二十一二歳の頃
何時までも吾が父母は子を産むと友の一人は怒りてかたる
兄弟がせんぐりふえて厄介が俺にかかるとくやむ友かな
ありもせぬ親の財産兄弟にわけてやるのが辛いと友いふ
よい年をしていつまでも子を孕む両親見れば阿呆らしと友いふ
その頃にわが母上も孕みましぬ案じて夜な夜な宮詣でせし
わが母の安産祈ると友聞いて君は馬鹿よとののしり嗤ふ
一人でも兄弟ふゆればいいぢやないかと友に語ればフフンとうそぶく
せんぐりに子が出来よつて貧乏の上塗りするのが好きかと友いふ
貧乏の上塗りしてもかまはない子を産む元気の親が嬉しい
百夜を宮に詣でてつつがなく妹君子うまれ落ちたり
妹の産声ききて何んとなく心づよさを吾れ感じたり
○
生れたる子の顔を見てわが友は腹だちまぎれに茶屋遊びせり
厄介者これほど沢山生れては末おそろしいと悔む友かな
働きもせない癖して吾が父母はまた子を生んだと悔む友かな
○
秋されば松の林にわけ入りて松葉の焚物掻きあつめけり
西山に松葉をかけばころころと黄湿茸松露あらはる楽しさ
手拭に黄湿茸松露を包みつつ松葉の柴荷に吊してかへる
岩上の松葉を余念なく掻きて足踏みはづし谷に落ちたり
水のなき谷に落ちこみ足痛め友にかつがれ家路にかへる
足の筋いためて苦しみ整骨医平助爺さんに治療たのみぬ
七十に余る平助爺さんは足をいぢつてますます痛くす
○
足いため身動きならぬ晩秋をふた月ばかり新聞借り読む
猿候栄次玉兎のお久の小説を読みて無聊をなくさめにけり