霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
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オツルさん
インフォメーション
題名:
オツルさん
著者:
出口澄子
ページ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c42
001
京都で私に附いた担当は一人は厳しい人でしたが、
002
一人は優しい人が居りました。
003
優しい女の人で初めから私に好意をよせてくれ、
004
005
「わしはあんたが懐かしくて、
006
懐かしくて仕様がありません。
007
こういう気持ちを担当の私が、
008
今あなたに抱いてはいけないことですが、
009
私はおさえようとしてもおさえ切れないのです。
010
私はあなたのそばに来ると、
011
何かあなたにしてさし上げたいという心がこみ上げてきます。
012
しかしこれは担当の私には許されていないことです。
013
それでも私は、
014
あなたに何かしらぬ懐かしい慕わしい気持ちがわくので、
015
止
(
と
)
めることが出来ず苦しみます」ということを打明けてくれました。
016
もっとも、
017
こんな長い言葉が伝えられる迄には、
018
かなりの
日数
(
にっすう
)
がかかっているのであります。
019
それは、
020
もう一人の担当の人の手前、
021
そう永く、
022
私と話はでき
難
(
にく
)
いからであります。
023
ある時、
024
025
「あなたは何がお好きですか」と小さな声がしました。
026
「私は何んでも好きですが、
027
しいて好きなものをあげたら、
028
巻
(
まき
)
ずしが好きです」と答えると、
029
次の日、
030
巻ずしを
買
(
こ
)
うてきて、
031
そっと入れてくれました。
032
これはこの優しい担当の人が自分のほう
給
(
きゅう
)
の中から
割
(
さ
)
いて、
033
私のためにしてくれたのです。
034
もちろん、
035
この人はこれ迄なんのゆかりもない人で、
036
私の家の教えの信者でもなんでもありません。
037
ある時は黒砂糖を入れてくれました。
038
また或る時、
039
窓口から火の
点
(
つ
)
いたタバコをさし出して、
040
私を喜ばしてくれたことがありました。
041
その時、
042
私は一ペんタバコがのんでみとうてしようがない時で、
043
どれだけうれしかったか知れません、
044
その時、
045
046
「一時間ほど人が来ませんさかい、
047
今のうちに
喫
(
す
)
うて下さい」というてくれました。
048
未決では、
049
百万円だしても、
050
タバコは
喫
(
す
)
えんというところですから、
051
有難いことじゃと神様にお礼をしました。
052
その時、
053
タバコを
喫
(
す
)
いながら、
054
こんなことを考えました。
055
──これは、
056
神様が、
057
この事件はどうなるだろうと心配している私に謎で教えて下さったのだ。
058
この事件は煙になって消えてしまうということに違いない。
059
こんなところに入ることのないものが入ったのやから、
060
これは煙りになるということを神様がいうて下さったのである。
061
──
062
そう思いながら、
063
私はタバコを
喫
(
す
)
うていました。
064
この時のタバコほど、
065
美味
(
おい
)
しい嬉しい味というものはあるものではありません。
066
タバコは
喫
(
す
)
えば減る、
067
喫
(
す
)
わずと置いておいても減ってゆく、
068
喫
(
の
)
んでも惜しい、
069
喫
(
の
)
まずとも惜しいで、
070
一本のタバコを心ゆくまで楽しみました。
071
タバコをくゆらしていると紫色の煙の中から、
072
綾部のこと、
073
本宮山
(
ほんぐうやま
)
のこと、
074
穹天閣
(
きゅうてんかく
)
のことが思い出されて来ました。
075
綾部に
居
(
い
)
るころ、
076
晩
(
ばん
)
げになると、
077
ちょっと畳の上に横になって、
078
庭の夏草や木の茂みを見て、
079
タバコをのんでいたその時のそのままの気持ちが甦ってきて、
080
懐かしゅうて、
081
それは嬉しゅうて、
082
よい気持ちになっていました。
083
その担当の人はオツルさんという人でしたが、
084
ある時
宮津
(
みやづ
)
に
女囚人
(
おんなしゅうじん
)
を護送していった帰り、
085
その当時で五円の手当をもろうたからと、
086
他の担当仲間にもふるまい、
087
私には好物のうどんをそっと入れてくれました。
088
優しい担当のオツルさんが、
089
突然、
090
091
「九十八番さん(私の監房での番号)。
092
私、
093
近いうちに辞職することになりました」と言うてきました。
094
私は
良
(
よ
)
い担当さんであったので、
095
096
「何で辞職するの……」ときくと、
097
098
「私大分と規則を破りましたので、
099
もう来られませんわ」とうつむかれました。
100
私は、
101
102
「何して規則を破ったの」と聞きましたが、
103
それには答えず、
104
105
「私はいま
退
(
ひ
)
いても、
106
恩給がもらえますし……」といって、
107
それきり
退
(
ひ
)
いてしまわれました。
108
不思議なことにその担当のお父さんは京都の
山科
(
やましな
)
刑務所で同じ担当の部長をしていて、
109
その人が先生の担当をさせられ、
110
先生によくしてくれたそうです。
111
正直者のオツルさんは、
112
私に親切にしたことを規則破りをしたと気に
病
(
や
)
んで、
113
さりとて勤めて居れば私にしてやりたいしと、
114
とうとう辞めてしまわれました。
115
ある日、
116
担当の部長が私に、
117
118
「ちょっと来てくれ」というので行ったら、
119
120
「ちょっと、
121
尋ねるが、
122
お前は××から物をもらったか」ときくので、
123
124
「オツルさんですか、
125
もらいました」
126
「何回もらった」
127
「何回か忘れましたが、
128
砂糖やら、
129
いろいろもらいました、
130
わたしは要らんといいましたが、
131
くれるというので貰いました」
132
「それは女どうしだから当たり前やが」
133
「それでオツルさんは辞めさせられるのですか」
134
「辞めさせられるのとは違うて、
135
宮津
(
みやづ
)
の方へ転勤になることになった。
136
根性の悪い担当がいて、
137
その人に告げ口されたのでな」と話してくれましたが、
138
オツルさんは宮津の転勤を断わって、
139
やはり初めにいっていたように家庭の人となったということです。
140
私はオツルさんにも一ペん会うて、
141
よく礼をいうてみたいと思っています。
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