山姫は桜の林をあとにして緑の峰にうつろひにけり
ぼやぼやと春風たちて並山の木木のこずゑは緑もえたり
ふくらみし隣の庭の芍薬の花いき垣へだて風にかをれり
あづさ弓春更けにつつ村肝の心を長閑にふくれ初めたり
御開祖は神の御言をかしこみて岩戸神社に詣でんと宣らす
一行は三十六人蓑笠を身によろひつつ丹後に向へり
生田村志賀郷村をよぎりつつ黄昏るるころ元伊勢に着く
山はみな新緑萌えて吹く風のほのあたたかき晩春なりけり
新緑のもゆる丹波の元伊勢の初夏の眺めは一入清しき
皇大神宮神苑に生ふる大杉の木かげ小暗く月空にあり
旧四月八日の月は中天に動くともせず山風すずし
ともかくも黄昏れたれば参拝を明日にまはして松本屋にとまる
松本屋の古き旅館に御開祖と一行春の一夜を宿せり
かけの声緑の谷間にこだまして夜はほのぼのと明け初めにけり
一行は朝飯済ませしづしづと神苑の階段きざみて登る
皇神の御前に端坐し御開祖にしたがひ一同太祝詞のる
大前の拝礼をはり谷せまき樹下をたどりて岩戸にすすめり
断崖の上に建てたる岩戸神社鉄柵つたひて神前に詣でし
御開祖の天津祝詞の声清く深谷川に澄みきこえたり
断崖の宮居のうしろに横はる千畳岩を珍らしみけり
いにしへは剣先山の頂上にありしと案内の神職語れり
千畳岩一名御座岩と奉唱すと昔の由緒を語る神職
千早ふる神代のむかし山頂よりこの谷川におちしと伝ふる
谷川をふさぎて立てる千畳岩の真下をくぐる谷水はやし
鉄柵をたどりたどりて御開祖は宮の社務所に入り給ひけり
守札おのもおのもに求めつつ断崖下りてわれ谷川に下りつ