老人島参拝終りし御開祖は離座敷に神筆執らせり
大神は出口開祖の手をとほしふたたび沓島開きを宣らせり
前月は冠島開きし御開祖のふたたび沓島開かすかしこさ
王仁すみ子四方平蔵慶太郎ほかに従者の四人なりけり
御開祖の厳命によりて福島寅之助勇祐竹村福林したがふ
かんかんと夏日の照れる綾の里あとに開祖はたち出で給ふ
一本木綾部大橋味方郷草鞋脚絆にいでたちにけり
汽車もなく車もなければ一行は稲葉のしげる野の道をゆく
淵垣の里にすすめば駐在所に大槻とう子嫁ぎゐたりき
大槻とう子めとりし夫は上谷の道場あらせし巡査なりけり
大槻を妻にめとりしこの巡査面ふくらせて吾を睨めり
この女急ぎ駐在所をいでて開祖の御袖にすがりて泣けり
親と兄の無理難題にやむをえず嫁ぎましたと詑びつつ泣き入る
何事も神に任せと御開祖はいとねんごろに諭したまへり
この巡査血相かへて入り来り何かぶつぶつ声高にいふ
気ちがひに相手になるなと云ひながら開祖は道を急がせ給へり
青青と稲葉そよぎて右左わがゆく野路に蛙さへづる
上杉村字大石の木下が舘の支部に入りてやすらふ
御開祖は記念のためと筆とりて神号幅をしるし給へり
村人はつぎつぎ開祖をたづね来て庭にうちふし手をあはしをり
盲目たる女泣き泣き入り来りわれに祈願をたのみて動かず
神業の途中なれどもあはれなる盲人をみすてかねつつゐたりき
御開祖はあはれみ給ひひそやかに耳に口よせ救へと宣らせり
神前に盲人を端坐させながらわれ大神に祈願こらせり
御神徳忽ちかれにあらはれて薄明りみゆと泣き出したり
御開祖の御顔はつきり拝みたしと彼女は声を放ちて泣きたり
二三日待てよと慰めおきたるにはたして三日目眼はいえにけり
大石の支部を立出で一行九人支部の信者に送られてゆく
上杉や黒谷真倉の里こえて余内村の茶屋にやすらふ
余内の茶屋にずつぽり日は暮れて八日の月は空にかがよふ
陰暦の六月八日の夕べおそく舞鶴町にかけ入りにけり
竹屋町大丹生屋旅館に安着し船をやとひて夕餉をすませり
半円の月は頭上を流れつつ舞鶴町の宵を照らせり
港口の灯は海水にまたたきつ八日の月を浮べて静もる
夜目ながら真樹山高く西空に凜凜しき姿浮ぶる月の夜
一行は心勇みて舟の宿に出舟の時刻待ち佗びにけり