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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第39巻(寅の巻)
序歌
総説
第1篇 伊祖の神風
第1章 大黒主
第2章 評定
第3章 出師
第2篇 黄金清照
第4章 河鹿越
第5章 人の心
第6章 妖霧
第7章 都率天
第8章 母と娘
第3篇 宿世の山道
第9章 九死一生
第10章 八の字
第11章 鼻摘
第12章 種明志
第4篇 浮木の岩窟
第13章 浮木の森
第14章 清春山
第15章 焼糞
第16章 親子対面
第5篇 馬蹄の反影
第17章 テームス峠
第18章 関所守
第19章 玉山嵐
附録 大祓祝詞解
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第39巻(寅の巻)
> 第2篇 黄金清照 > 第4章 河鹿越
<<< 出師
(B)
(N)
人の心 >>>
第四章
河鹿
(
かじか
)
越
(
ごえ
)
〔一〇六九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
篇:
第2篇 黄金清照
よみ(新仮名遣い):
おうごんせいしょう
章:
第4章 河鹿越
よみ(新仮名遣い):
かじかごえ
通し章番号:
1069
口述日:
1922(大正11)年10月22日(旧09月3日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月5日
概要:
舞台:
河鹿峠
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
蜈蚣姫は、神素盞嗚大神より黄金姫と名を賜った。また黄竜姫は清照姫と名を賜った。二人は秋の空の下、巡礼姿に身をやつして河鹿峠の厳しい坂道を登って行った。二人はまずフサの都を指して進んでいる。
激流ほとばしる谷川を下に眺める細い山道の傍らに、五人の男(ハム、イール、ヨセフ、レーブ、タール)が腰をかけて雑談にふけっている。バラモン教の鬼熊別の部下であった。彼らは主人鬼熊別の妻・蜈蚣姫と娘・黄竜姫を探していたのであった。
鬼熊別は大教主・大黒主の次の地位にあったが、行方知れずになった妻や娘が三五教に入ったという噂のために大黒主に目を付けられているのだという。それにもかかわらず、大黒主のように放埓せずに品行を謹んで信者に手本を示しているとのことで、大黒主よりもバラモン教信者たちの信任を得ている様子である。
五人は峠を下ってくる黄金姫と清照姫を見つけて、道端の茂みに姿を隠した。そうとはしらない二人は谷川の眺めながらふと立ち止まり、述懐話にふけっていた。
そこへ五人の男がガサガサと現れて、二人を誰何した。五人は、二人が三五教の者だと見てとり、捕まえようとする。二人は男たちを山賊だと思って啖呵を切った。
五人の男はいっせいに二人に飛び掛かったが、黄金姫はハムとイールの両人を苦も無く谷底へ投げ入れてしまった。清照姫は、ヨセフを谷底へ投げ込む。これを見たレーブ、タールの両人は肝をつぶし、一目散に駆けだした。そして三人(ハム、イール、ヨセフ)を助けようと谷川に下りて行った。
黄金姫と清照姫は、男たちには構わずに宣伝歌を歌いながら峠を降って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-16 10:11:21
OBC :
rm3904
愛善世界社版:
55頁
八幡書店版:
第7輯 299頁
修補版:
校定版:
57頁
普及版:
20頁
初版:
ページ備考:
001
満目
(
まんもく
)
蕭条
(
せうでう
)
として
何処
(
どこ
)
となくおちついた
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
、
002
四方
(
よも
)
の
山辺
(
やまべ
)
は
佐保姫
(
さほひめ
)
の
錦
(
にしき
)
織
(
お
)
りなす
金色
(
こんじき
)
の
山野
(
さんや
)
を
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
003
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
巡礼姿
(
じゆんれいすがた
)
甲斐
(
かひ
)
々々
(
がひ
)
しく、
004
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
峻坂
(
しゆんばん
)
を、
005
二本
(
にほん
)
の
杖
(
つゑ
)
にて
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
らエチエチ
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
006
黄金姫
(
わうごんひめ
)
と
云
(
い
)
ふは
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
より
新
(
あらた
)
に
名
(
な
)
を
賜
(
たま
)
はりたる
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
のことである。
007
又
(
また
)
清照姫
(
きよてるひめ
)
といふのは
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
のことである。
008
二人
(
ふたり
)
は
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打
(
うち
)
かけ、
009
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め、
010
所々
(
ところどころ
)
に
圭角
(
けいかく
)
を
現
(
あら
)
はした、
011
まだらに
禿
(
は
)
げた
山
(
やま
)
の
谷間
(
たにま
)
を
流
(
なが
)
るる
激流
(
げきりう
)
を
打眺
(
うちなが
)
め、
012
斑鳩
(
はんきう
)
のここかしこ
飛
(
と
)
びまはる
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めて
旅情
(
りよじやう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
013
清照姫
(
きよてるひめ
)
『お
母
(
か
)
アさま、
014
何
(
なん
)
と
佳
(
よ
)
い
景色
(
けしき
)
で
御座
(
ござ
)
いますな。
015
此処
(
ここ
)
は
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
が
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
りて
烈風
(
れつぷう
)
に
吹
(
ふ
)
かれ、
016
従者
(
じゆうしや
)
の
玉彦
(
たまひこ
)
、
017
楠彦
(
くすひこ
)
、
018
厳彦
(
いづひこ
)
と
共
(
とも
)
に
此
(
この
)
谷間
(
たにま
)
に
転落
(
てんらく
)
し、
019
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
となつて
御座
(
ござ
)
る
間
(
あひだ
)
に、
020
五十万
(
ごじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
の
天国
(
てんごく
)
を
探検
(
たんけん
)
せられたといふ
有名
(
いうめい
)
な
処
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
021
春
(
はる
)
夏
(
なつ
)
になると
河鹿
(
かじか
)
の
名所
(
めいしよ
)
で、
022
随分
(
ずゐぶん
)
いい
声
(
こゑ
)
が
谷水
(
たにみづ
)
の
流
(
なが
)
れを
圧
(
あつ
)
して、
023
此
(
この
)
山上
(
さんじやう
)
まで
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
るさうです。
024
急
(
いそ
)
いで
急
(
いそ
)
がぬ
旅
(
たび
)
ですから、
025
ここでゆつくりと
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めて
参
(
まゐ
)
りませうか』
026
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うてもバラモン
教
(
けう
)
やらウラル
教
(
けう
)
の
間者
(
まはしもの
)
が、
027
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
近傍
(
きんばう
)
へ
沢山
(
たくさん
)
に
出没
(
しゆつぼつ
)
してるといふことだから、
028
余
(
あま
)
り
油断
(
ゆだん
)
はなりますまい。
029
ゆつくりとして
居
(
ゐ
)
ては、
030
予定
(
よてい
)
の
所
(
ところ
)
までに
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れると
大変
(
たいへん
)
だから、
031
ボツボツと
行
(
ゆ
)
きませう。
032
何程
(
なにほど
)
足
(
あし
)
が
遅
(
おそ
)
くても
根
(
こん
)
に
任
(
まか
)
せて
行
(
ゆ
)
けば
早
(
はや
)
いもの、
033
何程
(
なにほど
)
急
(
いそ
)
いで
歩
(
ある
)
いても、
034
休息
(
きうそく
)
が
長
(
なが
)
いと
却
(
かへつ
)
て
道
(
みち
)
がはかどらぬもの、
035
サア
行
(
ゆ
)
きませう』
036
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ。
037
清照姫
(
きよてるひめ
)
も
母
(
はは
)
の
言
(
げん
)
に
否
(
いな
)
む
由
(
よし
)
なく、
038
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
峻坂
(
しゆんぱん
)
を
登
(
のぼ
)
りつ
下
(
くだ
)
りつ、
039
谷
(
たに
)
を
幾
(
いく
)
つとなく
渉
(
わた
)
りてフサの
国
(
くに
)
の
都
(
みやこ
)
を
指
(
さ
)
して
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
040
一方
(
いつぱう
)
は
嶮
(
けは
)
しき
禿山
(
はげやま
)
、
041
一方
(
いつぱう
)
は
淙々
(
そうそう
)
たる
激流
(
げきりう
)
ほとばしる
谷川
(
たにがは
)
を
眺
(
なが
)
めて、
042
山
(
やま
)
の
腰
(
こし
)
に
鉢巻
(
はちまき
)
をしたやうに
通
(
つう
)
じてゐる
細
(
ほそ
)
い
路
(
みち
)
の
傍
(
かたはら
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打掛
(
うちか
)
け
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
此
(
この
)
風景
(
ふうけい
)
を
眺
(
なが
)
めて
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
043
此
(
この
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
部下
(
ぶか
)
の
者
(
もの
)
で、
044
ハム(半六)イール(伊造)ヨセフ(芳二)レーブ(麗二)タール(太郎)の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
であつた。
045
ハム『
吾々
(
われわれ
)
は
今年
(
ことし
)
で
足
(
あし
)
かけ
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
、
046
斯
(
か
)
うして
此
(
この
)
附近
(
ふきん
)
を
捜
(
さが
)
しまはつてゐるのだが、
047
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うても
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
、
048
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
る
筈
(
はず
)
はないぢやないか。
049
人相書
(
にんさうがき
)
を
何程
(
なにほど
)
持
(
も
)
つてゐても、
050
十年前
(
じふねんまへ
)
の
姿
(
すがた
)
と
今
(
いま
)
とは
余程
(
よほど
)
違
(
ちが
)
つてゐるに
相違
(
さうゐ
)
ない。
051
又
(
また
)
一度
(
いちど
)
でも、
052
今迄
(
いままで
)
に
会
(
あ
)
うて
居
(
を
)
ればどこかに
覚
(
おぼ
)
えがあるのだけれど、
053
少
(
すこ
)
しく
顔
(
かほ
)
が
四角
(
しかく
)
いの、
054
目
(
め
)
が
大
(
おほ
)
きいの、
055
背
(
せい
)
が
通常
(
つうじやう
)
だのと
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
のことでは
到底
(
たうてい
)
見当
(
けんたう
)
がつかない。
056
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
婆
(
ば
)
アさんと
見
(
み
)
たら、
057
小口
(
こぐち
)
から
引
(
ひつ
)
とらまへて
面
(
つら
)
の
検査
(
けんさ
)
を、
058
これからはすることにしようかい。
059
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
を
発見
(
はつけん
)
しさへすれば、
060
それこそ
大
(
たい
)
したものだから…………』
061
イール『
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
へ
沈没
(
ちんぼつ
)
したといふぢやないか。
062
一層
(
いつそう
)
のこと
三五教
(
あななひけう
)
の
霊場
(
れいぢやう
)
々々
(
れいぢやう
)
へ
化
(
ば
)
け
込
(
こ
)
んで
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
たら、
063
それが
一番
(
いちばん
)
早道
(
はやみち
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ』
064
ハム『
何程
(
なにほど
)
早道
(
はやみち
)
だつて、
065
さう
敵
(
かたき
)
の
中
(
なか
)
へ
易々
(
やすやす
)
と
這入
(
はい
)
れるものか。
066
三五教
(
あななひけう
)
には
天眼通
(
てんがんつう
)
とかいつて、
067
すぐに
吾々
(
われわれ
)
の
行動
(
かうどう
)
を
前知
(
ぜんち
)
する
法
(
はふ
)
があるから、
068
迂濶
(
うつか
)
り
近寄
(
ちかよ
)
れない。
069
ここは
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
の
近
(
ちか
)
くだから、
070
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
沢山
(
たくさん
)
通
(
とほ
)
る。
071
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つてをれば、
072
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
がお
通
(
とほ
)
りになるかも
知
(
し
)
れないからな。
073
まづ
慌
(
あわ
)
てず
急
(
いそ
)
がず、
074
かうして
手当
(
てあて
)
を
貰
(
もら
)
つて
日
(
ひ
)
を
暮
(
くら
)
してさへ
居
(
を
)
れば
安全
(
あんぜん
)
ぢやないか』
075
イール『それだと
云
(
い
)
つて、
076
足掛
(
あしか
)
け
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
も
何
(
なん
)
の
手掛
(
てがか
)
りも
得
(
え
)
ず、
077
手当
(
てあて
)
ばかり
貰
(
もら
)
つて
居
(
を
)
るのは、
078
何
(
なん
)
とはなしに
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
のやうな
気
(
き
)
になつて
来
(
く
)
る。
079
つひには
無能
(
むのう
)
呼
(
よ
)
ばはりをされて
免職
(
めんしよく
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
ふかも
知
(
し
)
れないぞ。
080
さうなつたら
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
ばかりの
難儀
(
なんぎ
)
ぢやない。
081
妻子
(
さいし
)
眷族
(
けんぞく
)
迄
(
まで
)
が
忽
(
たちま
)
ち
路頭
(
ろとう
)
に
迷
(
まよ
)
はねばならぬ
破目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
るから、
082
第一
(
だいいち
)
それが
恐
(
おそ
)
ろしいぢやないか。
083
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
に
次
(
つ
)
いでの
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
が、
084
あの
勢
(
いきほ
)
ひであり
乍
(
なが
)
ら、
085
肝腎
(
かんじん
)
の
奥様
(
おくさま
)
や
娘
(
むすめ
)
が
行
(
ゆ
)
きは
[
※
「行きは」は「行き端」(行方、行く先の意)のことか?
]
が
知
(
し
)
れず、
086
と
云
(
い
)
うてあゝ
云
(
い
)
ふ
気
(
き
)
の
固
(
かた
)
いお
方
(
かた
)
だから、
087
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
様
(
やう
)
に
大切
(
たいせつ
)
な
奥様
(
おくさま
)
を
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
して、
088
綺麗
(
きれい
)
な
女
(
をんな
)
を
本妻
(
ほんさい
)
にしたり、
089
妾
(
てかけ
)
を
沢山
(
たくさん
)
置
(
お
)
いて、
090
ひそかに
戯
(
たはむ
)
れるといふやうな
不始末
(
ふしまつ
)
なことはなさらぬのだから、
091
実際
(
じつさい
)
聞
(
き
)
いても
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだ。
092
吾々
(
われわれ
)
は
信者
(
しんじや
)
で
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
093
結構
(
けつこう
)
な
手当
(
てあて
)
を
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
から
頂
(
いただ
)
いて
居
(
ゐ
)
るのだから、
094
早
(
はや
)
くお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
して、
095
夫婦
(
ふうふ
)
和合
(
わがふ
)
して
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
なさるやうにして
上
(
あ
)
げねばなろまいぞ』
096
ハム『
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
は
信仰
(
しんかう
)
の
強
(
つよ
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だから、
097
何事
(
なにごと
)
も
一切
(
いつさい
)
を
惟神
(
かむながら
)
にお
任
(
まか
)
せ
遊
(
あそ
)
ばし、
098
妻子
(
さいし
)
のことなどはチツとも
気
(
き
)
にかけてゐられない。
099
只
(
ただ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せしておけば
良
(
よ
)
いのだと
日夜
(
にちや
)
品行
(
ひんかう
)
を
慎
(
つつし
)
むで、
100
信仰
(
しんかう
)
三昧
(
ざんまい
)
に
入
(
い
)
り、
101
吾々
(
われわれ
)
に
誠
(
まこと
)
の
手本
(
てほん
)
をお
見
(
み
)
せ
下
(
くだ
)
さる
救世主
(
きうせいしゆ
)
のやうな
方
(
かた
)
だが、
102
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
大将
(
たいしやう
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
嫌疑
(
けんぎ
)
がかかつて
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
、
103
ハルナの
城
(
しろ
)
へは
御
(
ご
)
出仕
(
しゆつし
)
も
欠勤
(
けつきん
)
勝
(
がち
)
だといふことだ』
104
イール『
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
では
言
(
い
)
はれぬが、
105
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
大黒主
(
おほくろぬし
)
のやうな
放埒
(
はうらつ
)
不羈
(
ふき
)
の
方
(
かた
)
を
教主
(
けうしゆ
)
と
仰
(
あふ
)
ぐよりも、
106
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
の
吾
(
わが
)
主人
(
しゆじん
)
を
教主
(
けうしゆ
)
と
仰
(
あふ
)
ぐ
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
心持
(
こころもち
)
が
良
(
よ
)
いワ。
107
お
二人
(
ふたり
)
の
人気
(
にんき
)
といふものは
大変
(
たいへん
)
な
相違
(
さうゐ
)
ぢや。
108
なぜあれ
程
(
ほど
)
に
人気
(
にんき
)
の
悪
(
わる
)
い
大黒主
(
おほくろぬし
)
が
羽振
(
はぶり
)
を
利
(
き
)
かしてゐるのだらうかなア』
109
ハム『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
110
勢力
(
せいりよく
)
に
圧倒
(
あつたふ
)
さるる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
111
仕方
(
しかた
)
がない。
112
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
ふるバラモン
教
(
けう
)
の
本城
(
ほんじやう
)
でさへも、
113
勢力
(
せいりよく
)
といふ
奴
(
やつ
)
には
如何
(
どう
)
しても
勝
(
か
)
つことが
出来
(
でき
)
ないと
見
(
み
)
える。
114
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
奥様
(
おくさま
)
やお
一人
(
ひとり
)
のお
娘子
(
むすめご
)
の
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
が
三五教
(
あななひけう
)
へ
降服
(
かうふく
)
されたといふことが、
115
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大将
(
たいしやう
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
り、
116
それから
大黒主
(
おほくろぬし
)
が
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
に
対
(
たい
)
して
猜疑
(
さいぎ
)
の
眼
(
まなこ
)
を
光
(
ひか
)
らし、
117
妻子
(
さいし
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
して、
118
それをバラモン
教
(
けう
)
に
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
帰順
(
きじゆん
)
せしめなければならぬ。
119
さうでなければ
二心
(
ふたごころ
)
に
定
(
きま
)
つてゐると、
120
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
にも
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
を
仰
(
あふ
)
せられるのだから、
121
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
大将
(
たいしやう
)
様
(
さま
)
も
本当
(
ほんたう
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
な
事
(
こと
)
だ。
122
云
(
い
)
ふに
云
(
い
)
はれぬ
御
(
お
)
苦
(
くるし
)
みだらう』
123
レーブ『オイあすこに
何
(
なん
)
だか
人影
(
ひとかげ
)
が
見
(
み
)
えるぢやないか。
124
ソロソロ
此方
(
こちら
)
へ
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
く
)
るやうだ。
125
暫
(
しばら
)
く
沈黙
(
ちんもく
)
して
此
(
この
)
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
に
隠
(
かく
)
れる
事
(
こと
)
としようかい。
126
彼奴
(
あいつ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ』
127
タール『あのスタイルから
見
(
み
)
ると、
128
巡礼
(
じゆんれい
)
のやうだが、
129
どうやら
女
(
をんな
)
らしい』
130
ハム『
若
(
も
)
しもあれが
女
(
をんな
)
であつたら、
131
イヤ
婆
(
ばば
)
アであつたら、
132
誰
(
たれ
)
でも
構
(
かま
)
はぬからフン
縛
(
じば
)
つて
印度
(
ツキ
)
の
国
(
くに
)
まで
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り、
133
吾々
(
われわれ
)
が
安閑
(
あんかん
)
として
手当
(
てあて
)
を
頂
(
いただ
)
いて
遊
(
あそ
)
んでゐるのぢやないといふことを
見
(
み
)
せようぢやないか。
134
さうなとせなくては
申訳
(
まをしわけ
)
がないからな』
135
イール『はるばると
偽物
(
にせもの
)
を
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
つたところで、
136
肝腎
(
かんじん
)
の
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
が
一目
(
ひとめ
)
御覧
(
ごらん
)
になつたらすぐに
分
(
わか
)
るぢやないか。
137
「
貴様
(
きさま
)
は
余程
(
よほど
)
バカな
奴
(
やつ
)
だ」とお
目玉
(
めだま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するだけのことだ、
138
そんな
偽者
(
にせもの
)
を
伴
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つた
所
(
ところ
)
で、
139
骨折損
(
ほねをりぞん
)
の
疲労
(
くたび
)
れまうけだ、
140
分
(
わか
)
らぬ
代物
(
しろもの
)
は
相手
(
あひて
)
にならぬ
方
(
はう
)
が
安全
(
あんぜん
)
でいいぞ』
141
ハム『
素
(
もと
)
より
吾々
(
われわれ
)
は
身分
(
みぶん
)
の
賤
(
いや
)
しき
者
(
もの
)
で、
142
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
や
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
のお
顔
(
かほ
)
を
知
(
し
)
らないのだから
婆
(
ばば
)
アや
娘
(
むすめ
)
を
見
(
み
)
つけたら、
143
これに
違
(
ちがひ
)
ないと
思
(
おも
)
ひましたと
云
(
い
)
つて
伴
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
りさへすれば、
144
仮令
(
たとへ
)
違
(
ちが
)
つた
所
(
ところ
)
で
温厚
(
をんこう
)
篤実
(
とくじつ
)
な
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
は、
145
ソラさうだらう、
146
見違
(
みちが
)
へるも
無理
(
むり
)
はない。
147
こんな
簡単
(
かんたん
)
な
人相書
(
にんさうがき
)
だから……そして
大変
(
たいへん
)
に
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つて
人相
(
にんさう
)
も
変
(
かは
)
つてるだらうからと
仰有
(
おつしや
)
つて、
148
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
149
反対
(
あべこべ
)
にお
褒
(
ほ
)
めの
言葉
(
ことば
)
を
頂
(
いただ
)
いて、
150
又
(
また
)
此
(
この
)
役
(
やく
)
を
永
(
なが
)
らく
任
(
にん
)
じて
貰
(
もら
)
ふやうになるかも
知
(
し
)
れないぞ。
151
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
熱心振
(
ねつしんぶり
)
をあらはさねば
吾々
(
われわれ
)
の
役
(
やく
)
がすむまい。
152
イヤ
責任
(
せきにん
)
が
果
(
はた
)
せないからなア』
153
レーブ『オイオイ
其処
(
そこ
)
へ
近付
(
ちかづ
)
いて
来
(
き
)
たぞ。
154
サア
隠
(
かく
)
れた
隠
(
かく
)
れた』
155
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
156
道端
(
みちばた
)
の
灌木
(
くわんぼく
)
の
茂
(
しげ
)
みに
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
157
親子
(
おやこ
)
二人
(
ふたり
)
の
巡礼
(
じゆんれい
)
は、
158
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
此処
(
ここ
)
に
潜
(
ひそ
)
むとは
知
(
し
)
らず、
159
風景
(
ふうけい
)
の
佳
(
よ
)
き
谷川
(
たにがは
)
を
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
160
ツト
立止
(
たちど
)
まり、
161
清照姫
(
きよてるひめ
)
『お
母
(
か
)
アさま、
162
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
は
天下
(
てんか
)
の
絶景
(
ぜつけい
)
だと
聞
(
き
)
きましたが、
163
本当
(
ほんたう
)
に
勇壮
(
ゆうさう
)
な
谷川
(
たにがは
)
の
流
(
ながれ
)
、
164
錦
(
にしき
)
の
様
(
やう
)
な
山
(
やま
)
の
色
(
いろ
)
、
165
秋
(
あき
)
は
殊更
(
ことさら
)
美
(
うつく
)
しく、
166
丸
(
まる
)
でお
母
(
か
)
アさまの
名
(
な
)
の
様
(
やう
)
な
黄金色
(
わうごんしよく
)
で、
167
天国
(
てんごく
)
を
旅行
(
りよかう
)
してゐるやうな
気
(
き
)
になりましたなア。
168
斎苑
(
いそ
)
の
御
(
お
)
館
(
やかた
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
結構
(
けつこう
)
な
所
(
ところ
)
ですが、
169
此
(
この
)
風景
(
ふうけい
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
側
(
そば
)
へもよれませぬよ』
170
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
美
(
うつく
)
しい
景色
(
けしき
)
だ。
171
春
(
はる
)
は
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
き、
172
鳥
(
とり
)
は
歌
(
うた
)
ひ
青芽
(
あをめ
)
はふき、
173
そこら
中
(
ぢう
)
が
何
(
なん
)
とはなしにみづみづしうて、
174
一層
(
いつそう
)
眺
(
なが
)
めが
宜
(
よろ
)
しからうが、
175
秋
(
あき
)
の
眺
(
なが
)
めも
亦
(
また
)
格別
(
かくべつ
)
なものだ。
176
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らかうして
秋
(
あき
)
の
錦
(
にしき
)
を
見
(
み
)
てゐる
内
(
うち
)
に、
177
又
(
また
)
もや
冷
(
つめた
)
い
凩
(
こがらし
)
が
吹
(
ふ
)
いて、
178
何
(
ど
)
の
木
(
き
)
も
此
(
この
)
木
(
き
)
も
常磐木
(
ときはぎ
)
を
除
(
のぞ
)
く
外
(
ほか
)
は、
179
羽衣
(
はごろも
)
を
脱
(
ぬ
)
いだ
枯木
(
かれき
)
のやうになつて
了
(
しま
)
ふのだから、
180
人生
(
じんせい
)
といふものは
実
(
じつ
)
に
果敢
(
はか
)
ないものだ。
181
私
(
わたし
)
も
追々
(
おひおひ
)
と
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つて、
182
どうやら
羽衣
(
はごろも
)
を
脱
(
ぬ
)
いだ
木
(
き
)
の
様
(
やう
)
に、
183
何
(
なん
)
ともなしに
心淋
(
こころさび
)
しくなりました。
184
お
前
(
まへ
)
はまだ
鶯
(
うぐひす
)
の
花
(
はな
)
の
蕾
(
つぼみ
)
、
185
早
(
はや
)
く
良
(
よ
)
い
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
たせて
私
(
わたし
)
も
早
(
はや
)
う
安心
(
あんしん
)
したいものだが、
186
まだ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しがないと
見
(
み
)
えます。
187
今度
(
こんど
)
の
使命
(
しめい
)
を
果
(
はた
)
して、
188
早
(
はや
)
くよい
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
たせ、
189
楽
(
たの
)
しい
家庭
(
かてい
)
を
作
(
つく
)
り、
190
私
(
わたし
)
も
亦
(
また
)
夫
(
をつと
)
に
巡
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
うて、
191
夫婦
(
ふうふ
)
同
(
おな
)
じ
道
(
みち
)
で
暮
(
くら
)
したいものだ。
192
何
(
な
)
んとした
私
(
わたし
)
も
因果
(
いんぐわ
)
な
者
(
もの
)
だらう。
193
現在
(
げんざい
)
夫
(
をつと
)
はありながら、
194
信仰
(
しんかう
)
が
違
(
ちが
)
ふために、
195
今
(
いま
)
は
夫
(
をつと
)
の
所在
(
ありか
)
は
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
つても
名乗
(
なの
)
つて
行
(
ゆ
)
く
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
196
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
は
何
(
なん
)
とも
思
(
おも
)
はなかつたが、
197
斯
(
か
)
う
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
ると、
198
夫
(
をつと
)
のことが
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
さるる』
199
と
声
(
こゑ
)
を
曇
(
くも
)
らせ、
200
涙
(
なみだ
)
ぐんで
語
(
かた
)
る。
201
清照姫
(
きよてるひめ
)
は、
202
清照姫
『お
母
(
か
)
アさま、
203
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なされますな。
204
私
(
わたし
)
はまだまだ
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
い
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
205
さう
慌
(
あわ
)
てて
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
つにも
及
(
およ
)
びますまい。
206
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
恵
(
めぐみ
)
に
依
(
よ
)
つて、
207
キツと
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばし、
208
同
(
おな
)
じ
三五
(
あななひ
)
の
道
(
みち
)
にお
仕
(
つか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばすやうになりませう』
209
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
210
ガサガサガサと
木
(
き
)
を
揺
(
ゆす
)
つて、
211
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でた
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
212
細
(
ほそ
)
き
山腹
(
さんぷく
)
の
路
(
みち
)
に
立
(
たち
)
はだかり、
213
ハム『お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
214
何
(
なん
)
でも
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
を
開
(
ひら
)
きに
歩
(
ある
)
いてゐる
者
(
もの
)
らしいが、
215
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
の
者
(
もの
)
だ。
216
そして
姓名
(
せいめい
)
は
何
(
なん
)
といふか』
217
と
居丈高
(
ゐたけだか
)
に
肱
(
ひぢ
)
をはつて、
218
頭押
(
あたまお
)
さへに
問
(
と
)
ひかける。
219
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
私
(
わたし
)
は……お
前
(
まへ
)
も
最前
(
さいぜん
)
性
(
しやう
)
の
悪
(
わる
)
い、
220
ここで
隠
(
かく
)
れて
聞
(
き
)
いただろが、
221
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
黄金
(
わうごん
)
世界
(
せかい
)
に
立直
(
たてなほ
)
す
黄金姫
(
わうごんひめ
)
といふ
者
(
もの
)
だ。
222
何
(
なん
)
だかエライ
権幕
(
けんまく
)
で
私
(
わたし
)
の
姓名
(
せいめい
)
を
尋
(
たづ
)
ねるに
付
(
つ
)
いては
仔細
(
しさい
)
があらう』
223
ハム『あらいでか、
224
貴様
(
きさま
)
は
黄金姫
(
わうごんひめ
)
と
吐
(
ぬか
)
すからは、
225
聖地
(
せいち
)
エルサレムの
奴
(
やつ
)
だらう、
226
黄金山
(
わうごんざん
)
の
下
(
した
)
にあつて
三五教
(
あななひけう
)
を
開
(
ひら
)
いて
居
(
を
)
つた、
227
埴安姫
(
はにやすひめ
)
だな。
228
オイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
229
最前
(
さいぜん
)
もいふ
通
(
とほ
)
り、
230
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
に
土産
(
みやげ
)
がないから、
231
此奴
(
こいつ
)
を
一
(
ひと
)
つふん
縛
(
じば
)
つて、
232
はるばるとフサの
海
(
うみ
)
迄
(
まで
)
かつぎ
出
(
だ
)
し、
233
御
(
お
)
館
(
やかた
)
へ
伴
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
ることにしようぢやないか』
234
一同
(
いちどう
)
『ヨシ、
235
併
(
しか
)
しモ
少
(
すこ
)
し
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
つてからにしたら
如何
(
どう
)
だ。
236
もしもレコだつたら
大変
(
たいへん
)
だぞ』
237
と
稍
(
やや
)
躊躇
(
ちうちよ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
238
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は、
239
黄金姫
『ホヽヽヽヽお
前
(
まへ
)
は
山賊
(
さんぞく
)
ぢやないか。
240
大方
(
おほかた
)
此
(
この
)
辺
(
へん
)
に
岩窟
(
いはや
)
があるのだらう。
241
同
(
おな
)
じ
人間
(
にんげん
)
に
生
(
うま
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
242
往来
(
ゆきき
)
の
旅人
(
たびびと
)
をおどかして
渡世
(
とせい
)
をするとは
実
(
じつ
)
に
憐
(
あは
)
れな
者
(
もの
)
だ。
243
私
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
だが、
244
一
(
ひと
)
つ
話
(
はなし
)
をしてあげるから、
245
トツクリとそこで
聞
(
き
)
きなさい』
246
ハム『オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
247
此奴
(
こいつ
)
ア
中々
(
なかなか
)
手
(
て
)
ごわい
奴
(
やつ
)
だ、
248
レコではないと
云
(
い
)
ふことは
今
(
いま
)
の
言葉
(
ことば
)
で
判然
(
はんぜん
)
した。
249
サアかかれ、
250
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
みい
)
ツ』
251
と
号令
(
がうれい
)
をする。
252
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
笠
(
かさ
)
を
被
(
かぶ
)
つたまま、
253
清照姫
『コレ
耄碌
(
まうろく
)
サン、
254
女
(
をんな
)
ばかりと
侮
(
あなど
)
つて、
255
いらぬチヨツカイを
出
(
だ
)
すと、
256
キツイ
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされますよ。
257
此
(
この
)
物騒
(
ぶつそう
)
な
山坂
(
やまさか
)
を
僅
(
わづ
)
かに
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
で
通
(
とほ
)
る
位
(
くらゐ
)
だから、
258
腕
(
うで
)
に
覚
(
おぼえ
)
がなくては
叶
(
かな
)
はぬこと、
259
美事
(
みごと
)
相手
(
あひて
)
になるなら、
260
なつて
見
(
み
)
たがよからう』
261
ハム『コリヤ
失敬
(
しつけい
)
千万
(
せんばん
)
な、
262
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
泥棒
(
どろばう
)
とは
何
(
なん
)
だ。
263
汝
(
きさま
)
こそ
太
(
ふて
)
え
奴
(
やつ
)
だ、
264
泥棒
(
どろばう
)
の
親方
(
おやかた
)
だらう。
265
何程
(
なにほど
)
親分
(
おやぶん
)
でも
駄目
(
だめ
)
だぞ。
266
こちらは
屈強
(
くつきやう
)
盛
(
ざか
)
りの
男
(
をとこ
)
が
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
267
そちらは
老耄婆
(
おいぼればば
)
アに
小娘
(
こむすめ
)
、
268
そんな
負惜
(
まけをし
)
みを
吐
(
ぬか
)
すより、
269
神妙
(
しんめう
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
言
(
い
)
ふやうにしたらどうだ。
270
騒
(
さわ
)
ぎさへせねば
別
(
べつ
)
にひつ
括
(
くく
)
りもせず、
271
よい
所
(
ところ
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つてやる、
272
返答
(
へんたふ
)
はどうだ』
273
と
睨
(
ね
)
めつける。
274
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として、
275
黄金姫
『オツホヽヽヽ
蚊
(
か
)
トンボのやうな
腕
(
うで
)
を
振
(
ふり
)
まはして
何
(
なに
)
寝言
(
ねごと
)
をいつてるのだ。
276
斑鳩
(
いかるが
)
が
笑
(
わら
)
つてゐるぞや。
277
サア
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
278
こんな
胡麻
(
ごま
)
の
蠅
(
はへ
)
みたやうな
奴
(
やつ
)
に
相手
(
あひて
)
になつてる
暇
(
ひま
)
がない、
279
度
(
ど
)
し
難
(
がた
)
き
代物
(
しろもの
)
だ。
280
それよりも
早
(
はや
)
く、
281
霊
(
れい
)
に
飢
(
う
)
ゑ
渇
(
かは
)
いた
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
を
一人
(
ひとり
)
でも
救
(
すく
)
ひつつ
目的地
(
もくてきち
)
へ
参
(
まゐ
)
りませう』
282
と
娘
(
むすめ
)
を
促
(
うなが
)
し、
283
通
(
とほ
)
り
過
(
す
)
ぎようとするのを、
284
ハムは、
285
ハム
『サアかかれツ』
286
と
命令
(
めいれい
)
をする。
287
両方
(
りやうはう
)
から
両人
(
りやうにん
)
目
(
め
)
がけて、
288
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつくのを『エー
面倒
(
めんだう
)
』とハム、
289
イールの
両人
(
りやうにん
)
を
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は
苦
(
く
)
もなく
谷底
(
たにぞこ
)
へ
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
290
ヨセフは
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
細腕
(
ほそうで
)
に
首筋
(
くびすぢ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
られ、
291
これ
又
(
また
)
眼下
(
がんか
)
の
青淵
(
あをふち
)
へ
目
(
め
)
がけて、
292
空中
(
くうちう
)
を
三四回
(
さんしくわい
)
、
293
回転
(
くわいてん
)
し
乍
(
なが
)
らザンブとばかりに
落込
(
おちこ
)
んだ。
294
之
(
これ
)
を
眺
(
なが
)
めたレーブ、
295
タールの
両人
(
りやうにん
)
は
一目散
(
いちもくさん
)
にかけ
出
(
だ
)
し、
296
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれた
谷川
(
たにがは
)
に
辿
(
たど
)
りつき、
297
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
救
(
すく
)
はむと
焦
(
あせ
)
れ
共
(
ども
)
、
298
板
(
いた
)
を
立
(
た
)
てたる
如
(
ごと
)
き
大岩壁
(
だいがんぺき
)
、
299
近
(
ちか
)
よることも
出来
(
でき
)
ず、
300
十町
(
じつちやう
)
ばかり
下手
(
しもて
)
へ
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
き、
301
漸
(
やうや
)
くにして
蔓
(
つる
)
などにつかまつて
谷川
(
たにがは
)
に
下
(
お
)
り、
302
流
(
なが
)
れを
伝
(
つた
)
うて、
303
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
落込
(
おちこ
)
んだ
青淵
(
あをふち
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
上
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
304
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
305
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず、
306
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
307
倉皇
(
さうくわう
)
として
峠
(
たうげ
)
を
東南
(
とうなん
)
へ
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
308
(
大正一一・一〇・二二
旧九・三
松村真澄
録)
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【第4章 河鹿越|第39巻|舎身活躍|霊界物語|/rm3904】
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