(再び大丹生屋舟出当時へ逆上る)
御開祖は蝙蝠傘をかざしつつ雨中の舟に眠らせ給ひぬ
無邪気なる出口澄子は舟の底に心静かにねむりにつきたり
御開祖は眠りたまひつ持たせたる蝙蝠傘を波にさらはる
艫にありし舟夫は目敏く拾ひ上げ蝙蝠傘は舟にかへれり
折もあれ出口澄子は眼を覚まし危ふかりしと驚き声なり
何事のありしと問へば平蔵が海に落ちたるを救はれし夢なり
平蔵氏海に落ちたる一刹那大神傘もちて救ひ玉ひしと語る
御開祖の傘にて正しく平蔵は既往の罪を救はれたるらし
一睡も吾はなしえず海上に神言数歌宣りつづけたり
御開祖と澄子はねむり続けつつわれと四方と木下ねむらず
無邪気なれば千尋の海も荒風も雨も恐れず夢と過ぎゆく
空晴れて風凪ぎ雨止み夜のあけし海上にわれは蘇生の心地せし
洋洋と波のうねりに乗る舟の櫓櫂の音は朝を冴えたり