第三次世界大戦を未然に防止し、地上永遠の平和を来さんとする運動の内、スイスのゼネバに本部を置く(最近パリーへ移る)世界連邦運動は、具体的方法論を持つ意味において、最も重視すべき運動といわねばならぬ。
さて過去において世界国家の構造を画いた先覚者は少くない。その中でもカントの永久平和論(一七九五)や、ウエルズの世界国家論等は著名である。これらのものは単なる理想論として葬られ、実際運動とはならなかった。客観的社会状勢が、かかる理論を実行する迄に熟していなかったからであろう。
最近に至って、アメリカのヱメリー・リーヴスは「平和の解剖」(一九四五)を書いて、戦争と平和の問題を詳細論じ、世界政府樹立、戦争絶滅の具体的方法論を明示したのである。同じくアメリカ哲学界のホープ、ジョン・デユーイも、リーヴスと略同様の意見を主張しており、ハーヴァード大学法学部教授、マンレイ・O、ハドソンは「将来の国際法その前提、原理、提案」を著して、実行力ある世界政府を提案した。
これらの人々の主張する世界連邦建設、世界政府樹立の具体案は、第二次世界大戦後の人心を捉え実際運動は世界各地から燎原の火の如く起って来たのである。そこでこれらの連邦主義者は、該運動の統一と連絡を取る為に、一九四六年(昭和二十一年)十月仏白国境ルクセンブルグに会合し、今後における運動上の諸問題を協議し、連絡本部事務局をスイスのジュネーヴに設置して、積極的な世界的運動を開始したのである。為に運動は急速に進展し、一九四七年(昭和二十二年)春には加盟団体五十余、その属する国の数は二十国に及んだのである。そこで世界連邦主義者はさらに一九四七年(昭和二十二年)八月十七日から八日間、スイスのモントロー市に第一回世界大会を開き、世界的運動の組織、規約、具体的運動方針等を決定し、全世界に向って戦争絶滅の宣言を発し、世界連邦政府の基本方針を発表したのである。次いで第二回世界大会は、一九四八年(昭和二十三年)九月ルクセンブルグに開催された。第三回世界大会は、一九四九年(昭和二十四年)八月二十九日から一週間ストックホルムに開催され、日本からは世界連邦建設同盟理事長、稲垣守克氏が出席した。
さて該運動の世界的目標は、一九五〇年(昭和二十五年)には世界人民会議を開催して世界憲法を審議し、一九五五年(昭和三十年)には世界連邦政府を樹立するというのである。世界憲法の一試案として、既にシカゴ案が発表されている。なお世界連邦が結成される場合は直ちにこれに加入する用意ありとの意志表示をした国は、伊太利憲法、仏蘭西憲法、西独憲法、蒋介石治下の中国憲法等であり、米国は四十八州中既に二十余州の議会を通過している。さらに英国、米国、仏蘭西、伊太利、ベルギー、和蘭、ルクセンブルグ、デンマーク、ノールエー、スエーデン等十余ケ国の議会には、世界政府国会議員団が結成され、盛んに活動しているとの事である。
さて連邦主義者の主張する処を端的に要約すれば、『絶対主権を持つ国家群の相対立する処戦争は常に必ず起る。故に此処に超国家的世界主権を確立して、民族国家主権の一部を之に委譲する』というにある。その具体的な方法論の主なものをあげると
一、法によって各国家の上に権威を有する超国家的世界政府を樹立確認する
二、国際社会において、国家が武力を行使する事の禁止(各国家の武装解除、警察的武備は別)
三、世界政府による強制的裁判管轄権
四、世界憲法に対する服従を強行すべき組織された法的強制(世界政府に直属する軍隊の創設、原子力及びその他の科学的兵器の管理)
五、特殊な調節と一般的な修正をなす、資格ある立法部の創設。かくして実効性のある世界的法、及び法組織を確立し、国民国家の地位を規制する世界的な連合における、地方的に自治する単位に迄おし下げる事が是非とも肝要であると主張する。すなわち現在世界において、相立抗争しつつある、国民国家より戦争を挑発する侵略的要素を剥奪してこれを世界政府に委譲し、各国家をして自治国たらしめ、その連合の上に強力な世界政府を樹立せんとする案である以上は大体において、政治的、軍事的、主張であるが、シカゴ憲法草案はさらに一歩を進め、
優先的協定または、既得権益の結合によってある国家または民族が、平等に原料を入手し、また土地とエネルギーの源を利用する事を妨げることを禁止している。
即ち、土地、資源等の一国家、一民族による独占を否定し、これらのものは人間生存上の必需要素にして全人類の共有財産なることを明記したものであり、非常に進歩的であり、画期的な大宣言というべきであろう。
以上に依って、世界連邦主義者の主張及び運動の大略が判明したことと思うが、この運動に対し、共産主義者の側から反対批判の声が起って来た。理由は大体次の如くである。即ち、相対立する国家主権の存在そのものは必ずしも戦争の原因ではないというのである。連邦主義者は、戦争の責任を政治と国家とに転嫁し、経済と資本主義との責任を指摘していないというのである。
マルクス・レーニズムを信奉する人達は、戦争の原因を経済にありとする、即ち資本主義が最高段階に達し、金融寡頭支配の時代が来れば、生産力と国内市場の矛盾を生じ、行詰りが来る、依って金融資本家は、一切の国家権力を行使して、対外市場獲得の侵略戦を起すというのである。故に真に戦争を絶滅し、人類の平和を招来するためには、先ず独占資本を打倒し、民主人民政府を樹立する事が先決条件だと主張するのである。かかる意味において世界連邦運動の如きは、国際独占資本の世界制覇を美化隠蔽する謀略手段に過ぎないと攻撃する。成程われわれが第一次、第二次世界大戦の起った原因を、仔細に点検すれば、経済的因子が、重大な要因であったことは間違いない。共産主義者の攻撃は確かに一面の真理であり、連邦主義者の欠陥とする所を突いていると思う。
戦争は必ずしも、相対立する国家群の間にのみ起るのではなく、財の独占、壟断による社会革命戦としても起るのだ。現に中国の内戦は如実にこれを立証するものである。連邦主義者は、国民国家の対立による対外戦の絶滅を考えると同時に、貧富の懸隔から起る、国内的社会革命戦をも絶滅する具体的方法論を考えるべきではないか。しからざれば、共産主義者の側から連邦主義者は国際独占資本の世界制覇を擁護する御用運動なりと攻撃されても致し方ないと思う。
しかし連邦主義者の偉大なる発見は、超国家的世界政府樹立の具体的構想を考え、国民国家の絶対主権を否定して、侵略的軍備を撤廃し、これを強力な世界政府に帰属せしめんとしたことである。独占資本が如何に対外市場獲得の侵略戦を起さんとしても、存在しない軍隊を駆使することは出来ない筈である。絶対主権を持つ民族国家の存在が、戦争の起る重大原因であることは、科学的事実であって、共産主義者と雖もこれを否定することは出来得まい。もし彼等が、この厳然たる事実を否定するならば、共産主義者は全世界の人民から、戦争是認の好戦主義者として、総攻撃を受けるであろう。