西舞鶴八日の月に照らされて海よりの風静に浴み居り
真夜中に二隻の漁舟をやとひ入れ艪の音しづかにこぎ出でにけり
波の秀にうかべる月のたよたよと輝きわたる舞鶴の海
白黒の岩の磯べを漕ぐ舟の波をあらひて沖に出でゆく
ほのぼのと夜は明けそめて博奕崎のつきたつ巌波にうつらふ
断崖の上にしげれる磯馴松の姿あやしく海鳥とまれり
ことのほか波しづかにて青畳しきたるごとき舟路の旅なり
沓島山冠島のかげにほんのりと見えし瞬間手をうちにけり
折もあれ入り来る汽船の大波にわが乗る舟は木の葉とゆれつつ
東北の風やや強くつぎつぎに波高まりて水夫は苦しむ
荒浪に舟は木の葉とゆれにつつ福島の顔さつと変れり
これ限り驚きにけむ福島は沓島詣でをなさざりにけり
冠島山まなかひ遠くかすみつつあしたの海の風は涼しき
朝津日は若狭の山をおしわけて波間てらしつ静かにのぼらす
海上にはじめてみたる太陽の大なるかげにわれは驚く
いつせいに拍手をうちて神言を宣りつつ進む加佐の海原
冠島山目路近くなりて鯖鳥のさへづる声の耳にあたらし
科戸辺の神よしづまりましませと言霊のれば風とまりけり
ややありて波なぎわたり海上は鏡のごとく穏かになる
竹村と勇祐福林三人は浪におどろき冠島にとどまる
恐ろしき沓島にわれはゆきえずと唇の色かへておどろく
御開祖は冠島神社の庭掃除彼三人に命じられたり