伏見なる信者山本にすすめられ邪教征伐と鳥羽に向へり
京都人の一行ひきつれ鳥羽の里青芝つゆの支部をおとなふ
青芝は敬神教会鳥羽支部の受持教師と名乗る婆婆なり
青芝はわが顔つくづく眺めつつ大蛇のたたりで若死するといふ
倉にすむ大蛇のたたりと青芝はわれにくどくど語りきかせり
わが家は貧乏なれば倉なしと答へば神に背くとて怒る
この問答きくより御牧はのり出して山子婆婆よと声高にそしる
教会に朝夕仕ふる世話がかりごろつき来ると村中ふれゆく
折もあれ十月十日の秋祭あつまる酔ひどれ五六百人
屋外にひしめく人の声高く殺せのばせと呶鳴りゐるなり
急電によりて敬神教会の正田会長はせ来りけり
この男坊主あがりの神道家そのいふ言葉きくにしのびず
わが守る教会あらす曲者と威たけ高なる正田の暴言
群集の雄猛ぶ声におどろきて御牧ら一行正田にしたがふ
御牧等は口をきはめて大本の教の道をののしりにけり
小松林の悪神どもにだまされてむか腹たつと御牧が愚痴る
群集は正田と吾を間違へて棍棒うちふりめつたうちに打つ
御牧等も正田の子分とあやまられ手足をうたれ歯をぬかれたり
咆哮怒号矢叫びの声かしましく右往左往に群集雄猛ぶ
一人の警官来りて教会よりわれを駐在所までつれゆく
駐在所に守られあれば群集は押し寄せ来り玻璃戸を破る
駐在所の急報により伏見署の平服巡査あまた来れり
四五人の警官隊におくられてやうやく伏見の支部に帰れり
伏見支部に帰りてみれば各地より吾に関する電報来れり
神前の花筒倒れ水壺はわれて異状の神示ありとふ
ただごとにあらずと京都の信徒らわれ迎へんと伏見に来る
大本の水壺うなりをたてて割れ神前ばちばち異状の徴あり
足乳根の母は綾部にありながら夢の如くに見給ひて居り
母そはの母は吾身を案じつつ水無月神社に無事を祈れり
水無月の宮に詣でてははそはの母の心は安らぎしといふ