)
やかに
159
分
(
わ
)
けて
諭
(
さと
)
してやる
事
(
こと
)
を
160
聞
(
き
)
かねば
聞
(
き
)
かぬで
構
(
かま
)
はない
161
俺
(
おれ
)
にも
覚悟
(
かくご
)
がある
程
(
ほど
)
に
162
早
(
はや
)
く
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かせよや
163
孫公別
(
まごこうわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
164
国治立
(
くにはるたちの
)
大神
(
おほかみ
)
や
165
金勝要
(
きんかつかねの
)
大御神
(
おほみかみ
)
166
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
167
三柱神
(
みはしらがみ
)
を
代表
(
だいへう
)
し
168
湖水
(
こすゐ
)
の
底
(
そこ
)
に
潜
(
ひそ
)
み
居
(
ゐ
)
る
169
大蛇
(
をろち
)
の
魔神
(
まがみ
)
に
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
ふ
170
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
171
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
172
と
始
(
はじ
)
めは
恐
(
こは
)
相
(
さう
)
に
震
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
に
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
173
終
(
しま
)
ひにはド
拍子
(
びやうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
大声
(
おほごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
す。
174
孫公
(
まごこう
)
の
歌
(
うた
)
終
(
をは
)
るや
否
(
いな
)
や、
175
獅子
(
しし
)
狼
(
おほかみ
)
の
幾万匹
(
いくまんびき
)
、
176
一度
(
いちど
)
に
呻
(
うな
)
る
様
(
やう
)
な
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
り、
177
青
(
あを
)
赤
(
あか
)
黄
(
き
)
等
(
など
)
の
火
(
ひ
)
は
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
にペロペロと
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
178
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
179
又
(
また
)
もや
烈風
(
れつぷう
)
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し
大地
(
だいち
)
は
震動
(
しんどう
)
し、
180
如何
(
いかん
)
ともする
術
(
すべ
)
なければ、
181
孫公
(
まごこう
)
は
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
樫
(
かし
)
の
樹
(
き
)
の
根株
(
ねかぶ
)
に
確
(
しか
)
と
喰
(
くら
)
ひつき
身
(
み
)
を
震
(
ふる
)
はし
蹲
(
しやが
)
み
居
(
ゐ
)
る。
182
三公
(
さんこう
)
は
黄楊
(
つげ
)
の
木
(
き
)
の
幹
(
みき
)
を
片手
(
かたて
)
で
握
(
にぎ
)
り、
183
烈風
(
れつぷう
)
の
中
(
なか
)
に
立
(
た
)
ち
身体
(
からだ
)
の
中心
(
ちうしん
)
をとりながら
湖面
(
こめん
)
に
向
(
むか
)
つて
言霊
(
ことたま
)
を
宣
(
の
)
り
始
(
はじ
)
めたり。
184
三公
『
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
の
片割
(
かたわ
)
れと
185
現
(
あら
)
はれ
湖底
(
こてい
)
に
忍
(
しの
)
び
居
(
ゐ
)
る
186
大蛇
(
をろち
)
の
魔神
(
まがみ
)
よよつく
聞
(
き
)
け
187
抑
(
そもそ
)
も
大蛇
(
をろち
)
の
三公
(
さんこう
)
とは
188
吾
(
わが
)
事
(
こと
)
なるぞスツポンの
189
湖水
(
こすゐ
)
を
棲処
(
すみか
)
と
致
(
いた
)
す
奴
(
やつ
)
190
只
(
ただ
)
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
らずに
191
俺
(
おれ
)
の
側
(
そば
)
までやつて
来
(
こ
)
い
192
吾
(
わが
)
両親
(
りやうしん
)
の
敵討
(
かたきう
)
ち
193
生命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つて
呉
(
く
)
れむぞと
194
心
(
こころ
)
も
勇
(
いさ
)
み
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
195
子供
(
こども
)
嚇
(
おど
)
しの
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
や
196
泡立
(
あわだ
)
つ
波
(
なみ
)
や
水柱
(
みづばしら
)
197
呂律
(
ろれつ
)
も
合
(
あ
)
はぬ
呻
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
198
レコード
破
(
やぶ
)
りの
強風
(
きやうふう
)
に
199
地
(
ち
)
まで
揺
(
ゆす
)
つて
嚇
(
おど
)
さうと
200
何程
(
なにほど
)
企
(
たく
)
んで
見
(
み
)
た
処
(
とこ
)
が
201
そのやり
方
(
かた
)
は
古
(
ふる
)
いぞや
202
そんな
嚇
(
おど
)
しにビクついて
203
人気
(
ひとげ
)
の
荒
(
あら
)
い
熊襲国
(
くまそくに
)
の
204
大親分
(
おほおやぶん
)
となれようか
205
猪食
(
ししく
)
た
犬
(
いぬ
)
の
腕試
(
うでだめ
)
し
206
もう
斯
(
か
)
うなつて
来
(
き
)
た
上
(
うへ
)
は
207
後
(
あと
)
へは
引
(
ひ
)
かぬ
俺
(
おれ
)
の
意地
(
いぢ
)
208
さあ
来
(
こ
)
い
来
(
きた
)
れ
早来
(
はやきた
)
れ
209
惜
(
を
)
しき
生命
(
いのち
)
の
取
(
と
)
り
合
(
あ
)
ひを
210
此処
(
ここ
)
にて
一
(
ひと
)
つやらうかい
211
後
(
あと
)
には
尊
(
たふと
)
い
宣伝使
(
せんでんし
)
212
力
(
ちから
)
の
余
(
あま
)
りに
強
(
つよ
)
くない
213
孫公別
(
まごこうわけ
)
も
慄
(
ふる
)
ひつつ
214
二人
(
ふたり
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
を
見
(
み
)
て
御座
(
ござ
)
る
215
武野
(
たけの
)
の
村
(
むら
)
の
侠客
(
をとこだて
)
216
虎公
(
とらこう
)
さまを
初
(
はじ
)
めとし
217
弁才天
(
べんざいてん
)
も
恥
(
はぢ
)
らふて
218
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す
様
(
やう
)
なお
愛
(
あい
)
さま
219
スツカリ
道具
(
だうぐ
)
が
揃
(
そろ
)
うて
居
(
ゐ
)
る
220
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
るか
221
早
(
はや
)
く
来
(
きた
)
つて
勝負
(
しようぶ
)
せよ
222
生命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てた
三公
(
さんこう
)
は
223
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
恐
(
おそ
)
るべき
224
物
(
もの
)
は
一
(
ひと
)
つもない
程
(
ほど
)
に
225
親
(
おや
)
の
敵
(
かたき
)
ぢや
早
(
はや
)
来
(
きた
)
れ
226
いざ
尋常
(
じんじやう
)
に
勝負
(
しようぶ
)
しよう
227
それが
嫌
(
いや
)
なら
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
228
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げて
尾
(
を
)
をふつて
229
四
(
よつ
)
つに
這
(
は
)
うて
謝
(
あやま
)
れよ
230
貴様
(
きさま
)
の
頭
(
あたま
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よつ
)
つ
231
此
(
この
)
岩石
(
がんせき
)
で
打
(
う
)
ちたたき
232
吾
(
わが
)
両親
(
りやうしん
)
の
無念
(
むねん
)
をば
233
晴
(
は
)
らして
助
(
たす
)
けてやる
程
(
ほど
)
に
234
早
(
はや
)
く
来
(
きた
)
れよ
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
235
三公
(
さんこう
)
親分
(
おやぶん
)
が
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
236
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
237
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
238
と
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
るや
湖面
(
こめん
)
は
益々
(
ますます
)
波
(
なみ
)
高
(
たか
)
く
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ひ、
239
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
殖
(
ふ
)
え
来
(
きた
)
り、
240
ブンブンと
呻
(
うな
)
りを
立
(
た
)
て、
241
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
殆
(
ほとん
)
ど
身体
(
からだ
)
のとどく
処
(
ところ
)
迄
(
まで
)
、
242
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りもなくお
玉杓子
(
たまじやくし
)
の
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
攻
(
せ
)
めかけ
来
(
きた
)
る
其
(
その
)
嫌
(
いや
)
らしさ、
243
実
(
じつ
)
に
物凄
(
ものすご
)
き
光景
(
くわうけい
)
なりけり。
244
(
大正一一・九・一六
旧七・二五
北村隆光
録)
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