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美人さまざま

インフォメーション
題名:[1-3-6] 美人さまざま 著者:月の家
ページ:42 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2016-11-28 01:48:13 OBC :B195303c130
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]『東北日記 五の巻』昭和3年9月21日(原題は無題)
 美人という言は、ふつう女人の美の総称であって、換言すれば、総括的美人というは外形美いわゆる肉体美で、身体各部器官の完成せるものをもって美人というのである。それゆえ少しくらい不完全なる女にしても、化粧修繕その要をえて、一見外見をよそおい、一定時中その態度を持続する間は、世間一般の目より美人としてとりあつかわるるのである。ゆえに芸妓、仲居、女優または散歩好きな令嬢などは、美人としてもっとも多く数字を占めている。
 つぎに特種の美人がある。それは相対的美人で、観察の時期および心理作用による美人である。ゆえに甲はこれをもって絶世の美人のごとくに思慮するも、乙はさまでに思わざるがごとき場合のある美人がある。ゆえにかならずしも外形美を完結せずといえども、その内容において一種の特点を有するものにたいしては、美人の称号を与うるもさしつかえはない。
 つぎに虚名の美人というのがある。これは新聞美人、写真美人、さし画美人であって、実物にいたっては、顔の配合も、四肢の配置も、胴体の組織もしかく完全でなく、その内容も充足していなくとも、虚名を売るの方策に長じ、言論筆説その妙をえて、活社会の活舞台にたってよくこれをごまかすの技能を有する女である。この種の女は、自己の誤りし過去の事実を臆面もなく発表して、しかもそれを自己の理想のごとく主張して平然たるの類である。年齢ようやく()けて、顔に小じわのできるようになっても、なおかつ平気の平左衛門で、若かった生娘時代の写真版を新聞雑誌に掲載し、もって社会的美人をもって自ら任じ、得々たるものである。しかも彼らの写真版は、何十回の筆をいれて修正に修正を加え加工に加工をほどこして、実物とはまったく別個の感あるものがある。これらの美人を総称して虚名美人というのである。また身体分子の配合すこぶるその妙をえずとも、他に接して心情すこぶる篤く、友人にたいして親切、良人(おっと)にたいして貞節いたらざるなく、児にたいして愛情の念深く、家庭を思うの心切なる女を称して反面の美人という。すなわち反面の美人とは肉体美に破れたる女にして、その反動として極端に内容の発達し、いわゆる家庭向き台所用の女である。また好奇心を巧妙に利用する女を異様の美人という。流行のさきがけとか、一種別様の風姿言語をもちい、しかもこれを巧みに利用して特種の舞台に活躍する女で、血族と習慣と思想を異にせる外国の女を見て、憧憬の念禁じがたく悶々の情に苦しむ女、しかしてこれを羨慕(せんぼ)するがごとき一種の好奇心にとらわれたる女である。変遷きわまりなき現代の社会においては、この種の美人もそうとうにみとめられているようである。
 つぎに体躯の組織完全にしてまことに臀肉(でんにく)豊富、四肢の活動十二分に達し、真に人間製造に適したるの女を称して曲線美人という。血色の良いそして活動力を有する国家的女である。その心理は別として、人間が動物性を有するという見地からはじつに堂々たるもので、良く天職をつくすにたるべき完全な女である。
 つぎにまた近時の世態を動揺せしめて、すでに絶世の美人のごとく両方面から憧憬されたのは、芸妓の万竜、八千代をもってその最たるものとなすべきであろう。そして新聞や雑誌ではやされたのは、森律子を筆頭に、少し古いところで下田歌子、鳩山春子、およびこれに類する方面の女であろう。成り金女としては鈴木のおよねさん、風紀問題でうわさにのぼったのは芳川鎌子である。」れらの美人といえども世人のうわさにのぼるほどの価値あるものでなく、ただただ化粧の光であったのだ。
 おわりに歴史上の美人に言及すれば、一種のローマンス的女で、この種の女にたいしての論評は、貞操をもって最大なる要件としたもののようである。ゆえに焔花(えんか)を飛ばすがごとき間にあって、なおよく貞操を厳守した女である。ゆえに変転多く活躍に富み、時に心胆を寒からしむるの活劇を演じた女である。過去の女だけに、その反面にたいし、批評をこころみるの材料を有せざるのかぎりにおいては、すこぶる社会の尊敬と羨望の的となり、しかして異性をしてその情緒に泣かしむるの美人である。平凡に説けば芝居的美人であり小説的美人である。
 ああ、こう考えてみると、世間は美女ばかりで醜婦は一人もないようである。以上の美人観からみると、現代における有名な美人平塚雷鳥、故九条武子、柳原燁子(あきこ)、伊藤あさ子、栗島すみ子などの美人といえども、その内容と形体美については、あまり飛びつくような逸品とは考えられない。ゆえに今は女を総括して美人とたたえるより道はないと思う。
(無題、『東北日記』五の巻 昭和3年9月21日)
   
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