(四)京都府警部
(十月七日大阪控訴院に於て)
証人───に対する訊問概要
裁判長は証人───に対し現職、氏名、年齢、事件検挙及捜査に当時関係したるや否やに付き確め逐次訊問を進めたり。
問 証人は大本教総検挙に従事したか。
答 従事した。
問 大本教に疑を以て検挙準備に着手したのは検挙一年前からでなかつたか。
答 検挙半歳前頃であつたと思ふ。
問 検挙前に内務省警保局から検挙に対する資料を送つて来なかつたか。
答 承知してゐない。
問 事件検挙に当り警察当局で捜査本部を設け其処に於て大本教関係の文献を蒐集検討し之を抜萃して参考資料を作つたようであり其資料に使用された紙が数万枚とも称される程尨大なものであつた相だが、証人は此の事に付て知らないか。
答 怎も記憶がない。
問 捜査本部に於て文献等に検討加へた結果に基き協議を重ね内務省に打合せくと云ふではないか。
答 打合せ協議をした様な覚はないが上司に皆が夫々報告した事はあるから其様に見えたか判らない。
問 事件検挙後証拠並に取調を第一班乃至第五班と特別班とに編成し証拠品の検討と取調に当つた相ではないか。
答 承知してゐない。
問 証人は大本教検挙の中心者であつた関係上知らぬ筈はあるまい。
答 警察はことによると下意上達の点は完全だが上意下達の点が欠けてることもあるから知らない。
問 検挙前に京都検事局、内務省からも来て開催された大津会談に出席したか。
答 二回程行つたやうに覚へて居る。
問 大本教に対し証人が容疑あると自覚したのは何か。
答 大本教発刊の文献であつた。
問 大本教文献に疑を持つた証人は部下並に警察を督励し大本教発刊文献を蒐集したと云ふが怎ふか。
答 警察として発刊書籍に対する注意は検閲に於て常に為されて居るので大本教だけに主力を注ぐ様な事はなかつたと思ふ。
問 検挙後十二月十四日捜査員全部が府参事会室に集合し検事局よりも出張して捜査員に対し取調に就て教養を施し取調方針に付き協議したそうでないか。
答 記憶がない。
問 証人は証拠物整理班の第一班長でなかつたか。
答 覚へて居らぬ。
問 大本教検挙後証人は誰を調べたか。
答 出口王仁三郎外一名を調べた様に思ふ。
問 王仁三郎を調べて何を得たか。
答 根本の問題である国体を変革せんとする不穏な事実を王仁三郎の自白によつて把握した。
問 取調べは王仁三郎を追究し嘸証人も苦労したであらう。
答 取調に当つては追究もしたが苦労ではなかつた所謂普通であつた。
問 杭迫特高課長の大本検挙日記を証人は読んだか。
答 一寸読んだが覚へて居らぬ。
問 大本教検挙日記では杭迫課長が証人の労を多とする旨感謝の意が表されて居るが日記に述べられて居ることは事実か。
答 相当大きく述べられて居る様に思ふ。
問 杭迫課長の検挙日記は嘘が書いてあると証人は云ふのか、大本教検挙事件の如き大事件は余りあるべき事柄でないから証人も忘れられないものがある筈だ。
答 全部嘘だと云ふのでない、何処が大きく書かれて居るのか覚がない。
× × ×
弁護人
問 思想第二係は怎んな係か。
答 国家社会主義を取締る事が主である。
問 大津会談を一名共産党分子が云ふ「アジト」だと云ふて居た様だが事実か。証人は大本教文献竝其他に依て大本教が不穏であると認めたと云ふが其他とは何を意味するか。
答 記憶がない。
問 証人は脳病を患つたのでないか。
答 患つた覚へはない。
問 警察協会雑誌に掲載されて居る大本教検挙記事を読んだか。
答 読んだ様に思ふが内容については覚へて居らぬ。
問 証人は検挙後現場へ捜査に行つたか。
答 捜査に行つた覚はない。
問 検挙当時大本教青年会が武器を以て抵抗したか。
答 青年会員か何か知らぬが当時見張番の様な者が五、六人蠢動して居るのを認めたが抵抗したとは思つて居らぬ。
問 証人の信仰する宗教は何か。
答 仏教であつて今も変りない。
問 証人は事実を知つて知らぬと云ふのか偽証罪構成の要素は知つて居ながら知らぬと云つても成立するのである。
此の時裁判長は、
「覚がないと証人は述べて居るではないか」
と注意を与へたり
以 上
証人───に対する訊問概要
先づ最初裁判長より証人に対し
問 検挙前に内務省警保局から送つて来た大本教検挙に対する手引に等しい資料を見たか。
答 来て居たのか知らぬが自分等の如き下級幹部は見なかつた様に思ふ。
問 十二月四日検挙後府参事会室で証拠物件整理に就て協議し更に夜間係員に対し教養を施したと云ふが知つて居るだろう。
答 当時何分ごたごたしてゐたので判きり知らぬ。
問 証人は取調に当つて誰を調べたか。
答 出口伊佐男外数名調べた。
問 調書の意見書は誰が作つた、何か参考物件でもあつたのか。
答 自分が造つた。
問 伊佐男に対する初からの証人の見透は取調の結果一致して居たか。
答 一致して居た。
問 一致したとは伊佐男の思ふことか証人の思ふことに一致したのか、証人の思つて居ることか、伊佐男の思ふことに一致したか。
答 伊佐男の思ふことに一致したそれが調書に現はれて居る。
此より弁護人側よりの訊問に入る。
問 証人は取調に当り暴行を加へたと云ふが怎ふか。
答 暴行を加へて調べた覚はない。
問 証人は大本教が昭和三年以来結社成立当時から国体変革の企てがあつたと明記されて居るのは取調の結果証人が知つたのか検挙前から疑つて居たのか。
答 取調の結果判然とした。
問 証人は調べに当り大声を出して調べると云ふが何故か。
答 大声を出すのは私の地声だから致方ない。
問 大本教検挙当時青年会が武器を以て警察官に抵抗したか。
答 抵抗した様に思はぬ、順調に検挙出来た。
問 大本教にダイナマイトや武器が捜査の結果発見したか。
答 兇器が発見されたと部下から聞いて居るが直接見なかつた。
問 大本教が菊御紋章を使用して居たか怎ふだつた。
答 使用して居たとか聞いて居るが自分は見なかつた様に覚へて居る。
其の他の訊問状況は───と大同小異に付き省略す。
(警保局保安課宗教係「大本教事件証拠調関係書類」所収、国立公文書館所蔵)