夏ふかき綾部の里の夕暮は月と風のみ便りなりけり
野心家の計略により沓島詣で発起されたり陰暦七月
陰暦の七月八日沓島詣でまたもや協議まとまりにけり
野心家の計略われは知りたれど三度沓島にゆくこととせり
春蔵や上中田中野崎らは沓島をおそれてゆかんとはせず
わが留守に野心とげんと春蔵らひそかに舌を出したりときく
京都市の松井氏はじめ一行は二十一人綾部をたち出づ
稲葉吹く風そよそよとかんばしく何鹿の野は青畳せり
空あをく野べまた青き街道を神歌をうたひ旗たててゆく
やうやくに八日の黄昏舞鶴の大丹生屋まで安着をなす
この度は四隻の舟をやとひ入れ真夜中舞鶴をこぎ出でにけり
ほのぼのと夜は明けそめて一行の舟は博奕ケ崎にかかれり
海神のいかり給ふか風強く浪たかまりて皆舟に酔ふ
一行の顔色蒼く土の如くふるひをののき生気は見えず
激浪怒涛舟を木の葉と翻弄し危険刻刻身に迫りけり
一行の中に交れる野心家はすべての奸計を自白して泣く
よからざることをたくみし神罰と心弱くも泣くがをかしき
宗長の内意をうけし杉浦は一伍一什の奸計をかたる
大神に祈願こむれば風なぎてやうやく冠島の岸に着きたり
一行はふるひをののき沓島にわたらむ勇気更になかりき
二隻づつ舟をからみて顛覆をまぬがれんため帰路につきたり
東北の風に帆をあげ荒浪をこぎてたそがれ舞鶴に入る
陸上は暴風おこり木を倒し家を破りしと人の語らふ
九日の夕べ舞鶴港につけば四方春蔵ほか数名出迎ふ
春蔵はわれをみるより腹いためゆるし給へと合掌して泣く
舞鶴町大橋旅館に一行は一夜を明し帰途につきたり
悪心は決して持たぬと春蔵は泣きつつひたすら詫び入りにけり
七月の十日の夕べ本宮の金明会に安着なしたり
先生はまことの神様神様と一行一度にわれを拝めり
認識の足らぬ信徒に拝まれてわれてれくさく顔をそむけり
神前に無事の下向を感謝しつ信徒めいめい家路にかへる
今回の沓島詣では海あれて生命からがらやうやく帰りし
綾部町老若男女は西町の寺の広場に盆踊りせり
われもまた踊りをみんと町ゆけば珍らしさうにのぞく人人
わが姉の出口龍子は綾部にて踊りの名手とたたへられたり
毎夜毎夜姉の龍子にさそはれて綾部踊りを珍らしくみし