大なる浪つぎつぎに襲ひ来て冠島の磯を洗ひつつ鳴る
御開祖の一行六人沓島沖荒浪わけて進みたりけり
岩高く浪荒くして舟を寄す手だてもあらずしばしためらふ
荒浪に押されて巌に近づきし舟の舳ゆとびあがりけり
釣鐘岩くぼどにわれは佇みて綱をたぐれば舟寄り来る
わが綱に舟はひかれて御開祖はほほゑみながら島にのぼらす
釣鐘の岩の頂きにささやけき祠をすゑて神を斎きぬ
わがもてる綱にすがりて御開祖をはじめ一行汀におりたり
いやはてに綱をしまひて吾もまた釣鐘岩を下りたりけり
からうじて一行六人舟にのり荒浪わたり帰路につきたり
海水をうす紅色にそめながら大鯛の群おそひ来れり
数十万の海鳥声をうちそろへ啼くさま今も耳にのこれり
約二里の荒波わけてやうやくに冠島の磯に舟をつけたり
竹村は腹をいためて神前に顔色あをく倒れゐたりき
竹村はみにくき心あらはれしとわれに詫びつつ合掌なしをり
神前に神言しづかに奏上し祈れば直ちに恢復したりき
この後はあしき心はもつまじと涙ながらに詫び入りにけり
御開祖は老人島神社の大前に声さわやかに祝詞のらせり
王仁すみ子他六人も一せいにつつしみゐやまひ神言をのる
沖をゆく漁師まねきて新らしき鯖をあがなひ神前に捧ぐる
神前のお供物の鯖数尾徹して磯べに塩もて煮たりき
塩水に浸して鯖を煮てくへば意外の珍味に心たらへり
帰り途は波おだやけく順風に麻の帆あげつつ博奕崎に入りけり
港口の横波松原に帰りみれば日は西山に落ち給ひけり
夕暮の風はぴたりととどまりて再び水夫は艪をあやつりぬ
水夫のとる櫂に波紋をゑがきゆく月の流るる内海すがし
大橋のふもとに舟を横へて大丹生屋旅館に入りてやすらふ
綾部より四方春蔵はじめとし四五の信徒出で迎へたり
汽車もなく車さへなき舞鶴の宿に一夜をやすく眠れり