月見草の花は小雲の川の洲に咲き乱れつつ夕風冷えたり
弥仙山尾の上の紅葉あせにつつ夕吹く風にはかなくも散る
紅葉散る弥仙の山の夕暮は淋しきものを開祖はこもれり
凩の吹きのはげしき山路をわれは弥仙の山にわけ入る
御開祖は弥仙の山の深林に朝夕安国の祈願こめたまふ
白髪の開祖のすがたに杣人は村に帰りて猩猩棲むと伝ふ
村人は各自に得物たづさへて狒狒退治とて山にわけ入る
山深き於与岐の村の人人はまだ文明の空気に触れず
中の宮の社をめあてに村人は石を拾ひて投げつけにけり
狒狒がをるうてよ殺せと云ひながら社前に石を投ぐる危さ
神業にいそしみ給ふ御開祖を怪物出でしと村人さわぐも
山ふかき於与岐の村の人たちは開祖の白髪に胆を冷せり
弥仙山中の神社に石投げて騒ぎまはれる村人あはれ
御開祖は窓より首をさし出してさわぐなわれよとなだめ給へり
御開祖の白髪童顔みるよりも村人おどろき山下りゆく
鬱蒼と天を封じてそそりたつ中の社は昼なほくらし
梟の声はおもたく向つ尾の茂樹の枝に啼きそめにけり
秋の夜の月はみ空に皎皎と弥仙の神山をしづかに照らせり
太幹の欅の梢になでられてみ空の月はみえつかくれつ
しんしんと夜は更けわたり猿の声児をせむるごとあたりに響かふ
ひとしきり梢にうなる山颪やしろの窓をたたきて寒し
碁盤格子の窓の破れゆしのび入る深夜の風は身にしみわたる
祭神は彦火火出見の命なり千四百年前に祭れる
吹く風のとぎれとぎれに滝の音手にとる如くきこえ来るなり
吾もまた開祖のそばに侍りつついろいろ神示をかうむりにけり
風あれし秋の一夜は明けそめて向つ山べに小男鹿のなく
暁の空にむらがる鵲は中の神社の棟におり来る
鵲のいつせいになく声声に天の岩戸の開くここちす
しづしづと谷間の霧をおし分けて近寄り来る人のかげあり
御開祖の身を案じつつ上杉の木下亀次郎茣蓙をもて来る
御開祖の寒さおもひて木下は厚き茣蓙をばあみしと語る
御開祖は木下の心を喜びて感謝しながら受けとりたまふ
あたたかき藁茣蓙の上に端坐して朝夕開祖は祈願こらせり
しんしんと夜は更けわたり尾の上吹く風の老樹を揉む音高し
樹の間漏る月の光を力とし深夜に開祖は山路辿らす
弥仙山頂上にたつ金峰神社御前に開祖は神言宣らせり