霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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2-4

インフォメーション
題名:2-4 著者:出口王仁三郎
ページ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-11-01 03:15:00 OBC :B113800c13
 安藤(なにがし)の訴へは恐怖戦慄の余り、先夜(せんや)の出火は必ず出口直の所為なるべし、彼は前後を弁知(べんち)せざる全狂乱(まるきちがい)なり。一時も早く警察に拘留を乞はねば(かか)狂人(きちがい)何時(いつ)如何(いか)なる椿事(ちんじ)惹起(ひきおこ)すも計り難し。村内は夜中(やちう)安眠することも能はず、と虚実交々(こもごも)()べ立てたり。即時に警史(けいし)四名は開祖の宅に出張し有無を言はせず引致せんとしたりかば、開祖は、身に寸毫(すんごう)も悪事を為したる覚え無ければ警察へ出頭するの必用なし、(しか)し嫌疑とあらば出頭の(うへ)弁解せん、(しば)らく神に伺ふ()猶予あれ、と言はせも()てず国谷(くにたに)刑事(ほか)三人は何の容赦もなく一枚の戸板(といた)に開祖を担ぎ上げ連れ帰らむとす。警吏(けいり)怪しんで曰く、一人の婦人(をんな)にしては非常に重量(おもみ)あり、と。開祖は満面に(えみ)(たた)えて曰く、(わらわ)一人(いちにん)にあらず、神明と共にあり、(さぞ)重からむ、と。(たちま)ち警察署に到れるに署長(いで)て開祖を尋問すらく、先夜(せんや)失火ありし家の者に(なんぢ)は何か怨恨(うらみ)はあらざりし()、又憎悪の念慮は無かりしか、と。開祖答へて曰く、(わらわ)は天下広しと(いへど)(いま)一人(いちにん)として(にく)(うら)めしと思ひしこと無し。(わらわ)は天下の蒼生(ひとびと)(ことごと)く愛せむと欲する而已(のみ)(わらわ)今や(いま)はしき放火の嫌疑に依りて此所(ここ)引致(ゐんち)されたり。()れど天道は公平無私なり。(やが)て青天白日の身とならむ。(わらわ)が言ふべき言葉は最早()きたり、と泰然自若(ごう)も恐怖の色無かりしが署長は一応取調べの済むまでと新たに建てられたる留置所に開祖を投じたり。開祖は余りの無実に憤慨して署員の手よりは一腕(いちわん)(めし)も一点の茶も水も採らず(ほとん)ど三日間絶食絶飲せられしが、元来(もとより)一点の身に(やま)しき(ところ)無ければ嫌疑は(たちま)ち晴れて放免され玉へり。
 無実の嫌疑は晴れたれども、現在の親籍(しんせき)を始め村人は()ほ発狂者と誤認し、協議の結果開祖の自宅東北隅(うしとらのすみ)に約一坪(ひとつぼ)有余(あまり)の牢屋を造り無理無態に押込め御身(おんみ)の自由を束縛したり。千里の名馬も伯楽(はくらく)を得ざれば駑馬(どば)()かず、(りよう)も時を得ざれば蚯蚓(みみず)にも劣るとかや。天下唯一無二の大予言者、大宗教家も時に()は〓らば()(かく)の如くなるものかと、当時の開祖の御心(みこころ)を拝察し(まつ)れば御艱苦の(ほど)、今()のあたり見る心地して(おん)(いた)はしく、命毛(いのちげ)(ふで)採る手も(ふる)(おぼ)えず粛然として泣下(きうか)し、血涙腮辺(しへん)滂沱(ぼうだ)として(とど)まらず、発狂人に食餌(しよくじ)を給与する時は病勢(べうせい)高進(こうしん)(おそれ)あり、と(やぶ)医者の(ことば)に迷はされたる親族なる大槻鹿造は、(わざ)と一食一飲をも進め参らせず、開祖は運命を天に任せて殆んど四十日間絶食の()む無きに至り給へり。
 ()くまでも艱難を(なめ)(つく)(なが)らも(なほ)憂々(ゆうゆう)身に(かさ)なり平素正義を確守し順直を事とするも未だ斯道(しどう)開教の企望(きぼう)を貫徹するに到らず。大抵の婦人(ふじん)なりせば慨歎(がいたん)悲憤(ひふん)(きよく)(つい)に自暴自棄の挙に(いづ)るは当然の行為なるべきに、元来(がんらい)変性男子の霊性を持したる開祖は只管(ひたすら)神教を確信して意志倍々(ますます)昌然(せうぜん)一点の汚穢なく敬神の誠厳乎(げんこ)として一微の違変無く、勇気百倍天下蒼生の為に当初の目的たる救世済民の神慮の(まま)に突進せんことを決意されたる也。二人の幼女四女のお竜(りょう)と五女のお澄(すみ)は開祖の()くも獄中不自由の身と成られしより如何(いかん)ともすること能はず、食ふに(かて)なく(ただ)涕唾(ていだ)を呑んで空腹を医するの逆運悲境に沈むも孝心(こうしん)なる両女(ふたり)は開祖の心痛を掛念(けねん)して一言(ひとこと)をも()の次第を告げざりしは子供乍らも感ずるに堪えたりと謂ふべし。
 大槻は、二人の少女は開祖に(あるひ)は食を(あた)(あるひ)は湯水を与へて狂人(きちがい)生命(いのち)を長からしめんことを迷惑と為して、(つい)両女(ふたり)(わが)家に連れ帰り開祖の身辺に近づくべからずと厳命したり。(ああ)此時の二人の幼女の心は如何(いかが)ありしぞ。天にも地にも(ただ)一人の恋しき母上の困難を()(あた)り目撃し、攻めては言葉の上にても慰め(まつ)らむと思ひし真情(まごころ)一朝(いつてう)水泡(すいほう)()し去りしことの果敢(はか)なさよ。聞くだに涙の種ならざるは無し。
 悪鬼に(ひと)しき大槻は(ことば)(あら)らかに()()両女(ふたり)(むか)つて曰く、(なんぢ)()狂母(はは)(かく)の如く監禁し置きたらば(やが)知死期(ちしご)も近かるべし。母の死後は汝等二人は(われ)指命(さしづ)に従ひ摂津の国の百姓に奉公人として遣はし、少々にもせよ給金を前借して母の葬式料その(ほか)これまで世話せし入費(にうひ)の勘定をなすべし、と血も無く涙も泣き大槻の(ことば)両女(ふたり)は堪え兼ね、深夜(ひそ)かに大槻の宅を逃げ(いで)て開祖が獄前(ごくぜん)に忍び寄り事情を告げつつ悲しき身に(あふ)れて嗚咽(おえつ)歔欷(きよき)底本では「嘘欷」。久しかりしが、獄中の開祖は両女(ふたり)種々(しゆじゆ)慰め()つ訓戒し給ひつつ、母は必ず十五夜の有明(ありあけ)の月を相図(あいづ)に出獄すべし、出獄の上は母が働きて汝等両人(ふたり)を養育せん。決して(うれ)ふるに及ばず、と仰せられしを両女(ふたり)は頼みとし(ちから)として(わずか)に心を慰め居たりしは実に憐然(れんぜん)の至りなりといふべし。
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