交通通信の二機関の近世に於ける顕著なる発展は一面より観察する時は即ち世界の
縦横を非常に短縮狭少にして
一の脈絡を付したれば也。既に一の脈絡の存する以上は之を統一して秩序
按排するの必要あるを知る可し。
彼の蒸気電気の応用を知らざりし
我邦の
昔日にありては、九州に
起りし事件は東北地方に
聞達するは一二年の
日子を要せり。更に近距離に於けるも
尚ほ二三ケ月の
後ならざれば
之を詳知する事を得ざりしなり。故に同じ日本内地にありても、東北地方と九州地方とは全然利害を
異にして
何等の交渉連絡と称すべきもの無く、
我は
我なり彼は彼なりの状態にありて
毫も脈搏の
通はざりし不便至極の社会なりしは
普く人の知る所なり。
然るに彼の蒸気電気の旺盛なる現代にありては日本国内は勿論、今朝東洋の東端なる日本帝国内の出来事は翌日を待ずして海山数千里を隔てたる欧米の各国に知悉せらるるの世にあらずや。維新前に於て東北の仙台地方より江戸に旅行するには十四五日も費やしたりしを今日にありては西比利亜鉄道及び南満鉄道の便に依れば数千哩の距離を有する英国の首都倫敦まで僅かに二周日にして到るを得るにあらずや。欧州に於ける日本公債の相場は直ちに我邦の経済界に影響するにあらずや。伊太利の震災は、畏れ多くも我が先帝陛下を始め奉り、我邦人士の義捐に依つて救助の幾分を得たるにあらずや。西班牙の騒擾は其翌日直ちに我が霞ケ関の好材料となるに非ずや。欧洲に於ける露独皇帝の会見は直ちに我が対外方針に関する外交官吏の熟議となるに非ずや。独逸現皇帝カイセル陛下の一言一行は世界の端々に至るまで注意を惹起するに非ずや。米国加州に於ける排日問題日々の経過状況等は当日の中に我が同胞の耳朶に触るるにあらずや。
かく見来たれば実に現今の世界は最も敏捷なる神経組織にして彼所に打てば此所に響き、此所を押せば彼所に持上がり其の関連の密接なること宛然一個人の身体に於けるが如し。是れ軈て世界統一の来るべき自然の準備ならずとせんや。現今の通信交通の両機関をして今一層の発達あらしむれば、世界五大洲を統治すること猶ほ維新前は江戸にありて日本国内を統治するよりも、更に便利にして極めて容易なるにあらずや。加之近来は世界各国盛んに空中飛行器の発明を競ひつつありて已に稍完全なる機の出来し居るにあらずや。此の飛行機なるものは其速力の点に於て現今の汽車汽船の到底及ぶ可くもあらず。若し最も完全なる空中飛行船に依らば両三日を費さずして世界を一周することを得るに臻る可し。此の空中飛行船の完成を告たる暁は実に世界の大改革を惹起するは当然の理なり。軍事上は勿論、経済上に於けるも政治上に於けるも思想信仰上に於けるも凡て大変革をみるに至る可し。是決して遠き未来にはあらずして今や日々これを実現しつつあるをみるべし。
約言すれば現代の大勢は一国を一家族の如くにし、世界を一国の如くに縮めつつあるなり。而して世界を一国の如く縮少し近接せしめつつある電気蒸気飛行機または瓦斯の力も此れ吾人の畏信尊敬して止まざる絶対無限の妙体天之御中主大神の一部の活動と、国祖国常立之尊の一定不変の設備に過ぎず。要するに吾人の信ずる神は現今着々として世界統一の準備を為し給ひつつある事を知るべし。然れども是は主として物質力の上に於ける準備にして、更に精神界に於ても亦た世界の統一の準備なかる可らざるなり。我大本教は実に皇祖皇宗の御遺訓にして古今に通じて謬らず、中外に施して悖らざる真の宗教なれば、即ち此の大本教を完全に行ふ処の国家は遂に自然世界統一の主と成るべき道理あり、また順序たるなり。
是れ皇祖天照皇大神は数千年以前の神代に於て予言し給ひし聖訓なり。大神の予言の御旨意は、アレキサンドル、シーザ、ナポレオン輩の理想たりし征伏的帝国主義的の世界統一にあらず、唯惟神の徳性を発揮して太陽の自然と万物を生育するが如くに此世界に博愛を行ふ所の聖王が最後の勝利者にして、世界大帝国の建設者なる可し。但し何れの国より斯る聖王の出現し玉ふかと云ふに、吾人は万世一系たる天津日嗣知召す我皇室に坐ます事と信ぜざるを得ざるなり。本居宣長翁の玉鉾百首にも
天照るや月日の影を知る国は 本つ御国に仕へざらめや
天の下国は多けど神漏妓の 産成ませる大八嶋国
日の神のもとつ御国と御国はし 百八十国の秀国祖国
百久仁の九二の真秀良場大日本 我大君のきこしをす国
かしこきや皇御国はうまし国 うら安の国久仁の真秀国
百八十と国はあれども日の本の これの倭にます国はあらず
天地のそぎへのきはみまぎぬとも 御国にましてよき国あらめや
大穴牟遅少名御神のよろしくも 造り固めし大八島くに
さひづるや常世のからの八十国は 少名毘古那ぞつくらせりけむ
物皆はかはりゆけどもあきつ神 我大君の御代はとこしへ
国々の君はかはれど高光る わが日の御子の御代はかはらず
右数首の和歌に依りても必ず我日の御子の世界を統治し給ふ時あるを伺ひ知るを得べし。