水清き坊主ケ淵の岩の上に魚つる人のかげ静かなり
南桑の野を吹きわたる初夏の風に坊主ケ淵はさざ波うてり
山道を辿りたどりて保津の里産土神社の杜にいこへり
産土の宮の砂庭にうづくまり下阪の吉凶うらなひにけり
神霊は吾にたちまち感応し一月待てと神示給へり
矢田神社
やむを得ず保津の渡しをのりこえて矢田の神社の鳥居くぐれり
新緑のかをり清しき花明岡の矢田の神社に時鳥なく
矢田神社の庭に匂へる丹躑躅の花むらむらとわが足とどむる
白糸の滝
清流にしたがひわれは山奥の矢田白糸の滝に近づく
白糸の滝にうたるる女ありよくよくみれば上島みつなり
上島は太元教会教師にて稲荷下しを営業とせり
滝のべに近より両手を組みあはせ錬魂すればとびあがりけり
滝壷をとびあがりたる上島は衣服かかへて逃げ出しにけり
女行者の呪言
逃げ出だすはずみに石につまづきて倒れたるまま谷川に落つ
喜楽奴が神に反対なしたれば神罰あてよと大声に祈る
上『神様の命令の修行の邪魔をする喜楽は鬼よ悪魔よ餓饑よ』
いろいろと弁解すれど彼の女左右に首ふりわが言きかず
上『十日目の修行のをはりをさまたげし喜楽の鬼をたひらげ給へ』
谷川にうづくまりつつ上島はのろひの言葉もの凄く宣る
和みし心
この場合退くにのかれぬ羽目となりわれ渓川に下りたちにけり
いろいろとなだめつすかしつ谷川ゆ女の手をひき道に出でたり
やうやくに女の心和みしかほほ笑みながら言とひはじめぬ
喜楽さん何処でどうしてこのやうな神徳うけしと不思議な顔する
いろいろとありし事ども物語りやうやく彼女は納得をなす
ともかくもわが教会に来りませと吾を導き帰途につきたり