味方富士青葉の峰はいつしかに秋さりにつつ紅葉しにけり
小雲川ながれも澄みて並松の影水底に枝をひたせり
秋されば人の心も落ちつきて修行者各自に野に出で働く
上谷の修行場静になりにけり修行者何れも家に帰りて
秋の野の忙しきままに本宮の金明会も人かげうすらぐ
正信は開祖の命にて遠州の浜松久保氏のもとに出でゆく
正信氏浜松に立ちしそのあとに京都の南部孫三郎来る
南部氏は金光教の前教師今は風来の客なりにけり
難病を救ひたまひし報恩のために奉仕を願ひ入れたり
出口開祖南部の採否を神界にうかがひ給へばゆるしたまはず
この南部正直なれど元来の品行不良神使に成れずと
南部氏はこの神勅に落胆し改心神の御前に誓へり
兎に角に小使として御開祖は金明会の奉仕をゆるさる
南部氏は再生の思ひなしながらあした夕べを忠実に仕ふる
尾上の国見
四つ尾の山の尾上にわれ立ちて国見しながら言霊を宣る
金峰山御岳大江の山波は綾の聖地をかこみて高し
四つ尾の峰吹く風の音冴えて四方に散りゆく尾上のもみぢ葉
本宮の霊山会場は眼の下に桶伏せしごとしづかに横たふ
山脈の四方をつつめる真名かに秀でて高き四つ尾の神峰
弥仙山雲間に遠くかすみつつ紅葉に丹波の秋は深めり
大丈夫この地に事をなさんかと尾上にわれは雄健びせりけり
和知川の清き流れを眺めつつ神代の歴史をしのびつつゐる
山ふかく流れのきよきこの里に出でます神は元津祖神
大神のふかき経綸をさとりけり山川きよき里の眺めよ
野のはてに郡是製糸の煙突の烟一すぢほそくなびけり
山姫の錦織りなす秋の野を見つつ思ふも乱れたる世を
ただ一人尾上に立ちて国見するわが頭辺を二羽の鳶舞ふ
尾上より金明会をさがしみれどあまり小さくわが目に入らず
貧乏線以下に育ちしわれにして今四つ尾の高峰に国見す
来し方の貧乏生活追懐しわが身のいまの境遇におどろく
さつと吹く峰の嵐の冷たさに一人弱音を吹きつつ下る
立木なき寺山の上に綾部町見ながら芝居の太鼓うちみつ
寺山の上に芝居の太鼓うつ爺さんはしぶ茶を汲みてくれたり
両腕に力をこめて打鳴らす太鼓の音にわが血は燃えたつ
救世のラツパを吹き立て太鼓うち世人の眠りさまさんと思ふ
寺山の尾根より見ればささやけき金明会は夕陽に照れり
待てしばし綾部の町をことごとく吾が救世の聖地となさん
世の人の数にも入らぬわれながら希望は天地にみちみちにけり
若宮の森
寺山の尾上南にたどりつつ錦の宮の若宮にくだる
若宮の森の百樹は紅葉して秋吹く風にこずゑうなれり
パラパラと庭に散りしくもみぢ葉の赤きをおのが心ともがな
畏きや仁徳天皇をまつりたるこの若宮は深かりにけり
老杉の天を封じて暗きまで立ちならびたる若宮の森
若宮の神前を夕べをろがめば千羽烏の空にたちまふ
苔むして神さびたてる老杉の梢もみゆく秋の夕風
一百の石の階段きざみつつ燈籠の灯に神山をくだる
誠心
旧士族の家まばらなる上野町心しづかにわが家に帰る
たそがれて家に帰ればいそいそと開祖はほほ笑み出迎へ給ふ
先生のすがた見えずと役員が捜索最中と開祖は宣らせり
四つ尾の山に上りて国見せしといらへば開祖はうなづき給ひぬ
一度は登りてもらひたきものと思ひゐたりしと開祖は笑ませり
トントンと足音せわしく入り来る男の子は四方勇佑なりけり
勇佑は顔の汗をば拭ひつつ先生の在処さがし居しといふ
無断にて相済みませんとことわれば勇佑頭かきつつ笑ふ
勇『又しても竹村四方にこまらされ居給ひしかと心あせりぬ』
四つ尾に登山したりとわが宣れば今後勇佑も供にと頼む
勇『四つ尾が如何にさかしくありとても躊躇はせない勇佑爺です』
御開祖は無事の帰宅を喜びて神の御前に感謝したまへり
勇佑も開祖のあとに拝跪して涙まじりに感謝してをり
かかるをり捜索に出でし平蔵は澄子とともに帰り来れり
開祖様の仰せのごとく心配はいらなかつたと笑ふ平蔵
平『澄子さんがあまり心配なさるゆゑ位田の方を探してゐました』
開祖様のお許しなくしてこれからは他出無用と平蔵がたしなむ
大切な神の御用の身体ゆゑ自重を頼むと開祖は宣らせり
自由なるわが身なりしを縛らるる綾部の里を淋しく思へり
今日となり詮すべなきまま独断にて他出なさじと小声に誓ふ
先生の御身をおもふ忠告と誠心おもてに開祖のお言葉
小夜更くるまでも眠らず五人連れ神様話に膝をあつむる
木枯の窓打つ音のさむざむと火鉢にかかりて夜を明したり
○余白に
日の本は到る処に宮あれどいづれも霊魂の神をまつれる