男子われ働く時はいまなりと綾部ぬけ出で園部に道とく
小麦山城址の桜は真盛りに春を匂ひて風のすがしき
春の夜の朧の月をあびながら桜の林に友とわけ入る
夜桜の林に月のかがよへるみつつのどけき春の夜たのしむ
天神山一木桜の太幹に苔むしにつつ花さかりなり
天満宮神職武部氏に招かれて春半日の清遊をなす
父といふ名を得しわれは落ちつきて眺むる月も桜もすがし
奥村雑貨店
奥村は商売繁昌いのりつつ伊勢神宮と稲荷をまつれり
大本の神をまつれとすすむれど頑固親爺は容易にきかず
蓄財の趣味より知らぬ奥村は神の道には耳かたむけず
わがをれば商売繁昌なすといひて他出するさへこばまむとせり
つぎつぎに吾を訪ひ来る人の足しげかり奥村の店はさかゆる
奥村の離座敷に吾あれば雑貨商売よくはやるなり
奥村の小さき裏の箱庭に老松一本月を宿せり
箱庭に小夜をたちいで月みれば家にかこまれ空せまみかも
折をりは内藤方をたづねゆきて奥村を嫌ふ人に道とく