霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第十章 皇道維新に就て

インフォメーション
題名:第10章 皇道維新に就て 著者:出口王仁三郎
ページ:349
概要:オニペディア「皇道維新と経綸」を参照。 備考:『神霊界』掲載のものと較べて「大正維新」が「皇道維新」に修正されている。他に政治や社会を強烈に罵っている部分が削除されている。 タグ: データ凡例:2022/7/4底本と照合し校正。底本は総ルビだが必要最小限だけルビを付けた。 データ最終更新日:2022-07-08 13:09:22 OBC :B121801c43
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]神霊界 > 大正6年3月1日号(第45号) > 大正維新に就て
   (一)
 皇道大本の根本大目的は、世界大家族制度の実施実行である。(かしこ)くも天下統治の天職を惟神に具有し給ふ、天津日嗣(ひつぎ)天皇の御稜威(みゐづ)に依り(まつ)るのである。先づ我国(わがくに)に其国家家族制度を実施し、以て其好成績を世界万国に示して其(はん)を垂れ、治国安民の経綸(けいりん)を普及して地球を統一し、万世一系の国体の精華と皇基を発揚し、世界各国(みな)其徳を一にするが皇道大本の根本目的であつて、皇道維新、神政復古の方針である。
 先年世界平和会議とかいふものが成立して、未だ幾年ならざるに、東欧半島に争乱が勃発し、()いて世界的大戦乱となり、日に月に数万の生命(せいめい)消殺(せうさつ)し、幾千億の財力を費消しつつ、未だ平和の曙光(しよくわう)を見る事の見当さへ附かないのは、古往(こおう)今来(こんらい)誤謬(ごべう)的国家経綸の根本を、変革せしめ玉ふ天下窮通(きうつう)の神律であつて、要は神聖なる大日本天皇の御稜威と、日本皇道大本の宣揚に()つて、世界を救済し統治し玉ふ天運循環の神力に(ほか)ならぬ次第である。開祖刀自(とじ)の神諭に、「七王(ななわう)八王(やわう)も王があれば世界の苦舌(くぜつ)が絶えぬから、神が表面(おもて)に現はれて戦ひで世を()へして、神の血筋の一つの王で治めるぞよ」云々(うんぬん)とあるを見ても、万世一系の天皇の享有し給ふ世界的(しゆ)()(しん)の三大権を発揮し給ふべき時機の到来せる事は火を()るよりも(あきら)かな事実である。
   (二)
 人生の和楽、世界平和の基礎と成るべき、国家家族制度を実施するに(あた)つて、先づいの一番に、財政経済を根本より革正するを似て古今の弊政(へいせい)革除(かくぢよ)する第一義であると言ふ事は、御筆先に依つて伺ひ()るのである。元来金銀を以て(もと)と為すの国家経済は、物質交換の不便に優る事は万々(ばんばん)なりと(いへど)も古今国家経綸の根本義の不明瞭なりし為に、国家存立の基礎を確固ならしめんとして、其財力の強大ならむを目的と為し、富国強兵以て財政経済界に角逐(かくちく)するを以て国家経綸の本能と為して居るのは、全く一大誤謬(ごべう)であつて、到底平和を招来する事の出来ない無法の経綸であると言はねばならぬのである。人生の根本義も亦古今不明瞭なりしが故に、富貴(ふうき)功名(こうみやう)のみを以て人生の理想と為し、人は神の分霊にして、衣食住の外に、最も高遠なる天職を有する事を知らない。故に只営々(えいえい)矻々(こつこつ)として、猛獣の如く生存競争のみに熱中する結果、(つひ)に今日の如く(ここ)に貴賤の人為的区別が生じて来たのである。金銭の多少に()りて人間に貴賤の区別を附するといふは、全く人間を動物扱ひにした不合理の極である。怜悧(れいり)や弁才を以て登庸(とうよう)せられ、錦衣(きんい)故郷に誇るを以て人生の目的と為すに至つては、実に人生の天職と本義を没却したるものである。
 過去二千年来、世界の国家経綸と人生生活の状態は、下等動物の生活状態と毫差(がうさ)なくして、人生の使命を没却し無視せる憐れ至極なる社会の状勢である。之を要するに金銀(きんぎん)為本(ゐほん)の国家経済が、国家の存立的競争と、人生の不安不平を醸成(じやうせい)する禍因(くわいん)となり()る事は、動かすべからざるものである。古今治乱(ちらん)興廃(こうはい)深因(しんいん)と、現代生活難の醸因は、全く金銀為本の財政経済と、社会経綸の不備欠陥に基因するの証拠は、今や歴然として西欧の大戦乱に因りて明白である。然るに今日に(おい)て、()ほ金銀為本の財政現状を維持せむが為に、姑息(こそく)極まれる財政救済策を施し、ヤレ産業の奨励だの、ヤレ経済救済だの、ヤレ労働保護だのと、一時的の弥縫(びほう)を施さんとする如きは、実に利己主義に心酔(しんすゐ)累惑(るゐわく)して、真の忠君愛国の至誠なき(やから)にして、畏くも神聖なる皇祖皇宗の御遺訓を蔑視し、国運の発展を妨害するものと云ふべきである。
   (三)
 国を(はか)り、世を(すく)ふべき、所謂(いはゆる)経理救済の運用を円滑(ゑんこつ)ならしむべきは、即ち国家経済の本義であつて、利己的欲望を満足せしむるが如きは経済の本義から脱線したものである。天地の経綸根本義と人生の本義を解せないものにして、()うして()く経理救済(その)目的を達し得られやうか。神聖なる皇祖皇宗の御遺訓を奉体せざるものが、何うして能く国家家族制度の経済的経綸を施行(しかう)する事が出来得られやうか。
 アア済世救民の時機は切々に迫り(きた)れり。皇運発展の経綸を進展すべき時機は(すで)に来れり。我国(わがくに)現今の状態を見るに、(そと)は世界を統一経綸すべき方策を知らず、(うち)は国運発展の基本たるべき経綸を知らざるは、実に歎かはしき事である。現代朋党(ほうたう)利害の競争に熱中して、(いたづ)らに野蛮文明国の後塵(こうじん)を拝し、其糟粕(そうはく)()め、()れに伍する事を以て、世界統治の天職を具有せる日本皇国の根本国是と誤解し苦心惨憺せる状態は、(しん)浩歎(こうたん)底本では「浩」ではなく「洪」。の至りに堪えない次第である。
 国運発展の本近く斯に在り、と明治大帝の遺訓し給へる神聖なる祖宗の皇憲は、已に世に顕彰し給ひたり。済世(さいせい)救民(きうみん)の天業は皇道維新の皇謨(くわうぼ)として経綸せらるべきは、大本開祖の神訓に()つて明白なる事実である。今や皇道大維新、神政復古の成就を、世界一般に渇望しつつあること、恰も大旱(たいかん)雲霓(うんげい)を望むが如く必要を感じつつあるのは事実である。
 古事記中巻に曰く
  皇祖(くわうそ)天照大神。(こと)(をしへ)(さとし)(たまひつらく)()
  西方(にしのかたに)有国(くにあり)金銀(こがねしろがねを)為本(はじめて)
  ()()火輝(かがやく)種々(くさぐさの)珍宝(たから)
  多在其国(そのくににさはなるを)吾今(あれいま)帰賜国(そのくにをよせたまはむとのりたまひき)
 皇祖の御遺訓は、明かに現代経綸の根本変革を促し給ふと(いへど)も、古往(こわう)今来(こんらい)黄金万能の弊政(へいせい)を、此上(このうへ)無き最上の経綸策(けいりんさく)として心酔し且つ中毒せる日本臣民が、神聖なる祖宗の御遺訓の大精神を、了得感通せざる聾盲(ろうまう)(やから)のみなるは、実に恐惶(きようくわう)の至りである。
   (四)
 今や天運(ここ)(めぐ)(きた)つて、皇道発展の時代と成れるが故に、神聖なる皇訓を宣揚し、万世一系の天津日嗣(ひつぎ)天皇の神権を発揚し給ふに当つては、必ずや回天回地の大威力を発揚し、一躍して天下統治の皇謨(くわうぼ)を大成し給ふは、国常立(くにとこたちの)大神(おほかみ)の顕現に伴ひ、(まこと)易々(いい)たる(わざ)たるを確信する次第である。されど現代の制度と其政治の方針は、二千有余年(らい)輸入したる世界野蛮劣等国の弊政(へいせい)模倣(もほう)にして、皇祖の御遺訓に示し給へる国体の根本義と、絶対的に矛盾して()るのである。故に国体の精華を発揚すべき神聖なる大日本皇国(くわうこく)を経綸するには、必ず祖宗の御遺訓を奉体して、適材を適所に用ひ、以て皇国天賦の経綸を施行(しかう)せしめて、天賦の天恵を開発するに努力する時は、回天回地の偉業は、天佑と御稜威に()つて(たちま)ち奏功すべきは、開祖の神諭(あきら)かに之を示し玉ふ。
 畏くも皇道維新、神政復古の皇謨(くわうぼ)は、必ず祖宗の遺訓に(のつと)り給ひて大日本皇道を宣揚し、祖宗の御威徳を顕揚し給ふべき御事(おんこと)と、堅く信じ(まつ)るのである。
 (そもそ)も世界の争乱と人生不安の禍因(くわいん)を根絶するには、第一(ちやく)に現代の金銀為本の国家経綸策(けいりんさく)を根本より変革せなければならぬ。
   (五)
 財政経済を根本より変革するには、(これ)(かは)る国家経済制度を具体的に説明すべき筈であるが、以下順次、家族制度の国家経済策、租税制度、天産自給論を説明するに当り、自然に現代的財政経済の不必要なる理由をも了解し()べければ、茲には其重複を(いと)ひて殊更(ことさら)に其説明を省略したのである。
 吾人が国家家族制度を主唱し、財政経済の根本的革正を以て、皇道維新の皇猷(くわういう)の第一義であるといふを誤解して、世に所謂(いはゆる)財産平均論の迷夢を(いだ)き、富の分配を理想とするものの如く、(あるひ)は共産主義とか、社会主義とかの理想より(おこ)りたるが如く、懐疑の念を生ずる人もあるであらうと信ずるが、現代の社会制度を是認(ぜにん)し満足し謳歌する人々が、かく信ずるのは至当でもある。
 神聖なる皇祖皇宗の御遺訓を解し得ず、言霊(げんれい)の妙用を知らず、世界統治の天権を具備せる日本国体の根本義を知らない世界の学者連中の常識を以て判断する時は、最も適当の解釈であろう。(しか)(なが)ら吾人の主張する所は、国常立大神の神諭に基き、一言(いちごん)半句(はんく)も私見を(はさ)まない真正なる皇典古事記の精神を了解して、国体の精華を発揚すべき根本要義を披陳(ひちん)するに過ぎないのである。
 皇道大本の主張を真解し()るものは、神聖なる祖宗の御遺訓と、開祖神諭の大要を体得せる人士のみである。(かか)る神聖なる祖宗の御遺訓と神諭を、未知(みち)半解(はんかい)の人の(あへ)て誤認せざらむ事を希望する次第である。
   (六)
 天産物自給の国家経済に(つい)(すこ)しく述べむに、天産物とは天賦の産物である。自給とは自ら支給し自ら生活する事である。この文字は(すこぶ)る簡単であるけれども、(これ)世界の人類に取つては生活上の大問題であらねばならぬ。皇道経綸の本旨に(おい)ては、(すこぶ)る高遠なる意義の存する事であつて、衣食住の根本革新問題である。
 現今我国(わがくに)の服装に(つい)ても、(はなは)錯雑(さくざつ)なもので、(その)不便と不経済なる事は、(すで)に識者(かん)の問題にも(のぼ)つて()るやうな次第である。()れど世人の論ずる所のものは枝葉(しえふ)の議論にして、未だ天理人道の根本義たる天産物自給の法則に()つて、其根本的解決を考へたものはないのである。吾人が発表する所の根本起源は、即ち祖宗の遺訓し給へる天理人道に因る人生経綸の根本義であつて、天下の公道である。天地自然の経済的本義である。古往(こわう)今来(こんらい)天理人道(いま)だ明かならずして、野生的欲望の窮極するところ、(つひ)に弱肉強食の暴状をも(あへ)(はばか)らざるに至つたのである。(こと)に最も(はなは)だしきは西洋強国の暴状である。彼()は人生の本義を全く知らない。動植物が天賦自然の使命を有する事も知らない。弱肉強食的獣性(じうせい)を発揮して、無暗(むやみ)鳥獣(てうじう)屠殺(とさつ)して其肉に舌鼓(したつづみ)を打ち、其毛羽(もうう)や皮革を服用して文明社会の常事として(がう)も怪しまないのは、野蛮因習の(しか)らしむる所であつて、其残忍酷薄(こくはく)なる習慣は益々増長して、(つひ)には他人の国家を侵蝕し、併呑し、飽食暖衣(だんい)を誇るを以て、世界的文明強国なりと信じて()るのである。仏者の所謂(いはゆる)畜生道、餓鬼道、修羅道は、最も適切な現代の評語であらう。
 今や服装の改良は最も急務中の急務である。古諺(こげん)に「良薬は口に苦く、諌言(かんげん)は耳に逆ふ」と()に最もである。現在世界的文明の服装として、国民が競つて使用せる洋帽に、洋服に、洋傘(やうさん)に、洋靴(やうくわ)の如きは、(じつ)に実に非文明的野蛮を標榜したる獣的蛮装(ばんさう)である。(しか)して其材料として貴重され居るもの程、残忍無道を敢行せる産物である。
 畏くも万世一系の皇運を享有し給ひ、済世(さいせい)安民(あんみん)を以て天職と為し給ふ御国体の根本義としては、これ()の蛮的獣装を禁止する事が、国家経済と人心革正の必要と、(また)天産物自給の法則上に於ける最大急務である。
 唐制(たうせい)遺風の衣冠(いくわん)束帯(そくたい)や、不便極まる衣袂(いけつ)的服装も又不可である。日本国体の精華を発揚し、世界を経綸すべき皇国の天賦を発揮せしむるに相応せる服装を制定せむと欲せば、先づ国体の本義を自覚せねばならぬ。御遺訓に示し給へる世界各国天恵の状態と、其天賦的経綸の本質を闡明(せんめい)せば、実に易々(いい)たる(わざ)である。この神聖なる神州神民の服装は、根本覚醒の(あけぼの)(おい)(たちま)ち発表すべきものである。
   (七)
 人類生活の根本原料なる食料品は、各自(おのおの)天賦的に発生する土地の生産物を以て、需用供給の原則とする事は、世界的通義(つうぎ)である。然るに古来金銀為本的国家経済の流行するに及んで、遂に其本末(ほんまつ)を転倒して怪しまないのは、現代の通弊(つうへい)である。これ全く天理人道の不明に帰するのであるが、天運循環国祖(こくそ)顕現の今日に於ては、根本革正の時機が到来したのである。古今国家の治乱(ちらん)興廃(こうはい)の原因は、必ず、政権及び土地を獲得し、以て衣食住の欲望と虚栄とに満足し、()つ之を(われ)の子孫に享受せしめむとするが為である。要するに食料問題がその最要件なのである。
 人生の根本義は、生活せむが為に世に(うま)()たるもので無い事は、(あへ)て疑ふ()き余地は無いけれ(ども)、其欲望を満たさんが為に、世界の人類が(あひ)競ひ(あひ)争ひつつある事は、疑ひなき事実である。冠履(くわんり)転倒本末矛盾せるは、世界的国家の経綸である。食料問題も()た之に準じて居るのである。即ち(だい)にしては天賦(てんぶ)所生(しよせい)の土地を遊猟場と化せしめ、(あるひ)は工業地と為し、一は以て残忍酷薄なる遊戯に耽溺(たんでき)し、一は以て金銀財力の収穫を目的とするものである。(しか)して野獣的欲望の窮極は、利害(あひ)衝突する所、国家の存亡を()して戦争するに(たち)到つたのである。これ世界の平和を破り、人生の不安を(かも)す原因である。日本皇国の天職は、是を根本より革正して、世界永遠の平和を確実ならしめ、人生の本義を明かにするにあるのである。
 西洋野蛮人種の真似をして、(みだ)りに動物を屠殺して食料に供給するのは、神聖なる皇典に垂示し玉へる天理人道に違反する悪魔の行為である。即ち皇典に示し、開祖の神諭に示させ給ふ所に因れば、動物(ちう)、人生経綸の労力を補助すべき種類のものと、肉体を食用に供すべきものとの、二つの種類があつて、前者は多くは陸上動物である。後者は多く水産動物である。古来屠殺的弱肉強食を為す事を(あへ)(はばか)らなかつたのは、天理と人道の不明なりしに起因したのである。第一に食料の根本問題から解決せなければ、世界の平和を期する事も、救世安民の経綸を実現する事も出来ないのであるが、一度神聖なる祖宗(そそう)の御遺訓と神訓を拝すれば、(たちま)ち解決が付くのである。
   (八)
 輪換(りんくわん)の美を極め、宏壮(くわうさう)雄大を極めた邸宅を有するもので、永久に子孫の繁栄を極めたものは無い。所謂(いはゆる)三代長者無しの(ことわざ)は、古今歴史の証明する所である。()れ人生の本義を無視し、天理に矛盾して()るからである。由来(ゆらい)野獣的標準たる富貴(ふうき)や功名は、(たちま)大厦(たいか)高楼に起臥するを以て、その附帯的条件たるの(くわん)あらしむるは畢竟(ひつきやう)国家経綸の本義に違反したる金銀為本的財政経綸の弊風(へいふう)的結果である。宏大なる邸宅は、土毛(どまう)を妨害し、珍奇(ちんき)贅沢なる結構は、以て亡国の素因を醸成(ぢやうせい)するものである。これ(みな)天産自給の天則に違反するのみならず、国家経済の原則に矛盾するものである。次に国民住宅の根本義は
  各人(その)家族の多寡(たくわ)に応じて造る事
  気候風土に適す()き事
  其職務に適すべき事
 天産自給に於ける国民住宅の根本義は、全国民一人(いちにん)徒食(としよく)遊民(いうみん)の絶無なるを以て基礎となすべきものである。()れ即ち国家的大家族制度の実現せらるべき所以(ゆゑん)である。統一的国民の住宅は、天産自給の国家経済を充実円満ならしむるのが大主眼である。
   (九)
 (わが)皇国は世界の中心であつて、大倭(おほやまと)豊秋津(とよあきつ)根別(ねわけ)の国と()つて、天恵の宝庫は随所に存在して居るのであるが、現代の科学や文明では、未だ以て完全の域に達して居ないのである。如何(いかん)となれば、現代の科学者には、宇宙に充実存在する所の大宝庫の無尽蔵を、開発する事に着手する能力が、絶無なのである。この天産を開発して、天恵(てんけい)無尽(むじん)利沢(りたく)を人生に均霑(きんてん)せしむる事は、日本国民の天職的責任である。(けだ)し天理を知らず、宇宙の組織を了知(れうち)せざる西洋の科学者(りう)や、西洋(にせ)文明に心酔(しんすゐ)誑惑(きやうわく)せる日本学者(はい)の企て及ぶ()からざる事である。祖宗の御遺訓と開祖の神諭には、()くこの宇宙無尽の宝庫を開拓すべき宝鍵(ほうけん)を示し授け給ふのである。日本国民の大責任は、皇国をして(しん)文明の霊域たらしめ、以て祖先の遺風を顕彰する事が現代国民の大任務である。
   (十)
 抑々(そもそも)国体経綸の根本義は、其淵源(えんげん)する(ところ)最も高遠なものであつて、古事記の真義(しんぎ)大精神を奉拝(ほうはい)せないものは、其経綸の真相を窺知(きち)する事は出来ないのである。掛巻(かけまく)も畏き宇宙の統主(とうしゆ)天之御中主神より世界修理経綸の大命(たいめい)(うけ)底本では「享」ではなく「稟」。させ給へる伊邪那岐(いざなぎの)神は、御子(みこ)天照大神に天下統治の大権を授け賜ひ、皇孫(くわうそん)邇々岐(ににぎの)(みこと)は世界経綸の本能を保有する草那芸(くさなぎの)神剣(しんけん)、即ち大日本神国日向(ひうが)高千穂(たかちほの)(みね)に鎮座し給ひ、世界の人文を開発して天下統治の神権を行使すべき時運の到来を待たせ給ひし事、今日に至るまで実に一百八十万年である。実に世界統治の神権は、万世一系天壌(てんぢやう)無窮(むきう)享有(きよういう)し給ふのである。故に世界平和の皇道、治国(ちこく)安民(あんみん)の経綸は、祖宗の御遺訓として万世一系に伝承し給ふ。これ即ち皇典古事記である。皇宗(くわうそう)天武(てんむ)天皇底本では「天武」ではなく「天歩」。が古事記を以て『(これ)(すなはち)邦家(ほうか)()経緯(けいゐ)王化(おうくわ)()鴻基(こうき)(なり)』と()り賜ひし所以(ゆゑん)である。
   (十一)
 租税制度を根本より廃絶せしむ()き理由を略陳(りやくちん)すれば、
 (つつし)(つつし)みて神聖なる皇祖御遺訓皇典古事記に示させ給へる租税制度を、我国(わがくに)()き給ひし由来を尋ぬれば、「皇典古事記」の中巻に、
 御真木(みまき)(いれ)日子(ひこ)印恵(いにえの)(みこと)の段(崇神天皇)
(一)於是。初令貢男弓端之調、女手末之調。フリガナと漢文の返り点は省略した。現代文に訳すと「ここにはじめて男の弓矢で得た獲物や女の手芸の品々を(たてまつ)らしめました」〔武田祐吉・訳『現代語訳古事記』角川文庫〕
(二)故称其御世、謂所知初国之御真木天皇也フリガナと漢文の返り点は省略した。現代文に訳すと「そこでその御世を(たた)えて初めての国をお治めになつたミマキの天皇と申し上げます」〔武田祐吉・訳『現代語訳古事記』角川文庫〕
 以上の御遺訓に因つて、明瞭なる事実を伺ふ事が出来るのである。
 (ここ)に掲げまつる御本文(ほんもん)を、言霊学(げんれいがく)に因りて説明し(まつ)れば、
みまきいれひこ いにえ(のみこと)()ふすは
一、国体の精華を隠伏して、和光同塵の政策を始め給ふと()ふす意義である。
一、(これ)に因りて(この)御代(みよ)八咫(やあた)神鏡(しんきやう)を別殿に祭らせられたのである。
 (かく)の如く、神聖なる皇国経綸の精華を隠伏し賜へる事実は、祖宗より継承し給へる八咫(やあたの)(かがみ)を、豊鋤入(とよすきいり)日売(ひめの)(みこと)に伊勢大神宮として別館に(いつ)き祀らしめ給ひたるに因りて明瞭である。
 畏くも崇神天皇が、和光同塵の政策を施し給ひたる御神慮(しんりよ)は、実に実に高遠甚深(じんしん)なる御理想に由らせられたのである。(そもそ)もこの時代には人文(いま)だ幼稚なりしゆへに、生欲(せいよく)の発達のみ最も隆盛を極め、弱肉強食の蛮風を以て人生自然の常事(じやうじ)となし、所謂(いはゆる)、紀日本書紀の「遂に(ゆふ)(きみ)有り、村に(をさ)あらしめ、各自(おのおの)(きやう)(わか)(あひ)凌轢(れうれき)する」実に生存競争の激烈を極めた世態であつた。
 (しか)るに(おん)国体の天職として、この世界を平和ならしめむとするには、是非とも彼()外人に(あひ)接触して以て其人文(じんぶん)の開発を移入せしめ、其窮極(きうきよく)せる時機に於て根本(こんぽん)より変革し、神聖なる皇国経綸の精華を発揚せしめ給はむとの、宏遠なる御神策に因れる事は、畏くも天皇の御名(みな)の意義に因りて、明かな事実である。
 (しか)(しかうし)て其政策として、第一に世界の人文的大勢に応ずべき用意として、この御代(みよ)から調貢(てうこう)の制を()かせ給ふた。(これ)我国(わがくに)に於ける租税制度の(はじめ)である。要するに和光同塵の政策は、二千年(らい)終始一貫の大偉業であつて、万世一系の(おん)国体なればこそ、遂行し得らるる事柄であつて、屡々(しばしば)革命のある短命的な世界各国君主の、到底企及(ききう)すべからざる事である。
   (十二)
 崇神天皇が御代を初国(はつくに)所知(しらしし)御真木(みまき)天皇(すめらみこと)と称へ(まつ)つた理由は、世界的経綸の端緒(たんしよ)を初め給ひし天皇と()ふす意義である。畏くも歴代の天皇は、この和光同塵の政策を奉体し給ひて、内治外交を経綸し給ふたゆへに、垂仁天皇の(てう)には三宅(みやけ)(むらじ)(とう)の祖なる多遅麻毛理(たぢまもり)をして、常世国(とこよのくに)なる海外諸邦所謂(いはゆる)世界一周底本では「周」ではなく「週」を為さしめ給ひ、(つい)で景行天皇の御宇(ぎよう)には、日本(やまと)(たけるの)(みこと)をして内国経綸を実行せしめ給ひて、専ら外国の来享(らいきやう)を期待し給ふたのである。
 仲哀天皇の経綸的精神は、皇道維新の皇謨(くわうぼ)を垂示し給ふ所にして、拙著「世界の経綸」に其大要を述べてあるから(つい)て見られたい。応神天皇の御宇に百済国(クダラ)より、王仁(わに)博士来朝して論語及び千字文(せんじもん)を献上し、其他衣食の産物を調貢(てうこう)せしめられた。また天之(あまの)日矛(ひほこ)は、国津宝と称する河図洛書の原本を輸入して来たのである。
 然して輸入されたる儒教的の虚礼虚偽の弊風は、忽ち大雀(おほさぜきの)(みこと)宇遅能(うぢの)和紀(わき)郎子(いらつこ)の謙譲的過失を生じて、遂に海人(かいじん)をして歎声(たんせい)を発せしむるに至り、租税の弊は仁徳天皇の御宇に及んで
『於国中烟不発。国皆貧窮。故自今至三年。悉除人民之課役フリガナと漢文の返り点は省略した。現代文に訳すと「国内に烟(けむり)が立つていない。これは国がすべて貧しいからである。それで今から三年の間人民の租税労役をすべて免せ」〔武田祐吉・訳『現代語訳古事記』角川文庫〕
との聖勅を渙発(くわんぱつ)底本では「渙」ではなく「煥」し給ふの止む無きに(たち)到つたのである。(かく)の如く国家窮乏の時代に於ては、世界の人心は既に人生悲観の情を起して、(さかん)に宗教的信仰を以て個人的安心立命を求めむとするものが、漸次(ぜんじ)続出したのである。故に和光同塵の吸集力は、忽ち欽明天皇の御宇に至り仏教を輸入するに至つた。
 以来(わが)歴代の天皇が和光同塵の政策を承継(うけつが)されて、治乱興廃の波浪を凌ぎ、艱難を甞め隠忍し給ふた事は、歴史の証明する所であつて、誠に万世一系の天職を遂行し給ふ過渡期とは(もふ)し乍ら、実に実に恐懼(きようく)至極の次第である。
   (十三)
 昭和の今日にては、古往(こわう)今来(こんらい)の国家経綸的足跡を追究して利害得失を論議すべき時代ではない。(すで)(すで)底本では「已」ではなく「業」明治維新の皇献(くわうけん)の目的も達したのである。この故に明治天皇は戊申(ぼしん)詔書に遺訓し給ひて
 抑々(そもそも)()カ神聖ナル祖宗ノ遺訓ト我カ光輝アル国史ノ成跡(せいせき)トハ(へい)トシテ日星(につせい)ノ如シ
 (ここ)ニ克ク恪守(かくしゆ)淬励(さいれい)ノ誠ヲ()サハ国運発展ノ(もと)近ク(ここ)ニ在リ
 (ちん)方今(ほうこん)世局(せいきよく)ニ処シ(わが)忠良ナル臣民ノ協翼ニ倚籍(きせき)シテ維新ノ皇献(くわうけん)恢弘(くわいふく)祖宗(そそう)ノ威徳ヲ対揚(たいやう)セムコトヲ庶幾(こいねが)底本に引用されている戊申詔書は文字がかなり間違っているが、底本通りとした。
 (なんぢ)臣民()()(ちん)(むね)(たい)セヨ
と、国運発展の基本を垂示し給ふたる事に因つて、皇輝発揚の(もと)が、皇祖皇宗の御遺訓に存し給ふ事は明瞭なる事実である。
 皇道維新の要点は、租税制度の廃絶である。元来この制度の(おん)国体の経綸的本義で無い事は、御遺訓の明白に的確に証明し給ふところである。租税徴収は実に蛮制の遺風であつて、又金銀為本を以て富国(ふこく)の要目と為し、生存競争を似て最終の目的と為す大個人主義制度である。(しか)るに皇国の経綸制度なるものは、実に世界万民の幸福を目的とし給へる国家和楽の国家家族制度である。故に昭和の御代は、古今の汚らはしき租税徴収の悪制を根本より廃絶する事が、神聖なる大日本天皇の御天職に(いま)します所の、済世(さいせい)安民(あんみん)の経綸を始めさせ給ふ第一歩たるべきものである。
   (十四)
 古事記に曰ふ、
 其大国主(おほくにぬし)(かみ)(世界各国の君主)に問ふ、(なれ)の子()事代主(ことしろぬしの)神(国の天賦を発揚する事)建御名方(たけみなかたの)神(人の天性発揮)二神は、天神(てんしん)御子(みこ)(めい)(まにま)底本ではフリガナが「まにま」ではなく「ずゐ」。次2ヶ所も同じ。(たが)はじと(まう)しぬ。(なれ)の心奈何(いかに)ぞ。(ここ)(ことへ)(まうす)(あが)()()、二神の(まう)せる(まにま)(あれ)も違はじ、(この)葦原中国(なかくに)(みこと)(まにま)に既に(たてまつ)る也。(ただ)(あれ)住所(すみか)をば、天神(てんしん)御子(みこ)の天津日嗣(ひつぎ)()ろしめす登陀流(とだる)天之(あまの)御巣(みす)の如くして、底津石根(いはね)宮柱(みやばしら)布斗斯理(ふとしり)高天原(たかあまはら)氷木(ひぎ)多迦(たか)斯理而(しりて)(をさ)め賜はば、()(もも)(たら)八十(やそ)隈手(くまで)に隠れて(はべら)ふ。(また)僕子(あこ)()百八十神(ももやそかみ)は、即ち八重(やえ)事代主神、神の御尾前(おびまへ)()りて仕へ奉らば、違ふ神は非ざる也。()の如く(まう)して(すなは)(かくり)(ましき)
 以上の御垂示は、大本開祖の神諭と比べて、一毫の差なきを感知せざるを得ない。大国主神即ち世界的各国の君主が、国家経綸の根本基礎を確立し、国家生存の本義を宣揚して、治国安民の経綸を定むる根本憲章を、天下統治の天職を具備し給ふ大日本天津日嗣(ひつぎ)天皇より奉戴して、永遠の平和を保全する事を教へ覚し給へる()神文(しんもん)である。
   (十五)
 開祖の神諭に曰く、「今迄の世は何も彼も全然(さつばり)暗黒(くらがり)の世、さかさまの世、大の字さかさまのむちやくちやの世で()りたぞよ。神が表に現れて、世を立替へて元の昔にかえすぞよ。この極悪の世のやりかたつよいものがちの世の政事(せいじ)を、根本から立直す世が参りたぞよ。大の字を(ほん)さまへかえして、世界の人民を安心させるぞよ」云々(うんぬん)と、本末(ほんまつ)底本ではフリガナが「まつ」ではなく「らい」、主客転倒せる日本国、対世界各国の関係的現象を描写して余蘊(ようん)無しである。(そもそ)も天下統治の天職を帯び給へる万世一系の天皇を奉戴せる日本臣民は、即ち世界経綸統治の分担的責任を、先天的に享有して()るのである。故に畏くも明治天皇は戊申(ぼしん)の年に(あた)つて御詔書を降下()らせられた。
 畏くも明治天皇は、明治維新の皇献(くわうけん)を大成し給ひ、(まさ)(きた)()き皇輝発揚の時機を洞察あらせられて、神聖なる国運発展の基本は、唯一無二なる祖宗の御遺訓に基因する事を臣民に警告し賜へるが、即ち戊申の詔書の御精神なる事は実に明白にして、一点疑義の存すべき余地は無いのである。
 嗚呼(ああ)違勘(ゐかん)的経綸違勘とは勅命とは違うこと。を遂行せむとする現代の臣民は、神聖なる祖宗の御遺訓を奉体するもの無き故に、皇道維新の根本国是を確立する事が出来ない。依然として西洋諸国の(あやま)れる経綸を模倣するに汲々(きうきう)たる愚昧者(ぐまいしや)のみである。
 現代の臣民は、祖宗の御威徳(みゐづ)を宣揚し得ず、祖先の遺風を顕彰せず、口を開けば忠君愛国、敬神尊王、博愛慈善、教育勅語の御精神が何うだと殊勝らしく吹き立て、只々(ただ)自己保護の道具に使ひ乍ら、面従(めんじゆう)腹背(ふくはい)累惑(るいわく)腐敗の極に達して()るもの而已(のみ)で、実に国家は危機一髪に迫つて来たのである。アア忠良なる臣民の猛然自省し、以て皇典古事記と開祖の神諭を研究し、(おん)国体の本義を自覚し、以て、国運発展の基本を確立すべき時機なる事を、感得されたきことを至嘱(しそく)するのである。
   (十六)
 国運発展の本は、国家家族制度に基因する。之を固持する時は必ず栄え、これに違反する時は必ず亡ぶのである。皇典垂示の国家家族制度の経綸は、実に国運発展の基本にして、世界万国(これ)を仰ぎて(また)(とも)(しん)文明の恵沢(けいたく)に浴し、世界生民(せいみん)の福利を弘通(こうつう)するに至るのである。現代我国(わがくに)の経綸は、全然欧米模倣の制度である。現在の世界的大戦争は、彼()半獣人種に経済的根本革命の斧鉞(ふえつ)を加へ給へる(わが)皇祖稜威(みいづ)の顕現であることは、開祖の二十五ケ年間の御筆先に因つて証明する事が出来るのである。
 国家家族制度の実施に先だちて、吾人は非常の犠牲的覚悟を為さねば()らない。その動産と不動産とを問はず、一切之を至尊(しそん)に奉還すること、明治の初年に諸大名の競ふて藩籍領地を奉還せし時と、同様の覚悟を(なさ)なければならない。元来総ての財産は、上御一人(かみごいちにん)御物(おんもの)である事は、これ祖宗の御遺訓と、開祖帰神の神諭に炳々(へいへい)として垂示し給ふ所である。
 古往(こわう)今来(こんらい)、世は治乱興廃を反覆(はんぷく)して極まりなき所以(ゆゑん)は、人文(じんぶん)蒙昧(もうまい)にして、弱肉強食を以て人生の本能と誤信し、遂に経済的専有割拠の(ばん)制度を定め、以て国家の経綸は租税制度を以て唯一の政治的基礎と信じたるが故である。又現代に行はれつつある政治、教育、宗教などは、古来天地造化の本源不明にして、人生の根本義に暗かつたために、国家社会の平和を保全するの能力を欠いて居るのである。
 神聖なる皇祖の御遺訓は、天下統治の大憲法を皇孫に垂示あらせられ、世界大家族制度を実現して、永遠無窮の平和を確保すべき天職を、大日本皇国の双肩に(にな)はしめられたのである。この皇国本来の天職を実現すべき要素は、世界各国の天賦的国家経綸を、国家家族制度の経済組織たらしめたる結果に(おい)て、初めて成就的階梯(かいてい)に達し()るのである。
 (しか)れば(わが)皇国臣民たるもの、この空前絶後の好機なる昭和維新に際して、皇祖の聖訓を奉体し、開祖の神諭を恪守(かくしゆ)して、祖先の遺風を顕彰すべく、犠牲的精神を発揮して挙国一致大化新政の制度にはかり底本では「はかり」ではなく「(はか)り」。「測り」の誤りか?、世界の絶対的主師親の三大天権(てんけん)を享有し給ふ万世一系の天皇の皇土たらしめ、以て国家財産の統一整理を敢行し、神聖なる祖宗の御遺訓を実践躬行(きうかう)し、先帝の遺詔(ゐせう)に奉答すべき献身的覚悟を持たねばならぬのである。
 (そもそ)も人生の根本義は、生活せんが為のみに(うま)(きた)りしものではない。人は天地経綸の司宰者として神の使命を()けて生れ(いで)たもので、国土を経営せむが為に、人類に限つて経綸所用の二本の手と、独立歩行し()る二本の足と、加ふるに国土経綸に必要なる天賦的共通の言語とを具有せしめ、以て意志疏通(そつう)の天恵恩頼(おんらい)を賦与されて居るのである。()れ御神慮に(ほか)ならないのである
   (十七)
 皇祖御遺訓に因る経済的家族制度の大要を()に掲載して、(いささ)か参考に供したいと思ふ。
   国家経綸の大本
(一)大国主神の本義は
世界各国の君主は、天下統治の天権と(しゆ)()(しん)の三徳を享有し給ふ日本国天皇に、()く忠を尽し、(また)各自の祖先に対して克く孝を尽すべき事である。
(二)大穴牟遅神(業)の本義は
世界生民(せいみん)は、子孫其(げふ)を司り、各自の天職を発揮する事である。
(三)葦原色許男神(教育)の本義は
国家経綸的天賦の天恵を開発すべき教育を施す事である。
(四)八千矛神(国家経済)の本義は
全国民は国家の経済的経綸を分掌して、国土の修理経営を分担すべき事である。
(五)宇都志国玉神(宗教)の本義は
精神教育は、人生の本義に()り、生死往来する天地経綸の大道を(あきらか)ならしむる事である。
以上の五柱の神名は、世界的国家経綸の憲章である。神律である。
   (十八)
  とこしへに(たみ)安かれと祈るかな
    (わが)世を守れ伊勢の大神
 明治天皇の御製(ぎよせい)は、畏くも万世一系の大御心(おほみこころ)である。(この)(ゆゑ)に治国安民の大業(たいげふ)は、神聖なる皇訓に依因(えいん)しなければ断じて不可能である。()の世界的大戦乱の由来する所に(ちよう)し、将又(はたまた)国民大多数の生活的困苦の状態を目撃する時は、一日(いちじつ)片時も猶予する事を許さないのは経済制度の根本革新であつて、この革新こそは、(おん)国体の精華を発揚し(まつ)る第一機関となるのである。
 日本の国民(ちう)には、畏くも皇祖御遺訓の存在を信じない(やから)があつて、吾人が絶叫する(おん)国体の根本義を無視するのみならず、(かへつ)て半狂人と罵り、自惚心(うぬぼれしん)の強き奴と(けな)底本ではフリガナは「けな」ではなく「おと」。、中には誇大妄想狂と断じ、(あるひ)は迷信者と冷評するの(やから)さへあるのである。()()ふ連中は、所謂(いはゆる)上流社会及び学者階級に最も多い。(こと)に皇室の藩屏(はんぺい)たる爵位を有する輩に此()のあるは、実に憤慨に堪えないところである。彼等は族籍と肉体とは日本人であるが、其精神なるものは外国魂性(こんせい)から出て居るのは勿論である。要するに種々(しゆじゆ)原因はあれども、金銀為本的生存競争に成功したものか、又は東西学術の捕虜(とりこ)と成つた俗輩(ぞくはい)で、神州の神民たるべき天性を根本より累惑(るいわく)忘失せるに因るものである。
 累惑宗の某教育家福沢諭吉のこと。は曰く『帝室は政治以外の物なり、帝室は学芸等の奨励を以て任ずべし、曰く名誉の代表なり』と、彼は政争の(るゐ)を皇室に及ぼさむ事を(おもんぱか)りて説を為したる事は勿論であるが、又一面より観る時は、其神聖なる祖宗の御遺訓と、(おん)国体の根本義を解し得ないのに原因して居るのであらう。皇運発展的時代の推移は、戊申詔書に明確に其遵守(じゆんしゆ)淬励(さいれい)の誠を(つく)すべき事を強調し給ふ。然るに何ぞや、現日本臣民(ちう)(こと)に世俗より敬意を表せらるべき(やから)にして、神聖なる祖宗の御遺訓を無視し、御国体の根本義を無視して、違勘(ゐかん)的暴言を流布する者あるに至つては、実に獅子(しし)身中(しんちう)の虫よりも()ほ憎むべき鼠輩(そはい)である。
   (十九)
 現代人生生活の状態を目撃する時は、実に神聖なる祖宗の御遺訓に悖戻(はいれい)して居る事は、最も(あきら)かな事実である。安逸(あんいつ)飽食して巨万の財を収め、()つ之を増殖して、益々(ますます)蛮的欲望を(たくまし)ふする。一方には僅々(きんきん)少額の資財を得むとして得られず、艱苦辛労(しんらう)(せい)(をは)るに至るものもあり、他方には日夜孜々(しし)として勤労し、(なほ)妻子を養ふに困難せるものもある。貧富の懸隔(けんかく)激甚(げきじん)なる事()の如く、其(さま)の惨然たる(かく)の如きは何故ぞ。全くこれ人生悖理(はいり)(じやう)より湧起(ゆうき)せる、国家経済矛盾の因果的現象と()はねばならぬ。然るに古今東西の学者や為政者(はい)は、之を以て人生不可離(ふかり)の必然的結果なるが如く信じたるは、即ち人文(じんもん)未開の証拠である。
 天運循環、(ここ)世運(せうん)の進展は国祖国常立尊の世界の中心に顕現せられて、開祖の手を通じ(げん)を通じて、神聖なる皇祖の御遺訓を顕彰し給ひ、済世(さいせい)安民(あんみん)鴻業(かうげふ)を大日本皇国に因つて大成せしめ給ふ千載一遇の時機と成つたのである。現代世界の惨状を根本から消滅せしめ、松の世、神国の世に復古せしむる、天地神明の大経綸を、経済的国家家族制度と為すは、畏くも皇祖の御遺訓と、開祖の神諭に垂示し給へる人本主義的社会経済の根本要義底本では「本」が脱けている。と為すのである。
   (二十)
 次に世界大家族制度の根本義に(つい)て述べる。日本天皇は、先天的に世界の大元首に()しまして、世界の国土及び財産の所有権を有し給ひ、国土財産の行使権及び人類の統治権を絶対に享有し給ふが故に、大日本国に天壌無窮の皇統を垂れ玉ひ、神聖なる皇祖御遺詔(ごゐせう)宏謨(くわうぼ)(したが)ひ、皇国に於て統治の洪範(こうはん)を経綸し、治国安民の政体を世界に宣揚し、以て(はん)を天下に垂れ、世界を総攬(そうらん)統治し給ふ御事(おんこと)の由来は、皇典古事記に垂示し給へる天理の大憲章である。
 (しか)れば今後の経済的社会の制度においては、絶対的に土地や財産の私有を許さざる事。国民の一般的男女の職業を制定する事。産業は国家経綸の目的に因つて国民共同的に従事する事。産業的国民の収入は全部挙げて国庫の収入たるべき事。貿易は国家事業として国際的に(おこな)はるべき事。国民の生活に関する一切の物資は、経済者(商人)によりて円満に供給せらるる事。国民住宅の全部は職業家族及び家庭に応じ、幸福の実現を目的とし供給せらるべき事。全国の交通機関は、必要に応じ全国民無料にて使用(あるひ)は乗用に供せらるべき事、以上は神聖なる皇祖御遺訓の大精神に因る、国民的経済に関する国家経綸の大要である。
 現代の議員制度に於ても、根本的改良を必要とし、第一神政後の議会は面目を一新して神聖なる神廷(しんてい)会議となすのである。(しか)して貨幣制度、租税制度を根本廃絶すべき事は、前既(ぜんがい)に述べた通りである。
 古今の弊政(へいせい)を根本変革して、神聖なる祖宗御遺訓を奉体し、以て国民発展の基本を確立し、皇運を扶翼し奉るの最大要件は、日本臣民の挙国一致的犠牲の精神に因つて一切の私有財産を上御一人(かみごいちにん)に奉還する事である。然し時機は既に既に到来して居るので()るから、案外に易々(やすやす)たるべき(げふ)たる事を確信する。()く論ずる時は、社会の智者学者(はい)又は其(すじ)の人々より、色眼鏡を掛けて見らるる時は、社会主義者共産主義者と誤解さるる事も在らうと思ふが、日本建国の精神である以上は、如何(いかん)ともする事は出来ない。()れが何と言つても、皇運発展の為に現代世界的国家の経綸を根本変革して、祖先の遺風を顕彰すべき現代日本臣民が焦眉(せうび)の急務なのである。
 明治二年正月廿三日、毛利、島津、鍋島、山内の諸侯が上表(じやうへう)して、土地人民を奉還せむ事を乞ひ(たてまつ)つた時の奏上文を見れば、実に皇道維新の見当が付いて来るのである。
 (しん)(それがし)()頓首(とんしゆ)百拝。謹而(つつしみて)案ズルニ。朝廷一日モ失フ(べか)ラザル者ハ大体ナリ。天祖(はじめ)テ国ヲ開キ基ヲ(たて)玉ヒシヨリ。皇統一系万世無窮(むきう)普天(ふてん)率土(そつど)(いう)ニアラザルハナク。其(しん)ニ非ザルハ無シ。(これ)大体トス。(かつ)(あた)(かつ)奪ヒ。爵禄(しやくろく)以テ(これ)ヲ維持シ。尺土(しやくど)()ニ有スルコト(あた)ハズ。一民モ(わたくし)(やぶら)ムコト(あた)ハズ。(これ)大権(だいけん)トス。在昔(ざいせき)朝廷海内(かいない)統馭(とうぎよ)スル一ニ(これ)ニアリ。聖躬(せいきう)之ヲ親ラス。故ニ名実(ならび)立テ。天下無事(ぶじ)ナリ。(以下略)
 時代の推移は、(いよいよ)(ここ)に皇道維新、神政復古の機運を醸成(じやうせい)し、大国主(おほくにぬし)(かみ)なる世界的国土奉還の()むを得ざる時運に達したのである。(しか)して其第一着手としては、日本臣民の私有財産全部の奉還に始まるのである。 (大正六、三、号 神霊界)
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