出口王仁三郎
〔以下、本籍、住所、職業、生年月日は地裁判決書と同じに付省略〕
出口すみ
出口伊佐男
井上留五郎
東尾吉三郎
桜井同吉
西村昂三
湯浅斎治郎
大深浩三
森慶三郎
桜井重雄
出口新衛
中村純一
田中省三
藤原勇造
細田市左衛門
土井靖都
比村隆三
北村中
長野久治
細田東洋男
瓜生鑅吉
徳重敏雄
木村貞次
松田盛政
井上省三
木下愛隣
芦田こと 桐村満蔵
中邨新助
鈴木常雄
中野与之助
岩佐守こと 神守
浜中助三郎
笹岡康男
安藤武夫
児玉知二
中野隆次
武田仙蔵
竹原弘
富井徳太郎
出口貞四郎
右被告人王仁三郎、愛隣、与之助、助三郎、仙蔵、弘及徳太郎に対する治安維持法違反不敬、被告人重雄に対する治安維持法違反、不敬、出版法違反及新聞紙法違反、爾余の各被告人に対する治安維持法違反各被告事件に付昭和十七年七月三十一日大阪控訴院に於て言渡したる判決に対し原審検事長中野並助並被告人王仁三郎、重雄、愛隣、与之助、助三郎、仙蔵、弘及徳太郎は各上告を為したり、因て判決すること左の如し。
主文
本件治安維持法違反被告事件に対する原審検事の上告並に不敬被告事件に対する被告人王仁三郎、与之助、仙蔵、弘、徳太郎及愛隣の上告不敬出版法違反及新聞紙法違反被告事件に対する被告人重雄の上告及不敬及新聞紙法違反被告事件に対する被告人助三郎の上告は何れも之を棄却す、
理由
原審検事の上告論旨は其の趣意書約千五百頁縷々八十四万語に亘るも其の要旨は次の如し。
先づ冒頭に本件治安維持法違反の事実に対する原審判決の判示理由に付按ずるに、後記詳述するが如く証拠の取捨並に判断を誤り重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由ありと総括前書し、次に総論的論旨と各論的論旨とに大別して原判決に論難反証を加へ、其の総論的上告論旨として本件治安維持法違反の公訴事実に於ける最も重要なる争点は大本の根本目的たるみろく神政成就とは、王仁三郎が日本及諸外国の統治者を廃して自ら其の独裁君主と為り、全世界を統一して至仁至愛の大家族制度の国家を建設することを意味するものなる点に在るを以て、先づ右争点に関する総括的の証拠説明を為すべしとて瑞祥新聞(昭和十年二月一日発行)開祖ナカの初発の筆先等を挙げて解説し、次て大本に於ては我大日本帝国は万世一系の天皇君臨し統治権を総攬し給ふことを以て其の国体と為すことを否定し、畏れ多くも現御皇統は日本の国を御統治遊ばさるる御系統に坐しまさす、日本の国は天地の先祖なるみろくの大神、国常立尊又は素盞嗚尊の霊代顕現なる王仁三郎に於て統治すべき神定なりとの不逞極まる思想を抱懐し、之を実現せんとし自己が統治すべき日本の国土を至仁至愛の国、霊主体従の国、火水の国、元の日本の国、大日本国、日本国等称し居るものにして、我大日本帝国は王仁三郎が統治者と為りて統治せんとする、是等の大本の国家との観念を明確に把持するに非ざれば本件の真相を究明し得ざるものなり、然るに原判決は之を把持究明せず事実の真相に相反する認定を為すに至れりとし、文献並に供述を例示し更に大本に於ては御皇統は万世一系に非ず、万世一系天壌無窮の統治者は出口家なりと説き居るものなりとし多数の文献並に供述及王仁三郎の不逞意図を抱懐する片鱗を窺知するに足れりとする作歌及供述をも掲げ、叙上の説明に依り被告人王仁三郎を中心とする大本の根本目的はみろく神政成就即ち王仁三郎が日本及諸外国の統治者を廃して、自ら其の独裁君主と為り全世界を統一するに在りて我国体を変革すべきものなること明白なりと思料するも、更に右不逞意図の発露の一班として、王仁三郎の不敬不逞の行動を略述すべしとて、⑴六合拝、⑵白馬に乗りたること、⑶行列に先駆後駆、⑷黄櫨染の御袍に類似せる袍着用、⑸三種の神器、⑹十曜紋を附せる軍艦の模型、⑺錦旗に擬する宇宙紋の旗、⑻神聖なる年号を定む、⑼其の他不敬の行為を掲げて総論的論旨を終り、
次に各論的論旨として原判決の無罪理由の各個、各点に渉り一々論証反駁を加へたるものなり即ち、
原判決無罪理由第一の㈠に対し大本教旨「神と人」並に原判決引用の諸文献の内容に於て王仁三郎の不逞意図を明確に認識し得べし、尚原判決が大本の教理を説述したる文献にして法廷に顕はれたる文献中主なるものとして、挙げたる約二十の諸文献を検討するに或は他より剽窃したるものにて、大本教理を認定すべき資料として適切ならざるものあり、又或は王仁三郎の不逞意図を暗示して前示原判決の説示の反証たるものも存在す、之を漫然引用するが如きは審理不尽に基く重大なる謬見なりと云ひ、
同第一の㈡に対し各証拠に依れば皇道大本信条の皇孫命並に皇上陛下は表看板保護色にして、王仁三郎を指称し居るものなること又皇道大本に於ては、大本の主宰神なる天照皇大神と皇祖の天照大御神とは別神なりと説き居ることを認むるに足り、原判決引用の諸文献の趣意は原判決及弁護人の主張するが如きものに非ず、加之大正七年一月以後に於て両神名を区別して用ひ居れり、此の点に於て原判決は審理不尽に基く重大なる事実の誤認を疑ふに足るべき顕著なる事由あるものと信ずと云ひ尚第一の㈢中原判決が大本は神国日本の皇統に対し如何なる見解を持し居るやとて引用したる大本文献に対し、此等を検討し綜合考覈すれば原判示の趣旨に非ざること明白にして、却て前述せる大本の不逞意図即ち御皇統を否定し王仁三郎が日本及世界の統治者たらんとするの意図を包蔵せしめ、之に表看板保護色を巧妙に施して表現せるものなることを認むるに足り、原判決は重大なる誤認なりと思料すと云ひ、
同第一の㈢中ナカの筆先の基底に尊王愛国思想の流るるを看取するに難からずとの判示部分に対し、原判決が之を看取し得る筆先として引例したる筆先に於てすら之を看取し得るものなく、原判決は筆先の検討及各被告人の予審に於ける供述の吟味不十分にして原審に於ける被告人の弁解及弁護人の弁論に眩惑されたると審理不尽に帰することは、一件記録に徴して明瞭なり、又同筆先中には天皇に対する不逞思想を包蔵するものとは認め難しとの判示部分に対し其の引用の筆先に依り、右の如く認定したるは筆先の真意を解せざる甚しき謬見なり、即ち、原判決は審理不尽にして重大なる事実の誤認あること極めて明白なりと云ひ、
同第一の㈣の大本の根本思想を成せりとする立替立直の理論中、
㋑の立替立直を必要とする理由に関する判示に対し原判決の見解は其の引用に係る文献及其の他の本件証拠資料たる大本文献の検討十分ならざるより生じたる謬見にして、重大なる事実の誤認あり、抑も大本の根本思想を為す立替立直の理論は、立替立直によるみろく神政成就即ち日本及世界を万人の喜ぶ平和幸福の至仁至愛の世と為すには、優勝劣敗、弱肉強食の混乱状態を呈し居る現在の日本及世界の統治者を初めとし、日本及世界の政治、経済、法律、財政、教育、宗教等総てのものを破壊し之に代り、王仁三郎が自ら独裁君主となり新なる機関、新なる制度を設け全世界を統一して、至仁至愛の大家族制度の国家を建設せんとするに在ること筆先、文献、供述等により明なり、仍て原判決引用のナカの筆先を検討するに何れも不敬不逞の思想の表現たらざるはなく、又原判決引用の王仁三郎の筆先及著述を観るも王仁三郎が我国体変革を為さんとせる不逞意図を有し居ることは明かなり、然るに原判決が判示の如く説示せるは審理不尽にして、皇道大本の教理は不敬不逞の思想を包蔵するものに非ずとの前提に基くものと解せられ、重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由ありと云ひ、
同㋺の所謂国常立尊の隠退及再現の教義に関する判示に対し原判決は其の挙示する文献の解釈を誤りたるものにして、重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由あるものとす、即ち大本に於て立替立直を必要とする理由として説き居るところは前述の如く明かなるも、根本理論又は根本教義として、理論体系を為し之を強調し居りたるものは被告人等の当審に於ける供述及大本文献に依れば大体三説に帰するものにして、其の一は国常立尊の隠退及再現説、其の二は素盞嗚尊の神逐及再現説、其の三は以上の両説を統合せし所謂霊現移写の関係より説明せんとする説なり、仍て先づ右国常立尊の隠退及再現の教義に付按ずるに其の説くところの要旨は公訴事実の如く、結局王仁三郎は国常立尊、豊雲野尊及撞の大神の霊代として日本及世界を立替立直して其の唯一の統治者と為り、至仁至愛の世を実現せしむべきものなりと謂ふに在りて、右事実は筆先其の他の文献、就中原判決引用の㈠太古の神の因縁、㈡霊界の情勢、㈢国祖御隠退の御因縁、㈣霊界物語第二編総説、㈤同第四十七篇総説及被告人の供述に依り明かなりとす、然るに原判決が判示の如く判示したるは大本文献の検討不十分にして、証拠を無視したる独断にして重大なる事実の誤認なること極めて顕著なりと云ひ、
同㋩の所謂素盞嗚尊の神逐及再現なる教義に関する判示に対し原判決の判事は古事記等の古典に現はれたる我大日本帝国の史上の事実と大本の説き居るみろくの国(大本国家)即ち霊主体従の国、火水国、神皇国、神の国等の国家生成論の由来、換言せば、大本の教義即ち立替立直の根本理論と混淆せるより生じたる謬見なりと思料せらるるなり、本教義は公訴事実の如く結局王仁三郎は素盞嗚尊及みろくの神の霊代として、現在の紛乱せる日本及世界を立替立直して其の唯一の統治者と為り、至仁至愛の世を実現せしむべきものなりと謂ふに在りて、前論旨及至聖殿落成式所感、三柱の貴子、大正八年二月二十日附王仁三郎の筆先並に被告人等の供述に依り明かなり、然るに原判決が素盞嗚尊は立替立直の担当神に非ざる旨認定したるは重大なる事実の誤認にして、証拠の取捨判断を誤り又は理由に齟齬あり、又原判決が同尊は国常立尊の神業の補佐神なりとの論断、贖罪神救世神なりとの説示は誤りにして日本及世界の統治神なり、又大本に於て天照大御神の詔勅は伊邪那岐尊の神勅に背反するものなりと説き居ること、天津神と国津神との区別が伊邪那岐命の神勅に依りて定まり、日本は国津神の系統に於て統治せらるべきこと並に地上、現界、神界の紛乱状態の原因に関し公訴事実の如く説き居るに原判決が何れも之を否定したるは重大なる事実の誤認なり、更に大本に於ては霊現移写の関係を説き国常立尊の隠退及再現は霊界の事象にして、素盞嗚尊の神逐及再現は現界の事象にして前者は後者に移写実現すと主張し居るものなること明かなるに、原判決は之を否定したるは是亦重大なる事実の誤認なりと云ひ、
同㈡の所謂神の霊代顕現に関する判示に対し、大本の霊代関係の説示は大本教義を神秘化し権威付くる為と大本教義が不敬不逞のものなることを隠蔽せんが為にして、其の実王仁三郎が立替立直の実行者と為り国家社会の機構制度を根本的に変革し、地上唯一の統治者たらんとするに在り故に人民の協力を要請するも此の意味に於てするものなり、然るに原判決は此の意味に解せざるが故に王仁三郎が主張せる霊代関係に付統治権者たることを包蔵せる主要なる文献を遺脱し、大本に於て主張する我国体変革の手段方法に付ては何等之に触るるところなきなりと云ひ、
同㋭の立替立直の結論的判示に対し原判決の認定は引用文献の真意を究明せず、立替立直後の地上現界を統治する神に関する主なる筆先、其の他に触れず大本の文献の偽装部分に眩惑され熟読検討せず且大本の説くところと我史上の事実とを混淆せるより生じたる重大なる謬見なり、即ち審理不尽にして重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由ありと信ずと云ひ、
無罪理由第一の㈤の判示に対し、原判決の認定したるみろく神政の意義は前論旨に指摘せる謬見を前提とせる見解にして是亦謬見なり、而り然して原判決が多数の文献を引用要約したるみろく神政の内容及みろく神政成就に不逞の意義を包蔵せずとの認定は是亦みろく神政の真意を解せざる重大なる事実の誤認にして、其の挙示の文献を深く検討せず大本の説くところと我が史上事実とを混淆せるより陥りたる謬見にして、右文献を綜合すれば却て被告人等が王仁三郎を首班として、万世一系の天皇を奉戴する大日本帝国の君主制を廃して、王仁三郎を独裁君主とする至仁至愛の国家建設を共同の目的と為し得たりとの公訴事実を認め得べしと云ひ、
同第一の㈥の㋑の判示に対し、原判決は王仁三郎が不逞意図を懐くに至りたる動機に付真相を究明せず軛く右公訴事実を排斥したるは、就中犯意の決定時期の移動に付審理不尽にして重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由あるものと思料すと云ひ、
同㋺の判示に対し、所謂十二段返の宣伝歌は大正六年十二月頃被告人王仁三郎が作りたるものにして、不敬不逞極まる宣伝歌なり、原判決の認定は措信すべからざる証拠及第一審の証人石田卓次の証言に原審の証人福井精平の証言を継足して、全部卓次の証言としたるやに想像せらるる虚無の証拠を軽信し、且何故安藤唯夫の作歌と出口あさのの作歌が結合され居るかの関係を説示せらる理由不備もありて、結局重大なる事実の誤認なりと云ひ、
無罪理由第二の判示に対し、先づ其の結論に付被告人等の供述及文献に依り不逞意図の下に結社を組織したる事実の証明十分にして原判決の之が否定は重大事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由あるものと思料すと云ひ、
就中同第二の㈠のみろく下生の意義に関する判示に対し王仁三郎はみろくの神の霊代として顕現することをみろく菩薩の下生なりと主張するものにして原判決の認むるが如き仏説又は神霊界所載の大石凝真素美の論説に所謂みろく下生の意味に於ける下生を云ふに非ず、然るに原判決は右論説所載の情勢を看取せず、又大本の筆先其の他文献全般一に亘りて其の真相を究明捕捉せず判示の如く認定したるは、重大なる事実の誤認あるものと信ずと云ひ、
又同㈡のみろく神政成就の為現界的活動を為すとの意義に関する判示部分に対し、原判決の認定は文献の研究不十分より生じたり重大なる謬見にして其の挙示の文献に徴するも国体変革を説き居ること明白なり、然るに原判決は筆先其の他の文献中重要なるものに気付かず、之を看過したるは審理不尽なりと云ひ、同明日以後の大本は立替立直したる大本にして、従来の活動の継続に非ず云々の意義に関する判示部分は審理不尽にして、重大なる事実誤認なり、又結社の合意ありと為すを得ずとの判示部分は結社組織の法律的解釈を誤りたるか、又は事実認定に付審理不尽の不法あるものなりと云ひ、
以上を以て治安維持法違反に対する各論的論旨を終り、次に本件不敬並に不敬等事件に及び原判決は本件公訴事実中被告人出口王仁三郎に対する不敬、被告人桜井重雄に対する不敬、新聞紙法違反、被告人浜中助三郎に対する不敬、新聞紙法違反の各犯罪事実中一部の証明なしと説示したるも被告人等の供述並に文献の文詞自体に徴し明白なるに、之を否定したるは重大なる事実の誤認なること極めて明白なりと云ひ、
最後に治安維持法違反事件及不敬並に不敬等事件の両者に対する結論的論旨として之を要するに本件公訴事実中、
㈠ 被告人出口王仁三郎が日本及諸外国の統治者を廃し自ら独裁君主と為り、全世界を統一して至仁至愛の大家族制度の国家を建設せんとする不逞の意図を有し、其の目的遂行の為昭和三年三月三日みろく大祭を機に被告人出口すみ、出口伊佐男、井上留五郎、東尾吉三郎、湯浅斎治郎、桜井同吉及西村昂三等と共に万世一系の天皇を奉戴する大日本帝国の君主制を廃止して王仁三郎を独裁君主とする至仁至愛の国家建設を目的とする大本と称する結社を組織したりとの事実は前記詳述せるところに依り、
㈡ 被告人大深浩三、中村純一、出口貞四郎、北村隆三、土井靖都、田中省三、桜井重雄、森慶三郎、瓜生鑅吉、藤原勇造、木下愛隣、出口新衛、松田盛政、神守、徳重敏雄、中野隆次、細田市左衛門、桐村満蔵、比村中、笹岡康男、浜中助三郎、鈴木常雄、木村貞次、長野久治、細田東洋男、井上省三、安藤武夫、中郷新助、児玉知二、中野与之助、武田仙蔵、富井徳太郎、竹原弘等が皇道大本は我国体変革を目的とする結社なることを認識し乍ら之に加入したる事実は被告人大深浩三に対する予審第十三回訊問調書中は記録一、二九九丁裏以下)、同中村純一に対する第一審公判準備調書中(記録一、五六五丁裏以下)、同出口貞四郎に対する予審第十一回訊問調書中(記録一、二四四丁以下)、同出口新衛に対する同第十回訊問調書中(記録九五二丁以下)、同北村隆三に対する同第十一回及第十五回訊問調書中(記録一、三七九丁以下及一、四二八丁以下)、同土井靖都に対する同第十三回及第十六回訊問調書中(記録一、四五三丁裏以下及一、四九六丁以下)、同田中省三に対する同第十一回訊問調書中(記録一、四八八丁以下)、同桜井重雄に対する同第十三回及第十四回訊問調書中(記録一、〇六一丁以下及一、〇九五丁以下)、同森慶三郎に対する予審第十四回訊問調書中(記録九四五丁裏以下)、同松田盛政に対する同第十三回訊問調書中(記録九七一丁以下)、同瓜生鑅吉に対する第一審公判調書及予審第十一回、第十二回、第十四回訊問調書中(記録二、一三九丁及一、四〇六丁裏以下一、四一六丁以下一、四三八丁以下)、同神守に対する予審第十回訊問調書中(記録一、〇二五丁以下)、同徳重敏雄に対する同第十八回及第二十回訊問調書中(記録一、四二一丁裏以下及一、四六八丁裏以下)、同藤原勇造に対する第一審公判調書及予審第十回訊問調書中(記録一、五五〇丁以下及九六三丁以下)、同中野隆次に対する第一審第六回訊問調書及予審第七回、第十回訊問調書中(記録二、〇八〇丁二〇九六丁及一、〇〇四丁以下一、〇四五丁以下)、同細田市左衛門に対する予審第九回訊問調書中(記録九七〇丁以下)、同桐村万蔵に対する同第十回訊問調書中(記録一、二七二丁以下)、同比村中に対する第九回訊問調書中(記録八七一丁裏以下)、同笹岡康男に対する同第九回及第十二回訊問調書中(記録八二一丁以下及八五九丁以下)、同浜中助三郎に対する同第十回訊問調書中(記録一、〇五九丁以下)、同木下愛隣に対する同第十回訊問調書中(記録一、一一二以下)、同鈴木常雄に対する同第十三回訊問調書中(記録一、二〇四丁裏以下)、同木村貞次に対する同第十一回及第十二回訊問調書中(記録一、〇三六丁以下及一、〇四四丁以下)、同長野久治に対する同第十二回訊問調書中(記録一、一三〇丁以下)、同細田東洋男に対する同第十回訊問調書中(記録一、一〇二丁以下)、同井上省三に対する同第十回訊問調書中(記録一、〇二六丁以下)、同安藤武夫に対する第一審公判調書及予審第十回訊問調書中(記録一、六一八丁裏以下及九五五丁以下)、同中邨新助に対する予審第十回及第十三回訊問調書中(記録九八〇丁以下及一、〇二三丁以下)、同児玉知二に対する同第八回訊問調書中(記録九三一丁以下)、同中野与之助に対する第一審公判調書及予審第七回、第八回訊問調書中(記録一、五六六丁及六八二丁裏以下七〇五丁裏以下)、同武田仙蔵に対する予審第八回訊問調書中(記録八一四丁裏以下)、同富井徳太郎に対する同第十回訊問調書中(記録八三三丁以下)、同竹原弘に対する同第八回訊問調書中(記録七九五丁以下)、に於ける其の旨の供述記載に依り、
㈢ 被告人大深浩三、中村純一、出口貞四郎、北村隆三、土井靖都、田中省三、桜井重雄、森慶三郎、瓜生鑅吉、藤原勇造、木下愛隣等が公訴事実の如き結社の役員たる任務に従事したる事実及本件被告人等が公訴事実の如き結社の遂行の為にする行為を為したる事実は孰れも同人等の予審訊問調書中右公訴事実に照応する供述記載に依り、
㈣⑴ 被告人出口王仁三郎が京都府亀岡町天恩郷に於て、㋑昭和八年七月一日発行、瑞祥新聞第七頁及第八頁に、㋺同年十月一日発行同新聞第五頁に、㋩翌九年九月一日発行同新聞七頁に、㋥翌十年三月一日発行同新聞第七頁に、㋭同年四月一日発行同新聞第六頁に夫々御皇室の御施政を誹謗し奉る記事を掲載し、天皇に対し不敬の行為を為したる事実、
⑵ 被告人桜井重雄が同所に於て、㋑右瑞祥新聞の編輯人として右⑴の㋑乃至㋭掲記の如き記事、㋺雑誌神の国の編輯人として昭和十年八月一日発行神の国第一頁に、天皇陛下の尊厳を冒涜する事項を夫々掲載して之を発行し、天皇に対し奉り不敬の行為を為したる事実、
⑶ 被告人浜中助三郎が同所に於て右瑞祥新聞の事実上の編輯担当者として右⑴の㋥㋭掲記の如き記事を掲載して、天皇に対し不敬の行為を為したりとの事実は、前記の如く詳述せるところに依り、孰れも之を認むべき証明十分なるに拘らず原審が無罪の判決を為したるは甚だ失当にして、畢竟重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由あるものと思料するを以て、刑事訴訟法第四百四十三条に則り更に事実審理の上有罪の判決相成度候と云ふに在り、
被告人出口王仁三郎、同すみ、同伊佐男、同留五郎、同吉三郎、同同吉、同斎治郎、同昂三、同浩三、同純一、同貞四郎、同新衛、同隆三、同靖都、同省三、同重雄、同慶三郎、同盛政、同鑅吉、同守、同敏雄、同勇造、同隆次、同市左衛門、同満蔵、同中、同康男、同助三郎、同愛隣、同常雄、同貞次、同久治、同東洋男、同武夫、同新助、同知二、同与之助、同仙蔵、同徳太郎、同弘の弁護人清瀬一郎、高橋喜又、小山昇、赤塚源二郎、高山義三、前田亀千代、林逸郎、竹川兼栄、三木善建、川崎富一郎、足立進三郎、今井嘉幸、鍋島徳太郎、竹山三朗、富沢効の右検事の上告趣意書に対する答弁の要旨は、㈠検事は大本は不逞目的を有すとの予断を以て事案に臨みたるものにして事案に対する検討態度に根本的誤謬あり、㈡検事は宗教的考察並に、㈢大本の歴史的考察を欠如す又、㈣異端者を弁別せず、㈤不逞目的を有る結社組織の事実なし、㈥検事は岩田久太郎所持のノート、中村純一の手帳等を証拠を不法に援用せり大本に隠語なし、㈦検事引用の予審訊問調書は信憑するに足らず、㈧被告人王仁三郎、同重雄、同助三郎に対する不敬等事件の原審無罪認定部分に関する公訴事実は記載自体、又は其の他の文献に徴し検事の上告論旨は其の理由なしと云ふに在り、被告人出口王仁三郎弁護人高山義三、前田亀千代、鍋島徳太郎、赤塚源二郎、竹山三朗、竹川兼栄、小山昇、今井嘉幸、足立進三郎、川崎富一郎、三木善建、根上信、高橋喜又、清瀬一郎、富沢効、林逸郎上告趣意書の要旨は、
㈠ 原判決の理由第一の㈠㋑の判示説示に対し、㋑神諭の訂正再訂正は不敬を認識して為したるものに非ず、対外的影響を顧慮したる為なり、㋺神諭は行文上不敬に非ず且予審の供述は真意に出てたるものに非ざるを以て原判決の認定は重大なる事実の誤認なりと云ひ、
㈡ 同第一の㈠㋺の判示説示に対し判示短歌の月の光は日の光の誤植にして、其の意黒雲一掃を冀ふ臣子の至情を詠じたるものにして、仮に誤植に非ずとするも歌意に異ることなく之に反する予審の供述は真意に非ざれば是亦重大なる事実の誤認なりと云ひ、
㈢ 同第一の㈠㋩の判示説示に対し、㋑判示短歌は行文上不敬に非ず、㋺被告人の作に非ざる旨の原審供述は真実にして、予審に於ける供述は真意に出でたるものに非ざれば判示は重大なる誤認なりと云ひ、
㈣ 同第一の㈠㋥の判示説示に対し判示短歌は十聯十首の歌の一部にして基督教讃美歌を参考として逐章詠作したるものにして「きみ」とは霊界の神霊を指称し、之が説明歌なり、被告人の予審に於ける供述は真意に出でざるを以て判示は重大なる事実の誤認なりと云ひ、
㈤ 同第一の㈠㋭の判示説示に対し判示短歌は行文上不敬の趣旨を含まず、暗雲速に吹払はれんことを念願したるものにして之に反する予審の供述は真意に出たるものに非ざるを以て、判示は重大なる誤認なりと云ひ、
㈥ 同第一の㈠㋬の判示説示に対し判示神諭は行文上毫も不敬の趣意を含まず、「道具に使はれる肉体」とは日本侵略を企図する悪魔に使役せらるる者、即米国主脳者を意味す、証拠に援用したる王仁三郎、重雄、助三郎の予審の供述記載は真意に反す、従て判示は重大なる事実の誤認なりと云ひ、
㈦ 同第一の㈠㋣の判示説示に対し判示短歌の意義極めて明白にして問題の「忌々しけれ」は「ゆゆしけれ」と読むべく本居太平の所謂
「恐れ慎む」の意なり、被告人の予審に於ける供述は不本意なり、従て之が判示も亦重大なる事実の誤認なりと云ひ、
以上㈠乃至㈦の判示説示に対し以上を通して原判決の採用したる予審調書は警察以来の凌虐暴行の結果真意に反して作成せられたる証拠と為す能はざるものなれば、斯る資料を引用認定するは採証の法則に違反し重大なる事実の誤認を為せるものなることを附言すと云ひ、
㈧ 本件は行為者に於て事の不敬に亘るを識らず、全く善意を以て為したる場合なるを以て特殊理論として不敬罪を構成すとするも、被告人の意思、年齢、未決拘留日数六年四ケ月二十五日の長期に亘れる点等より見て刑の量定甚しく不当なりと思料すと云ふに在り、
被告人桜井重雄、弁護人高橋喜、又同三木善建、上告趣意書の要旨は原判決第一の㈡の㋑の短歌は行文上毫も不敬に非ず、歌意は黒雲が速力に晴れよとの作者の詠嘆と念願を、言外に示すものなり、又同㋺の文章は行文下毫も不敬の趣旨を含まず「道具に使はれる肉体」及「露国や独逸の大将のやうに落ちて苦しむ者」はウヰルソン及其の後継大統領なり、従て原判決の認定は正に重大なる事実の誤認なり、尚原判決は右認定に際し相被告人王仁三郎、同助三郎及被告人本人の予審調書の供述記載を援用したるが該調書の作成は凌虐暴行の結果に由来し、調書自体若は他の文献に依り不実の供述なること明なれば、原審が之を証拠に引用したるは採証の法則を犯したる違法あるが尠くとも重大なる事実の誤認ありと認むべき顕著なる事由あるものと云ふに在り、
被告人浜中助三郎の弁護人赤塚源二郎、同高橋喜又上告趣意書の要旨は、㈠原判決第一の㈢の文章は行文自体は決して皇室の尊厳を冒涜したるものに非ず、即ち日本の侵略を企つる者は露国、独逸の大将の如く世に落ちて苦しむことを教へたるものにして、所謂肉体は右侵略を企図する悪魔に使役せらるる者即ち、米国の主脳者を意味すればなり、㈡又判示証拠に援用したる予審訊問調書の各供述記載は不任意の陳述にして措信するに足らず、従て原判決の認定は重大なる事実の誤認あることを疑ふに足るべき顕著なる事由あるものと云ふに在り、
被告人中野与之助、同武田仙蔵、竹原弘、同富井徳太郎の弁護人根上信、上告趣意書の要旨は、
被告人与之助に対する原判決第二の判示事実は誠に恐懼に堪へざるところなるも被告人は其の各調書に現はれたる如く、学力僅かに小学校第二年を修業せる程度にして其の前生を土方の親分として過し深く根差すところなく、治病を動機として入信せる事情等より観るときは判示「てんし」を霊界物語其の他の大本文献に屡々記載せらるる天使、即ち予言者なりと誤認せりとの弁疏は強ち排斥し難きところなり、従て原判決は重大なる事実の誤認ありと謂ふべく、
被告人仙蔵、弘、徳太郎に対する原判決第三の判示事実も亦重大なる事実の誤認ありと謂ふべし、蓋し同被告人等も同様無学にして判示証第一、〇四二号の文書は「登極」なる文言を除けば、単に大本文献より抽出せる美辞麗句を綴りたるに過ぎずして一貫せる意義を成さず、而も
「登極」なる文言は同被告人等が予てより研究し居たる天津金木に所謂登旭の象即ち太陽の昇る旺んなる象勢を意味したるものにして、被告人等の右天津金木の指導者たる熊谷禎徳の著書日本の宣伝書(由太郎の前審公判に於て提出押収中)中にも登旭と登極とを同一に使用せる等より観るときは被告人等は登極の意を不注意にも登旭の意に使用せるものと認むるを相当とすべく、此の点に対する被告人等の弁疏も亦強ち排斥し難きところなればなりと云ふに在り、
被告人木下愛隣弁護人小山昇の上告趣意書の要旨は、
第一点 被告人に対する原判決第四の事実認定は重大なる事実の誤認あり、即ち原判決は判示不敬文書を知合の信者に示す為之を写取りて所持して居たる旨認定せるも斯る事実なし、先づ所持の事実に対し物的証拠なく之が予審の供述は不実なり、従て信者に見せる為写し取りたりとの事実も同様なればなりと云ひ、
第二点 仮に写し取り所持し居たりとするも単に知合の信者に見せる為写し取り所持したる程度にては、被告人の内面的乃至内輪の行動即ち吾人の私的生活にして社会的生活に関係なく、刑罰法規の範囲内の行動に属せず従て之に対し不敬罪を認定したるは違法なり、而も更に原判決は単に「知合の信者に見せる為」とのみ判示し、被告人と其の「知合の信者」との交際、親密程度を明示せず、又何の為見せるものなりや其の目的をも明かにせず、斯の如きは理由不備の違法をも併せ存するものと信ず、何となれば見せる目的の如何によりては不敬を以て責むべきに非ずして、忠誠の認定をも為さざるべからざるものなればなりと云ふに在り、因て本件中先づ治安維持法違反事件に対する原審検事の上告論旨に付按ずるに原判決は同事件に付無罪理由として、第一及第二に大別して第一理由に於て被告人中王仁三郎、すみ、伊佐男、留五郎、吉三郎、斎治郎、同吉及昂三公判停止中の出口元男、亡高木鉄男、岩田久太郎、御田村竜吉、湯川貫一、四方平蔵、出口慶太郎及栗原七蔵並に不起訴となれる出口遙、中野岩太及梅田常治郎等が我国体を変革する共同目的を有し居たるや否や判示し、第二理由に於て右被告人王仁三郎外十八名が昭和三年三月三日みろく大祭を執行し、国体変革を目的とする不逞結社を組織したりや否を判示し、此の判示を為す為更に第一の理由を㈠乃至㈥に分ち、其の㈠に於て大本の教理即大本の宇宙観、神霊観、人生観等を穿鑿し、其の㈡に於て大本の其の主宰神並に天照大御神に対する所見、其の㈢に於て大本の我皇統に対する所見を糺明し、其の㈣に於て大本の根本思想を成せりとする立替立直の理論を更に㋑乃至㋭に細分して検討し、特に㋑に於て立替立直を必要とする理由を教祖ナカの筆先並に、王仁三郎の筆先及著述に就き検討し㋺に於て所謂国常立尊の隠退及再現の教義に付㋩に於て所謂素盞嗚尊の神逐及再現なる教理に付㋥に於て、所謂神の霊代顕現に付㋭に於て立替立直の結論に付各判示説示し、其の㈤に於てみろく神政の意義及内容等を述べ、其の㈥の㋑に於て王仁三郎の不逞意図に関し、同㋺に於て所謂十二段返の宣伝歌の作者に関し、同㋩に於て本件予審調書の効力に関し各判示し、又第二の理由を㈠及㈡に分ち特に其の㈠に於てみろく下生の意義に関し其の㈡に於てみろく神政成就の為現界的活動を為すとの意義及明日以後の大本は立替立直したる大本にして、従来の活動の継続に非ず云々の意義に関し、各判示したるものなり、然れども原判決の無罪理由は究極するところ結社の組織者と目せらるる被告人等に我国体変革の不逞意図ありたる証明なきが故に結社の組織なく、従て爾余の被告人等の結社加入又は目的遂行行為等に関する公訴事実も其の証明なしと云ふに在りて、結局結社の組織者と目せらるる者に国体変革の意思ありたる証明なしと云ふに帰す、何となれば此の事たるや原判決の判文の全面を通して、其の趣旨を窮知し得るのみならず、就中第一理由㈤の末尾に前掲被告人等が王仁三郎を主班として万世一系の天皇を奉戴する、大日本帝国の君主制を廃して王仁三郎を独裁君主とする至仁至愛の国家建設を共同目的と為し居たりとの公訴事実は之を認むるに足る証拠なしと判示し、第二理由の末段(被告人貞四郎に付ては同人に対する判決書末段)に叙上の理由に依り、本件公訴事実中被告人王仁三郎が日本及諸外国の統治者を廃し自ら独裁君主と為り、全世界を統一して至仁至愛の大家族制度の国家を建設せんとする不逞の意図を有し其の目的遂行の為、昭和三年三月三日みろく大祭の機に被告人すみ、伊佐男、留五郎、吉三郎、斎治郎、同吉及昂三等と共二万世一系の天皇を奉戴する大日本帝国の君主制を廃止して王仁三郎を独裁君主とする至仁至愛の国家建設を目的とする大本と称する結社を組織したりとの事実は、之を認むべき証明なきものとす、従て同人等の治安維持法違反の爾余の行為並に其の他の被告人等の右結社に加入し、役員たる任務に従事し、又は其の目的遂行の為にする行為を為したりとの治安維持法違反の行為は之を認むるに由なしと明記し、更に法律説明の部分に刑事訴訟法第三百六十二条後段を引用しあるに依り明かなり、果して然らば原判決無罪理由の大部分、例へば国体変革の不逞意図に直接関係なき判示第一の大本の教理神観教義等に関する判示及判示第二のみろく下生の意義並に結社組織の意思表示の有無に関する判示の如きは、畢竟無用の説示と謂ふべく従て之に対する検事の上告論旨も其の当否の判断を須ゐるの要あるを見ず、仍て右の点に付三百五十五冊に亘る本件記録を精査し、五万点に亘る証拠を仔細に点検し記録に現はれたる各被告人の入信の動機、入信後の行動等をも参酌するも被告人王仁三郎其の他結社の組織者と目せらるる者等が我国体を変革するの意図、又は認識ありたりとするに足る証左なし、問題の予審訊問調書は其の内容自体に矛盾齟齬ありて不可解なるのみならず、多数文献の明文に反し輙く措信するを得ず、従て原判決が屡々之を措信し難しと判示したるは証拠解釈の専権を有する原審の職権上当然にして、之が為原判決に証拠の取捨並に判断を誤りたる違法ありと為すを得ず、若し夫れ大本文献の明文にして表看板保護色なりとせんか之を除外するときは白紙に庶幾しと謂ふに外なし、従て原判決が治安維持法違反に付叙上の如く証明なしと認め之を前提として各被告人を無罪と為したるは相当にして理由に不備なく、又事実認定に重大なる誤認あることなく之が審理にも不尽の認むべきものあることなし、されば治安維持法違反に関する原審検事の上告は既に此の点に於て理由なきを以て、爾余の説明を省略し、刑事訴訟法第四百四十六条に則り之を棄却すべきものとす、
次に本件不敬並に不敬等事件に対する弁護人並に原審検事の上告論旨に付按ずるに同事件に対する原判決の有罪部分と無罪部分との間、就中其の有罪部分と治安維持法違反事件の無罪理由との間に、必ずしも理由説示の統一せるものなく屡々齟齬に近きものあること原審検事の主張の如きものなきに非ざるも、本件記録並に法廷に顕はれたる全証拠、就中原判決引用の証拠を査するに不敬並に不敬等事件の無罪部分に付ては勿論其の有罪部分に付ても其の判断に付原判決の如く解し、原判決の如く認め得ざるに非ず、従て上告審としては事実の認定に所謂重大なる誤認ありと認むべき顕著なる事由ありと為し難く、又理由の判示、証拠の取捨、判断其の他に付不備若は違法の存するものありと謂ひ難く、又刑の量定に付ても甚しく不当なりと思料すべき顕著なる事由ありと認め難きものと評決したり、然り而して原審検事の右上告論旨は結局有罪とせられたる一罪の一部に対するものなるを以て、之に対し特に上告棄却の言渡を為すの要なく関係被告人たる王仁三郎、重雄、助三郎、与之助、仙蔵、弘、徳太郎及愛隣の上告のみに付同法同条に則り之を棄却すべきものとす、
仍て主文の通り判決を為したり、
昭和二十年九月八日
大審院第二刑事部
裁判長判事 沼義雄
判事 駒田重義
判事 斎藤悠輔
判事 吉田常次郎
判事日下巌は退職に付署名捺印する能はず
裁判長判事 沼義雄