王文泰の英名聞きて吾は只異様の神機に打たれたりける
皇軍の勝利を祈願せんものと開祖は冠島に詣でんとせし
何鹿の野は一面の稲の田となりてしとしと雨降りそぼてり
蓑笠をとりよろひつつ御開祖は一行五人舞鶴にむかはす
汽車も無く俥もなければ五里の道草鞋脚絆にいでたちたまへり
われもまた澄子平蔵慶太郎いざなひ開祖にしたがひてゆく
上杉の木下慶太郎宅に寄り祝詞宣りをへ昼飯をなす
御開祖の冠島詣での御供は二人になるまで信者は去りたり
野心家の不断の反対わざはひし信者は一時散りはてにけり
五月雨のふるの山道しづしづと五人は蓑笠つけて辿れり
やうやくに舞鶴町に安着しお多福屋にて夕飯をなす
お多福屋をあとに舞鶴竹屋橋の大丹生屋さして夜を急げり
大丹生屋の主人に舟を雇はせて冠島にわたる事となりたり
折もあれ風吹きすさみ雨しげく舟出ならじと舟夫は断る
御開祖は神の命なり舟出せと雄猛びしつつうべなひ玉はず
この時化に如何でか舟を出し得むと舟夫は此場を逃げんとなしをり
この雨はやがて霽れなん舟出せと宣らす開祖の言葉は強し
晴れざれば途中に舟をかへすべく約束なして真夜を舟出す
岩吉と六蔵二人の舟人は小さき舟に波の上漕ぎ行く
開祖一行小さき舟にうづくまり波にゆられて雨中の海ゆく
湾内の横波松原漕ぎ行けば風やみ雨は霽れそめにけり
白黒岩あとに博奕ケ岬に出てはるかに拝む老人島山
天の川横南北にながれつつ金砂銀砂の星はまたたく
大空の月かげ清み波の間に浮べるさまのすがしき夜半なり
月かげのしづめる上を辷りゆく舟に居ながら天国を偲べり
月も星も海底ふかく沈みつつわが舟照らす大空の月
月と月星と星との中空を神言宣りつつわが舟は行く