十七八歳の頃
口笛を吹いて二人の友垣は夕べの門にわれを呼び出す
無理やりに咳払ひして外の友にしばらく待てと合図なしける
垂乳根の父にさとられつぎの宵咳払ひして頭なぐらる
口笛を覚られてより吾が友は下駄の音させ合図しにける
塵払ひ障子の穴より突き出してしばらく待てと合図の返事す
父母の寝息うかがひ裏戸あけて三人は西瓜畑に馳せ行く
月の夜の露に冷えたる西瓜をば地上に打てばぽんと割れたり
真二つに割れし西瓜の赤あかと月に匂へる夜半の楽しさ
石榴のやうにはじけし西瓜の実餓鬼の如くにつかみ喰ひけり
夜る食ひし西瓜に腹をいためつつ泣顔おさへて草刈にゆく
真昼間に父は野良より帰り来て西瓜盗まれたとこはい顔せり
盗人をたづねて見れば吾が子ぞと知らぬ親父の顔のをかしさ
腹痛みやうやくなほりつぎの夜は友の畠に三人出でゆく
例のごと西瓜を割りてくらひあきその翌朝は又腹くだる
吾が父と友の父とがよりあひて迷惑相にはなし合ひをり
真夜中にお前がとつて食たのかと問はれて胸をとどろかす吾
知らないとこばみて見たれど何となく心をののき声ちぢみける
白浴衣西瓜の汁に染まりをりて言ひわけたたずあやまり泣きぬ
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田に水をひかんと夜半に畔道をかよひて狸の奴につままる
遠の野に提灯見えて人のかほ声まできこゆる狸の仕業
吾が作る田の水口をふさぐ奴追はんと走りて小溝に落ちたる
漸くに溝はひ上れば月冴えて吾がそばちかく狸あゆめり
こん畜生狸の奴めと追ひかけて再びもとの小溝に落ちたり
何処までもたたる狸と怒りつつ泥まぶれにて夜半家に帰る