御開祖は炎暑に怖ぢず一室に籠りて神筆しるし給へり
御開祖の冠島開きに驚きて去りたる信者また帰り来る
春蔵や竹村松原浦上も空とぼけつつ帰り来たれり
紫陽花の花の匂へる井戸端にまたもや蛙の行ははじまる
隣家の白波瀬弥兵衛又しても狂人出来たと声とがらせり
この村に居つてくれるな喧しい夜寝られぬと呟く白波瀬
わが植ゑし葡萄の蔓の伸びたるを黒住教師掘り盗りて行く
黒住の教師太兵衛は村人に人格者よといはれたる人
村中の人格者さへかくの如しとわれはしみじみ世をはかなめり
わが庭の葡萄の苗を堀りてゆくをわれは黙して見て居たりけり
村人は金明会を狂人のあつまるところと見て居たるなり
狂人のお直婆さんがあらび出したと新宮の安藤金助がくやむ
村中に狂人あつかひされながら開祖は雄雄しく道を宣らせり
はるばると京都をたちて雨の宵を野崎宗長詣で来にけり
宗長は金光の役員島原の杉田に仕へし人なりにけり
千家流茶道の宗匠野崎氏は大谷法主に茶を教へたる人
山坂をはるばる越えて宗長は京都の土産と茄子を贈れり
松原自由南部のことに相関し抗議せんとて上り来しなり
野崎氏は京都の出来事まつぶさに悲憤の涙しつつ語れり
ねんごろなわが説明に野崎氏は感激為して入信ちかへり
野崎氏の弟の松井元里氏は令兄のあとを追ひて来れり
松井氏は本願寺家に出仕して名望高き職員なりけり
金明会の教をつぶさに聞き終りただちに入信誓ひたりけり
両人の知識階級きたりしゆ春蔵の顔色蒼くなりたり
野崎氏は本願寺法主の茶の師範依頼の手紙を人に誇れり
金光教会に捨てられ信徒等に嫌はれ浪人となれる野崎氏
松井氏の保証頼みて莫大の借金持てる宗匠なりけり
野崎氏の保証に立ちて松井氏は財産残らず失ひにける