十八九歳の頃
プロレタリヤ竹藪もたぬ家の子は垣根の外の筍あさり食ふ
垣外の筍ほれば悪友の太吉きたりて持ち去り行きぬ
小幡川に水あびをればわが袂に糞まりおきて太吉逃げゆく
くつくつと笑ひ太吉が逃ぐる見て川よりあがれば袂に糞あり
糞こきし太吉の家に怒り行けばごろつき親父顎しやくりたり
善悪によらない負けて帰りなば太吉は家に入れぬと親父言ふ
大亀と名を知られたる侠客の伜の太吉のいたずら憎らし
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丹波与作足長自慢で野の井戸をまたげしあとより石をなげこむ
投げ入れし石に睾丸ぬれねずみとなりしをいかり与作が追ひ来る
追ひかくる与作こはさに雪隠に逃ぐれば婆さん尻まくりをり
用達しの婆さんの尻に驚いてあつといひつつ倒れたる吾れ
倒れたるところを与作追ひきたり餓鬼大将と頭けりゆく
吾頭けられし無念はらさんと与作のゆく手に縄はりにけり
丹波与作縄に爪先ひつかけてどつとばかりに路上に倒る
正清をなぶるとは図太い子忰と与作がどなりまた追ひきたる
正清の近眼をさいはひ生垣の中にひそみてやり過ごしけり
生垣にひそみてあれば家の主兼さんが来て鍬の柄でうつ
鍬の柄にうたれしあとの腫れ上りタンコブ一つ記念に残る
ダンコブに繃帯をなし家に帰り父にとはれて実状あかせり
みかけにもよらぬ不良の少年とまたもや父になぐられて泣く
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をりをりは村の戸長にたのまれて京都府令をよみきかせけり
この村の節用中とたたへられ無学の村民にもの教ヘけり
貝祭文軍談落語に仁輪加など村人逹に聞かせてたのしむ
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白墨を持ちて寺門に楽書し栗山禅師の叱ごと浴びたる
金剛寺夜学の席から追ひ出され矢島教師のもとに走れり
矢島氏の寓居にかよひ毎夜毎夜日本書紀など教へられたる
日本書紀日本外史とつぎつぎに御国学びにうつりし若き日
国体のたふときことを知りそめて仏の道より神にすすめり
産土の神に夜な夜なまゐまうで貧しき父母の幸いのりける