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親子

インフォメーション
題名：親子 著者：出口王仁三郎
ページ：300
概要： 備考： タグ： データ凡例： データ最終更新日：2024-10-30 20:57:00 OBC ：B119300c069
二十六七歳の頃
夕暮に吾(わ)が住む館(やかた)にたづね来(き)しをみなをおくる真夜中の道
小幡橋(をばたばし)わたるころより雪降(ふ)りて吹く風さむく家路(いへぢ)にともなふ
約二里の彼女(かれ)がやかたへ雪の道高下駄(たかげた)はきておくり着きたり
中村(なかむら)の彼女の父はおどろきてお前は何処(どこ)の馬骨(ばこつ)かと訊(き)く
侠客(けふかく)の名を売つてゐた多田亀(ただかめ)は一人むすめの彼女の父なる
多田亀(ただかめ)は吾(わ)が首筋を押(おさ)へつけこれでもどうだと拳骨(げんこつ)ふりあぐ
吾(わ)が家(いへ)の一人娘を貴様等(ら)の自由にさせぬと声高(こわだか)に呶鳴る
僕ばかり悪いのではないお互ひよと首押(おさ)へられつ言ひかへしたり
ふりあげたその拳骨(げんこつ)を如何(どう)するかお前の可愛い娘の男よ
多田亀(ただかめ)はプツと吹き出し手をはなしお前は度胸が太いとほめる
俺とこの養子になるならこの娘(むすめ)やつてもよいと微笑みて言ふ
百日目に養家(やうか)を出されたこの男(をとこ)これでもお気に入(い)るかと吾(われ)云ふ
そんなこととくの昔に聞いてゐる俺は娘のこころ次第だ
彼(か)の女(をんな)両手をついてお父さん貰つておくれよ一生の願ひだ
これからは侠客の道教(をし)へてやるなどとそろそろ喧嘩の話(はなし)す
盃(さかづき)を片手ににこにこ多田亀(ただかめ)は穴のあくほどわが顔をみる
一寸(ちよつと)気の利いた男よ侠客になればかならず名を挙げるだらう
多田亀(ただかめ)といへば丹波の山中(やまなか)で押しも押されもせない侠客
背はたかく身体(からだ)はふとく力(ちから)強く一寸(ちよつと)見てさへおそろしき男
鬼とでも組みつくやうな侠客も娘の愛におぼれしとみゆ
やがてもう夜(よ)が明けるから穴太(あなを)まで送つてあげよ彼女に父いふ
親と子の縁(えん)を結びの盃(さかづき)を重ねてひよろひよろ雪道かへる
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