十七八歳の頃
人魂の出る夜なりけり恋人の家にかよひて雨に追はれぬ
うちつけにいふ言葉さへ口籠り恋には弱きわれなりしかな
君恋ふといひよどみつつ高らかに歌を唄ひて軒端をさまよふ
思ふ人の軒端にべつたり出逢ひつつものをもいはず惜しくわかれし
労働の汗臭き肌をはぢらひて君恋ふるとはいひかねにける
プロの家に生れたる身は若き日も人恋ふるさへためらひにけり
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とりあげし秋の収穫ことごとく地主に納めて食らふ米なし
まつしろな七分まじりの麦飯を塩鰯にて食らふ小百姓
大根は作れど残らず町に売りその代をもて米を買ひたる
プロの家の若者のこらず友として農閑の日は荷車稼げり