十七八歳の頃
小夜更けて夜遊びにあき帰るさのわが軒の柿ぬすむ人ありき
柿の木の下にたたづみ何人ととへば木くだる顔にあきれし
思はざる富みたる人が柿ぬすむそのいやしさをあはれみしかな
このことは誰にも言うてくれるなとたのまれ今にその名を出さず
朝夕に顔を見合はす人ゆえにかへつて吾のはづかしくなりぬ
故郷に帰りて見ればその柿は玉の井のほとりに苔むし今在り
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玉の井の池に盥の舟うけて綿入のままあそびけるかな
冬の日の雪の夕ベに盥舟転覆させてあやふくたすかる
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流れ来る川の木屑に鳶口をあてたるままに落ちいる濁流
一二丁押し流されて吾が命たすかりし時も鳶握りをりぬ
執着の深いをとこと村びとにあきれられたり鳶口を見て
村用の鳶口なれば命にもかへて護らんこころなりけり
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和一郎重太郎二人の友逹に誘はれいたづら夜遊びのみする
今ならば不良少年といやしまれ感化院までのぞきしならん
風呂岩といふ人の小屋を三方からゆすり地震といつはり遊びし
風呂岩は怒りくるうて戸をひらき竹箒もて頭なぐれり
雪隠に箒をひたし風呂岩にかたきうちとて表戸こすりぬ