二十五六歳の頃
むつかしき養家の親子にわかれてゆそろそろ歌舞の稽古はじめぬ
稗田野の佐伯の糸子を師匠とし毎夜かよひて歌ひ舞ひけり
雨の夜も雪の夕べも通ひつめぬ歌舞のほかにも望みいだきて
長唄や端唄やをどり舞曲ならひお茶屋がよひの基礎つくりたり
舞ひ振りや喉の加減をきかせたさ芸者しらして毎夜さわぎぬ
夜な夜なに遊びくるへど牧畜の業は夢寐にもわすれざりけり
元来は下戸なりし吾やけになり茶屋にかよひて一升の酒呑む
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朝夕に四五里の道をはせめぐり牛乳くばりひと日もかかさず
牧場の乳牛いづれも子を産みて日日に事業は栄えたりけり
三人の組合なれどおもにわれ牧畜搾乳販売なし居り
亀岡と東本梅に同業者ありて競争日日にはげしき
得意先うばはれまじと朝夕に疲れも知らず牛乳くばり行く
夕暮に仕事かたづけ野路越えて歌と舞との稽古に出で行く
春雨や淀の川瀬や鴬宿梅吾がものなどを得意に舞へり
面白き遊芸なりせば知らず識らず手振り足振り上手となり舞ふ
百姓の若者なれど歌や舞曲知らでなるかと毎夜ならへり