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九死一生

インフォメーション
題名：九死一生 著者：出口王仁三郎
ページ：153
概要： 備考： タグ： データ凡例： データ最終更新日：2024-10-31 04:40:00 OBC ：B120200c20
程(ほど)近き野添(のぞへ)の村に走りゆけば井戸掘(ゐどほり)人夫(にんぷ)埋(うづ)もりしといふ
井戸掘(ゐどほり)の土(つち)崩壊し井(ゐ)の底に若者二人うづもりしといふ
急がずば息やきれんと村人は井戸のまはりの土(つち)掘りてをり
この村の口中(くちなか)留吉(とめきち)わが前に合掌しつつ救(すくひ)をもとむる
家家(いへいへ)の油を集め五升(ごしよう)ばかり埋(うづ)もりし井戸にそそぎかけたり
三時間ばかりも掘りて漸(やうや)くに埋(うづ)もりし人を救ひ出したり
埋(うづ)もりし人は漸(やうや)く上(あが)り来て九死に一生を得たりと喜ぶ
暫(しばら)くは息も絶えなん苦しさを油のかをりに安(やす)かりしといふ
油てふものは土壌をばすかしつつ空気を通はす効能あるなり
救世主出現せりと村人はわれをとりまき口口(くちぐち)にたたふ
口中(くちなか)は神道妙霊教会の教師を拝命なしてゐたりき
口中(くちなか)の家にしばらく止(とど)まりて病(やまひ)を癒(いや)しみちを説きたり
密告
高遠な教(をしへ)は妙霊教会の教師のあたまに入(い)らざりにけり
遠近(をちこち)の村人日日(ひび)にたよりくるわれを口中(くちなか)ねたみ出したり
教会の信者をとりしと口中(くちなか)はそろそろ反対運動をなす
生神(いきがみ)が現(あら)はれませしと村人はますますわれを慕ひきたれり
教会の邪魔になるとて口中(くちなか)はわれに退去をうながしにけり
営業的宗教家なる口中(くちなか)はわれに言葉もかけずなりける
口中(くちなか)のこころの中をおもひやりわれは園部(そのべ)へ帰らんとせし
いつまでもこの山里(やまざと)にとどまりて世人(よびと)救へと村人の願ふ
村人の切なる願(ねがひ)しりぞけてわれは野添(のぞへ)の村を立ちたり
生神(いきがみ)の通行なりとむら人(びと)は大地に坐(ざ)して合掌してをり
村人にいちいち言葉かけにつつ安掛(あがけ)の宿(やど)に立ち寄りにけり
要助(えうすけ)の家にしばらくとどまりて日夜に道の宣伝をなす
つぎつぎに集(あつま)り来(きた)る人人(ひとびと)は小さき藁屋(わらや)に満ちあふれけり
靴の音サーベルの音響(ひび)かせつ一人の警官入(い)り来(きた)りけり
警官はさも厳(おごそ)かにわが住所姓名聞(き)きて手帳につけたり
口中(くちなか)の密告によりて駐在所の巡査はあわて来(きた)りたるなり
押問答
何教(なにけう)の教導職(けうだうしよく)かといかめしく尋ぬる巡査の口(くち)はとがれり
信教は自由なりせばわれ未(いま)だ既成宗教に籍(せき)おかずといふ
われもまた妙霊教会の信者なりと口中(くちなか)のかたを持つやうにいふ
教導職ならぬ汝(なんぢ)は絶対に布教させぬとこゑをとがらす
神教(しんけう)を宣伝するは憲法にゆるされてある特権と答(こた)ふ
なまいきな事をいふなと怒(いか)り立ち駐在所まで来(こ)よといきまく
駐在所に引かるる理由は絶対になしと拒(こば)めばますます怒(いか)る
官憲の許(ゆるし)なくして多人数(たにんず)をなぜ集めたと要助を叱(しか)る
要助はふるひをののきこれからは神祀(まつ)らぬと詑(わ)びてゐたりき
神道(しんだう)の教師でもない風来者を絶対寄(よ)せなといましめてをり
国民(こくみん)にたまひし信教自由権を妨害さるる理由なしといふ
汝(なれ)一人信仰するは自由なり人に教ふることはゆるさぬ
聖帝(せいてい)の許し給ひし特権を侵害するかと呶鳴りてみたりき
警官は官吏(くわんり)侮辱といひながら駐在所へと無理に引きゆく
警官を鬼の如くに恐れゐるこの村人(むらびと)は逃げ去りにけり
駐在所
いろいろと説明すれど頑愚(ぐわんぐ)なる巡査に信教自由はわからず
その方(はう)は催眠術で愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)をまどはすものとわからぬこといふ
サーベルをわざとがちやがちやいはせつつ蠑螈(いもり)のたちし如きスタイル
万言(まんげん)の説明するも効(かう)なしとおもひてわれは沈黙に入(い)る
いらだちてわからぬことをいろいろと問ひただせどもわれは答へず
いつ迄も黙(もく)してあれば警官は手持(てもち)不沙汰(ぶさた)に一室(ひとま)に入(い)りけり
われもまた黙黙(もくもく)駐在所を立ちて海老坂(ゑびさか)峠(たうげ)をよぢのぼり帰る
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