二十二三歳の頃
朝まだき霜の刀をふみしめて山野にはたらく農家の生活
夜から夜へ働き通せど麦飯もやすやす喰へぬ百姓なりけり
人情の紙より薄き世のなかに住む身は命の糧にくるしむ
炎天の田にはたらきし汗の実の一つものこらぬ小百姓の冬
欲望に限りも知らぬ地主等の頤使に任せる小百姓なりけり
何時までも算盤とれぬ小作百姓やめたく思へど術なき農村
不愉快な悩み抱きてわかき日を貧乏神に追ひたてられつつ
このままに老い朽ちてゆく身なるかと悲憤の涙しぼりし若き日
身辺をねらふ無情の風よりもおそろしかりし望なき生活
何時の日か世にたたんとは思へども丹波の農家は頭上らず
身辺をときじくねらふ死の神より恐ろしかりしは貧乏神なりき
朝露の消ゆるがごとき人の身の命支ふる生活のくるしみ
犬猫におとりしごとき貧乏の生活する身は牛に似たりき
黙黙と朝から夜まではたらきて麦飯に腹ふくらせにけり
すこしばかり財産のある人びとは横柄面してわれを見くだす